うそーん
トリニティ自治区内のとある公園にいる二人の男女。二人きりで公園に、というのはそれだけ聞けば甘酸っぱくも華々しい青春の1ページだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ…‥‥んん!!」
「‥‥‥‥‥。」
だが実際は、水の入った紙コップを乗せ鈴をつけた銃を構えた少女が同事をしている青年を追いかけていると言う、キヴォトスといえども珍妙すぎる光景である。しかも青年の方はフードを被りその上から布で目隠しをしているというのだから余計にである。
「えいっ!やあ!とおぉぉおっ!!」
「…‥‥‥…。」
少女が必死に追いかけ、何度も手を伸ばし、振り回すが青年は飄々とそれを避け続ける。その足取りは少女より軽やかで巧みであり、あちらの紙コップが少しづつ中身を零しながらグラついているのに対してこちらは一滴もこぼしていないどころか、コップの中で水が回っている。
「とおぉりゃあぁぁああ!!!」
「っ!?」
痺れを切らしたのか少女は突然、とんでもない声量で叫びながら青年に飛び込む。青年は驚きながらも銃を真っすぐ構えたままそのままターン。背中合わせになるように飛び込んできた少女を寸での所で回避し、制服の襟をつかむ事で少女の地面とのキスも回避。しかし、紙コップは飛び込んだ時点で銃から落ち、その中身は公園の芝生に吸収された。あっ、という少女の短い声をきいた青年は少女を立たせながら目隠しとフードをとり、紙コップを左手に取って少女に渡す。
「お疲れ。さっきよりは良くなった。あとは思い切るタイミングを少し考えるのと、実践あるのみかな。」
リボルバーのロックを外して2発だけ装填されていたペイント弾をシリンダーから抜き、実弾を装填しながら答える。
普段から自警団として走り回っているだけあって一応は出来るあたり流石である。
「ううう‥‥‥どうして、ごくっ、目隠しして、ごくっ、一滴もこぼさないで、ごくっ、避けられるんですか‥‥…」
「変なとこはいるぞ…‥‥‥どうしてって言うと、それはだな…‥‥‥」
「それは…‥‥‥!?」
「…‥‥‥なんて言えばいいんだ?」
「ええっ!?」
「オレ口下手なんだよ‥‥…ほら、何かしらの動作や現象って呼び動作とか前兆みたいなのあるだろ?銃を撃つなら狙いを定めて構えて指に力を入れる‥‥‥みたいな。そういうのを察知して判断して動いてる…‥‥はず。」
「でも、目隠ししたら見えませんよ!?」
「それは音とか空気の揺らぎとかを感じながら…‥経験と想像で補って‥‥‥後は反射で?」
「よ、よく分かんないですよ!?」
「オレもよく分からないんだ…‥‥あはは…‥‥。」
すまないレイサ。これ多分説明したり頭で理解したり考えてやろうとするモンじゃない。何か、本能と技術の化学反応っていうかレヴォリューションっていうか…‥‥‥。
「ライさん、キヴォトスに来る前からこういう特訓してたんですか‥‥‥?」
「ああ、そうだよ。」
これよりヤバイ奴をな…‥‥…ああ師匠、オレはアンタ程鬼にはなれないみたいだ…‥‥やっぱりまだまだ追いつけないかもしれない。
「ライさん?どうしたんですか?」
「…‥‥少し疲れたな。今日はこの辺にしておいて、甘いのでも食べない?奢るよ?」
「いいんですか!?」
「耳がっ!?…‥‥ああ、いいぞ。「あっ!お疲れ様です!!」また耳がっ!?何だなんだ…‥‥‥」
音響兵器級の声量を至近距離で耐えぬいた自分の耳に感謝しつつ(ちょっと痛い)周囲を確認すると、少し離れた所から灰色のブレザーを着た長い銀髪の生徒がこちらを見ており、レイサが嬉しそうに走っていく。
話はレイサや不良達から聞いていたが、こうして姿を見るのは何時ぶりだろうか。オレがキヴォトスに来たばかりの頃に出会った生徒の一人、トリニティ自警団の守月スズミだ。
___________________
どうやらスズミは周辺のパトロールをしていたら変な事をしているオレ達を偶然見つけて、軽く引いていたらしい。今は3人で近くのカフェでお茶をしている所だ。
「お久しぶりです、ライさん。シャーレ奪還戦以来ですね。」
「久しぶり、スズミ。あの時は…‥‥‥‥」
そういえば、あの時のオレ、完全に正体不明の第三者で拘束されて、宙づりになって強制的にヘッドホンで大音量の懐メロを聞かされて…‥‥
「…‥‥‥‥色々あったな。」
「…‥‥ええ、そうですね。」
思えばあの時の4人の生徒でまともに話したことあるのユウカだけだな。ハスミとチナツは仕事上の成り行きで1、2回だけ話してはいるがそれだけだし、スズミに関しては全くと言っていい程関わっていない。そう思うと気も引けるか……。
「えっと‥‥‥シャーレの噂はトリニティでも度々耳にしています。ライさんも先生も、キヴォトスの各所で活躍されているみたいですね。」
「まあ、ね。当番に応募してくれたり協力してくれたりする生徒らのお陰でどうにかやれてるよ…‥‥最近は色々立て込んでるけどね‥‥‥。」
「最近、ですか‥‥‥もしかして例の条約のせいでしょうか?」
「…‥‥‥条約?」
オレ達を横目にケーキを頬張っていたレイサがきょとんとした様子で呟く。それを見たスズミは呆れることなく淡々と、優しく説明を始める。
「
「そうだな。」
「はい‥‥。」
「そこで、両学園から構成員を供出しあう事でエデン条約機構、”ETO”を設立して両自治区の紛争解決を行い、両学園間の全面戦争の回避を図る構想及びその為の不可侵条約。それがエデン条約。」
「へえ~、そうなんですね~。」
「お前は知っとけよ…‥‥」
まあ、歴史的快挙ではあるんだろうけど、お偉いさんでも無ければそんなもんか。
「元々は連邦生徒会長の発案らしいですが、失踪してしまったので空中分解寸前まで行ったようです。それをティーパーティーのホスト代行である桐藤ナギサ様の手により調印式間近まで漕ぎつけたとのことです。」
「連邦生徒会長の‥‥?」
連邦生徒会長の失踪、シャーレの設立、エデン条約、先生とオレの来訪。‥‥‥何か、タイミングが重なり過ぎじゃないか?作為的なものを感じずにはいられないんだが……。
不思議な悪寒を感じながら珈琲、ではなく紅茶を一口飲む。師匠がお茶好きだったので飲むのも淹れるのも問題はないが、個人的には珈琲の方が好きだ。だが雰囲気的にも頼める雰囲気ではない。ただでさえ目立っているのに。
「…‥スズミ、レイサ。トリニティの生徒としてはエデン条約についてどう思う?」
「どうと言われても……ゲヘナとトリニティが仲良くなってトラブルも減ると考えると良い事なんじゃないですか?」
「仲良く…‥‥だと良いのですが…‥‥‥」
「え?どういう事ですか?」
「何事も”はい、 vbん。、。のとある公園にいる二人の男女。二人きりで公園に、というのはそれだけ聞けば甘酸っぱくも華々しい青春の1ページだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ…‥‥んん!!」
「‥‥‥‥‥。」
だが実際は、水の入った紙コップを乗せ鈴をつけた銃を構えた少女が同事をしている青年を追いかけていると言う、キヴォトスといえども珍妙すぎる光景である。しかも青年の方はフードを被りその上から布で目隠しをしているというのだから余計にである。
「えいっ!やあ!とおぉぉおっ!!」
「…‥‥‥…。」
少女が必死に追いかけ、何度も手を伸ばし、振り回すが青年は飄々とそれを避け続ける。その足取りは少女より軽やかで巧みであり、あちらの紙コップが少しづつ中身を零しながらグラついているのに対してこちらは一滴もこぼしていないどころか、コップの中で水が回っている。
「とおぉりゃあぁぁああ!!!」
「っ!?」
痺れを切らしたのか少女は突然、とんでもない声量で叫びながら青年に飛び込む。青年は驚きながらも銃を真っすぐ構えたままそのままターン。背中合わせになるように飛び込んできた少女を寸での所で回避し、制服の襟をつかむ事で少女の地面とのキスも回避。しかし、紙コップは飛び込んだ時点で銃から落ち、その中身は公園の芝生に吸収された。あっ、という少女の短い声をきいた青年は少女を立たせながら目隠しとフードをとり、紙コップを左手に取って少女に渡す。
「お疲れ。さっきよりは良くなった。あとは思い切るタイミングを少し考えるのと、実践あるのみかな。」
リボルバーのロックを外して2発だけ装填されていたペイント弾をシリンダーから抜き、実弾を装填しながら答える。
普段から自警団として走り回っているだけあって一応は出来るあたり流石である。
「ううう‥‥‥どうして、ごくっ、目隠しして、ごくっ、一滴もこぼさないで、ごくっ、避けられるんですか‥‥…」
「変なとこはいるぞ…‥‥‥どうしてって言うと、それはだな…‥‥‥」
「それは…‥‥‥!?」
「…‥‥‥なんて言えばいいんだ?」
「ええっ!?」
「オレ口下手なんだよ‥‥…ほら、何かしらの動作や現象って呼び動作とか前兆みたいなのあるだろ?銃を撃つなら狙いを定めて構えて指に力を入れる‥‥‥みたいな。そういうのを察知して判断して動いてる…‥‥はず。」
「でも、目隠ししたら見えませんよ!?」
「それは音とか空気の揺らぎとかを感じながら…‥経験と想像で補って‥‥‥後は反射で?」
「よ、よく分かんないですよ!?」
「オレもよく分からないんだ…‥‥あはは…‥‥。」
すまないレイサ。これ多分説明したり頭で理解したり考えてやろうとするモンじゃない。何か、本能と技術の化学反応っていうかレヴォリューションっていうか…‥‥‥。
「ライさん、キヴォトスに来る前からこういう特訓してたんですか‥‥‥?」
「ああ、そうだよ。」
これよりヤバイ奴をな…‥‥…ああ師匠、オレはアンタ程鬼にはなれないみたいだ…‥‥やっぱりまだまだ追いつけないかもしれない。
「ライさん?どうしたんですか?」
「…‥‥少し疲れたな。今日はこの辺にしておいて、甘いのでも食べない?奢るよ?」
「いいんですか!?」
「耳がっ!?…‥‥ああ、いいぞ。「あっ!お疲れ様です!!」また耳がっ!?何だなんだ…‥‥‥」
音響兵器級の声量を至近距離で耐えぬいた自分の耳に感謝しつつ(ちょっと痛い)周囲を確認すると、少し離れた所から灰色のブレザーを着た長い銀髪の生徒がこちらを見ており、レイサが嬉しそうに走っていく。
話はレイサや不良達から聞いていたが、こうして姿を見るのは何時ぶりだろうか。オレがキヴォトスに来たばかりの頃に出会った生徒の一人、トリニティ自警団の守月スズミだ。
___________________
どうやらスズミは周辺のパトロールをしていたら変な事をしているオレ達を偶然見つけて、軽く引いていたらしい。今は3人で近くのカフェでお茶をしている所だ。
「お久しぶりです、ライさん。シャーレ奪還戦以来ですね。」
「久しぶり、スズミ。あの時は…‥‥‥‥」
そういえば、あの時のオレ、完全に正体不明の第三者で拘束されて、宙づりになって強制的にヘッドホンで大音量の懐メロを聞かされて…‥‥
「…‥‥‥‥色々あったな。」
「…‥‥ええ、そうですね。」
思えばあの時の4人の生徒でまともに話したことあるのユウカだけだな。ハスミとチナツは仕事上の成り行きで1、2回だけ話してはいるがそれだけだし、スズミに関しては全くと言っていい程関わっていない。そう思うと気も引けるか……。
「えっと‥‥‥シャーレの噂はトリニティでも度々耳にしています。ライさんも先生も、キヴォトスの各所で活躍されているみたいですね。」
「まあ、ね。当番に応募してくれたり協力してくれたりする生徒らのお陰でどうにかやれてるよ…‥‥最近は色々立て込んでるけどね‥‥‥。」
「最近、ですか‥‥‥もしかして例の条約のせいでしょうか?」
「…‥‥‥条約?」
オレ達を横目にケーキを頬張っていたレイサがきょとんとした様子で呟く。それを見たスズミは呆れることなく淡々と、優しく説明を始める。
「
「そうだな。」
「はい‥‥。」
「そこで、両学園から構成員を供出しあう事でエデン条約機構、”ETO”を設立して両自治区の紛争解決を行い、両学園間の全面戦争の回避を図る構想及びその為の不可侵条約。それがエデン条約。」
「へえ~、そうなんですね~。」
「お前は知っとけよ…‥‥」
まあ、歴史的快挙ではあるんだろうけど、お偉いさんでも無ければそんなもんか。
「元々は連邦生徒会長の発案らしいですが、失踪してしまったので空中分解寸前まで行ったようです。それをティーパーティーのホスト代行である桐藤ナギサ様の手により調印式間近まで漕ぎつけたとのことです。」
「連邦生徒会長の‥‥?」
連邦生徒会長の失踪、シャーレの設立、エデン条約、先生とオレの来訪。‥‥‥何か、タイミングが重なり過ぎじゃないか?作為的なものを感じずにはいられないんだが……。
不思議な悪寒を感じながら珈琲、ではなく紅茶を一口飲む。師匠がお茶好きだったので飲むのも淹れるのも問題はないが、個人的には珈琲の方が好きだ。だが雰囲気的にも頼める雰囲気ではない。ただでさえ目立っているのに。
「…‥スズミ、レイサ。トリニティの生徒としてはエデン条約についてどう思う?」
「どうと言われても……ゲヘナとトリニティが仲良くなってトラブルも減ると考えると良い事なんじゃないですか?」
「仲良く…‥‥だと良いのですが…‥‥‥」
「え?どういう事ですか?」
「何事も”はい、そうですか”で、上手くいかないって事だ。」
人の感情というのは簡単ではない。頭で理解は出来ても、直ぐに納得して動けるわけじゃない。塵積もった感情は、物事の善悪や真偽を超越して突き動かせてしまう恐るべき力だ。それは時に視野を狭め、冷静さを奪い、思考を歪める。
「…‥‥‥‥‥何も、なければいいんだけどな。」
「はい?」
「何でもない。それよりホラ、もっと食べるか?シャーレの奢りだぞー?」
「え!?いいんですか!?」
「しかし、ここ結構いいお値段だと思うんですけど…‥‥‥」
「大丈夫大丈夫。どっかの誰かさんと違ってプライベートの出費少ないから。」
「それはそれでどうなんですか‥‥‥?」
甘い物を食べながら女子高生との会話に花を咲かせるが、嫌な予感と悪寒は消えてくれなかったばかりか、嫌な思い出が蘇ってしまい、その日の夜は一人で残業して過ごした。
その数日後、
「初めまして、先生。そして、お久しぶりですね。ライさん。」
それは、より確かなものとなった。