殺せ。殺せ。
ヤツを殺せ。全てを奪ったその者を殺せ。
希望を奪おうとする者を殺せ。
ヤツは壁を降りた。今すぐ追うんだ。
倒れた人類の希望へと歩くヤツを殺せ。
これは悲願だ。またとない。今すぐ刃を振るえ。うなじからヤツを引きずり出せ。
そうだ。叩き付けろ。刃が砕けた?なら次の刃に替えればいい。一枚も二枚も変わるまい。何枚でも振るえ。
あの鎧の巨人こそ、私がずっと追い求めてきたものだ。
そうだ。私よ。規則正しく繰り返せ。散々手を血で汚しながら得た力を、今こそ全て出す好機だ。
……なぜに今手が軽くなった?
刃が尽きたか。……なにをやめることがある。
手があるではないか。
握りしめたこの手を、何度も叩き続けろ。あの鎧一枚隔てた先に、討つべき仇がいるんだぞ。
止める者などいるはずない。あるのは鎧だけだ。
…………誰だ?私をヤツから引きはがす者は。
こうも殴り続けてなお一瞥もくれない、不届きな鎧を誅せんとする『私』を引き留める者は誰だ?
『私』はただ、ヤツを殺したいだけだ。
顔の半分を失っても立ち上がり、吠えるあの人類の希望のように。
ああ。ヤツは腕を絡め取られ、地に叩きつけられた。顔にヒビが入り、逃れようとするも離れられない。ヤツの腕がメキメキと音を立てて千切れ飛んだ。
羽交い締めにされた『私』は、”希望”とともに壁まで後退させられる。
目の前に何かを差し出された。
それは、替えの刃か?寄越せ。二本あれば十分だ。二本だけで何体も殺してきた。今さらなんだ。
今なら明確に有効な一撃を加えられる。ヤツの膝裏から破片が落ちるのが見えた。
ヤツの動きが格段に速くなった。だが、人の身の『私』には関係ない。
ヤツは依然、『私』を無視し続けている。
なら、利用できる。
壁から離れた”希望”は、敢えてヤツの突進を受け止めて。倒れる。
ヤツの背がまた顕になった。
赤い骸布を纏った女が片足を、『私』がもう一方の足の膝裏を断つ。
再び鎧の身体から音が立ち、エレンに捉えられた首に亀裂が入る。
……幾らでも吠えているが良い。もうお前に手札は残っていない。これで全てが終わる。
明確な勝利に近づいた途端、『私』の身体を支配する狂熱は、ようやく冷めた。
首さえもげば、そこから中身の肉を引きずり出せる。
あと少しだ。もう少し。
あと少しで、『私』の願いが叶う────
「上だああああ避けろおおおおお!!!」
仲間の声を聞いて空を見上げた時には、巨大な骸骨が地面と衝突しようとしていた。