知らない天井は独房だった。   作:鋼蛙

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閑話:夜食

ネオンに照らされた人々が足元よりもっと下で蠢き、ホログラムの花火や光の奔流が目に突き刺さる中。摩天楼の上で疾走する人影が2つ。

 

1つはヘルメットを被ったおさげの少女。息は絶え絶え、背負った小銃を構える間も、構えさせてもらえる隙もなく、スリングが暴れるのも構わずガムシャラに走る。

 

もう1つは、その少女を追いかける黒ずくめの男。灯りがあるとはいえ、コートの裾の軌道を見せることもなく闇に溶け込み、軽々と障害物を乗り越えながら有り得ない速度で距離を詰めていく。

 

痺れを切らしたのか、ヘルメットの少女が突如として振り向いてロクに構えもせず小銃を乱射する。足止め出来れば、1発でも当たれば、そういう思考での行動なのだろう。だがその浅い想定は………男が真正面にいてこそのものだ。

 

「……!」

 

少女の後ろ、正確にはビルの外側から男がネオンに照らされながらその姿を表す。突如として影を作り出した張本人に少女が気づいた時には小銃の残弾は残り僅か。それ以前に、ロクに構えもしていなかった長物が影を捉えるより、男が抜き撃つ方が遥かに速____

 

 

「やっと見つけたぜ……ったく、手間取らせやがっ、て………あ?お前は確かあの時の……なんでんな所に…………」

 

「こっちのセリフだよ…………美甘ネル(ダブルオー)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

美甘ネル。

表向きはメイド部の部長。しかしその正体はミレニアム最強の武装集団C&Cの勝利の象徴、コールサイン:ダブルオー。その小柄な体格からは想像出来ない程の戦闘能力を誇るミレニアム最強のエージェント………

 

「おいテメェ、今なんつった?」

 

「まだ何も言ってないけど!?」

 

…………訂正。思ったより想像しやすいかもしれない。このつり上がった目つきと金色の龍が描かれたスカジャン、二梃の短機関銃の後端どうしで繋がれた鎖、そして言葉使いにもモロに現れている気性の荒らさ。これで苛烈な近中距離戦を行うというのだから、そりゃあアリスもトラウマになるというものだ

 

「……‥にしても、偶々見つけたやばそうなのがC&Cのターゲットだったとは。」

 

「あぁ……ウチを企業スパイしようっていうバカがいてな。……コイツはそういう連中の口車に乗せられた一人ってわけだ。」

 

二人ですっかり伸びてしまったヘルメットの少女を見下ろす。ネルとオレが顔を合わせて一瞬動揺した隙に逃げ出そうとした様なのだが、足に巻き付けられた鎖が外れておらず、運悪くオレたちの射撃を同時に食らってしまってこの有様というわけだ。ちょっと可哀想な気がしなくもないが自業自得だ。

 

「となると、後処理はそっちに任せた方がいいか?」

 

「ああ、構わねぇよ。‥‥‥今回は何もぶっ壊してねぇしな。」

 

「何か言った?」

 

「いや、なんでもねぇよ。」

 

「そっか。んじゃあ、オレはこの辺で失礼するよ。お気をつけ「おい、待て。」‥‥はい?」

 

「アンタ、この後暇か?」

 

「まあ、こんな時間だし帰って寝るくらいだけど‥‥?」

 

「そうか、なら‥‥ちょっと付き合ってくんねぇか。」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

「よぉ大将。ラーメン二つ頼むぜ。」

 

「あいよ!」

 

「…‥‥‥。」

 

ネルに連れられてきたのは、時代錯誤のようで味のある屋台だった。どうやら、ネルはここの店主と顔なじみのようだ。てか付き合えって言うから、てっきり喧嘩とかそういう類かと思って身構えてきたのに…‥‥勘違いしていたオレが恥ずかしい。てかここの大将も犬なのか…‥‥。両目ともぱっちり開いているし、十字傷もないし色味も違うがどうしてもあの砂まみれの街で頑張っているあの”大将”が思い浮かぶ。セリカもバイト頑張ってるだろうし、久々に行ってみるかな。

 

対象に促されるままにネルの隣に座り、お冷をちびちびと飲んでいると目の前に椀が出される。

 

胡椒と濃い醤油が香るスープに黄金色の麺とネギ、チャーシューのみと言うシンプルかつ王道の、絵に描いたようなラーメンだ。

 

「あたしの奢りだ。冷めないうちに食えよ。」

 

「‥‥なんで?」

 

「いいから、伸びるぞ。」

 

「…‥‥いただきます。」

 

まずはスープを一口。濃い。だが後味がさっぱりとし醤油味に少し多めに入っている胡椒が効いていて二度、三度とレンゲで口に運んでしまう。

 

‥‥‥いかん。このままスープだけを味わっていては面が伸びてしまう。ラーメンはスープが命という人もいるが、そこに麺が無ければラーメンという料理足り得ない。

 

これは‥‥‥!中細のストレートではない。この絶妙なウェーブがスープを纏って素晴らしいのど越しを生み出している。噛み応えも風味も素晴らしい。

 

このチャーシューもネギも、スープとの相性が抜群だ。やはりシンプルに極められた王道は侮れない。鍛え抜かれた基礎は、大抵の物事に通用するのだ。

 

「美味ぇだろ?」

 

「ああ、正直驚いた。いい店だな‥‥‥」

 

しかもこの時間のラーメン。罪深いな(最高だぜ)。

 

「兄ちゃん、いい食いっぷりだな!もしかして、噂の”先生”ってやつか?」

 

「オレは先生じゃないですよ‥‥‥唯の同僚です。」

 

これ言われるの何度目だ?このままではオレが変態教師扱いされるのも時間の問題だな‥‥。まだそういった事案は無いと聞くが、あの人は絶ッッッ対にいつかやらかす。

 

「そうなのかい。いやあ、嬢(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)彼(・)氏(・)が(・)先生っつうのはどうかと思ったんだが、杞憂だったみたいだな!」

 

「なっ!?」

 

「ち、ちげーよ!こいつは唯の顔見知りで、たまたま会ったから誘っただけだ!」

 

顔を真っ赤にして全力で否定するネル。まだロクに話してもいないヤツとカップル扱いされるなんて年頃のJKは誰だって嫌だろう。

 

「まあ、そういう事なんだ大将。」

 

「そうなのかい‥‥結構お似合いだと思ったんだけどなあ…‥。」

 

「は、はぁっ!?」

 

「‥‥‥‥‥。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

「ったく、変な事言いやがって‥‥」

 

ラーメンを美味しく頂いた後、オレはネルと腹ごなしにとことこと散歩している。結局ごちそうになってしまったので付き合わないわけにもいかないと思ったのだ。

 

「まあ、この時間に男女が二人きりってなるとな。」

 

「ちっ、調子狂うぜ…‥‥。」

 

顔は見えないが、すっかりいつも通りになったようだ。乙女な一面をもつヤンキーメイド少女とはこれまた属性盛り盛りだな‥‥‥。そういや、

 

「…‥‥なぁ、聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「オレを付き合わせたのは、ラーメンを奢る為だけなのか?」

 

「…‥‥まぁ、他に理由がねぇ訳じゃねぇ。」

 

「じゃあ一体‥‥‥」

 

「リボルバー1丁でC&Cのエージェントと戦(や)りあった、外からきた男ってのはどんな奴か気になってな。」

 

「…‥‥それでラーメンなのか?」

 

「お前が実際どんなもんか、試したいのは山々なんだが、こればかりは下手に出来ねぇ。だからこうして話してみることにしたってこった。」

 

どうやら思った以上にまともだぞこの人。エージェントとしても部長としても、3年生としても本来はこうあるべきなような気がしてならない。先生からしても大分安心感がある生徒だと思うので、今度の当番にでも来てもらいたい位だ。

 

「ま、そう遠くないうちに腕を見たいもんだな。」

 

「精進するよ。‥‥帰り大丈夫?」

 

「心配すんな。あたしは強ぇ。」

 

「それもそうか‥‥。んじゃあまた。気を付けて。」

 

「おう。またな、ライ。」

 

 

 

 

次話からの展開

  • エデン条約編開始
  • デカグラマトン編を挟む
  • まだ閑話とか小話が読みたい
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