進撃の巨人2 名もなき英雄の軌跡   作:なげすて

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第21話 初陣

駐屯兵団本部を出て5分と少し。トロスト区は地獄と化していた。本部までたどり着いた巨人はまだいないようだが、戦線は北へ北へと押し上げられ続けている。私達は中衛の中でも若い番号の班だ。いずれ、中衛の殆どが駆り出されるだろう。

 

「巨人がもうあんなに・・・。」

「そういやサミュエルは大丈夫なのかよ?」

「サシャがアンカーを刺した時、結構深く刺さったみたいだ。怪我で出撃は出来ない。」

「チッ、じゃあこの班は4人だけか。チビとお前じゃあ頼りねぇし、お前ら二人とも、くれぐれもアタシとクリスタの足を引っ張るなよ。」

「なんだと!」

「ユミルやめてよ、こんな時に!」

「他の班から引き抜くことも考えたが、殆どが出発した。後続の精鋭から引き抜くのは相手が渋るだろうし、どうしたものか。」

 

私達が出陣する少し前、ミカサが後衛に引き抜かれて行ったのを確認している。

ミカサはエレンの班に加わろうとしていたが、エレンとイアン双方の介入もあり諦めざるを得なかったようだ。

 

「決まってるだろ。その辺りでサボッてればいい。」

「はぁ!?お前何言ってんだよこんな時に!」

「あぁ、お前らは駄目だぞ?アタシのかわいいクリスタに傷が付かないよう全力で守る役目があるんだからな。」

「…賛成だ。」

「おい!」

「ただし、部分的にだ。敵前逃亡は死罪。上官はそう言ってたからな。」

「だからバレねえようにサボるって言ってるだろ?」

「どうやってだ?駐屯兵団本部は全方位から戦況を視認できるよう設計されてる。きっと後衛が目を光らせてる。」

 

サボりを確認して断頭台に送るためならなんでもするかは分からないけど。

 

「死角は地上の本部近辺だろうが、巨人に襲われたときに初動が遅れる。」

「ほう、また予習でもしてきたのか?お利口さんだな。」

「どこでも戦場になりうるなら……いや、サボるなら何処にしようか考えてたらこうなった。」

「お前、そっち側なのかよ。」

「冗談だ、コニー。とにかく、戦う方が死ぬ可能性が低くなる、ということだ。」

「正しくは戦う姿勢を見せた方が、だな。別に屋根の上でいびきをかける程、アタシも図太くねえ。」

「でも、やっぱり不安だよ。確かに私達は訓練兵を卒業したけど、それでも先輩たちと同じように戦えるとは思えない。」

「そこは大丈夫だぜ。だって、なぁ?」

 

ユミルは私嘲笑うように目線を送る。

私は静かに頷いた。

私は彼女にだけ話していた。抜け駆けしたことを。一年前に任務に参加し、いち早く前線を観察したことを。

 

それは一つの理由があってのことだが、ここでは話せない。

現に、クリスタとコニーは私達二人の行動に、特に違和感を抱かなかった。誰でも行う所作にわざわざ意味を見いだしたりしない。ユミルが自身の実力を買ってると示したように見えるだろう。

 

「あぁ、上位成績者10名のうち、二人もここにいるんだから。」

そう見えるように、私も答えた。

「作戦は頼んだぜ。」

「よし、わかった。もう決めてある。」

「おお、早速教えてくれよ!」

「アタシも賛成したい所だが、一旦移動した方がいいんじゃねえのか?」

 

確かに、出陣してからというもの、家屋一つ分しか移動していない。

ユミルの言っていた、「戦う姿勢」を本部に十分見せつけるように、私達は歩いた。

 

 

「んで、作戦を話してくれるか?」

「コニーには、またトドメ役を買ってもらう。残りの三人で巨人を誘導して隙を作る。」

「なるほどな。巨人はより人数の多い箇所を狙う、その習性を利用するってことだろ。」

「その通りだ、ユミル。だけど、なるべく孤立した個体を狙うんだ。集団で来られると、戦況が激しく変わるからね。」

「あと、後ろをとられちゃマズいよな。」

「それなら、私が背後を見るよ。ユミルと貴方で巨人の目線を誘導して、私がかかりきりの二人の後ろを、二人のさらに後方から確認する。これでどう?」

「決まりだな。んじゃ、とっとと行くぞ。」

「待った。あとは移動のことだ。」

 

大型の巨人なら視界に入るためわかりやすいが、小型の巨人はそうはいかない。屋根の上から見通せない死角に潜んでいる可能性がある。

 

なるべく家屋の中央を移動し、他の建物へ乗り移る時は、地上に敵がいないかの確認を必ずすることを共有し、私達は走りだした。

 

 

 

 

作戦開始から30分。現在の戦況は上々だった。三人で誘導し、コニーがトドメを刺す。この手法で、3体巨人を倒した。混戦を避けるべく、中央からはぐれた巨人を狙い、こちらの損害を出すことなく、討伐をすすめることが来ていた。ブレードは一度交換したが、ガスは一度も交換せずに済んでいる。

 

それでも予想以上に討伐に時間が掛かった。家屋の破片が飛んできたり、討伐の最中に別の巨人が合流したり、巨人が突如サバ折りになってうなじに攻撃が届かなかったりと、単に隙さえ作れば倒せる、といった計画の危うさを私達に知らしめた。一手間違えれば総崩れになりかねなかった。

 

加えて、街の被害は拡大する一方だった。建物の延焼は進み、取り残された住民は次々と巨人の餌食となっていく。何人かは助けたが、それでも救助は追い付かない。各所から悲鳴が上がり続ける中、緑色の煙が一筋、空高く上る。

 

「あの煙弾は、救援要請!」

「どうする!助けに行くか?」

「あっちはアタシらの持ち場じゃねぇだろ。それでも行くのか?」 

「・・・住民はどうする?」

「お前、何言ってるんだ?」

「兵士なら、まだ逃げ回るくらいなら出来るかもしれない。まだ、助けられる人がいるかもしれな──」

ユミルに胸ぐらを掴まれる。

「おい。お前、まさか住民を守りながら、なおかつ兵士も助けに行こうってんじゃねぇだろうな。」

 

ユミルには苛立ちと焦燥が顔に浮かんでいた。

 

「それが兵士として重要なことだろ。」

「よく考えてるお前なら分かるだろうが。アタシ達にはそんな余裕なんかねえって。まずてめぇの命を優先するんだよ。うじうじしてたら、救えるもんも救えねぇぞ!」

「私は助ける。」

「クリスタ?」

「ユミル。見捨てていい理由なんてないよ。私は行く。」

クリスタは言い終わるや否や、立体機動で煙弾の方へ近づいていく。

「…わかったよ。おい、さっきの続きだが、」

「ああ。」

「戦力確保して、殲滅力を上げた方が、こっちも周りの奴もより安全になる。それがアタシの持論だ。優先順位を間違えるなよ。」

 

(耐えるんだ。巨人が多数入り乱れてる今、とても誰かを助けられる状況ではない。外門での戦いは一対多に持ち込めたから有利にことが運んだだけだ。先輩らが押されてる以上は、自覚しなくては。)

 

そもそも、私達が戦場に駆り出されているということは、先遣隊が敗北したことを示唆している。前衛の戦っている方角を遠目から眺めても、明らかに兵士の跳んだ証である、ガスの軌跡が少ない。すなわち巨人側が、依然勢力を伸ばし続けている。ほんの数体倒したところで、全体の戦況は遅々として好転していないのだ。

 

(外門の戦闘で駆けつけたあの駐屯兵も、きっと……。)

 

「ユミルの言うとおりだ。判断に従おう。」

 

ユミルは冷笑的だが、それは視野狭窄に基づく諦観などではない。いち早く戦況を理解し、その上で理解を促そうとしているのかもしれない。

今ここで逆境を指摘したところで、班の士気を落とすだけだ。なりより、クリスタの護衛が最優先だ。卒業試験の前にユミルの話したことが本当なら、ここで彼女を失うわけにはいかない。

 

緑の煙弾の下に向かったところ、3メートル級と15メートル級が、四方を壁に囲まれた天井の無い広間に入り込み、孤立した訓練兵を襲っていた。

 

「2体か。デカブツは任せるぞ。」

「わかった!行こう、コニー!”ハサミ”だ!」

「おう!」

 

15メートル級の目線の高さに跳び上がり、コニーは巨人から見て左側、私は右側から、奴の鎖骨の辺りにアンカーを刺す。巨体を軸に、左右から同時に大回りする。

 

巨人は決めあぐねていた。どちらから襲うかを。ギョロギョロと目を左右に動かし、分かりやすくその動揺を露にする。

直線で狙える位置に着いた途端ガスを二人同時に勢いよく噴射し、奴の迷いを断ち切るように、二筋の傷痕をうなじに負わせる。巨人は倒れ伏し、二度と起き上がらなかった。

 

“ハサミ”というのはある種の合言葉だ。戦闘中に立ち回りを細かく説明する暇はないため、コニーが思い付いた戦術だ。その場にふさわしくない単語を用いることで、あえて作戦であると理解させる働きがある。

 

「よっしゃ!作戦成功だ!!」

「やったな、コニー!」

「俺が仕留め損ねた時に助けに入っただろ?あれでピンと来たんだ!攻撃する人数が多い方が倒せる可能性が高いかもなって。」

「ああ。凄いよ、コニー。」

「へへっ!」

コニーは親指で鼻を数度擦る。大変得意気だ。

「おい、こっちも倒したぞ。」

「ブスもやるな!」

「なんだとこのチビ!!」

 

上機嫌からかコニーの口から咄嗟に出たのは、シンプルな悪口だった。

 

「ありがとう。助かった。他の班員からはぐれて、どうしようか迷ってたら巨人が来てて……うぅっ。」

 

訓練兵は泣きながら感謝を述べる。クリスタは彼女の背中をさすっていた。

 

「ここから壁が近いから、まだガスが残ってるなら、登って待機してて。」

 

彼女は優しく言葉を掛け、訓練兵は静かに頷いて戦線を離脱した。

 

「……ありゃ敵前逃亡に当たらないか?」

 

訓練兵が壁を登っていく様を家屋の屋根から見上げながら、ユミルは独りごちる。

 

(判断は怪しいが、班と合流できれば、見逃されるだろうか。)

 

「なあ、俺達も補給した方がいいんじゃねぇか?」

「なら、あの場所を探してみようよ。」

 

トロスト区で任務にあたる訓練兵、駐屯兵には、ある一つの設備の追加を伝達されていた。

 

「これまで下を確認するよう言ってたことを覚えてるか?」

「ああ。お前は一際バカ丁寧に確認してたな。そこまで食い入るように見る必要あるか?」

「大いにある。付いてきて。」

 

三人を連れて、少しわけ入った路地に入る。地面の一回り大きい、一つの石畳を確認する。

 

(よし、まだ使われていないな。)

 

石畳をひっくり返すと、そこにはガスボンベが2本入っていた。

 

それは、一年前に私が発案し、ハンネス隊長が議題に提案、内地の議会にて議決にまで漕ぎ着けた、小さな補給拠点。区内各所に設置されたその拠点は、人が入って休めるような大きさではない。

 

敷石に埋め込まれる形で設置されている。内容物は立体機動のためのガスボンベ2本と、一本の旗。ボンベ兵士一人分程度の量で、孔から取り出してそのまま装置に装填できる。公道の端や路地裏に埋められているため、馬車の車輪に轢かれて爆発することもない。

 

拠点を使用したことを示すため、敷石を裏返して孔を閉じる。敷石の表面には黒、裏面には青い塗料が塗られており、目視ですぐに確認が出来る。かつ、裏面にはくぼみがあり、旗を石に突き立てて、目印を作ることができる。兵士がガスを切らした状態で降りてきて、蓋を開けたら中身が空、そのままなすすべなく巨人に食われる、という件を防ぐためだ。

 

ガス自体に値打ちや毒性は無く、盗難や凶器使用の危険も無い。

 

ブレードは残念ながら防犯のため設置は叶わなかったが、戦線の離脱、および撤退ならば存分に効果を発揮するだろう。

 

議会は予算の都合も鑑み、最前線、かつ南端のトロスト区を実験台とすることを条件に、半年と言うごく短い期間で施工を終えたのだ。

 

建設会社、役所の交通課と協議を重ね、施工箇所も相当数確保された。その数、およそ50。

 

公共事業とはいえ人員確保のための雇用も実施され、一時的だが民の財の確保にも繋がった。一部北端のユトピア区からも、人足が補給されたこともある。

私が手紙で確認していた進捗の正体がこれだ。

 

話を戻そう。

最もガスを消耗していたコニーに一本、次点で消費の多かったユミルに一本渡す。

 

「さて、これからどうする?」

「この臨時拠点で補給はできたけど、あくまで臨時だもんな。本部に戻ってブレードも補給しねえと。」

「コニーの言う通りだと思う。私は止血帯を補充したい。」

「助けるためとはいえ、管轄してる場所から離れすぎたのもまずいな。」

「なら決まりだな。さっさと本部に戻るぞ───」

 

遠くで、叫び声が聞こえた。この声色は、知っている。訓練兵時代からよく聞いていた、あの人の声だった。

 

「おい、今のって、アルミンの声じゃねぇか?!」

「チッ。おい、行くぞ!」

「ああ!」

 

四人は一斉に跳び立つ。声のする方へ、一直線に。

すでにこの班には、誰かを助けるために動くという原理が刷り込まれていた。積極的に救助を推し続けていたクリスタのお陰だ。

 

立体機動を続ける中、ユミルが私に問う。

 

「なぁ・・・お前、この状況で同期のヤツらがみんな無事だと信じてやがるのか?」

「あっちにはアルミンがいる。私よりも何倍も頭が回る凄い人だ。それなら、私よりももっと有力な作戦を思い付ける。きっと無事だ。」

「フン、めでたすぎるぜ。その甘い性格が命取りにならないといいがな。」

 

叫び声を聞いて、およそ4分。

やや難航したが、ただの一度だけで止んだ叫び声の在処を探し当てた。

立体機動の最中、私は空中から、屋根に膝を折り座り続けるアルミンを見つけた。

ある一点を見つめ、微動だにしない。目は虚ろで、完全に放心していた。

状況がおかしいのは明らかだが、それ以上に、不気味だ。

彼の周囲には巨人が一体もいない。

いや、それどころか、彼以外の班員が見つからない。

 

(まさか、アルミンが単独で倒したとか?いいや、誰であろうと、そんな無茶はしない。)

 

何がどうなっているのか、彼から聞き出すことにした。

 

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