英霊の稲荷様 作:名無しのペロリスト
<遠坂時臣>
アサシンは脱落したが、敵サーヴァントに最強の宝具を使わせることには成功した。
監視が全滅したので、以後は情報は得られていない。
それでも十分に役には立つが、残念ながらあまりよろしくない結果が出そうだ。
「ライダーとバーサーカーの宝具評価は?」
「ギルガメッシュのゲート・オブ・バビロンと同格。
つまり、評価規格外です」
同盟関係の言峰綺礼からの情報を聞いて、動揺はした。
それでも表向きは落ち着き払い、優雅に振る舞う。
「確かに目論んだ通りの結末ではある。
もし予備知識無しで対峙していたら、あの宝具に対処する術を見出だせなかっただろう」
そう考えれば、アサシンを犠牲にして得た情報の価値は大きい。
「ライダーだけでなく、得体の知れないサーヴァント。
バーサーカーの情報も手に入ったのは、思わぬ収穫だ」
バーサーカーが名乗った稲荷という真名は、偽りなのは確定した。
彼女は多くは語らないが、そのうちの一つ足りとも伝説や伝承と合致しないからである。
つまり肝心の部分はぼかして嘘の情報で塗り固め、他の陣営を混乱させようとしているのだ。
「とんだ女狐だが、それならそれでやりようはある」
少なくともバーサーカーは、狐と人間の混血ということになる。
特徴的な容姿なので伝説や伝承は限られているが、すぐに正体が判明すると思いきや未だに判明はしていない。
だが資料も減ってきているし、奴の最強宝具から現代の英霊であることが確定した。
おかげでさらに絞り込めたので、バーサーカーの記述を見つけるのもあと少しだろう。
恐らく他の陣営も同じように、彼女の正体を掴もうと躍起になっていることだろう。
しかし、最後に勝つのは、この遠坂時臣なのは最初から決まっていた。
「此処から先は第二局面だ。
アサシンが収集した情報を元に、アーチャーを動員して敵を駆逐していく。
ライダーとバーサーカーに処する対策も、その中で自ずと見えてくるだろう」
しかし、厄介極まりないサーヴァントだ。
最後まで残るなら、二体のうちのどちらかだろう。
できれば潰しあってくれると助かるが、現時点ではまだ先は見通せない。
「マスターとしての務め、ご苦労だった」
とにかく考えることは多いが、目の前の問題を一つずつ片付けていけば、勝利は自ずと近づいてくる。
最後に役目を終えた言峰綺礼に労いの言葉をかけて、通信を切るのだった。
<衛宮切嗣>
久宇舞弥からアサシン襲撃の情報を聞いた。
何事もなく退け、最終的には撃破したのは良い。
だが問題は、その次だ。
「待ってくれ! アイリの体内から、聖杯を摘出しただと!?
誰が!? どうやって!?」
リーダーとして、取り乱すわけにはいかない。
しかし、この事実は僕にとって、アサシンに襲撃されるよりも遥かに衝撃的だった。
「ですので、バーサーカーがアイリの体内に手を入れ、直接聖杯を取り出しました。
それ以外のことは、良くわかっていません」
優秀な舞弥は、僕の命令を素直に聞いてくれた。
だが説明を聞いたあとも、やはり納得できることではない。
アイリの体内に聖杯が隠されていたことは知っていた。
彼女も聖杯戦争に参加し、最終的に犠牲になることを受け入れていた。
だが問題の聖杯は溶かして、全身の臓器と一体化していたのだ。
いわばアイリは聖杯の器であり、今の人格と肉体は外装でしかない。
サーヴァントが倒されるたびに心身が崩壊していき、最後の一人になって聖杯が満たされれば、確定で死が訪れるのは最初から決まっていた。
そもそもいつ精神や肉体が耐えきれずに、死亡してもおかしくはなかった。
「一体、どんな奇跡を使えば!」
聖杯との一体化は、アインツベルンの秘術だ。
アイリの肉体と強く結びついているため、如何なる魔術や手術でも摘出は不可能だった。
下手に手を出しても、不幸な結果にしかならない。
だから僕も諦めて、彼女を利用して聖杯を手に入れる。
それでもせめて、最後まで一緒に戦うつもりだった。
大望を叶えるために聖杯戦争に参加し、彼女の体調を気遣い聖剣の鞘も渡している。
気休めだが、しばらくは保つはずだった。
しかし何故か奇跡が起こり、アイリと聖杯は分離する。
想定外にも程があるが、とにかく今は事実を受け止めつつ、冷静に状況を確認していく。
「それでアイリは無事なのか? 核となっている聖杯を失ったんだ。体に異常はないのか?」
「体調は問題ないそうです。
むしろ聖杯を埋め込まれていた頃よりも、ずっと元気ですよ」
「そっ、……そうなのか」
どうやら僕の想定を遥かに越えた異常事態が起きているようだ。
一つ言えるのは、バーサーカーはアイリを助けた。
そしてあろうことか、摘出した聖杯を奪うのではなく、こちらに渡したのだ。
さらに彼女が言うには、聖杯戦争に参加した目的は聖杯ではないらしい。
ならば何が目的なのかは気になるが、それを聞く前に立ち去ってしまった。
これから倒す相手の内心など、知る必要はない。
だが僕は、何故だか妙に気になってしまう。
そのまま静かに考えていると、舞弥からさらなる情報を告げられる。
「こんな重い石も持てるわ! ……と、とても喜んでいましたよ」
「どういうことだ! いや、本当にどういうこと!?
アイリに一体何が起きた!」
まるでアイリが負傷の完治をアピールしているような、元気ハツラツぶりである。
明らかにおかしなことが起きているが、それが何かわからない。
「それに関しては、バーサーカーに聖遺物を埋め込まれたらしいです」
「それだ! その聖遺物が、アイリを治療したんだな!」
「はい、そのようです。魔力も前よりも増しているようです」
本当にバーサーカーの目的がわからない。
敵に塩を送るなど、とにかく不気味だ。
彼女は一体何を企んでいるのかと、僕は頭を悩ませる。
だが体内に聖遺物を埋め込んだと聞き、全てのピースが繋がった。疑問が氷解する。
「そうか! わかったぞ!
バーサーカーはアイリに罠を仕掛けたんだ!」
「罠とは、どういうことですか?」
僕は舞弥にたった今閃いた真実を、丁寧に伝えていく。
「バーサーカーは聖遺物と言ったが、アレは彼女の毛髪だ!
体調は良くなったが、効果はそれだけではない!
例えば、アイリの体内に埋め込んだモノを、自由に起爆できるとしたら?」
「……そういうことですか」
どうやら気づいたようだ。
つまりバーサーカーはアイリを治療したと思わせて、いつでも起爆可能な爆弾を埋め込んだのである。
「やられたな。これでバーサーカーには、迂闊に手が出せなくなった」
「一見無害そうな顔をして近づき、裏では卑劣な罠を仕掛けたのですね」
「ああ、非情に狡猾で恐ろしいサーヴァントだよ」
奴の危険性を理解して、僕は震えてしまう。
だが絶望的な状況ではあるが、まだ聖杯戦争に負けたわけではない。
体内に仕掛けられた爆弾を除去できれば、アイリは助かるのだ。
「だが爆弾に気づいたことを知られれば、すぐに起爆するだろう」
「セイバーで討ち取ろうとしても、爆破しそうですね」
「ああ、バーサーカーなら躊躇いなくやるだろうね」
何しろ、これ程狡猾な罠を仕掛けるほどだ。
もし爆弾に気づいたり摘出を試みれば、その時点で用済みとばかりにアイリを殺すだろう。
彼女を失っても聖杯戦争に敗北したわけではないが、僕としては負けたも同然だ。
せっかく助かった命を、むざむざ失うなど受け入れられるはずがない。
「しかし逆に言えば、利用価値があるうちは殺しはしない」
「……利用価値ですか。
セイバーはバーサーカーとは戦いたくないようですね」
「命を救われたアイリも、同じ気持ちだろうね」
聖杯を返却して、手に入れるのが目的ではないと口にした。
それは、こちらを油断させるための嘘だ。
なのでアイリもセイバーもすっかり信じ切って、奴の狡猾さには気づいていない。
(それに、未だに顕現していない聖杯を固定化し、摘出できるサーヴァントだ。
聖剣の鞘に気づかないはずがない)
つまり、どれだけ回復力が高くても無駄ということだ。
アイリを確実に殺せるから、あえて放置した。
爆弾か毒なのか、それとも何か他の魔術かはわからない。
ただイメージしやすいので、爆弾で説明した。
実際にアイリの半身を吹き飛ばせば、もはや回復は不可能だ。
幸い今は利用価値があるから、あえて生かされている。
もしバーサーカーがアイリに仕掛けた爆弾を起爆するなら、騎士王と戦う直前だろう。
「とにかく今、バーサーカーに感づかれるのは不味い。
彼女との交戦も、しばらくは避けたほうが良いだろう。
このことは、僕と舞弥だけの秘密にしよう」
「わかりました」
彼女と戦わない限り、アイリの身の安全は保証される。
だがそれでも、バーサーカーにセイバー陣営の攻撃だと気づかれるか、利用価値がなくなったら、容赦なく起爆されるだろう。
決して油断はできない。
だが、せっかく聖杯が摘出されて体調が良くなったのだ。
それに確実に死ぬから、助かる可能性が出てきた。希望はまだ残されている。
「僕たちは気づかれることなく、バーサーカーを倒さなければいけない」
「難しいですね」
「ああ、達成困難だ。しかし、不可能ではない」
少なくともバーサーカーはともかく、マスターなら付け入る隙はある。
けれど間桐の屋敷には魔獣が放たれていて、鼻が効いて勘も鋭い。
狙撃をするにしても、迂闊に近づいては、逆にこちらの位置がバレかねない。
人のように賢い狼なので、高位の召喚術で呼び出された魔獣なのは間違いない。
だからこそ、そう多くを召喚できるはずがなかった。
屋敷を警備している数以上は増えないだろうし、焦らず落ち着いて攻略法を探していけばいい。
しかし、まるでサーヴァントを相手にしているようだ。
その点も考慮すると、間桐雁夜が屋敷に籠もっている間は、迂闊に手出しはできそうにない。
確実に仕留めるには、外出中を狙うのがベストだ。
それにマスターを殺され、暴走するバーサーカーの排除も考えると、セイバーの傷も治療しておくべきだ。
アイリの命がかかっているので、失敗は許されない。
だからこそ、念には念を入れて行動するのだった。
気づいたら日間ランキングの、17位に入っていました。ありがとうございます。
やっぱりフェイトって人気あるんですね。
その場のノリと勢い、朧気な原作知識でヒーヒー言いながら書いてますが、何とか折り返しまでは来られました。
最後までお付き合いいただけたら幸いですが、未完になったら申し訳ありません。
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