英霊の稲荷様   作:名無しのペロリスト

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太陽神の娘

 本日のお団子を作り終わって冷蔵庫に入れたあと、夕食の支度を始めようと袖をまくった瞬間、膨大な魔力反応を感知する。

 

 雁夜おじさんと桜ちゃん、狼たちも気づいたようで、慌てた様子で台所にやって来た。

 

 なので私は、台風の日にちょっと田んぼの様子を見てくる感じで、マスターから外出許可を取る。

 そして冬木市の中央を流れる川に向かい、犬ぞりに乗って空を走っていく。

 

 ちなみに雁夜おじさんだが、本日はお留守番ではない。

 昔の友人に会いに行くと言い出したので、正気かコイツである。

 できれば危険な外には出て欲しくない、屋敷に籠もりっきりでは精神的に不安定になってしまう。

 

 なので狼を同行させて、危険な場所には近づかないならOKと、渋々だが承諾するのだった。

 

 

 

 それはそれとして、私が冬木市の中央を流れる川に到着すると、高層ビルほどもある巨大なイソギンチャクかタコかわからない怪物が暴れていた。

 

 他のサーヴァントは、セイバーとライダーが集まっている。

 そこに遅れて、バーサーカーの自分が参戦する。

 二人は共闘するようなので、私も便乗させてもらった。

 

 だが、特に話し合いはない。

 バーサーカーなら来るだろうなと思われていたようだ。

 この場に集まったサーヴァントもマスターも、疑うことなく共闘を承諾してくれた。

 

「アインツベルン。アンタたちに策は?

 さっきランサーから聞いたが、キャスター本人と戦うのは、これが最初じゃないんだろう?」

 

 ライダーのマスターが、まずはセイバーたちに率直に質問する。

 

「ともかく、速攻で倒すしかないわ!

 あの怪物は今はまだ、キャスターからの魔力供給で顕界を保っているのだろうけど!

 アレが独自に糧を得て自給自足を始めたら、もう手に負えない!

 そうなる前に、キャスターを止めなくては!」

 

 アイリスフィールが的確な説明をしてくれた。私はなるほどと頷く。

 基本的に行き当たりばったりの自分は、作戦を考えるのは苦手だから助かった。

 

「なるほどなあ。奴が岸に上がって食事をおっぱじめる前に、ケリを付けなきゃならんわけだ。

 しかし、とうのキャスターは、あの分厚い肉の奥底ときた。

 さあて、どうする」

「引きずり出す。それしかあるまい」

 

 ライダーが口に出しながら作戦を考えていると、遅れてやって来たランサーが霊体化を解除して姿を見せる。

 

「奴の宝具さえ剥き出しにできれば、俺のゲイ・ジャルグは一撃で術式を破壊できる」

 

 私は大した自信だと感心する。

 そして、どうやら作戦が決まったようだ。

 

「ランサー、その槍の投擲で、岸からキャスターの宝具を狙えるか?」

「物さえ見えてしまえば、造作もないさ」

 

 セイバーがこの場を取り仕切り、指示を出していく。

 

「ならば先方は、私とライダーとバーサーカーが務める。

 いいな。征服王、バーサーカー」

「構わんが、余の戦車に道はいらぬから良いとしても、セイバー。

 貴様は川の中の敵を、どう攻める気だ?」

 

 確かに川に落ちたら溺れてしまうので心配だ。

 しかし、どうやら泉の精霊の加護で水の上でも自由に戦えるらしい。

 

 だがここで私はあることに気づき、ついポロッと口に出してしまう。

 

「えっ!? じゃあ私も、水の上で戦えるの!?」

「なんだ。バーサーカーも精霊から加護を授かっておるのか」

「いえ、私は自力で水の上で戦ったことがあるので」

 

 右足が沈む前に左足を出せば、水の上を走れるというアレである。

 元ネタは漫画だが、狐っ娘の身体能力が高いので、やったらできた。

 

 江戸時代に連れ去られる子供たちを助けるために、水上を走って奴隷船を追いかけ、乗り込んで大立ち回りをした伝説が残っている。

 大人気ドラマで放送された有名なエピソードだ。

 

(何となく、普通に歩けそうだなあ)

 

 分霊なので、能力は大きく低下している。

 しかし、その分だけ補って余りある、稲荷神(偽)の伝説や伝承が盛りに盛られていた。

 心の中で大いに頭を抱えたが、今はそんな場合ではないことを思い出す。

 

 取りあえず水上戦は問題なさそうで、クラス補正での騎乗スキルはあてにできない。

 初心者ドライバーが空から戦うよりも、自由に動ける足場があったほうがマシだと判断する。

 

 犬ぞりを消して、引いていた狼たちを残し、一緒に戦うように指示を出した。

 

「じゃあ私も、水上で戦います」

 

 さらに鳴狐を呼び出して、戦闘準備を終える。

 一番槍はライダーが務めるようで、戦車に乗って空を飛ぶ。

 雷を身にまといながら、巨大な化け物に突っ込んでいく。

 

 私たちも少し遅れて、セイバーと一緒に走り出した。

 

「まさか、貴方と肩を並べて戦うことになるとは!」

「不満ですか?」

「まさか!」

 

 二人揃って跳躍し、そのまま水面を足場にする。

 最初は半信半疑だったが、予想通り問題はないようだ。

 

 沈む気配はなく、地面と同じように走れる。不思議な感覚で、自分でもどうしてそうなっているのか良くわからない。

 

 しかし近くで見ると、凄く大きい怪物だ。

 

 私たちに気づいたのか、グロテスクな巨大な触手を振り下ろしてきた。

 セイバーとは逆方向に、跳躍して避ける。

 攻撃を躱しながら、鳴狐に狐火をまとわせて斬りつけ、切断面を焼き払っていく。

 

「再生能力が強化されていますね! 面倒な!」

 

 狐火で焼き払おうにも傷の治りが早く、ジワジワとしか焼けていない。

 おまけに本体は巨大なうえ、小さい怪物が無数に湧き出てくる。

 正直、キリがなかった。

 

 ライダーも戦車で突進して触手を斬り落とすが、それもすぐに再生してしまう。

 無限の魔力とは良く言ったもので、厄介この上ない。

 

 さらにはアーチャーも空飛ぶ船に乗って参戦し、宝具を四発落とす。

 巨大な怪物に、風穴を開けた。

 

 だがまたすぐに傷が塞がり、元通りになってしまう。

 しかしアーチャーとしての義理は果たしたと言うのか、そのまま帰っていくのだから驚いた。

 

「アーチャーも手伝ってくださいよ! 一体何をしに来たんですかぁ!」

 

 心の中でツッコミを入れるつもりが、相当イライラが溜まっていたようだ。

 つい口に出してしまった。

 

 ただし、役に立たないなお前という発言は心の内に飲み込んだ。

 私よりも先に、アーチャーがブチ切れなかったのは幸いと言える。

 

 けれど現時点では、私以外は有効打を与えられていない。

 このまま続ければいつかは勝てそうだが、少しまずい状況である。

 

 ちなみに巨大な怪物にダメージを与えられる理由だが、私が散々やらかしたからだ。

 民草を脅かす災厄を焼き尽くし、人々に希望を与えるなどという使い方を繰り返した結果である。

 

 浄化の炎という光属性も追加された。

 少なくとも、伝説や信仰ではそうなっている。

 あっちでも便利に使い分けていたし、サーヴァントとして顕界した際には両方の属性を持つのは当然と言えた。

 

 つまり狐火は、光と闇が合わさり最強に見えるのだ。

 だが別に、暗黒を使うと頭がおかしくなって死ぬわけではない。

 

 しかし邪悪な怪物には効果的で、今のところ唯一有効な攻撃と言えた。

 それはそれとしてゴチャゴチャ言っても火には違いないので、厳密に言えば三つの属性を持っている。

 

「ですが、面倒ですね! いっそ宝具を解放して、真っ二つにしてやりましょうか!」

 

 鳴狐はマシンガンの弾丸を弾き返した以外にも、大岩を両断するだけでなく、余波で大地も割ったという伝説。もとい、私のやらかしが原典の宝具だ。

 

 なので解放して出力を上げれば、ビルのような巨大な怪物も一刀両断できる。

 ただし、知識はあっても試したことはない。

 

 真名解放した結果がどうなるかは、良くわかっていなかった。

 そして一般人に大勢の被害が出そうなのに、私がブチ切れないかというと、そんなことはなかった。

 

 スリップダメージでジリジリ削っていては、近いうちにブチキレそうだ。

 なので私は、もうどうにでもなれと抑え込むのを止めて、大声で叫ぶ。

 

「セイバー! ライダー! ランサー!

 今から狂化します! 危険なので少し離れてください!」

「なっ!? わかった!」

「ほう! やはりバーサーカーのクラスなのだな! あいわかった!」

 

 ランサーは、岸でトドメを刺す機会を伺っているので大丈夫だろう。

 とにかく私は抑え込んでいた怒りゲージを、自ら解き放った。

 

 どうせあと数分足らずで狂化していたし、早いか遅いかの違いだ。

 このぐらいの任意解放ぐらいは可能である。

 

 その瞬間、全能力にブーストがかかる。

 自身の周囲に魔力の渦が発生し、荒れ狂った。

 

 本来の狂化とはちょっと違うが、私は普通のサーヴァントではない。

 青く燃え盛る鳴狐を、天高く掲げて大声で叫ぶ。

 

「封印解除!」

 

 そう宣言した瞬間、刀にまとわせた狐火が膨張した。

 竜巻のように荒れ狂う火柱となり、空に向かって伸びていく。

 

 それは天を貫き、周囲の雲を一つ残らず吹き飛ばした。

 

 何とか頑張って自制したので、川の霧はそのままだ。

 しかし、目立つことこの上ない。

 何しろ今は夜なのに、眩いばかりの光が差し込み、私を神々しく照らしているからだ。

 

 空には月が出ているのに、何故か太陽も存在していた。

 辺り一帯は、まるで昼間のような明るさだ。

 

 川岸から私の姿が見えていないのが、不幸中の幸いだった。

 

 これは被災地に行ったときなどに、暗雲を晴らした伝説が元になっている。

 だが、鳴狐とは全く関係はない。

 

 しかし伝説や歴史は、後世に拡大解釈や加筆や修正されることもある。

 諸説ありや、別の逸話と混同されたりもする。

 

 そもそもお偉い方々が監修した歴史書にも、私の記述はあることないことが書かれていた。

 貴重な歴史的な資料のはずなのに、どうしてである。

 

 そして神道だけでなく、他宗教でも私という特殊な神様がウキウキで組み込まれている。

 役職や設定は盛りに盛られているのだ。

 

 つまり日本のフリー素材が織田信長なら、私は世界のフリー素材だ。

 原作とアニメで言ってないだけの二次創作とかバンバン出てるし、それが有名な歴史資料として公式扱いされることも珍しくはない。

 

 だから鳴狐の真名を解き放てば、そういうことが起きても不思議ではなかった。

 

 なお、コミケでどの規模の島になっているのかは知らないし、興味もない。

 直視すると恥ずか死にそうだから、極力視界に入れないようにしている。

 国民も配慮してくれているので、お忍びの際には念入りに掃除するのが恒例であった。

 

 だが今はそんなことは関係ないので、私はガチギレ気味に大声で叫ぶ。

 

「私は太陽神の娘! 稲荷神!」

 

 ゲージは多分、一本どころか三本ぐらいは溜まっている。

 ゲームだとマックス表示が出ているかも知れない。

 

「ジャッジメントの時間だゼ!」

 

 敵が巨大怪獣なら、こっちは天まで届くほどの馬鹿でかい炎の剣だ。

 大岩や大地が割れちまうわけだぜと言わんばかりの、トンデモ宝具である。

 

「言い逃れは聞きません! ――児童誘拐大量殺人にテロ行為! 狐は丸っとお見通し!」

 

 何だか前にキャスターと戦ったときのように、また変な電波を受信してしまったようだ。

 しかし別に不快ではなく、誰かは知らないが意気投合したかのような不思議な気持ちである。

 

「いざ受けやがれ! 神剣! 草那芸乃……じゃなくてぇっ!」

 

 私の狂化はまだ解けていないので、止める気は微塵もない。

 

 けれど、このまま同調しっぱなしだと、別の必殺技が出てしまいそうだった。

 別にそれでも倒せそうだし問題はないが、流石にそこまでおんぶに抱っこで、誰だか知らない人のお世話になるわけにはいかない。

 

 ……と言うか刀剣の宝具ではあるが、断じて草那芸之大刀ではない。

 しかし向こうの世界では、それだけ神聖視されているということだ。

 けれど、そんなヤベえ代物を、気軽にポンポンぶっ放すわけにはいかない。

 

「これは神剣じゃない! 神剣じゃない!

 鎌倉時代の刀鍛冶が打った日本刀だから! 三種の神器とは無関係!」

 

 向こうの概念を自身で否定し、日本のエクスカリバーへの進化を抑え込む。

 だがこれは、一時的な封印に過ぎない。

 真名解放するたびに主張してくる可能性が、非常に高かった。

 

 それぐらい本体の居る世界では、『稲荷様の使ってる鳴狐って、実は神剣・草那芸之大刀だよね』という概念が根づき、もはや世間一般の常識レベルにまで達しているのだ。

 

 または、そうとも言えるしそうでないとも言えるので、フワッとした感じでもある。

 

 私もたった今知ったのだが、流石にそれは事実無根だし、何より恐れ多い。

 心の中で、思いっきり頭を抱える。

 

(原作とアニメで言ってないだけ! ……じゃないんだから!)

 

 さらに威力や効果範囲が跳ね上がったら、私はともかく雁夜おじさんは魔力枯渇で確実に死ぬ。

 

 流石にそんな結末はごめんだ。

 何とか心の中で必死にBボタンを連打しつつ、宝具の進化をキャンセルする。

 

 そして気を取り直して勢い良く振り下ろし、真名を解放した。

 

「鳴狐えええーッ!!!」

 

 だが日本の三種の神器でなくても、地球限定だが最強の神様が振るう、伝説の武器である。

 ネームバリューはとんでもないし、こっちはこっちで市街地でぶっ放すには色んな意味でヤバすぎた。

 

 いつもの超速理解で、途中でコレも特大の危険物だと気づき、冷や汗をかく。

 狂化中だが、再び理性を総動員して、何とか制御を試みる。

 

 宝具の出力を抑え、天にも届く狐火の大半を、勿体ないが強制破棄した。

 下手に収束して小さくしたら、一刀両断したあとに大爆発が起きる未来がちょっと垣間見えたのだ。

 

 必殺宝具としては正しい運用方法だけど、流石にオーバーキルにも程がある。

 

 おかげで何とかビルサイズまで縮小し、怪物に叩きつける前にギリギリ間に合った。

 なお当然のように、巨大な化け物は真っ二つになった。

 さらに追加効果の狐火が、周りの肉塊を欠片も残さず焼き尽くしていく。

 

 必殺技を使って怒りゲージが減ったかは定かではないが、とにかく元凶を倒したので狂化が解除される。

 

 私は刀身にまとわせていた狐火を軽く払って消し、静かに息を吐く。

 

「はぁ……何だか、どっと疲れた」

 

 魔力も消耗しているが、何より精神的な疲労が半端ではない。

 私は心の中で、もう真名解放は懲り懲りだと愚痴ってしまう。

 

 

 

 太陽は、いつの間にか消えている。

 夜なのに真昼のように明るかった周囲一帯も、再び暗闇に覆われていたが、雲は吹き飛んだままであった。

 

 ちなみにいつも通り、対象のみを器用に焼いている。

 呪いや浄化の効果が付与されていると、こういう時に便利で良い。

 

 おかげで宝具を解放したり、振り下ろす際には突風が吹き荒れたが、それ以外は周辺に被害を出さずに済んだ。

 爆発もせず、敵が燃えただけである。

 

 そして他のサーヴァントが頑張って、怪物の上陸を阻止してくれていた。

 影響範囲や対象を絞り込むことができて、とても戦いやすかった。

 取りあえずそのことについて感謝を伝えようと、大声で呼びかけるのだった。

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