夕日の迫るウォール・ローゼ以南。
調査兵団、駐屯兵団、憲兵団の三位一体となった長距離索敵陣形は、お世辞にも第57回壁外調査の時より優れているとは言えなかった。
初列を受け持つのは、ラシャド率いる三班とラウダの受け持つ四班。二人とも相応の実力をもつ上官達だが、二つの班で全てを賄えるわけが無い。
殲滅力の要であるリヴァイ班も、嗅覚による絶大な索敵能力を持つミケ班も、そのさらに次点での実力者集団のハンジ班もいない。ライナーとベルトルト。二人との交戦でハンジが率いていた一班に混じっていたリーネとヘニングは、ハンジ班ともども重傷を負い壁で静養となった。
二班はエルヴィン団長のいる次列を並走することになったが、104期の調査兵達もまた、その次列に混じり一丸となって走っている。『私』はそんな中で、しきりに聞き耳を立て続けている。しかし、
「『新兵』、どうやら耳の具合はまだ万全とは言い難いようだな」
団長は隣を走る『私』に述べる。歯痒くも『私』は頷いた。正直なところ、『私』の聴覚は、まだ三分の一も回復しきっていないだろう。団長はこちらを向かないまま、諭すように『私』に言い聞かせてきた。
「いいんだ。獣の巨人の咆哮を至近距離で聞いてなお聴覚を失わずに済んだこと自体、奇跡的だと私は考えている。ミケやハンジ、リヴァイがこの団に来る前から、策は練り続けてきた。今の段階でも、私に策はまだある。今は我々に着いてくることに集中するんだ。他の新兵達と同じように」
『私』は、ミケやハンジ達と同等の要員として、臨時とはいえ期待されていたのだろうと勘ぐった。しかし、結果はこの有り様だ。肝心な時に、この耳は休んでいる。万事とはいかずとも休している今は、同期達の言葉にその耳を傾けることにした。
「怪我の具合は?平気?」
ミカサが二馬身離れた所から訊いてくる。『私』は振り向かず答えた。
「全然。今でも全身が痛いし、夜通し全力疾走したときよりも体がだるい。でも、あの場にいたみんな、平気ではいられないでしょ?」
「なら平気、ってことだな。なんたって普段の『お前』はあと半日走れるんだもんな」
ジャンが冷やかす。
「それよりも御愁傷様なのは外縁を走る他兵団達だぜ。明らかに前線をとっくに退いた奴らが、新兵の俺達よりも優先的に陣形の外側で索敵をやらされてやがる。酒樽のような出っ腹で馬に乗ってる憲兵もいたしな。……ついさっき信煙弾を込めようとまごついて巨人に捕まるまでだが」
「うん。団長は何も言わないけど、今の兵団には、とてもじゃないけど余裕は無い。大事なものを捨てるのは、きっとまだなんだと思うけど。……その『大事なもの』が、僕達の可能性も十分にある」
アルミンの言葉に、ジャンは重苦しく頷く。今の『私』達の陣形は、既存のものより広く散開できていない。団長の指示に迅速に反応するためだが、巨人の発見は遅れ、確実に『私』達兵士の数は減り続けている。今でも、撒き切れなかった巨人達が、遥か遠くから兵団を追い続けている。
『私』は右手を手綱から離して、血の瘡蓋で覆われた節々を眺める。手を返して、平に食い込んだ手綱の跡を眺める。
「『私』はユミルを通して、何かを掌握できたつもりでいたんだ。人類が正面から巨人と戦うのとは別の方向性で、彼女は人類の希望になりうる、って」
進む最中に少しずつ補給した水のおかげで渇きの失せた口を、『私』は開く。
「壁の外に人類がいるかもしれない。ユミルがその一人だ、って言ってた」
「ああ。そうだったな」
「巨人だった、なんて彼女は一言も言ってなかった。それは誤解の無いよう言っておく。もし言ってたら『私』が逃がすわけが無い」
「そりゃあ、そうだろうけど───」
「『お前』は、そのユミルの口車に乗ったんだな。あれだけ軟派なヤツに」
「ジャン」
「俺ならまず乗らねえぜ。『頭がおかしい』かなんかではぐらかして、聞かなかったことにする。『お前』がなぜ聞く気になったのか、俺にはまるで理解できねえな」
「…………」
押し黙る『私』に、ジャンはさらに馬身を近付けてくる。
「『お前』、卒業試験の成績は10位以内に入れてねえがよ……。俺からすりゃあ、『お前』は俺か……マルコと同じくらいにはやれる奴だと思ってたんだがな」
エレンの名前を出したがらない意図は汲んだ。
「不正を働いた今じゃ、分かりやしないよ」
「そんな『お前』が、ユミルに脅されたところで屈するとは思えねえ。何も脳ミソ足りてなくて出し抜けませんでした、なワケねえだろうし」
「どうだろう。口喧嘩では頻繁に負けてたけどね」
「お人好しが過ぎんだよ『お前』は。ことあるごとに俺達にべったりしやがって。少しうっとうしいくらいだぜ」
「うん。正直僕も、ちょっと怖かった」
「その点クリスタは女神様みてえだよなあ。そういう必死さみたいなところも感じなくてさ」
「……いいだろ別に。人懐っこくたって」
ジャンの軽口に冷や水を浴びせたのは、意外にもコニーだった。コニーはうつむきがちな顔を急いで上げて、『私』達の方を見る。そして、
「あ、わり……」
と早口で言った。
「コニー……お前の村は───」
「ああ。認めたくねえが、多分獣の巨人が俺の村を……今はいいんだ俺のことは。それよりも『お前』のことだよ」
ジャンの言葉を遮り、コニーは『私』に視線を向けた。
「俺に分からねえのは、『お前』がなんであのブ……ユミルの誘いに乗ったのか、だよ」
「だからそれは───」
「俺はジャンと同じ考えだぜ。俺はバカかもしれねえけど、ユミルの案がどんだけ無謀なものなのかは、俺にでも分かる。なんで『お前』が……頭の回る『お前』がそれに乗るんだ?」
「それは……」
(じっさい脅されたからだけど、皆は知らない。壁の中には知りたがろうとする人達を、人知れず間引く人達がいることを。『私』も丸薬を受け取ったその日にようやく確証を得たんだ)
アルミンの方を向きたくなったが、『私』は胸にしまった丸薬の袋を握り締めるだけに留めた。
「……『私』にも、よく分からない。ホントに、なんでなんだろう……」
脅されていたとしても、『私』には分からなかった。本気にしていなかったのか、それとも、誰かに相談することでさらに可能性は広がったかもしれない。でもそこまで『私』には出来なかった。『私』が書くあの文字が、彼女を引き寄せたのだ。彼女の言葉は真実だった。知られることで危険もまた呼び寄せたかもしれない。でも、そうだとしても、
なぜ『私』が彼女を信じると決めたのか、それが分からない。
疑義に迷って馬の首に眼を落としたのは、ほんの数秒にも満たなかった。しかし顔を上げる頃には、目指していた地点が見えてきていた。
「見えてきた。巨大樹の森が」
「エレン……すぐ取り戻すから」
森からも巨人が大勢流れ出てくる。そこらをさ迷っていたにしては数が多かった。もしやと考えた『私』の眼には木々から漏れる閃光が差し、耳には雷鳴のような低い音が飛び込んでくる。
「巨人化の光を確認しました!」
「巨人化の音が───」
アルレルトに少し遅れて、『私』が捕捉する。
「間に合ったか」
団長はその一言を皮切りに、ようやく半身をこちらに向けた。
「総員散開!エレンを発見し奪還せよ!敵は既に巨人化したと思われる!戦闘は目的ではない!奪還と壁内への帰還を最優先とせよ!!」
簡潔に指示は陣形全体へと轟く。指示を拾うまもなく、森から強襲する巨人の群れに巻き込まれ死んでいく兵士達。団長の命令通り、『私』達新兵は巨人を掻い潜って森へと前進する。団長含む精鋭は外縁へと広がっていく。
二班に混じっていたハンネスが、『私』に指示する。
「俺達がエレンを探す!『お前』は馬を引き受けろ!深くまで潜るな!森の外側近くを走って俺達を追え!」
「了解!」
『私』が先頭に出て馬に提げていた包みを取り出し、そこから粉末状の薬品をばら蒔く。近距離にいる馬を寄せる誘引剤だ。馬が吸い込んだのを確認したと同時に、『私』以外の兵士達が、森の中心へと跳んでいく。
また一人だ。あれだけあった悲喜交々も静まり返って、代わりに『私』を追う巨人の足音が流れ込んでくる。
茜の差す森の外と、ほんのり薄暗い森の中。光と影の比率が半々か光が多くなる位置を『私』は走る。彼らの位置は耳が知らせてくれる。十余頭の馬が円滑に通れる道を編み出しながら、木々の間から飛び出す巨人を躱していく。遅れを出さず群れを率いて走るのはいつだって少し骨が折れる。今も例外ではない。
一体の巨人を素通りしたところで、ユミルの巨人が叫ぶ声が聞こえた。
「ユミル……」
足を止める可能性が高いと踏んだ『私』は、すぐに影の中へ馬を向ける。
二体目の巨人の迫る手指を片手間に切り落としたところで、大木が打撃で揺れる音がした。まるで格闘訓練で木の人形に蹴りを入れたときのような。間違いなく、ユミルの巨人が動き出した音だ。
「速え!離される!!」
その声が聞こえたときには、『私』が樹上を駆ける兵士達が視界に入っていた。ユミルの巨人は既に視界から消えていた。兵士達の追う先へ、『私』も追い付くべくペースを上げた。
(いち、に、さん……兵士の数が一人足りない!誰だ!?)
「ライナー達に協力する気なんだ!僕らはおびき寄せられていた!」
(ライナー達に……まさか!クリスタか!!)
『私』達を包んでいた影は、ユミルを追って二十秒もしないうちに光で追いやられる。
森の南端に、その姿が見えた。その姿にしがみつくユミルの巨人の姿も。重い金属の軋む音を立て、『私』の仇は立体機動の届かない場所へと走り出した。沈みゆく陽光を真っ正面から受けて。
「鎧の巨人……。マズい、平地に逃げられる」
「エレンが、連れてかれる……」
ミカサの悲痛な声を、ハンネスが叱咤する。
「止まるな!馬で追うぞ!!」
『私』の追従をしっかりと追ってくれていたのか、馬に着地したハンネスは、『私』に誇らしげに象牙質の黄色い歯を見せた。
「『お前』のお陰でまだ追える!エレンは……俺の命に代えても……!!」
「ああ!おっさんの言う通りだ!追い付けない速度じゃねえ!間に合うぞ!」
憎い敵の後ろ姿をつぶさに観察すれば、奴の関節部分の鎧が剥がれていないことが分かる。アルミンも目ざとくそれを分かっていたようだ。
「足の鎧を剥がせばもっと速く走れる筈。そうしないのは、長い距離を走れないからなのかな?このままじゃ、止める手段が……」
「『私』はベルトルトの巨人の姿が見えないのが気にかかる。最悪の場合、彼さえ動けば『私』達を一瞬で皆殺しに出来るはずだ。あの爆発で。なぜそうしない?」
「リヴァイ兵長の存在を考慮してんじゃねえのか?『お前』がヤツらに報告したのは、女型を捕えた、って情報だけなんだろ。一度きりの爆発と、熱を出してる間ぼっ立ちになることを考えたら、ガス切れ起こした後、兵長に狩られる。ベルトルトなら考えそうなことだぜ。地味だが頭はキレるからな」
「それなら、僕達は兵長について触れられない。いないと分かれば、きっとすぐにでも爆発する」
聡い二人の結論に、すぐに『私』達全員が納得した。
「ああ。極力俺達の力だけで、アイツらを止めないといけねえ。……アイツらは」
ジャンは少し躊躇したが、『私』達に促した。
「アイツらはなに食わねえ顔してここまで生きてたんだ。言葉でそれを追及してやる」
「『私』は……加われるとは思えない。さっきのように、自分を保てなくなるかもしれない」
「ああそうだろうな。俺にも、今はでけえ巨人の後ろ姿しか見えねえが……揺らぐかもしれねえな。でもやるしかねえんだよ!『お前』は出なくていい。俺達でやる」
「『貴方』がどう考えようと、私の考えは変わらない」
赤い布を巻いた少女は既に二刀を引き抜いている。
「今度こそ躊躇うこと無く殺す。邪魔をするならユミルも例外じゃない。どんな手を使っても必ず……」
ミカサの瞳には、怒りが宿っていた。でも、『私』のそれとは明確に違っていた。溺れて暴走する『私』と違って、怒りの矛先も、理性で束ねて正確に向けられているように見えた。
一朝一夕では、決して身に付かないものだった。六年前に人攫いから生き残れたのは、この決断の早さに違いない、と『私』は思った。
(二人が出会った六年前から、既にこの感情を敵に向けていたのか)
エレンが死んだと知らされた二ヶ月前のあの日にも、彼女は剣を空に掲げ、飛び出していった。あの決断の早さの答えを、『私』は気付けなかった。
(容易く怒りに溺れる未熟者だから、か)
「……何が追い付く、だよ」
『私』が歯を食い縛る最中、口内の骨を伝わり擦れ合う音の隙間から、声が聞こえた。
「私を……!私を助けてくれ!」
「ユミル……『助けて』って言ってる」
「は?聞こえたのか?」
「ああ……あ」
『私』がユミルの声を拾うよりも速く、ミカサは飛び出していた。手近なユミルの巨人の左目を切り裂いた。間断無くミカサはベルトルトに狙いを定めるが、鎧が手で彼を覆ってしまった。しかし好機は生まれた。ユミルは吠えているが、抵抗はやめていた。
『私』達も跳び立ち、鎧の巨人の肩に取り付く。取り付く合間にも、鎧の手の中で、何かが蹴られるかのような音がする。どうやらエレンが暴れているらしく、ベルトルトがやめるよう嘆願している。
ジャンがその声に呼応した。
「お願いしたって無駄だぜベルトルト。ソイツは自分勝手になんでもやる奴だからな。嫌いな俺がよーーく知ってるぜ!勝手に巨人の力手に入れて、こうして拐われてさ。一緒にシメてやろうぜ。まあ出てこいよ」
「ああ。訓練兵の時に鎧の巨人の構造を考察し尽くした『私』には分かる。どうやらそこは相当に狭いんだろうしな」
『私』も続く。
「なあライナー……ベルトルト……本当に俺達を裏切ったのかよ……あんだけ一緒に戦ってきたのに……俺を、村から引っ張って来てくれたのに……」
二人の敵は黙っている。てっきり『私』は、さっきのように怒りに囚われてしまうかとも思ったが、案外冷静でいられている。まだ混乱しているからなのか。仲間がいるからなのか。
「オイオイお前ら、このまま黙って逃げ通す気か?そりゃねーだろ。三年間苦楽を共にした仲じゃねぇか。なあお前ら、コイツが作る寝相の悪さったら無かっただろ?お前の作品で天気を占ったりもしたさ。全くとんでもねえ寝相だぜ。……敵の真っ只中でもあんなに熟睡できたのは、ホントに、俺達のことをなんとも思ってねえからなのか?」
言い出しっぺのジャンの軽口は、普段のものとは比べ物にならないくらい、悲壮感を含んでいた。
『私』が全てを失ったのは五年前。でも、他の皆も、失ったものは沢山ある。
「全部……嘘だったのか?どうすりゃ皆で生き残れるか話し合ったのも、退役してからは酒場で昔話に花咲かせようぜ、って言ってた俺達の話も、全部全部……チクショウ……」
それは信頼だ。コニーも、たった数日で全てを失った。帰る場所も。嘗ての仲間も。掠れて擦れて傷んだ喉で、コニーは続ける。
「なあ、お前ら……お前ら、今まで何考えて生きてきたんだよ……」
「そんなもの分からなくていい。コイツの首を刎ねることだけに集中して。コイツらは人類の害。それで十分」
理性的な怒りが込められた瞳は、『私』に向けられていた。「あなた達も敵なの?」と、品定めするかのように。
「【お前】は……【お前】らはこの期に及んでなお、鎧に閉じ籠ったままなんだな。喋る選択すら浮かんでこないわけか。いいだろう。ならそのまま黙っていてくれ。その方がこっちも殺りやすい」
鎧から出てくればそれこそ『私』達の思う壺だ。巨人の姿ではろくに喋れないことは、エレンの実験で分かっている。
分かる。これは強がりだ。『私』も。鎧の巨人も。双方の立場から来る強情なんだ。
『私』が徐に【鎧】の頭に足を掛けて、上から【鎧】の手の隙間を探す。こじ開けて【超大型】の持ち主を殺すために。
その意図を悟ったかどうかは分からないが、すぐさま鎧の指の隙間から声が勢いよく漏れ出す。
「だ、誰が……!人なんか殺したいと思うんだ!!」
返されたのは、敵意ではなかった。ミカサを除いた『私』達、全員が固まる。
「誰が好きでこんなことを……!人から恨まれて当然のことをしたさ!取り返しのつかないことを……でも……僕らは……罪を受け入れきれなかった……兵士を演じていたうちは楽でいられた!忘れられた。コニー!ジャン!嘘じゃないよ!本当にあの時だけは……仲間だと思っていたんだよ……」
飛び出すのは、開き直りか、反論のどちらかだと思っていた。
(なんだ……なんだよそれ……消えてもらうことが目的じゃなかったのか?なんでそんな……)
「謝る資格なんて無いって分かってる……でも……ああ……誰か……誰か僕らを……見つけてくれ」
「なんで……なんで悲しそうなんだよ……敵なら敵なりに……『私』達に敵意を向けろ。分からない。なんで──」
「ベルトルト。エレンを返して」
「ダメだ出来ない。誰かがやらなくちゃいけないんだよ。自分の手を……血で染めないと……」
「ユミル……」
不協和を起こした『私』は敵から目を背け、ユミルに話しかけていた。
「ユミル。……君は、は何とも思わないのか?」
「今日まで巨人だという姿を隠して、なんの理由があったんだよ。彼ら2人と違って、いつでも明かせただろ。明かしてさえいれば、変えられる状況は幾らでもあった。獣の巨人を止められた。ミケさんが重傷を負うことも無かった。ゲルガーさんもナナバさんも救えた。もう話したんだよ、ヒストリアには。『私』達の共犯を」
ユミルの巨人の貌に、変化は無かった。瞳は真っ黒で移ろう気も読み取れず、常に食い縛る口許も、彼女の顔とはまるで違う。
「なのに今日まで君は、隠し通すことを選んだ。リヴァイ班……いや、もっと前にだって……君も、『私』達では手に出来ない力があった」
あまりの表情の不変に、出てこないユミルに『私』はますます確信を強めていく。
『私』は信用されていなかった。利用されていた。そうに違いない、と。
「……なぜ、『私』には力が無いんだ」
「お前ら!そこから跳べ!巨人が来る!!」
ハンネスの声が下方から聞こえた。『私』に代わって馬を連れていたお陰で、難なく『私』達は一時離脱できた。鎧に眼を奪われていたせいで気付かなかった。エルヴィン団長が、鎧の巨人の正面に大量の巨人を率いて来ていたのだ。
まだ見逃している情報があるかもしれないと、『私』は辺りを見回す。また馬の席が一つ空いていた。クリスタは、ユミルの側を離れていない。「早く来い」と呼び掛けるよりも先に、巨人の群れが鎧の巨人に衝突した。