進撃の巨人2 名もなき英雄の軌跡   作:なげすて

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第38話 馬選び

─1─

 

入団から2日目。

荷物を訓練地からカラネス区に移した21名の新兵達は、今日初めて自由の翼のマントを羽織り、カラネス区内門からやや北方面にある厩舎に来ていた。

 

「さて、新兵ども!一昨日はご苦労だった!我々の兵団を選んだその勇気、先輩兵士の一人としても称えさせてくれ」

 

一礼する男の名は、ディータ・ネス。今回の新兵達に馬を選ばせるために引率を受け持っている。

 

「さて、早朝の団長の発表により壁外調査が二か月後になったのは聞くに新しいと思うが、まず君達には、その長距離の遠征のために、馬を一頭選んでもらう!」

 

ネスが広げる右手に、毛色の様々な馬がずらりと並んでいた。毛色が違う、とは言っても、およそ三色くらいしか違いは無かったが、ネスには一色一色違って見えるそうだ。

 

「さて、講義で聞いたと思うが、俺達兵士の馬は特別な品種改良が施され、長距離の移動にも、巨人相手にパニックも起こしにくい。……だがそんな優秀な馬であっても、苦手なモノはある。それは人だ!苦手な人間は絶対に乗せたがらないぞ!しっかり見極めて選ぶんだ」

 

一通り語り終え、ネスが質問を受け付けたところ、クリスタが挙手する。

 

「レンズ。質問どうぞ」

「あの、訓練地で用いられていた馬を、そのまま兵士にあてがうことは出来ないのでしょうか」

「うん。いい質問だ。訓練地にいる馬は、君達乗りたての兵士にも乗りこなせるよう、年を重ねて引退した馬を使用している。中には本来の馬の最大速度を出せないまま成体となった個体も、訓練に使用されているぞ。あ、スプリンガー、引退といっても明らかに高齢な馬はいないぞ。あくまで遠征についてくるには懸念がある4,5歳以上から、引退のブラックリストに入る」

 

「なんで俺の質問の意図が分かったんですか?」というコニーの声を無視し、ネスはミカサの挙手を当てる。

 

「相性の良い馬の見分け方は?」

「アッカーマン、よく聞いてくれた。まず馬にゆっくり近づいて、敵意が無いことを示せ。次に、これまたゆっくりと自分の手の甲の匂いを嗅がせるんだ。声も掛けてやれば、馬が覚えやすいぞ。顔を寄せてくれれば、好感を持ったという意味だ。

 

ただし、好感があったとしても何が起こるかは分からんから、訓練期間でもそうだったように、乗る際は必ず二人で組んでくれ。あ、首を縦に振ったり嘶いたりしたら、それは嫌がってる合図だ。それに加えて暴れ始めたらもうその馬とはもはや生理的に合わない。その時はご縁が無かったと、別の馬に向かえ」

 

ネスがある一頭の馬にそれを実演して見せたが、その馬はネスの手の甲を無視し、ネスのバンダナを口先でむんずと掴み、よだれまみれにする。

 

「おいシャレット!台本と違うじゃないか!おいこら──」

 

シャレットと呼ばれた馬は思い切りネスの頭に歯を立てた。ネスは掌底の手を作り、ゆっくりとシャレットの鼻先を押して脱出した。

 

(巨人じゃなくてよかったな。ハンジ分隊長は馬に触る勢いで巨人と接するから)

 

「オホン。今しがた俺の愛馬に頭を齧られたが、これは信頼関係が充分作られているからこその愛情表現だ。懐いてもいないのにこんなことをしてくる馬とは文字通り、馬が合わないと判断して、すぐに離れるんだぞ」

 

まあ、長い付き合いになるから、今日は馬に触れるだけで一日を潰すくらいの気持ちでいてくれ、とネスは言い、各自の馬選びは始まった。

 

 

─2─

 

「おおっ、そう慌てんなよおい」

 

ライナーは両手を前に突き出し、首を上下に大きく揺らす馬に、せめて敵意が無いことを正面から示そうとしていた。しかし馬は四肢を上げ下げして、耳をピンと立ててライナーの方に向けている。

 

「ええい、なんだってんだ?」

「だめだよ、ライナー。それじゃあ、ただでさえ大きいライナーが、もっと大きく見えちゃう」

 

クリスタはライナーに歩み寄り、短い背丈を伸ばし、ライナーの右腕に手を掛けて下ろす。そして、馬にゆっくり歩み寄り、彼女は握り拳を作って、馬に近づける。

 

「お、おい!大丈夫なのか?いきなりそんな近付いて」

「大丈夫。見てて」

 

クリスタは馬の両面をじっと見つめる。眉をひそめることも、緩めることもせず、ただじっと、馬も鼻先を近付けるのを待つ。

 

馬は両前足で軽く地面を数回叩いたが、次第に歩み寄り、クリスタの手の甲を嗅ぐ。馬の耳は、元の位置に戻った。

 

「すげえな。こんなあっさり」

「ライナー。多分、怖がってたでしょ?」

「俺が?バカ言え。馬相手に今更ビビることはないさ」

「強がっても駄目。馬だけじゃないの。動物は人間の感情を読み取って、それを自分に反映ことが出来るんだから」

「本当か?」

「うん。人間が怖いと思うなら、馬も怖がる。逆に、怖くないと思うなら、馬も自然に歩み寄ってくれるの。多分、群れをなして生きる動物だったら、仲間の感情と呼応することで、生き残ることに役立てているんだと思う。だとしたら、こっちが怖がってたら駄目」

 

語るクリスタの頭に、馬は顎を寄せる。彼女はそれを後ろ手で優しく抱き止め、下顎を優しく撫でる。

「…そうか。ありがとな」とライナーは礼を述べ、ゆっくりと馬に手の甲を近付けた。馬は素直に、ライナーの心中に応え、ライナーに背中に乗ることを許したのだった。

 

「クリスタ、お前は馬を選び終えたのか?」

「うん。とても利口な子だったの。多分、私じゃなくても乗せてくれそうな気がするけど」

「そんなことは無いな。きっと、クリスタの優しさを分かってくれたんだろ」

「そうかな。えへへ…」

 

ユミルはネスの指導の下、馬の手綱を握っていたが、ライナーとクリスタの姿を見るや、革の手綱からギリギリ音が出るほどに力を込め、ユミルを乗せて鼻息を噴かせて増長する馬をふん縛って黙らせた。

「おお、ソイツは中々のじゃじゃ馬なんだが、やるじゃないか」というネスの褒め言葉には耳も貸していない。

 

「やはり流石だな。馬の扱いにおいて、クリスタの右に出る人はいない」

「ああ。女神様の抱擁なら、どんな馬だろうと従えちまうんだろうな」

 

『彼』と組んで、ライナー達を観察していたジャンは馬上で多少よろめきながらも、視線をライナー達から逸らさず馬を撫でて落ち着かせる。

 

「そういうジャンも、片手間に馬を落ち着かせるくらいには扱いが上手いな」

「馬だけにか?」

「……まあ、そんなところ」

 

馬面と言い返したくなった『彼』だが、ここは耐えて、ジャンの馬が暴れないか注意深く観察する。

 

「うーん、大丈夫そうだね」

「だな」

 

よっこらせ、と掛け声一つで、ジャンは馬から降りた。

 

「んじゃ、次はお前の番だな。馬、探しに行くぞ」

「ああ」

「つってもほぼ先約があるな。残ってるのはあと三頭くらいか。…お前、クリスタみてぇに他の連中の世話ばっかしやがって。残りが駿馬な保証なんかねえぞ?」

 

ジャンは残りの三頭がいる厩舎へ歩きながら周りを見回し、殆んどの兵士が馬を選び終えてるのを確認する。

 

「まあ、自分がリヴァイ班にいた分、手助けはしたかったから」

「リヴァイ班に入ったら馬の扱いが上手くなんのか?」

「いいや。この数日居なかった分、助けになりたいだけなんだ」

 

軽口を叩くジャンの白々しい笑みを真似しながら、『彼』は答える。

 

「お、新兵、それで馬はどうするんだ?もうあと三頭しかいないが」

「ネスさん、もう終わったんですか?」

「ああ。残りは君だけだ。さ、やってみろ」

 

ネスは拳を突きだし、数回前後させる。

『彼』は一度うなずき、一頭の茶色の毛並みの馬に拳を差し出す。

 

馬はそのつぶらな瞳をクリクリと動かし、ゆったり鼻息を『彼』の拳に浴びせ、頭を揺らした。

 

「うむ、敵意は無さそうだな。じゃあ、乗ってみろ」

「はい」

「気ぃ付けろよ」

「キルシュタイン、君もちゃんと見るんだぞ」

「あ、はい」

 

ネスに言われるがまま馬に跨がり、『彼』は馬に異常が無いことを確認した。

 

「よし、じゃあこの茶毛が、お前の相棒だ。ご苦労だったな」

「ネスさんこそ、お疲れさまでした」

「まあな、よし、お前ら!」

 

ネスは『彼』から目を離し、全兵士に今日選んだ馬に乗り、カラネス区の拠点に戻るよう告げる。

 

明日はここで手に入れた馬の遠乗りと東にある訓練地を利用した基礎訓練となる予定だ。

 

しかし、厩舎に伝令が入り、『彼』は翌日午前にエルヴィン団長とともに、カラネス区のある場所を訪ねるよう命令された。

 

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