英霊の稲荷様   作:名無しのペロリスト

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聖地構築

 酒宴を終えて家に帰った私は、魔力が尽きかけてベッドでぐったりしている雁夜おじさんを発見する。

 桜ちゃんがオロオロしていたが、幸い血を吐くほどではなかったようだ。

 放っておけば回復するので、念話を送らずに私の自主性に任せたらしい。

 

 急なことだったので、静止や令呪が間に合わなかっただけかも知れないが、私のことを気遣ってくれたことに違いはない。

 

 心優しいマスターに感謝する。

 だが今後も宝具を使うたびに倒れていたのでは、命がいくつあっても足りない。

 そして私は酒に酔っていたとはいえ、自らのやらかしを反省して重ね重ね謝罪する。

 

 二度とこのようなことが起きないように対策を講じると約束し、早速行動を開始したのだった。

 

 

 

 そして夜が明けた次の日、しっかり休んで朝食を摂ったあと、作業着を着用して外に出る。

 

 竹籠を肩に下げ、二人揃って堂々と庭に立つ。

 見た目は少女の私と、本物の幼女の桜ちゃんだ。

 

「そういうことで! 間桐家を聖域に作り変えます!」

「わーい!」

「「「わおん! わおん!」」」

 

 明るくてノリが良い桜ちゃんがパチパチと手を叩き、狼たちも近所迷惑にならないように気をつけつつ、ワンワン吠える。

 

 そして一晩休んで歩けるまで回復した雁夜おじさんも、何事かと様子を見に来たようだ。

 

「ちょっと待て! 話が急すぎる!

 バーサーカー! 聖域とはどういうことだ!」

 

 いきなり聖域と言われても理解できず、待ったをかけられた。

 

「そうでしたね。では、簡単に説明させてもらいます」

 

 相変わらず思いつきで行動しているので、深い考えがあるわけではない。

 説明不足なことも多々あるが、それに気づかせてくれたマスターに感謝する。

 

「聖域とは神聖な土地のことです」

「いや、それはわかっているが?」

 

 病み上がりの雁夜おじさんが呆れた表情で相槌を打つ。

 ならばと、私はもう少し詳しく語っていく。

 

「私や眷族限定ですが、魔力や体調の回復が早くなり、基礎能力が上昇します」

「バーサーカー専用の神殿のようなものか」

「そんな感じですね。……多分」

 

 後半は聞こえないように小声で呟く。

 あっちの稲荷大社に、そんな効果があるかどうかは知らない。

 でも神秘が一番濃かったり、神魔が降りてくる中心に建てられているのは確かだ。

 

「しかし、いつのまに陣地構築のスキルを?」

 

 雁夜おじさんが当然の疑問を口にしたので、私は正直に答える。

 

「いえ、覚えてませんよ?

 私はキャスターではなく、バーサーカーですからね」

「そっ、そうだよな」

 

 なのでキャスターが行うように、手っ取り早く神殿や魔術工房を構築することはできない。

 

 だが通常のやり方でなければ、私にも可能である。

 こっちで稲荷大社と同じような場所ができれば、今この場に居る三人は恩恵を受けることができる。

 狼たちも聖域内なら魔力を必要とせず、本来の力を発揮できるはずだ。

 

 ついでに、ちゃっかり眷族見習いになったアイリスフィールも強化される。

 だが彼女は間桐の屋敷に来ないだろうし、特に問題はない。

 

 私は気にすることなく、続きを説明していく。

 

「前に子供たちを助けるために、即席の聖域を構築しました。

 ですが、アレは私的には失敗でした」

 

 眷族でない者を大勢回復させる陣地を構築するために、私の魔力が枯渇寸前になってしまった。

 元々スキルを持っていないのに、奇跡で無理やり再現したのも不味かったのだろう。

 

 

 だが今回は、即効性は低いが長期間効果がある。

 恩恵を受ける者も、私と眷族だけに設定していた。

 

 おかげで魔力の消費も少なく、負担は軽くなっている。

 まあ奇跡でゴリ押すことに変わりはないが、それはそれである。

 

「今の俺たちは、見習いではあるが稲荷の眷族だ。

 神殿内なら、確かに能力は上がるだろう。

 ……わかった。よろしく頼む」

 

 流石は魔術師の家系だ。

 雁夜おじさんはすぐに理解して、聖域構築を許可する。

 

「だが、具体的にはどうするんだ? 稲荷神の祠でも建てるのか?」

「それも良いですが、効果は微々たるものでしょう。

 なので、もっと手っ取り早い手段を取ります」

 

 私は昨晩用意した、あるモノを入れた籠を雁夜おじさんに見せる。

 

「これは、髪の毛か?」

「はい、私の毛です」

 

 自分の髪は、切っても一晩経てば勝手に元通り生え揃う。

 ついでに美容などには、あまり興味のないオタク気質の元女子高生だ。

 一晩ぐらい何よと、躊躇せずにバッサリやれた。

 

 それをさらに細かく切って、竹籠に入れたのだ。

 

「庭に撒けば、土に溶けて間桐家は聖域になります」

「それは何と言うか、……便利だな」

 

 普通なら効果を疑うところだ。

 

 しかし省略したが、雁夜おじさんは昨日、私の髪を溶かしたお団子を食べている。

 おかげで魔力はほぼ満タンまで回復した。

 

 なので、内心はインチキ効果も大概にしろとツッコミを入れていたとしても、バーサーカーだしなーと受け入れているのだ。

 

「今は時間がないので、見てくれはどうあれ聖域なら良いのです」

 

 今は聖杯戦争中で時間がないので、この手に限るだ。

 まあ他の案を知らないだけとも言うが、効果が出れば良いのである。

 

「そういうことで、桜ちゃんと一緒に庭を一周してきますね。

 マスターは病み上がりですし、屋敷の中で休んでいてください」

「あっああ、悪いな。よろしく頼むよ」

「いえ、元はと言えば、私の責任なので。どうかお気になさらず」

 

 酒に酔って宝具をブッパしなければ、マスターの魔力が枯渇寸前にはならなかった。

 

 しかし、イスカンダルも固有結界を展開できるとは思わなかった。

 もしやり合うことになったら、この程度では済まないだろう。

 

 なので、こちらも固有結界を使っても問題ない状態にするのだ。

 宝具を使わずに勝てるほど甘くないだろうし、自前の魔力で賄うのも限度がある。

 

 やはり間桐家の聖域化は急務と言えた。

 

「じゃあ、桜ちゃん。やりますか」

「うん! お母さん!」

 

 相変わらずお母さん扱いが抜けないが、指摘しても無駄なので諦めている。

 きっと聖杯戦争が終わったら、また元の家庭に戻れるだろう。

 

 一朝一夕では無理でも、時間をかければ多分である。

 なので、それまでの繋ぎなら別に良いかと開き直った。

 

 農家さんが着用するような作業着姿の、見た目幼女の二人は動き出す。

 

 神気と願いを込めた髪の毛を、間桐家の庭にばら撒いていく。

 ついでに狼たちも引き連れて、何となく『鬼は外、福は内』と声を出しながら、ぐるっと一周するのだった。

 

 

 

 ちなみにこの場所は元々、間桐と相性の良い霊地だったが、雁夜おじさんと桜ちゃんは私の眷族になったことで、魔術の属性が変わってしまう。

 なので全くの無価値ではなくても、あまり恩恵が受けられなくなったのだ。

 

 そこで今回、相性の良い霊地に変えるだけでなく、それだけだと不安なので、さらに強化しようということになった。

 

 

 

 まあそれはそれとして、聖域が完成したあとは、念の為に雁夜おじさんの魔力負荷テストを行う。

 どのぐらいの出力までなら耐えられるかを試したのだが、取りあえず病み上がりなので加減した。

 皇国の興廃この一戦にありを使っても、倒れることはなくなった。

 

 だがそれは、先日と同程度の出力だ。

 

 中世と現代は技術的には私のほうが有利だが、イスカンダルのほうが数が多いので、どちらが上かは一概には言えない。

 

 雁夜おじさんの魔力と相談した場合、やはり数はこちらが少なくならざるを得なかった。

 戦略シミュレーションゲームのように、中世vs現代の戦いのようには圧勝とはいかないだろう。

 

 それでも刺し違える覚悟なら、最低でも第二次世界大戦時の兵力は確保できる。

 令呪を切ることになりそうだが、その辺りは実際に戦ってみないと何とも言えないだろう。

 

 

 

 できれば、もう少し雁夜おじさんの負担を減らしたい。

 なので私は、聖域を広げることにする。

 

 しかし人の土地を勝手に聖域化するのは、如何なものかだ。

 だが幸い、間桐臓硯は冬木市にいくつか土地を持っていた。

 

 最初は一人で行くつもりだったが、実の母親に会って以降、桜ちゃんの好感度や依存度がまた上がったようだ。

 一緒に行きたいというお願いを、どうにも断りきれなかった。

 

 マスターである雁夜おじさんの許可を取って、二人で外出する。

 途中で商店街に寄って買い食いしたり、ウィンドウショッピングを楽しむ。

 

 日中で私も居るので、狼は連れていない。

 自分がお忍びで外出している時に近かった。

 しかし、子供の娯楽って本当にこんなので良いのかなと、そういった経験はあまりないので不安だ。

 

 だがそれでも、自分が子供の頃は多分こんな感じだったと前向きに考える。

 

 その後は間桐の土地を、自宅と同じように聖域化していく。

 さらに霊脈を繋いで循環するように、あちこち寄り道しながら髪の毛を落とし、パスを繋いでいく。

 残念ながら綺麗な線にはならなかったが、どれだけ曲がりくねっていても、各々の聖域は繋がってはいる。

 

 恩恵は増幅されているし、ラインに近いほど魔力の回復が早まる。

 つまり今後は冬木市内での戦闘に限り、私や眷族の能力が増すということだ。

 もちろん聖地と比べれば大したことはないが、シミュレーションゲームで回避や回復効果が0%の地形で戦うよりは断然マシである。

 

 私としては決まった目的はあっても、それ以外は桜ちゃんを連れて自由気ままに散策していただけだ。

 しかし結果的には上手くいったようだし、何だか知らんがとにかくヨシとしておく。

 

 

 

 それはそれとして、道中に店頭で目についたゲーム機とソフトを購入させてもらった。

 ちゃんとマスターの許可は取ったので問題はない。

 

 あと、漫画やラノベ、桜ちゃんに読ませる絵本。これはちゃんと当人の希望を聞いた。

 さらには雁夜おじさんのお土産と、夕食の材料などを買って帰路につく。

 

 終わってみれば、本当に桜ちゃんと二人で遊び歩いただけのような気がする。

 だが、たまにはこういう日があっても良いだろう。

 

 

 

 私は魔術の何たるかには興味がないし、ずっと仕事ばかりでは息が詰まってしまう。

 たまにはサブカルチャーでストレス解消しないとだ。

 

 それにこっちの世界は、本体の居る地球とは微妙に異なる。

 技術的には多少遅れていても、初めて目にする物ばかりなので、とても楽しみだ。

 

 日が暮れる頃に間桐の屋敷に帰宅すると、雁夜おじさんと狼たちが出迎えてくれた。

 お土産を渡したあと、サブカルチャーを楽しむ前に食事の準備を始める。

 

 ついでに昨晩から念の為に常備している、魔力の緊急チャージ用の稲荷団子も補充しておく。

 

 何の捻りもない、私の毛を溶かしたお団子だ。

 昨日はベッドから動けなかった雁夜おじさんに食べさせると、抜群の効果を発揮した。

 

 ただ、過剰に摂取すると、私の眷族に近づいていくので注意が必要だ。

 

 あとは見た目も味も普通のお団子で、神気はかなり薄めているので日持ちもしない。

 それでも人間の魔術師なら回復効果は十分だし、美味しく食べるのが一番だ。

 

 最初はアバン先生が使っていたMP回復用の羽にしようと考えたが、宝石に効果を移すのは面倒そうだし、使用済みを持ち帰る必要があるので止めた。

 

 

 

 そういう理由でお団子になったのだが、私の毛を直接飲み込むよりは抵抗感が少ない。

 自分もやむにやまれぬ事情で二人に与えたけど、毛を嬉々として食べる光景は、ちょっと見たくなかった。

 

 私に忠誠を示すためにお御足を舐めようとするペロリストと、どっちがマシかは判断に迷う。

 

 

 

 とにかく、自分の髪の毛を鳴狐で細かく刻んで、小麦粉に混ぜ込んだ。

 味付けをして、しっかりこねたお団子を、雁夜おじさんに食べさせるのだ。

 

 何だかヤンデレみたいだけど、やってることはまんまなので全く否定はできない。

 

 ちなみに現時点で一番食べているのは、雁夜おじさんではなく、桜ちゃんである。

 子供は甘い物に目がないし、作るのを手伝ってくれたご褒美だ。

 あとは母親役である私がしていることを、真似したいお年頃なのもあるだろう。

 

 だが摘み食いの常習犯でもあるため、見つけたらちゃんと注意する。

 

 そして私に構ってもらえるのが嬉しいようだ。

 屋敷に居るときは良く話しかけられたり、積極的に家事を手伝ってくれている。

 

 何とも気が利いて家庭的なので、桜ちゃんと結婚する人は幸せだろう。

 ただ、私が彼女の花嫁姿を見られるかはわからない。

 しばらくはのんびりさせてもらうが、雁夜おじさんの負担になるなら、適当なところで消えるつもりだ。

 

 ちょっと寂しいとは思うけど、別れには慣れている。

 二人もしばらくは気落ちするかもだが、幸せになる機会はこれからいくらでもあるし、新しい出会いもあるだろう。

 

 ちょっとしんみりしてしまったが気持ちを切り替えて、これからの二人に幸あれと願いながら、私は桜ちゃんと一緒に団子を作るのだった。

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