─1─
トロスト区奪還作戦から三日目の午後、ミカサ、アルミン、そして私の三人はカラネス区の通りを歩いていた。直前まで、エレンの今後の動向についての審議に出席していたためか、三人の足取りは重たかった。
「・・・結果的に、エレンは調査兵団に所属が決まったけど、あのチビがエレンにしたことは許せない!」
ミカサは視線を地面に落とし、吐き捨てるように言う。
「ミカサ・・・。あれは、何らかの意図があってやったことだと思う。そうだろう、アルミン。」
審議所で多様な勢力で議論が白熱する中、エレンがきわめて危うい発言をし、憲兵にライフル銃を突きつけられた時、リヴァイ兵士長が突然、拘束されて跪くエレンを、血みどろになるまで蹴ったのだ。当然ミカサが止めに入ろうとしたが、アルミンが彼女の手を後ろに引き、両腕で固めたのだ。
私も訳が分からなかったが、アルミンに理解できるなんらかの意図があったとあれば、私もミカサの前に立ち、左手をミカサの前にかざした。審議という場で、これ以上暴力沙汰を匂わせる者が存在しないよう、振舞うつもりで。
「うん。多分、あれは演出だったんだと、思う。」
「演出?エレンを傷つけてまでやることが、ただの演出だというの?」
歩き続けてしばらく経つからか、我々も体が温まって来ている。この熱量のまま揉めれば、良いことはまず起こるまい。
(ここは、カラネス区か。なら、知り合いに会う可能性も低いだろう。…いや、そもそも訓練兵で審議所に呼ばれたのは、私達三人だけだったな。)
「そうだな。・・・何か食べるか?」
「あまり食欲は無い。」
「それなら何か飲み物でもいい。とにかく審議は終わったんだ。ひとまずエレンの無事を祝って、私が奢るよ。」
「ミカサ、『彼』の言う通りだよ。ここは一つ落ち着かないと。・・・正直、僕もちょっと喉が乾いたし・・・ね。」
アルミンは私に目くばせする。ミカサはわずかな間黙っていたが、「わかった」と一言言い、私が案内する軽食のレストランへ向かった。
─2─
「トロスト区とは場所は違うけど、似たような店があって良かった。値段も近いし。」
「君は、案外行き当たりばったりなんだね。」
「?まあ、そうだな。いや、やっぱり違う。訓練兵時代に、私が休みの日に出かけていたことを、覚えているか、アルミン?」
「うん。確か、クリスタの手伝いとかで、かなり忙しかったんじゃ・・・。」
「そう。・・・でもまあ、午後三時までには、私にできることは殆ど終わってたんだ。だから、もし皆で大型の休みが取れたら、こうしてお店とか巡ってみたりしたいなと、ふと思って。それで、こういった手ごろな価格の店を、まばらに記録したりしていたんだ。」
「へえ。知らなかったよ。」
「まあ、アニと出かけるために、いろいろ調べてたついでだよ。」
「ああ、去年のか。コニーとサシャ、君とアニの四人が非番の日に出かけたっていう・・・。随分熱心に調べてたんだね。」
「四人が同時に休みになることなんて中々無かったからな。結局、848年の夏ごろの約束が、一年後の秋にまで滞ってしまった。」
「・・・・・・。」
ミカサは、押し黙ったままだ。
(しまった。ここでアニの話はしない方が良かったか。)
「そういえば、まだ何も頼んでいなかったか。ミカサは何にする?」
「レンと・・・。」
「何だって・・・?」
「エレンと同じものなら、なんでもいい。」
(ここにいないんだって・・・)
「・・・上の空になるのも当然か。」
「アルミン?」
「君は多分今日知らされたばかりだよね?エレンとミカサが、8歳の時に・・・」
「ああ。正当防衛とはいえ、強盗を三人も殺したなんて──」
話ながら給仕を手で呼ぶ。給仕が少しよろめきながら近づく。私は葡萄の果汁を、アルミンは柑橘系の果汁を頼む。ミカサには、とりあえず水を。給仕は水の入ったコップを三つ置き、一度カウンターへ戻っていった。
「・・・エレンと同じもの・・・。」
ミカサは独りごちて、コップの水を音もたてずに少し啜る。
「アルミンは、このことを知っていたのか。」
「うん。開拓地にいた時のことだけどね。確か、”エレンに助けてもらったから、私は戦える”とか言って、直接の意味は知らなかった。でも、なんとなく、只ならない事情なんだって察することで精一杯だった。」
「アルミン、それ、本当なの?」
「うん。でも、僕も僕でそれどころじゃ無かったから・・・。」
アルミンまで俯き始めた。避難区でアルミンに初めて会った時と同じように。
(もしや。・・・いいや、私もそこまで鈍くはない。あの時アルミンは、大切な誰かを失ったんだろう。)
「そうか。私はその件については、びっくりはしたさ。勿論人並みには。でも、それ以上に納得がいった、と思ったんだ。」
「どういうこと。」
「君たちの、力強い決断力に、だ。状況を把握すること自体は、私も負けないつもりだ。だが、次にすべきこととなると、候補が幾つか湧いてくる。それゆえに、躊躇うこともある。その点で君たちには、そういった迷いが少ないと感じたんだ。」
「そう、だったのか。僕は、あまりそんな自覚は無いんだけど。いつもミカサとエレンの方が直ぐに立ち向かっていたから。」
「何も実行能力のことだけじゃない。作戦の立案だって、君は思いつくのが早かった。ほら、駐屯兵団あいてのあの演説とか、とてもじゃないけど、私には真似できない。」
「それ、エレンも言ってた。私達の窮地には、いつもアルミンが助けてくれる、って。」
「うん。エレンが僕たちを頼ってくれてたことを知って、正直嬉しかったな。」
審議所で、エレンの暴走について言及されたとき、ミカサが反論した時のことを思い出す。
──────────
ミカサは報告書の通り、エレンの暴走と、自分への攻撃自体は認めていた。私も、トロスト区掃討完了時、駐屯兵団報告書の作成に協力していたため、内容は覚えていた。
「私は二度、エレンに命を救われています。一度目は、まさに私が巨人の手に落ちる寸前に、巨人に立ちはだかり、私を守ってくれました。二度目は私とアルミンを、榴弾から守ってくれました。これらの事実も、考慮していただきたいと思います。」
「お待ちください。今の意見には、個人的感情がかなり含まれていると思われます。」
「ならば、対して交流もない、一介の訓練兵である私からも言わせてもらう。」
(私情が混じっていると思われにくい私ならば、この場を変えられるかもしれない。)
「な、おい!貴様──」
ザックレー総統が、ドーク師団長を手で制す。私を見つめ、
「続けたまえ。」
と呟いた。
「彼は最初の巨人化であろう機会に、巨人の体は力尽きて倒れました。二度目の榴弾を防ぐための巨人化では、その後人間の姿の彼が鼻血を出していたと、アルレルトから報告がありました。度重なる巨人化で疲弊し、理性を保てる閾値を超えた。その発露が、アッカーマンへの攻撃の時点だった。そう考えられませんか?」
「その結論は全て憶測だろう、訓練兵。巧みに報告書の情報を混ぜたようだが、その一点で、アッカーマンも君も、さして主張に効力は無い。」
(ドーク師団長。くっ、この程度では駄目か。)
捲し立てはしたが、手札はこれ一つだけだ。戦闘ならまだ頭が回るが、舌戦はてんで駄目なところは、訓練兵時代から変わらない。私は手を握りしめる。
「話を戻させてもらいます・・・」
──────────
三人とも、少し杯が進んだ。
「あれは悔しかったな。やっぱり、気心知れた同期だから、私の拙い弁舌を汲んでくれてたんだろう。」
「そんなことは…。」
「そこでにっちもさっちもいかなくなって、挙句、ミカサにまで巨人の疑いまで掛けられてしまった。」
「でも、エレンが守ってくれた。」
「そう。周囲の人間からすればいきなり巨人かもしれない奴が叫び始めてびっくりしただろうけど、あれこそ、本来のエレンの姿だと、私は思ったよ。」
「・・・それで、リヴァイ兵長の話に戻るけど・・・。」
アルミンがミカサの顔色を窺う。さっき程の殺気は見られない。怒ってはいるが、自己解決できる範疇の表情だった。
「ああ。続けてくれ、アルミン。アレにはどういう意図があったんだ?」
「僕には、兵長があれをわざとやっているように見えた。まるで本人が仕方なく、次に切る手札のためにやっているような。」
「・・・エルヴィン団長の計らいか。」
トロスト区壁上で、初めて見るエルヴィン団長の瞳を思い出す。得体が知れない、と最初に思ったあの印象を。だが、巨人のような不気味なものではなく、未知の見地を秘めた、洞察の深い瞳のそれを。
「きっと、団長は人類最強の兵長に蹴らせ、それでも抵抗の意思を見せず、耐え忍ぶエレンを見せたかったんだと思う。あれほど過剰な暴力・・・少なくとも、解剖しようとした憲兵団や、エレンを無条件に敵視していたウォール教は、間違いなく怯んでた。そして、連中は自分たちに振り返らせた。いざという時、これ以上の暴力をエレンに課すことができるのかを。ただ憶測のまま騒ぐのではなく、未知なものを未知なまま、冷静な判断を下せるのかを。そしてそれが出来る兵団こそが──」
「調査兵団、なんだな。」
「うん。」
アルミンは話す中でも、自分の中で段々と確信していったようだ。最後の私の結論にも、力強くうなずいた。
「・・・どうかな、ミカサ?合ってると思う?」
「・・・だとしても、アレはやりすぎ。」
「それは同感だ。アニとの格闘訓練でもあんなズタボロにはならなかったものな。」
「またアニの話・・・」
「審議所ではエレンは君のことを庇っただろう。君を想ってないとしないよ、あんなことは。」
「なっ!」
ミカサは顔を赤らめ、視線をコップに戻す。
「・・・分かりやすいな。」
「うん。分かりやすすぎて、僕もこの手の話にはあまり触れないんだけどね。」
「ごめん。深入りし過ぎた。」
「そんなことは・・・」
今度は、アルミンのお腹がぐうと大きく鳴った。
「・・・あはは。」
アルミンは人差し指でポリポリと頬を掻く。
「当然か。食欲無かっただろう。エレンが気が気じゃ無くて。」
「うん。ありがとう。僕に話す時間をくれて。」
「同郷のよしみ・・・いや、同じ兵士だろう。何か食べ物も頼もうか。」
一つの魚のパイを頼む。一人一人の食欲に応じた切り分けが出来る、魚の切り身とほぐした鶏卵で包まれた、まあるい円形のパイだ。
まだ、少し時間が掛かるだろうし、もう少し何か話そう。
「そういえば、あの後よく無事だったよね。」
「うん?奪還作戦の後のことか。」
「うん。僕達がエレンを回収して撤退した後、君は戦い続けたワケだろ?そのあと、どうなったのかなって。」
(あんまり深刻なことを話すと、食欲が無くなりそうだからな。簡単に説明しよう。)
「リヴァイ兵士長とともに、壁全体の救援に当たった。彼の班員の回収も兼ねてね。」
「良かった。てっきり二人だけで討伐に向かったと思ったから。目で見て実力者だと分かったけど、さすがに小数じゃあどうしようもないと思ってたから。」
「多分調査兵団の姿が、君たちが壁から見下ろしたときに見えたと思う。」
「僕たちは、エレンの受け渡しと、現状の報告のために、北へ連れていかれたから、見えたのは、ほんの少しだけだった。それに、君を見つける暇は無かったよ。」
「・・・リヴァイ兵長の実力は、どうだった?あなたから見て、彼はどうだったの?」
「彼に並び立てる者は、いない。断言できる。彼の班員も、歴戦の兵士たちに見合う、底知れない実力の持ち主だったけど、彼はそのさらに上をいっていた。精鋭班が彼らに向ける敬意からも、それを感じ取れた。」
「僕達に向かって来た巨人を同時に倒したとき、最初はミカサがやったんだと思ってた。・・・やっぱり、それ以上のことができる人だったんだ。」
「そう、すごい人だったんだよ!一瞬で三体倒したりしてさあ!想像できないよ!調査兵団で戦い続けて、あれが出来るようになったなんて!」
「君はどうだったの?」
「全然駄目だった。・・・正直言って、自負があったんだ。訓練を耐えきった私たちでなら、きっと巨人に勝てるって。トロスト区で思い知らされた。沢山人が死んだ。調査兵団に入って、鎧の巨人を倒すことが目的だったけど、今の自分の実力では、まだ足りないことが分かった。たまたま生き残れただけなんだ、って。」
コップを握る手に、力がこもる。
「・・・確か、まだ配属兵科を決める日まで、猶予はあったよね。」
「そうだな。今からあと3日ってところだろう。」
「それなら、僕の走り込みに、また付き合ってほしい。出来ることは多くないけど、気分がすっきりするだろうし。」
「そう・・・そうだな。ミカサは他に何か気になることはあった?」
「・・・あなたは、あのとき・・・。」
「あのとき?」
ミカサは少し言いよどむが、言うことにしたらしい。
「あなただけ、エレンを死守しろとイアン班長から命令があったとき、その場に居なかった。私の視野でも、リコ班が見える距離にいたから分かった。その時は、てっきり・・・。なのに、エレンが壁の近くまで来たその直前に、貴方は帰ってきた。その間に一体、何があったの?」
「・・・・・・。」
答えに迷った。
本当のことは、言うべきではない気がした。いや、確信があった。
マルコが死んだことを、私はまだ誰にも話していない。公的な発表では、明かされるのはあくまで死者、行方不明者、負傷者それぞれ数だけにとどまっている。あのとき、マルコを目の前で見殺しにしたことを、私は誰にも話せなかった。
「その時は、他の兵士を助けていた。」
「ほかの?」
「ああ。エレンが岩を運び終える直前でもそうだったが、精鋭班以外のはぐれ兵士も作戦に横やりを入れていたんだ。」
「ええ!?」
「アルミン。私達の行動に動かされた人もいるだろう?それなら、私たち以外にも、こんな無謀な行動を執る人がいてもおかしくない。」
「それで、その人はどうなったの?」
「・・・助かったよ。命からがらだけど。」
「そう。そのことで言いたいことがあったの。」
「ミカサが、私に?」
「やはり、貴方がいなければ、あの作戦は乗り越えられなかったと思う。」
「ミカサ?」
「貴方が直前に戻ってきたことで、エレンに群がる巨人の動きを、少しでも止められたでしょ?」
「倒した個体は少なかったけどね。それこそ、滅茶苦茶に切り刻んで足止めしただけだよ。・・・それに、イアンさんも、ミタビさんも死んでしまった。」
「それは、貴方のせいじゃない。あの特攻を仕掛けたのは、その二人だったの。」
「そ、そんな・・・。」
「それでも、危うかった。貴方がいたおかげで、リコ班長も、少数の兵士は生き残った。私達には、貴方が必要。」
「僕も、そう思う。」
「買いかぶり過ぎだよ、二人とも・・・」
そして昨日まで、トロスト区では市民や兵士の遺体の回収が行われていた。私も当然参加したが、マルコの遺体があろう南西のあたりには、意図的に向かわなかった。付き添いの医療班にはバレなかった。だが、誰かが彼を目撃するはずだ。
私には、それが恐ろしかった。同期の誰かが見ようものなら、ショックで何もできなくなるだろう。特に、ジャンには。
兵士なら死を乗り越えて奮い立つべきところなのだろうが、私はまた逃げたのだろう。
「お待たせしました。」
給仕がパイを運んで来た。時運に救われたらしい。私は答えをはぐらかし、二人に食べるよう促した。
「さて、食べようか。ミカサも、ホラ。」
「うん。食べる。」
「えーと、まずアルミンが三切れだろう?そしてミカサは沢山動いた功労者だからまた三切れで──」
「ふーん。私の分はあるのかな?」
「うーん難しいな。四人ともなると、私の食べる分が無くなりそうだ・・・。あの、
しれっと会話に混じらないでください。ハンジ分隊長。」
他二人は呆気に取られていたが、私は二回目なので、冷静に突っ込めた。
「いやー、おじゃましてるよ、アッカーマン、アルレルト。まだカラネス区の中にいると思って探したんだよ。君、ちょっと席を外してもらえるかな?」
「困りましたね。二人がお腹を空かせてまして。せっかく私の奢りなんですから、思う存分食べて欲しいんですが。」
「そうかい。じゃあ外で待ってるよ。」
モブリットが息を乱しながら店に分け入ったところで、ハンジ分隊長は彼の首根っこを捕まえ外に出た。
私達は居所を突き止めた分隊長の鋭い嗅覚に驚嘆しながら、長めの時間を掛けて、パイを平らげた。ついでに勘定も済ませ、二人と別れた。分隊長が用のあるのは、私だけのようだったもので。
─3─
「おっ来た来た。いい知らせと悪い知らせがあるんだけど、どっちから聞きたい?」
「悪い知らせは時間を掛けて店から出てきたことに対する処罰ですか?」
「・・・君、心臓に毛が生えてるとよく言われない?まあ、いい方も悪い方も同じようなものだし、言っちゃおう。」
ハンジ分隊長はオホン、と咳払いし、私に宣告する。
「君を、特別作戦班に加入させる。まあつまり、同期と会える機会が、少しの間減る、ということだ。以上!」
「・・・特別作戦班、ですか?」
聞いたことがない。兵団の班には、基本として班長の名前+班という組み合わせで決まっているからだ。まさか、トクベツサクセンさんなんて名前はあるまい。
「・・・分隊長、ぼかしすぎです。新兵が混乱してます。」
「そう?そんなわかりにくかったかな?」
「ああいえ、前者のトクベツ・・・というのが聞き覚えが無かった故でして・・・。」
「ああ。そういうことね。」
ハンジ分隊長はクスリと笑みを浮かべ、私に改めて説明する。
「エレンは調査兵団所属になったけど、正直、普通の調査兵として扱うには危険すぎる。だから、殊更強い班で、彼の警護と、彼の暴走時の抑制をしなくてはならない。ここまではいい?」
「はい。」
「そしてその班の名前こそが、特別作戦班。通称──”リヴァイ班”だ。君には、この班に所属し、活動してもらう。」
「え?ええええ?!」
思わず私は仰天した。新兵が兵団の所属を決める日時は、まだ3日も先だ。
「早くないですか?私はせいぜい下っ端が関の山でしょう。よりにもよって一番強い班にだなんて、足手まといになるに決まってます!」
「分隊長、だから言ったでしょう。所属も決めてない新兵をいきなり引き抜くなど──」
「上には通してあるから大丈夫だって。それに、『彼』はもう決めてあるハズだ。」
分隊長はずずいと私に近づき、続ける。
「君は調査兵団に入って、鎧の巨人を倒す、ってね。」
「そ、それはそうですが・・・。」
「だったらうかうかしてらんないよ。君には誰より早く強くなってもらわなければならない。訓練兵時代に学んだハズだ。志に見合う力を付けろ、とね。」
ひょうきんな人だと思っていたが、捉えている本質は誰より明晰だった。
「おい、ハンジ。こいつが件の新兵か。」
「兵長、『あいつ』で合ってますよ。」
聞き覚えのある声が、フードも目深に被った兵士から聞こえた。
「もしかして、エレンか?もう外に出てもいいのか?」
「ああ。この班に囲まれてるうちはいいってさ。」
「おお!誰かと思えば、奪還作戦の時の新兵か!」
エルドさんは私の顔をみるや、目じりに皺を浮かべる。
「おい。日もだいぶ暮れて来てるぞ。新兵を探すのに手間取ったな。」
「仕方ない。我々が審議所で引き止めなかったのが悪い。語らいたいとこ悪いんだけど、とりあえず、この馬に乗って。」
「え?あの、荷物を──」
「後日取りに戻るから、今は拠点への到着を急ごう。」
「結構遠いんですか。」
「・・・近くに予備の馬を二頭停めてある。行くぞ。」
「はい!分かりました。」
「あ、到着は多分翌朝になると思うから、そこんとこよろしく。あと二人には私から言っておくから!」
何やら嫌な言葉が聞こえたが、念のため、立体機動装置を背嚢に仕舞っておいて助かった。
ハンジ分隊長は別件があるとのことで別れ、リヴァイ班に連れられて、カラネス区の内門を目指す。