イブキ最高
イブキ最高
オマエもイブキ最高と叫びなさい!!
「僕はロリータ・コンプレックスではない」
「その上で僕は少女を愛している!少女とはつまり、イブキちゃんのことだ!」
「君たちは小児愛者を一緒くたに《ロリータ・コンプレックスだ!犯罪者だ!》と言って攻撃するが、愛にはたくさんの種類がある!友愛や家族愛や自己愛など、もちろん性愛だってある。しかし!僕の親愛は性愛に勝る!僕の愛は聖愛だ!!」
不良たちは一瞬静まるが、またすぐに嘲り始める。
「気色悪いんだよミジンコ野郎」
「犯罪者はみんなそう言うんだこのカス」
「お前みたいなろくに銃撃できない雑魚は自分より弱いもんに欲情するんだろ?」
ギャハハハハ!!!
と、他の生徒もいる教室内で大笑いする不良たち。迷惑かなと思って周りを見たが、みんなこちらを見てクスクス笑ってたので大丈夫なのだろう。
「まぁいいや。明日もちゃんと学校来いよな」
「そうだぜ。お前の唯一の特技を俺たちが活かしてやってることに感謝するんだなぁ」
そう言って四人の不良グループは教室を出た。
僕はゲヘナ学園の一年生だ。どんなにしっかりした銃を持ってもまともに当てられない僕が、なぜ不良の巣窟であるゲヘナ学園に入学したのかと言うと、シンプルにここしか入れなかったからだ。
まず、トリニティはお金持ちのための学校だ。一般人の両親には三年分の学費など到底払えまい。次にアビドスだが、もし僕がそこに入学したいと言っても家族が止めただろう。第一僕にもアビドスに入学する気概はありそうにない。ワイルドハントに入れるような芸術的センスも持ってないし、ヴァルキューレやレッドウィンターに通うには銃の腕が足りないし、梅花園に至っては門前払いだろう。唯一百鬼夜行連合学院は行けそうだと思うが、通うには遠すぎた。
そうだ、ミレニアムを忘れていたな。そこには僕の兄が通っているんだ。これができた長男でね、三年前、セミナーの会長と二年時のフラッシュ暗算大会でいい勝負をしたらしいし、中学時代には演劇でワイルドハントから推薦が来ていた。その上銃の腕もピカイチときた。
両親は自慢の息子と言ってそれはそれは兄を愛でた。その兄が5歳になったある日、サンタへの手紙に弟が欲しいと書き、そして生まれたのが僕だったと言うわけだ。両親も期待していたのではないかと思う。5歳で既に素晴らしかった兄の弟もまた素晴らしいだろうと。だが蓋を開けるとでてきたのは、勉学に乏しく射撃は不得手、かといって芸術的センスがあるわけでもない。出来が悪い僕だった。つまりミレニアムに入れる訳はない。残ったのはゲヘナだ。
そんな僕にもわざわざ誇ろうとは思わないが他人より秀でているところがある。足が速い。なんでもできる兄よりも速かったので、同年代に限らなくても多分かなり速い。せっかく足が速くても銃弾より遅いからこの銃社会のキヴォトスではあまり目立つことはないのだが。しかし、やってきた体力測定の日。何にもできないのに足だけ速いやつとして不良たちに見つかってしまった。今僕はパシリだ。一日30個限定のフウカさん特製弁当争奪戦を走らされている。お金は各自持ちなので正直嫌な思いはしてない。僕も買うし。
ゲヘナに通っていて嫌だなと思うところは、僕だけかもしれないが、典型的ないじめから抜け出せないところだ。陰湿なものから直接的なものまであるので辛い時がかなりある。例えば道を歩いているとゲヘナはおろかミレニアムやトリニティの生徒からも笑われる。これは種明かしがされて、誰かがSNSで僕のかっこわるいところを拡散させたらしい。上靴が捨てられていたりお気に入りの腕時計が壊されていたりしたのは種明かしはなかった。
今の所かなり嫌なことが多いので、良いところもあげよう。それはイブキちゃんがいるところだ。これだけでいじめのことなんてどうでもよくなる。初めて出会ったのは入学式の日だ。11歳の子が堂々と登壇し、ピシャリと打ち付けられたように直立した。大人びている子なのかな、かわいいなと思っていたら第一声が、
「イブキは〜みんなが来るの待ってたよ♪」
僕は息を呑んだ。かわいい!!全身の血管が毛細血管に至るまでグワッと湧き立った。あるいはあまりの愛おしさに全身の筋肉が硬直した。
入学式が終わるとすぐに彼女について調べ始めた。パンフレットに載っていたのを覚えていたからそれを手がかりに色々と知れたのは、苗字は丹花。丹という感じには『純粋・まごころ』という意味がある。なんという奇跡か!まさにイブキちゃんのことだと思った。
どうやら万魔殿に所属しているらしい。よし、と僕は早速万魔殿に入ろうとしたが、テストがあるという。どんなテストか知らないが、ちょうど試験日だということで受験した。だが全く歯が立たなかった。当然落選だ。試験管に聞いたが2回目はないらしい。落ち込んだが試験管曰く、優秀な生徒しか入れないから気を落とさなくて良いとのことだった。なので僕は気を取り直して風紀委員に入ろうと思った。イブキちゃんの安全を守るためだ。しかし風紀委員にもセレクションがあるとのことだ。なになに、明後日の放課後グラウンドにて、射撃訓練……いやいや!やる前から落ちこんでいてはいけない!一日あるのだからなんとか少しでも練習しなければ!
さっきも言ったが、僕の射撃の腕は悪く、今時の小学生とほとんど互角だ。どうも照準が定まらないのだ。僕は徹夜で練習して当日に臨んだ。結果は、寝不足で照準が合わないだけならまだしも、先輩に当ててしまうという大失態。
「おまえ聞いたか?風紀委員の試験落ちたやつがいるらしいぜw」
「は?あのセレクションって体裁上必要だっただけで本来なら参加すれば入れんだろ?」
「そのはずだったんだけどな?今までセレクション落ちたやつなんて誰もいなかったのに、あまりに酷すぎて落とされたんだとよw昨日セレクション受けたやつが言ってたwww」
体裁としてのセレクションで初めて不合格者が出たらしい。僕を通り過ぎていった人たちがそう言っていた。徹夜なんてせずに行けば落とされなかったのだろうか。そんなことを考えながら歩いてたら、声をかけてきた人達がいた。
「よぉ、おまえだろ。風紀委員落ちたってやつ」
「あんな試験寝てても受かるだろw」
「そういえばこいつ万魔殿の試験も受けてらしいぜ?」
「へぇ、受かってたら試験受けねぇよなぁ?じゃあそっちも落ちたのかぁ」
「おまえ射撃もできねえのに勉強もできないの?wなにができるんだよw」
これが僕と不良たちとの発端だった。
朝起きて、笑われながら登校して、パシリにされて、今日は四人分自腹を切らされて、放課後に兄貴からもらった誕生日プレゼントの拳銃を、分解されて部品を隠されて見つからなくて諦めて――そんなある日のことだった。
何も考えないように、なにも溢さないように上を見ながら帰っていると、50mほど遠くを万魔殿の小隊が停まっていた。僕の帰り道が塞がれていたので、邪魔だなと思いながら先頭を見てみると、どうやらカイザーの兵隊と向かい合っている。なにか揉め事だろうか、なんて思った次の瞬間にはカイザーの銃が叫声を挙げていた。遅れて万魔殿も応戦しだす。戦車が2台、カイザーに向かって砲台を調整し、初弾を装填する音がした。目の前で始まった銃撃戦に、僕の体は首の骨が折られた時のように動いてくれなかった。銃声に混じる生徒たちの悲鳴が、僕に呪いをかける。
「〜〜を呼べ!!!!近くにいるはずだ!!!」
と誰かが叫んでいる。
僕が固まっていると戦車から赤毛の少女が一人出てきた。彼女の乗っていた戦車はぼろぼろになっていて使い物にならなくなっていた。あの少女は確か、棗イロハ先輩……
「イブキちゃん!?!?」
戦車からもう一人、イブキちゃんが出てきた。イロハさんと戦車の裏に隠れている、戦うことはないみたいだな……あ、イロハさん前に出た。なんて呑気に見ていたらイブキちゃんは銃を持って走り出した。瞬間僕の頭の中でアラートが鳴り響き、
「やめろ!!」
と、反射的に僕が走り出したその時、 ドカァァァァァァン!!!! と、別の戦車が爆発した。急に走りだしたのと、大音量の爆発音で足がもつれ転びそうになり、怪我を予想し前を向いたら、鉄板が空高く舞っていた。そして僕は最悪の未来を見た。その鉄板は回転しながらイブキちゃんに向かって飛んでいた。刹那でそれを予期した僕はなんとか堪えてトップスピードに乗る。身を投げ出しながらタッチの差でイブキちゃんを突き飛ばすことに成功した。ズザザ──と体をコンクリートにこすりながら止まる。思い切り左腕を打ったからだろう、感覚がないのでうまく起き上がれないが、イブキちゃんは無事そうで安堵する。
「あぁ、ごめんねイブキちゃん、ひざ擦りむいちゃってるね」
なんだかイブキちゃんが呆然としているな、まぁいきなり知らない人に突き飛ばされたら怖いか。?イロハさんの顔が青ざめてる……イブキちゃんになにかあったのだろうか?あれ、僕?
「止血しますのでじっとしていてください!!」
は、止血?あれ、俺の左腕あんなところにある。あんな長かったっけ……あら、ら、意識が……と、ここで僕の意識は途切れた。
僕は病院で目を覚ました。右手になにか違和感を感じて見てみると、小さな手がふたつ、僕の右手を包み込んでいた。
「起きた!この人起きたよ!!」
「棗イロハです。イブキを庇ってくれたこと、万魔殿を代表して感謝いたします」
「左腕は私たちが費用を出してミレニアムに義手を依頼させていただきました。維持費も私たちが持ちます本当にあり」
バン!!と扉が開いて背の高い女性が入ってきた。あ、マコト議長だ、挨拶しないと。
「ゲヘナ学園一年の」
「知っている」
そう言って僕を静止させた。
「貴様か?イブキの窮地を救ったというのは」
「病室なんですから、静かに入ってきてくださいよ」
「何が欲しい?」
……?だめだ、貧血で頭が回っていない。今何が欲しい?って聞いたか?そんなわけないよな、こんな低脳な僕に……
「何が欲しい?言ってみろ」
「――イブキちゃんと仲良くなりたいです……」
ニッと笑ったマコト議長はイブキちゃんに向かってこう言った。
「どうだイブキ?」
ゆっくりイブキちゃんを見る。
「イブキも仲良くなっていっぱいありがとうって言いたい!」
いつの間にか再び溜まっていた雫が、僕の制御を外れて流れ落ちた。
「あなたのお名前をおしえて♪」
足が速くて良かった。初めて僕はそう思った。
数日後、兄が頑丈かつ利便性に長けた信頼のミレニアム製義手を届けてくれた。正直自分の手より良い性能だった。両親にも鬱陶しいほど褒められたし。そういえば自分だけ褒めてもらえたのは初めてかもしれない。いつも兄の後に褒められていたからなぁ。
そういえば、いつとはなしに登校中笑われることが無くなった気がする。パシリにされることも無くなったし、イブキちゃんのほうからお昼に誘われるようになった。イロハさんともよく話すようになったし、マコト議長からは結構嫉妬されてる。
それに、やはり側から見てるだけではわからないことがたくさんあった。あぁ、イブキちゃんのことだがね。イブキちゃんは思った以上に純粋無垢で天真爛漫。それでいて11歳にして引く判断ができる。なんて賢い子なのだろう。僕はますますイブキちゃんが愛おしく感じた。もし何かの手違いでトリニティに入ることになったら、祈祷の時間ではイブキちゃんを向いてお祈りするだろう。もし僕がひまわりだったらイブキちゃんを向いて花開くだろう。今、僕は親愛を果たせているおかげで、最高に幸せな人生を送っている──────だが、ひとつ。気づいたことがある。
イブキちゃんとかなり仲良くなった後、当番制度でイブキちゃんと一緒にシャーレへ行った時のこと。初めて会ったが、先生ほどの人格者を僕はこの先も見ないだろうと思った。そして、ふとイブキちゃんを見た。すぐにわかった。イブキちゃんは先生のことが好きだ。イブキちゃんはまだ自分でその感情をわかっていないかも知れないが、僕にはわかった。イブキちゃんが、先生を男性として好きなことが。これはイブキちゃんと仲良くなったからわかったことだし、僕は今、自分の人生において最高に幸せだということを断言できるが、親愛は性愛に勝てないのかもしれないと思った。それがほんのちょっぴり寂しかった。
やはりロリ・・・・!!
ロリは全てを解決する・・・・!!
pixivにもあります