AI「死にます」僕「やめて」から始まる、英雄になるための物語   作:霧夢龍人

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プロローグ
きぼう


僕には、憧れている英雄(ヒーロー)がいる。

昔、お母さんが読んでくれた絵本の中にいた、大好きでやまない英雄。

 

ただの平民の男が人々を助け、世を導き、悪を打ち倒す。そんな、どこにでも溢れているハッピーエンドな結末の絵本。でも僕にとっては、かけがえのない思い出の一つだ。

 

だから、僕は優しい表情を浮かべて頭を撫でてくれるお母さんに向かって大見得を張った。

 

「僕が、伝説を作る!」

 

胸を張って自信満々で言った僕に、お母さんはまた笑って頭を撫でてくれた。

 

そんな、何気ない日常の日々。

 

それが───。

 

「あぐっ!?……うっ、うぁ」

 

「おいこら、ガキ。さっさと出せっつんでんだろうが。テメェの親の借金がまだ残ってんだ。まさかこれくらい(・・・・・)しか返せねぇって言わねぇよな?」

 

───絵本を閉じるみたいにパタッと消えてしまうなんて、当時の僕は思わなかったんだ。

 

鎧のような筋肉と凶悪な笑みを携えた大男が、床に伏した僕を何度も蹴って、蹴って、蹴りあげる。

その度にゴム毬みたいに蹴飛ばされていく僕は、頭を横に振ってなんとか否定を表すしかなかった。

 

「あァ!?なんっ!でだよっ!このガキィ!」

 

「ごめ、んなさい」

 

また蹴られる。今度は頭を何度も何度も足で地面に叩き付けられた。額から真っ赤な血が流れているのが分かって、思わず涙が目尻から溢れてしまった。

 

その様子を見て、流石にこれ以上やって殺してしまうのは不味いと思ったのか、大男は苛立ちを抑える。

 

「はぁ、はぁ……ちっ。まぁいい。次の返済日は一週間後だ。それまでにきっかり百万ゲルカ払え。いいな?」

 

「は、い」

 

打撲と擦り傷まみれの僕の髪の毛をむんず、と掴み上げて言い聞かせる大男。それになんとか頷くと、ペッと僕に唾を吐いてようやく解放された。

 

連れ込まれた路地裏に放置され、痛みと空腹感で動くこともままならない。

 

「くっそ。あのハゲだるま、いつか絶対にぶん殴ってやる」

 

息も絶え絶えながら身体を仰向けにして、血液と下水の混じる路地裏の臭いから顔を背ける。小さい時から変わらず青い空に、思いを馳せた。

 

お父さんはとある中小企業の社長で、お母さんもお父さんの会社で一緒に働いていた。だから、僕が学校から帰って来でも居ないことが殆ど。

 

それでも僕は、ちゃんと僕のことを愛してくれる両親の事が大好きだった。

僕が欲しがったモノは必ず買ってくれたし、テストで良い点を取ったら、自分の事のように喜んでくれた。

 

今でも思い出せる。

お母さんがいつも浮べる優しい笑顔。お父さんの厳しくも愛情を感じさせる微笑み。

 

 

 

その全てが、あの日(・・・)から零れ落ちてしまった。

 

「あーあ、一週間で百万ゲルカか。まだ残ってる内蔵を売っても厳しい、かも」

 

両親が遺した負債は、全部でだいたい三億ゲルカ。そのうち半分以上は返済している。内蔵を売って、四六時中働いて、果てには非合法な“クスリ”を売り捌くことだってあった。

 

憧れていた英雄とは程遠く、溝を住処にする鼠の様に意地汚く生きるしかない日々。でもそれでも僕は生きなきゃいけなかった。

 

だって、僕はまだ。

 

「あの憧れになってないのに、死ねるもんか」

 

 

───

──

 

 

あの後何とか起き上がることが出来た僕は、とある場所へと足を進めた。

身体の一部を売るとか、クスリを売り捌くとか、そんなの目じゃないくらい稼げる場所へ。

 

魔性遺産(デヴィタス)由来の卵焼きです〜!今ならお安いですよー!」

「小竜の鱗から作られた鎧はいいぞ、ほらこの通り!剣すら防いじまう」

「身体修復薬をお買い求めで?うちを選ぶなんてお兄さんお目が高いね」

 

人がいない場所が見当たらない程栄える帝都の中心街。食べ物の呼び込みや装備の良さを伝える鍛冶師に、その他諸々の商売人が店を広げて人目を集めている。

 

ここでは日常茶飯事な光景で、人のいない場所を好んでいる僕はあまり近寄りたがらない。

 

だがここも、三十年以上前はそこらにある普遍的な街の一つだったという。

そんな街が、今では帝国随一の中心街となっているのだから魔性遺産(デヴィタス)の経済効果はとんでもない。

 

密かに蓄えていたなけなしの五万ゲルカで、武器を整える。とは言っても、市販の拳銃と弾丸を揃えただけ。

 

何口径とか銃身がどうとかって言うのは詳しくないけど、荒事に身を置いていた僕としてはコレが一番手に馴染む。

 

魔性遺産(デヴィタス)”、ひいては“魔性探索者(デヴォーカー)

 

二〇二五年───今から約三十年以上前に、突如として空が割れた。

 

その次元の穴から現れた平行世界の住民から齎された産物が、魔性遺産(デヴィタス)と呼ばれる遺産だ。

人を喰らう異形の怪物が巣食い、人の手には負えられないような怪物がうじゃうじゃといる邪悪の坩堝。しかし、それに見合った報酬もきちんと用意されている。

 

絶望と希望を孕んだ、ハイリスクハイリターンの夢のある世界。

 

僕は今日、そこに挑む。

 

手早く魔性探索者(デヴォーカー)の登録を済ませ、遺産の入口へとドキドキしながら足を踏み入れた。

 

魔性遺産(デヴィタス)の制限年齢は十四歳以下。昨日十五歳を迎えた僕は、大手を振ってこの門を潜る。

 

いつか必ず魔性探索者(デヴォーカー)として大成功して、あの絵本のような英雄になる。

 

「やってみせるからね。お父さん、お母さん」

 

大志を胸に抱いて、帝都第一支部魔性遺産の中へ跳ねる思いも乗せて。

 

一歩。

二歩。

夢へ近づいたはずだった。

 

「……あ、なんかいい感じのBGM聞こえてきた。僕、いま英雄としての第一歩を踏み出し──」

 

 

 

ドゴッ!!

 

 

 

「ぶほぉ!?」

 

目の前から飛んできた巨大な何かに、思いっきり吹っ飛ばされる。

 

……巨大なイモムシみたいな異形が、軽い挨拶するみたいに僕を跳ね飛ばして通り過ぎていった。

 

「……ぁぐ」

 

(あれ……?僕……英雄の卵じゃなかったの?)

 

視界が暗くなっていく。

誰も助けてくれない。

チュートリアルは無かった。

勇気を出して踏み出した“初日”の冒険は──

 

『え、ダサッ』

 

……探索者っぽいお兄さんが、笑いながら僕の上を通り越して幕を閉じた。

 

───無様に、僕は死んだ。

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