進撃の巨人2 名もなき英雄の軌跡   作:なげすて

26 / 73
第26話 誘導

 

─1─

 

「まずは巨人の誘導だ。僕たちで壁内にいる巨人を、内門の方面まで連れて来ないと。」

夕暮れ。

現在の私達の任務は、巨人を北側へ誘導し、精鋭部隊が万全に戦える状態を作ることである。

なお、壁際に誘導しても、壁上固定砲による攻撃はできない。目的はエレンに巨人を近づけないことにあり、誘導には壁からアンカーを下ろして、兵士一人一人が囮になり引きつけ続けなければならない。

「今頃エレン達は壁上を走って岩まで向ってるところか。・・・鍛えられてるとはいえ、そこで結構消耗しそうだけどな。」

「そんなことも言ってられないよ。」

「そうだね。おあつらえ向きな移動手段も無いし、巨人を相手どるこの状況じゃ、些細なことか。」

現在、私とアルミンの二人は、トロスト区内の家屋、その屋根の上で待機していた。

ブレードは抜かれている。

二人一組となって行われるこの作戦は、まず区画の中央から組が行動を開始し、徐々に離脱の手段が多い外側の組が誘導を始める。作戦開始から20数分程度。まだ私達の順番は来ていなかったが、

「ん?あれは黄色の煙弾?救援要請か!?」

「すぐ近く、駐屯兵団本部のあたりだ!」

作戦が常に万事うまくいくなら、人類はこんなことになっていない。

持ち場を離れることになるが、近場で事態を治められるならと、私とアルミンは向かった。

煙弾を発した者の正体は、よく知る二人だった。

「サシャ!ダズ!」

「お前らか!助けてくれ!早く!」

「言われなくても!!」

相手は15メートル級1体だけ。

「周囲に巨人もいない。大丈夫。不意打ちの心配は無い。」

「ありがとう。アルミン。」

戦況は、優秀なサシャが誘導を行っているが、ダズが攻めあぐねていた、といった具合だろう。

それならば、

「攻撃だ!」

巨人が大きく腕を振りぬき、よろめいたところを全速力で頭上からブレードを振りぬく。

狙ったのは肘の内側。関節だ。重心の変化に戸惑ったのか、巨人はだらりと下がった前腕を一瞬眺める。

「今だ!ダズ!」

「わ、わがっ──」

ダズが呑み込むより先に、サシャがうなじを切り飛ばした。

「やりました!アルミンも、貴方も来てくれたんですね!」

「無事で良かった!」

「え、えっと・・・俺は・・・?」

「ダズもよく頑張った!助かったよ!」

「あ、ああ。ならいいんだけどよ・・・。」

指示をこなせなかったことをいちいち指摘なんかしない。本人も分かっているようであった。

判断の速いサシャが先んずるのは目に見えていた。

「それで、誘導の方はというと・・・。」

「ええ。倒しちゃいましたから、次の目標に向かう必要がありそうですね。」

「ええ!?まだやるのかよ!」

「やるよ。人類の為だ。」

「エレンの邪魔が入らないように手は尽くさないと。」

「ぐ・・・。わかった。わかったよ・・・。」

ダズもしぶしぶ続いた。

「そ、そうだ。これを届けなきゃなんねえんだった。」

ダズは背中に詰んだボンベを見せる。

「それって?」

「大岩の近くにある簡易拠点に、コイツを届けなきゃなんねえんだよ。精鋭班の補給のためにな。」

「それを早くいいなよ。」

「忘れてました。」

「サシャ・・・。」

「僕たちも一緒に行くから、今から急ごう。ひとまず、討伐は後だ。」

「確か俺達以外にも補給の班が向かうはずだ。怖ぇけど、でも、行くしか、無いよな。」

四人は周囲への警戒を怠らず、南へ数百メートル、大岩の近くへ向かった。

大岩の近辺に巨人は居なかった。幸運なことに。

簡易拠点も荒らされていない。大岩で方角一つ分視野を失うが、接近の気配も無く、ダズは訓練兵時代の巧術のもたつきの影も隠し、手早く拠点へ補充を始める。

しかし、改めて見ると大きな岩だ。エレンの巨人の大きさから考えて、あれを持ち上げることができるのだろうか。

実際に計算できるわけではないが、おおよその人間の感覚で、私は可能か不可能かを判断しようとする。

「よ、よし、出来たぞ。あとはこっからずらかるだけだ。」

だが、無意味なのだろう。巨人がなぞの多い存在であるなら、その謎の可能性に期待するしかないのだろう。

……恐怖の対象に期待を抱くのは、相反する感情で、放棄したくもなるが。

「待って!あれを!」

大岩から単眼鏡を覗いていたアルミンが北西を指さす。彼の元まで跳び乗ると、これまたよく知る剃り込みが走るのを視認した。

 

─2─

 

「あれは、ジャンだ!」

「ジャンさん、なんでずっと地上を走ってるんでしょう?」

危機的な状況で、あえて地上を走る兵士などいない。理由は明らかだろう。

「まさか、立体機動装置が故障したのか!?」

「助けに行こう!」

「ああ!」

「ちくしょぉお・・・・。」

今から跳ばして、1分くらいか?急がなければ。

私達が跳んで駆けつけた時にも、ジャンは走り続けていた。

彼の走るおよそ80メートル先の建物の影から、巨人が二体現れる。

「お前らか!故障したから今から装置丸ごと入れ換える!30秒稼いでくれ!」

ジャンは自身の10メートル先の兵士の死体を指差し、”それ”から装置を交換することを伝える。

「分かった!」

私は立体機動を止めずに応える。

「なに!30秒だと?!無理だぜそんなの!」

「大丈夫。戦う必要はない筈だ!」

四人で前方の巨人に躍り出る。

「こっちですよ巨人ども!!こっちに来てください!」

「数の多い方に寄るだろう。なら、こっちに向かってくる筈だ。」

「ひいい!!食われたくねぇ!」

「ダズさん!しっかりして下さい!!」

(サシャにまで尻を叩かれてるんじゃない!)

ジャンの方を確認する余裕は無い。振りかぶる巨人の腕がどちらへ向かうか見極めなければ、即座に奴らの掌の中だ。

真反対から巨人が迫ってきてる可能性もある。が、目の前に集中しなくては。

「しかし、なんでジャンは一人なんだ!複数で固まって行動するのが作戦だったはずだろ!」

「それを言ったら私達が駆けつけたことも作戦を乱したことになる……な!」

「瓦礫が飛んでくる!高度を高く保って!」

家屋を利用して、奴らの歩みを少しでも遅らせる。家屋は基本北から南へ伸びた造りになっているため、今私達は巨人どもを西へ誘導している。

「そろそろ30秒だろ?!どうだ!」

ジャンが離脱したかを一瞥して確認する。今度は跳びながら。装備を失った死体と、ガスの軌跡とでジャンが離脱したのを確認し、軌跡の大元を辿り、彼が壁へ、北に向かって進んでいるのを確認した。

私達からは随分と離れた。

「なんとかなったか。」

だが、ジャンの進む方向のさらに奥から、巨人が彼に跳びかかっていた。

安堵も束の間、我々が駆けつけようとしても間に合わない距離での、巨人による奇襲。

「あっ──!!」

咄嗟に叫ぶことしか出来なかったが、その叫びは中断される。奇襲を仕掛けた巨人を空中で踏みつける誰かがいた。

その兵士の正体は、アニだった。

彼女の上からの蹴りにより、巨人はジャンの足を齧ることも出来ずに硬い地面に顔を叩き突けた。

思わず四人から、ほっと息が漏れ出る。

今度は私達の背後から足音が近づいてくる。

追加で二、三体くらいか。本来の持ち場から離れてしまったが、都合がいい。このまま壁まで誘導することにした。

まだ複数を同時に相手取る戦闘は避けたかったからだ。

我々が壁の上までたどり着く頃には、トロスト区の北側の壁は巨人でひしめき合っていた。

アンカーを地面からおよそ30メートルの高さに突き立て、壁をよじ登る。

登り終えたところを、ジャン、コニー、アニ、マルコが出迎えた。

「ジャン!無事だったか!」

「ああ、お前らもか。さっきのはまぐれだ。たまたま死体の体格が近かったからうまくいったが…。ったく、コニーよぉ、一度離脱したんなら戻ってこなくていいんだよ!」

「けどよぉ!お前が離脱した後、アニの助けがなきゃあヤバかっただろ!」

「そうだね。そんなこと言ってる場合なの?あんた、今ので死んでたと思うけど。」

アニはジャンを睨む。

「…悪かったよ。」

ジャンはバツが悪そうに二人に謝る。

 

「ともかく、粗方誘導は済んだな。」

(頼んだぞ、エレン、ミカサ、精鋭班の皆さん!)

 

空から一筋の雷が降り、金属音のような甲高い爆音が響き渡る。

そして、遠目からエレンの巨人が出現するのを確認出来た。

そして、咆哮。

緑の煙弾が一筋吹き上がる。精鋭部隊が作戦を開始したのだ。

家屋の崩れる音がした。殆どの巨人がひしめいて壁を叩く肉の音がするなかでは、異質な音だった。

「なんだ?」

岩を持ち上げる際にもたついたのか?

それにしては、何かがおかしい。

巨人の姿は見えないが、岩を持ち上げれば家屋を超える高さになり、こちらからでも見てわかる筈だ。

再び、家屋が崩れる音。

立て続けに巨人が倒れ込んだわけでもなし。

一体何が起きているのか。

単眼鏡を覗いてみるも、見えない。

そうこうしないうちに、煙弾が再び上がった。

今度は赤い煙弾。作戦失敗の合図だ。

「なんだと?なぜだ?」

私と同様の疑問を持った兵士が一人いた。

「アルミン!?」

アルミンは背負っていた補給物資を下ろし、エレン達のいる方角へ駆け出した。

「おいおい、アイツ何してんだ?」

「私が連れ戻してくる!みんなは作戦通りに!」

アルミンは全速力で駆けていたが、こちらも伊達に鍛えてはいない。

「アルミン!待て!」

まだ上官にバレずに戻れるくらいの位置で追い付いた。

「一体どうしたんだ?」

アルミンの額から冷や汗が伝う。このぐらいで息は荒れてない。

「僕は見たんだ。エレンが鼻血を出していたところを。」

「鼻血?傷ついたとか?」

「いいや。目立った外傷は無かった。考えられるのは、巨人になったときに体力を消耗したからだ。」

「あの力、代償が必要なものなのか?」

「多分。明らかに質量も、エネルギーも釣り合ってないけど、でもあそこでは、そのようなことが起きてるかもしれない。」

「・・・私は君を引き止めるってあっちには伝えてきた。司令の反応を見るに、援軍は期待できないぞ。」

「君がいれば心強いよ。それに、向こうにはミカサも精鋭班もいる。僕たちなら、エレンを何とかできるかもしれない。」

「さっきの演説のようにか。」

「うん。」

考えを煮詰めてる暇は無い。

「わかった。君に付いて行こう。」

「!・・・ありがとう!」

「走るんじゃ時間が掛かる。ここからは立体機動に移ろう。」

「わかった。」

「駄目だったら直ぐ逃げるからな。エレンも一緒に。」

その場から動かず、壁の上から静観するピクシス司令にやや不吉さを覚えながらも、アルミンに付いて行った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。