進撃の巨人2 名もなき英雄の軌跡   作:なげすて

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第69話 遅すぎた救援

─1─

 

「あの巨人は……あのときの……」

 

塔から見下ろしてライナーは独りごちた。『彼』はすかさず問う。

 

「ライナー。知っているのか、あの巨人を?まさか君の故郷を襲ったのか?」

「いや、もっと複雑な話だよ」

 

ベルトルトが答えた。ライナーの言葉を遮るように。ベルトルトはユミルと最も長く共に過ごしたであろう人物に、同じ質問を投げ掛ける。

 

「クリスタ、君はどうなの?」

「……知らないよ。ユミルが巨人だったなんて……3年もの間一緒にいたのに……」

「あいつは、どっちなんだ?」

 

陽が昇ってから永らく押し黙っていたコニーは、ユミルの真意を知りたがった。

 

「どっちって?ユミルが敵かもしれない、っていうの?」

「そりゃあ、アイツはどんな状況でも飄々としてたからな。俺の母ちゃんが巨人かもしれねえ、って茶化したしな」

「それは……」

「『私』も、コニーに賛成だ」

 

下を見下ろす彼らは、体を震わせ立ち上がろうとする『彼』の方を向いた。

 

「彼女は、多分、エレンの時と同じように、最後の切り札として、これを残していたんだと思う。でも、だとしても、あまりに遅すぎる。一緒に戦っていれば、誰も死なずに済んだんじゃないのか?それじゃあまるで、ゲルガーさんとナナバさんが死ぬのを、待っていたみたいじゃないか」

 

言い終えるまでに『彼』は歯を食いしばっていた。己の不甲斐なさに業を煮やして。

 

「なぜもっと早く気付けなかったんだ。彼女は、初めから誰も信じていなかった。そう……誰も……」

「え?」

 

クリスタは『彼』から向けられる視線に、思わず目を泳がせる。しかし彼女は、すぐに『彼』を真っ直ぐ見つめた。

 

「だったらユミルは、一人で逃げるためにその力を使うはず。『貴方』からは見えないと思うけど、ユミルの巨人は、他と比べても小さいの。動きは素早いけど、とても彼女だけじゃ、ここの巨人すべては倒せない。でも彼女は逃げない。ならそれは、私達を命懸けで守ろうとしてるから。そうじゃないの?」

 

その目には決意があった。

 

「私は、ユミルを信じる」

「お、オイ……マズいぞ」

 

ユミルの身体はズタボロになっているらしい。手足の肉が少しずつ欠けていっていて、遅からず逃げる力も失うだろう。

 

「ユミル!こんなところで死んじゃダメ!自分のためにここまで来たんでしょ!」

 

クリスタは塔の端に立つ。遥か下の攻防で揺れ動く塔の頂で、彼女は叫ぶ。

 

「私に死ぬなと言っておいて自分は死ぬつもり!?勝手に私と姿を重ねておいて、結局貴女も同じじゃない!言ったからには言葉を貫いてよ!!何もかもぶっ壊して!!!」

 

絶えず揺れ動く城壁に、露骨な人の思惑による破壊の振動が伝わってきた。

建築物の骨子、それも明確に中枢にあたる箇所が壊れる音がした。

 

地響きとともに、塔に折り返しの付かない傾きが起こり始める。

 

(マズい。立ち上がるくらいなら出来るが、落下はどうしようも───)

 

「イキタカ、ツカアレ」

 

一瞬で塔の頂に姿を現した小型の巨人は、『彼』らにそう告げる。満足に腕も伸ばせない『彼』は軋む身体に精一杯力を込める。行き場も満足に働かない力を、ベルトルトとコニーが押してくれた。ユミルの髪に掴まり、『彼』は塔の崩壊の終始を巨人の肌越しに感じ取った。緩やかに落ちていくなかで、揺れが完全に収まるまでベルトルトとコニーは『彼』の背中を支え続けていた。

 

─2─

 

静まり返った地平に、『彼』は輝く小さな何かを、寂れてくすんだ岩の群れから見つけた。

 

「あれは……」

 

一振りの白い破片が、瓦礫の中から突き出ている。いち早く『彼』はそれに向かって足を引きずり歩み寄って、瓦礫を支えに布を巻いた手でそれを引き抜く。布を裂いて手を擦りむくほどに鋭いその破片は、奇しくもそれは2本目の【異形の刃】に使えそうだった。

 

拾った破片はブレードと遜色ない重さのはずなのに、『彼』は今にも倒れそうになる。筋肉の記憶で装置の鞘に最速で収めて膝を付いた時に、瓦礫の下から地鳴りが起きた。すぐに瓦礫を掻き分け巨大な頭が『彼』に飛びかかる。

 

「オイ、ブス!」

 

コニーの声よりも早くユミルが『彼』を突き飛ばし、巨人のうなじを齧りとる。仲間の元まで吹き飛んだ『彼』は、ユミルの頭を掴む一体の巨人を目撃する。それを皮切りにか、次々に巨人達が瓦礫から姿を現し、ユミルに向かっていく。ユミルは抵抗するが、四肢を方々から掴まれ引きちぎられていく。

 

「そんな……そんな……ユミル!!」

 

クリスタは誰よりも速く駆け出していた。刃も装置も持たない、懸命な独走だった。クリスタを止めようと『彼』は手を伸ばす。身体中が針で刺されているかのように痛む『彼』には、地面に伏したまま出来ることはそれだけしかなかった。

 

「まだ私の本当の名前!!教えてないでしょ!」

 

瓦礫の壁から、巨大な腕がクリスタへと伸びる。コニーの肩を借りて追う『彼』は、走り出そうとして地へと滑り落ちた。

 

また一人誰かが喪われる、そう思う前に巨人の腕はバラバラに切り刻まれていた。クリスタの発した驚嘆に、誰もが続いた。

 

「ミカサ!?」

「もう大丈夫。後は私達に任せて」

 

その言葉とともに、緑の外套の群れが空を駆けてゆく。

 

「ゲルガーとナナバ、それに新兵が一人持ちこたえてる筈です!急いで援護を!!」

 

北へと向かった二人の兵士の声が響く。彼らは戻ってきてくれた。

 

瞬く間に巨人どもは倒れていく。何十体も倒し続けた『彼』ら3人の足掻きが、煩わしく思えるほどに。『彼』の耳には聞こえた。物陰から、「ちょっ!あんたは攻撃しなくていいから!」という言葉を。

 

「死ねッ!」

 

『彼』の眼前で、エレンが巨人を華麗に仕留める姿が写る。倒した後エレンは地面を派手に転がったが、『彼』の知る限りでは、記念すべき1体目の討伐、明らかな功績だった。

 

彼らの加勢は、輝かしい救いの手のはずだった。だがそれは、『彼』の無能さを露呈させるようにしか見えなかった。

立ち上がったエレンは眩しい眼差しで、瓦礫の上に伏せる『彼』に投げ掛けた。

 

「『お前』は!ゲルガーさんとナナバさんは!?」

「……駄目だったんだ。また……『私』は遅すぎた……」

 

最早その言葉に、悲哀を込める体力はなく、『私』は糸が切れたように朝日の下で目を閉じた。

 

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