AI「死にます」僕「やめて」から始まる、英雄になるための物語   作:霧夢龍人

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1章 「何も持たず、何も知らず──だからこそ、始まる。」
死亡と群れ


魔性遺産(デヴィタス)には夢と希望が詰まっている、なんて言い出した人は誰だろうか。

少なくとも僕は、最初にそれを口にした人にこう言ってやりたい。

 

『夢も希望も、そんなものはどこにもないない』と。

 

「……ぅあ」

 

僕は死んだ。

正確に言えば、死にかけていた。

 

いや更に正確には、死ぬ寸前で “生き恥を晒している最中”だ。

 

右腕?ない。

下半身?どっかいった。

現実?あったら泣いてる。

 

そんな僕の脳裏に浮かんだものは、にこやかな笑みでレザーアーマーを勧めてくる商人の顔だった。

 

なんだよ。レザーアーマーなんて全然意味ないじゃないか!!!

 

「っけほ……」

 

泣き笑いしながら息を吐く。

体温は落ち、視界は暗く、心も折れかけて──

 

(……やっぱ英雄になるって言ったの、無謀だったかな)

 

魔性遺産に入る前、焚き火の前でつぶやいた夜。

「僕は伝説になる」って、中二病全開で言った夜。

みんなが夢語って、僕だけ一人で格好つけてたあの夜。

 

(いやでも、言うだけタダだし……)

 

……ていうかそんな走馬灯いらんわ。もっと感動シーン来いよ。

 

痛い過去を思い出して頭を抱えたいのに、右腕がないせいでどうしようもない。

 

「あーあ、なっさけな」

 

血と一緒に笑いが漏れた。だがもうツッコミを入れる意味もない。こうしている間にも意識が遠のいていく。

体温も、指先の感覚も、まるで少しずつ剥がれ落ちていくかのように消えていった。

 

こんなので終わるのか、僕の伝説は。

 

 ……視界が、霞む。

 赤が黒に染まっていく中、意識のどこかがまだ抗っていた。

 

「ぉかあ、さん……おとうさ、ん。ごめ……」

 

意識が掠れていく。

 

こんな時に思い浮かぶのは、消えたお母さんとお父さんの顔……?いいや、そんな訳ない。

まだ僕は、伝説になっていないんだ。

 

家も家族もお金もない僕には、唯一残された僕という存在と、伝説になりたいという“夢”だけだった。

 

そう、夢だけだ。

僕が魔性遺産に潜ろうと思ったのも、意地汚く生きてきたのも全て──夢のため。

 

だって夢が消えたら、残ってしまった僕は何のために生きていけばいいのか分からない。

正しく、僕の存在理由そのもの。

 

でももう、僕は死ぬ。

 

年若い魔性探索者(デヴォーカー)が死ぬのはありふれた出来事。僕もそのうちの一人になる。

 

「伝説になる!って……誓ったはず、なのになぁ」

 

ただそれだけの物語(ハナシ)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい、時間が経っただろうか。

冷たい。冷たすぎてもはや寒いとすら思えなくなってきた。

 

しかし暗闇の中、確かな心臓の鼓動が遠くで跳ねているのが分かる。

……あれは、僕の心臓の音?それとも───。

 

いや、違う。既に僕は死んでいるはずだ。心臓の音なんかするはずもないし、そもそもこうして“考えられること”自体がおかしい。

 

なら、一体?

 

 

 

 

『お前は“ここ”を甘く見た』

 

 

 

 

掠れた声が、血が流れて空っぽになった頭蓋に響いた。誰かが話しかけている。

 

男か女かも区別がつかないような声色。けれど、その声には底なしの冷たさがあった。

 

 

『お前も、私達と僕たちと──オナジ、同じだ。

ココで夢想い、大成する自分のスガタヲ思い浮かべ……そして、死んだ。シンダ、シンダ……』

 

 

「なにを言って」

 

返事をしたつもりはなかった。

けれどその声は何が何だか分からない僕を嘲笑うように、死という現実を叩きつける。

 

そうだ、僕は死んだ。

ならなぜこうして僕は───だめだ。疑問が纏まらない。

 

不気味でどこまでも響くような幾重にも重なった声。

 

意識を失ってしまいそうな程の恐怖と、僕は死んでいるはずという疑問が綯い交ぜになって、蚊の鳴くような声でさらなる疑問が漏れた。

 

「それに私達……?貴方はいったい、誰なんですか」

 

その声が、静かに笑った気がした。

 

『私か?俺か?僕か?

私達は()を捨てた。

夢を追って、オッテ、その夢に呑まれ、そして堕ちたオチタ者たちの“群れだ”───歓迎しようじゃないか、我が同胞よ』

 

胸の奥底で、鼓動が“爆ぜた”。

 

音は、世界を割るようだった。

暗闇の中、止まっていた血が逆流を始め、

砕けた骨が軋みながら繋がっていく。

 

だがそれは、生き返るという感覚ではなかった。

まるで“別の何か”が僕の中で蠢いているようだった。

 

『痛いカ?』

 

「……かなり」

 

耳の奥で、誰かが囁いた。

その声は冷たく、けれど不思議なほど優しかった。

 

『なら、それでいい。痛みはイタミは夢の証だ』

 

幾重にも重なる声。

男でも女でもない。老いも若さもない。

けれど、確かに“人間の願い”が混じっている。

 

重なる声が段々明瞭になり、一人一人の声がはっきりと頭蓋に響いた。

 

『夢を見た。敗れた。だから、喰われた』

『喰われて、夢になった』

『さあ、少年よ。お前も夢を喰らえ』

 

ズゥン……と、内側から脈打つ衝撃。空気が震える。

黒い液体のような光が、僕の切断面から流れ込み、空洞だった右腕と下半身に、形を取り戻させていく。

 

熱い。

熱い熱い熱い。

 

焦げつくように熱いのに、どこか心地よい。

まるで、他人の命を丸ごと呑み込むような感覚。

 

「……やめろ……僕は……」

 

『抗うか?いいだろう。だが覚えておけ』

『夢を喰らう者は、夢に喰われる』

『それでも──“夢を見る”ことを選べるのは、生きる者だけだ』

 

無数の声が重なり、やがて一つの囁きになる。

 

『ようこそ、“夢を喰らう者”よ。

お前は敗者ではない。お前は、敗北を糧にする存在だ。だが忘れるな───お前の最期はロクでもない』

 

「知ってるよ。人生、そう簡単にうまくいかない」

 

それでも、諦めるほど賢くはなれなかった。

 

───ドクン。

 

血が戻る。呼吸が満ちる。

生まれたわけじゃない。戻された。そんな感覚。

 

「……っ、は……」

 

痛みが生き返り、泥のように鈍かった五感が蘇った。けれど静かに、泥を噛むみたいに息を吐く。

 

「……まだ、終わりじゃない」

 

それだけ言えたなら、充分だ。

 

誰かが体を無理矢理動かすような、そんな不愉快さの後に。

 

僕の意識は覚醒した。

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