進撃の巨人2 名もなき英雄の軌跡   作:なげすて

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解散式の前日の夜、皆で一つのポットを囲んだ。
そんなお話。

サントラのso ist es immerを流しながら書きました。


第18話 解散式前夜

 

「アニー!ライナー!ベルトルトー!」

 

私は暗闇の中、訓練兵の宿舎から離れた平原を、ランプを片手に叫びながら三人を探す。またとない好機だ。逃がすものか。必ず見つけ出してやる。

 

歩いていると月明かりが出てきた。少し灯を弱めたところで、遠目に三人を見つけた。座り込んで何やら話し込んでるらしいが、聞き取れる距離にいない。

 

私はもう一度彼らの名を叫んだ。

気づいたようだ。月明かりを反射する六つの瞳が見つめる。私は彼らの顔が見える距離まで近づこうと、歩きながら続けた。

 

「ここにいたのか。探したよ。気が付いたらいつも三人で固まってるよね君たちは。」

 

彼らは何も言葉を返さない。

 

「何か三人だけで話したいことでもあったのかな?」

 

彼らの表情がわかる距離まで近づいた。気のせいか、三人の顔がこわばったように見えた。

 

「・・・もしかして、君たちの故郷の話とか?」

 

三人のこわばった顔が明らかに険しくなる。純粋に疑問に思っただけだ。だが、なぜそこまでおののくのかはわからなかった。…いや待てよ?ベルトルトとライナーはともかく、アニの故郷の話は聞いたことはなかった。二人と同郷だったっけ?

 

「だったらなんだっていうの?」

 

アニが口を開き、私を、初めて格闘術を披露したあの時のような鋭い目つきで見据える。

 

「いや、詮索するつもりはなかったんだ。ただ、君たちを探してて」

「とぼけてるつもり?ベルトルト、気づかれたよ。」

 

私は言い直す。

 

「気づいたっていうか、見つけたんだけど?」

 

アニはなにをそこまで警戒することがあるのだろう?ベルトルトは青ざめて発汗がすごいし、ライナーは状況がうまく呑み込めていないようだ。

なにか噛みあっていないような気がして、私は次の言葉を言い淀んだ。

気まずい沈黙が流れる。まるで次に口を開いた者が、取り返しのつかない事態に陥るかのような。

私も彼らにつられて、口の中が乾いてくる。冷たい汗が頬を流れ落ちる。

お互いが何かを言いかけたその時、

 

「あーー!!見つけましたよ!!!」

 

遠くから飛んできたひょうきんな声に私たち四人はびくりと体を震わせる。

 

サシャの声だ。

 

私たちは、両者共に中途半端に、口が開いたままだったが、その口は呆れで更にあんぐりと開いた。

 

「おーい!お前ら早く宿舎に戻るぞ!」

「バカ!お前ら声でけーっつの!」

 

コニーの大きな合いの手をジャンが坊主頭をはたいて小さくする。苦笑するマルコ。

 

エレンやミカサ、アルミン、クリスタ、ユミル、トーマスにミーナもいた。

 

「・・・何が目的?」

 

アニが私に向き直り、問う。さっきの殺気はすっかり無くなり、もとのけだるげな顔をするアニに戻っていた。

 

「サシャが教官の食糧庫から甘露の葉を取ってきたんだよ。」

「甘露?ああ、お茶のことか?それがどうかしたの?教官にバレたら、解散式取り消しになるかもしれないよ?」

 

ベルトルトはのんびりと、しかし慎重に私に念押しする。

 

「それがバレないからって一抱えくすねてきたみたいで、どうにもサシャだけでは飲みきれない量になるみたい。だから私たちにも分けてくれるって言ってきたんだ。」

「食い意地が張ってて頑として分けたがらないあのサシャがか?しかも食い物ではなく飲み物?あいつ風邪でもひいたのか?」

 

ライナーがやっと口を開いた。

 

「明日って解散式ですよね?だから、ひと際贅沢で、かつ盗まれてもバレにくいこれにしたんですよ。」

「教官も食料ばかり盗まれてるから飲料は見落とすだろうってな。バカなりに頭を回したってわけさ。」

 

追いついたサシャとコニーが答える。

 

「それでも、なんで僕たちを?」とベルトルト。

「決まってるだろ?いつも世話になってたからだ。」

 

エレンが答える。

 

「格闘術を教えてくれたアニに、俺たちの兄貴分のライナー。二人を抜きで祝うわけにもいかねぇからな。」

 

ミカサ、アルミンも頷く。

こころなしか、アニやライナーの表情が、少しほぐれたように見える。二人の場合、前向きな表情はわかりにくいから、ほんとに気のせいだろう。

 

「まぁ、そういうこった。とりあえず、煎茶はここで飲もうぜ。」

 

ジャンが仕切る。

 

「え?この原っぱで?宿舎に帰る話は?」

「あれは聞き耳を立ててる教官へのハッタリだ。それと、食堂は灯りが見えるし、寝室は男女別だから疑いが生じるかもしれない。飲むならここだろう。」

マルコが進言する。

「それに…ねぇ。」

 

サシャが私の方を見る。そうだ。ここは…。

 

「・・・まぁ、そこまで言うなら。」

 

アニは腰を下ろす。ほかの皆もつられて腰を下ろした。あの時、初めて狩りに出掛けた日に、サシャと一緒にキノコのシチューを食べた場所だった。

 

「さぁ、お手並み拝見だな。」

 

ケトルを取ろうと屈んだところで、ユミルが私に寄り掛かる。

 

「ああ、任せてくれ。」

「アンタ茶を淹れるのが得意だってのは、これまで散々見せられてきたからな。」

 

なるほど。ユミルの差し金だったのか。胃に溜まるものを狙うはずのサシャが奇特なことだと思っていたが、納得だ。

 

「・・・まだ仮は充分に返してない、だったっけ?これも数のうちに入るのかな?」

「今日は特別機嫌がいいからな。いいぜ。まだ完済じゃねぇけどな。明後日からもみっちり働いてもらうから覚悟しろよ?」

 

苦笑しながらも私は火をおこし、ケトルを沸かす。

ユミルはクリスタのもとへいちゃつきに戻った。

わかってる。明日すべてが明らかになる。ユミルも気になっているのだろう。でも、きっと大丈夫だ。

 

「あの、僕は?」

 

ベルトルトが、近くにいた私に問いかける。それぞれの面々が、はるかに離れた教官にばれないように小さな声で談笑している。

 

「ん?」

「さっき、エレンはライナーやアニをねぎらうために探してた。僕も座っていいのかなって。」

「ああ、そのことか。君だって称えられる権利はある。この三年間、君はアニやライナーと同じくらい優秀だったからね。でもそれだけじゃない。君は以前、自分にはしたいことも無い、自信も無いと言っていた。でもね、正直なところ、みんなも君と同じように感じてるんじゃないかな。この三年間が、必ず巨人を倒せる保証をしてくれるわけじゃない。自信なんかない。それでも悩むことも、迷うことも許されないような、そんな閉塞感を。」

「そんなことは・・・」

「ライナーやアニ、ミカサはそんなもの、微塵も感じさせなかったけどね。それがどこか寂しくて。でも君は、優秀でありながらも、私やほかの皆に素直に打ち明けた。ほっとしたよ。私たちだけじゃなかったって。たとえ傑物でも、悩むことはあるんだってさ。」

「優秀だなんてとんでもない。ぼくはそんな・・・」

 

ベルトルトは明らかに困った顔をし、しどろもどろになっている。

私は湯が沸いたのを確認し、ケトルを取り、持ち寄ったコップに注いでゆく。親に仕込まれた茶の注ぎ方を、まさかこんなところで使うことになるなんて思わなかった。

一番近くにいたベルトルトに、茶を渡した。

 

「あの時、落っこちそうだった私を助けてくれた。これはその礼だと思えばいいさ。あと銃の手解きの。」

「・・・ありがとう」

 

なにやら含みのあるような礼を受け取り、他の面々へも渡していく。ベルトルトにつられてか、他の皆もくちぐちに「ありがとう」と仰々しく礼を述べる。真面目なエレン、マルコやライナー、ニヒルなジャンはわざとらしくも、まして仏頂面のミカサやアニまで。ユミルもいちゃつくのを中断して述べる。なんなんだ今日は。アルミンは見たことない下卑た表情をしている。

 

真似をされたベルトルトはすっかり縮こまっている。だがどこか嬉しそうだ。

 

「まだ成績は発表されていないけど、きっと訓練の成果が反映されることを祈るよ」

「ま、俺は絶対内地にいくけどな」

「いいや憲兵団に入るのは俺だね。」

「おい、自信はないけど俺も内地に行きたいんだぞ!」

「あたしもあたしも!」

 

トーマス、ミーナもジャンとコニーの問答に突っかかる。

全員に茶が行き渡った。

今後の人生がほぼ決まる明日だ。

 

この場所は、サシャと来たときと同じだ。静かで、風が優しく吹き抜けていく。夜でも草はそよそよと音を立て、星空は穏やかに瞬いている。

 

椅子や机とかはないが、それなりの間取りで、それぞれの物語を抱え、皆が座っている。

皆の望みが、きっと叶うと信じたい。今日まで訓練を生き残った、みんなの望みが。

 

また雰囲気が寂しくなる前に、エレンが音頭を取る。

 

「乾杯!!」

 

音頭にしては迫力がありすぎる。大声を上げたエレンにジャンが舌打ちする。だがみんなも納得した顔で、各々の誓いを胸に、それぞれ乾杯を挙げた。

 

ひとしきり煎茶の香りを楽しみ、口に含む。

熱くて芳醇な味わいは、いつかのシガンシナ区の家を思い出させた。

 

いよいよ明日、ここを出る。ようやく、巨人を倒すに足る兵士として認められるのだ。

気持ちが逸る時もあった。時には対抗心を燃やし、謎に頭を悩まし、そして、誰かの本懐を少し知ることができた。

これまでの思い出が溜飲とともに流れ落ちる。

・・・父さん、母さん。私は必ず、鎧の巨人を殺してみせるよ。

 

ーーー

 

翌日、教官にはしっかりバレていた。明け方呼び出された私たちは全員一発ずつ稲妻の一撃のような頭突きをくらい、それであの一件は不問となった。

 

本来なら訓練地を追放されるものだが、うやむやとなったのは、教官の慈悲か。それとも、それどころではないほどの、人員の不足ゆえか。

 

頭に走る衝撃とともに意識が遠のいていく私の眼に、教官には呆れと、許しの表情を見せていたような気がした。

 

目が覚めると夕暮れ時、解散式が始まるには、まだ余裕のある時刻だった。私はすきっ腹を抱え、焦らず急いで医務室を駆け出る。まだ間に合うはずだと、今日と明日では何かが違うのであろう景色を走り過ぎながら、馬で駆けた。

 




作者が一番最初に書いた夢小説です。
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