丸薬の実験の経過記録
第57回壁外調査までの残りの1ヶ月での『彼』が残した実験の記録である。
【第一週末。初回の実験結果】: 一分間強大な集中力と精緻な動作を可能とする。具体的には、効果中は一度斬撃を加えた箇所に、全く同じ箇所に寸分のズレも無く斬撃を加え続けることが出来る。
副作用として膨大な体力を消費する。継戦がほぼ不可能なほどに疲労が蓄積するが、今後の検証での克服が期される。
【第二週末。2回目】: 小規模な巨大樹の森にて丸薬を服用した状態での立体機動を実行。攻撃はせず、あくまで移動の際の動きを観察する。その時、眼を強く凝らすことで周囲の動きが遅延することが判明した。
樹木の間隔がより狭い箇所もこの効果で通過することが可能となった。実際余力はあったため、ある程度の障害物も縫うように移動することも出来るだろう。
遅延した視界の中で動きが緩慢になるのは自分も同じだが、服用の際にはミスが起こらないため、効果時間に気を配れば仕損じて死ぬことはないだろう。
【第三週末。3回目】: 攻撃を交えた実験を実施。訓練地内に点在する巨人模型を相手に実験。丸薬を服用し、攻撃を開始したところ、1分の間に8体の模型の撃破に成功する。丸薬を使用しない場合は半減し4体の討伐に留まることを考えれば、劇的な変化といえる。
副作用が無ければ制圧の切り札として用いることも出来たが、巨人と交戦する環境を考慮すれば、現実的ではない。常に変化し続ける戦況で、完全に殲滅したという確信を持てた戦いは一度として無いためだ。壁外でもきっと例外では無い。使用の判断は慎重にするべきだ。彼の巨人化の力と同じように。
【第四週末。4回目】: 丸薬の連続使用についての実験。
立体機動のための余力を残しながら服用できる数は、1日に2粒が限界である。初回から記録を伏せて毎日数粒の服用を続けてきたが、重篤な副作用につき、この数が限界であった。
一方、1分が経過した後に、大幅に弱化された効果が数十分に渡って体内に残留するようになった。いわゆる「残り香」のようなものだろう。
疲労の蓄積はしているが、精密さを活かした瞬間的な回避や攻撃などはこの効果によって可能となり、疲労との相殺も不可能ではない。但し、任意で弱化した効果を使用した場合、使用可能な時間が使った分短くなる。時間経過による「残り香」の減少に加えれば、猶予は想定より少ないと考えられる。
以上が、壁外調査の刻限までに残せた、丸薬の実験記録である。兵士として平時の訓練、リヴァイ班による回転切りの訓練、ミケ班との聴力についての個別の実験、エレンの巨人化の実験、エルヴィン団長を始めとした上官への伝令としての勤めなど、数多くの任務の合間を縫った実験としては、進捗は大幅に揃えられたと実感する。
この力を、個人の範疇で兵団に活かせるよう、『私』は突き進む。