英霊の稲荷様   作:名無しのペロリスト

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雁夜vs時臣

<遠坂時臣>

 キャスターの暴走を止めないと、もはや聖杯戦争どころではなくなってしまう。

 教会が魔術での隠蔽工作や情報操作を行うが、物には限度というものがある。

 

 この前の児童集団誘拐事件も、かなり苦労した。

 全員無事に帰ってきたのは良いことだ。

 しかし巨大な狼を連れた、狐のお姉さんの噂が広まってしまう。

 

 なので何とか情報の改竄を行い、ようやく落ち着いてきた矢先のことだ。

 

 遠坂家の威信にかけて、とにかく早急に片付けないといけない。

 気難しい英雄王の機嫌を取るのは苦労するが、とにかく下手に出て頼み込んだ。

 

 効果はあって、巨大な化け物にゲート・オブ・バビロンで風穴を開けた。

 しかし傷口はすぐに塞がってしまったうえ、私への義理立てで渋々宝具を使い捨てたらしい。

 

 以降は、やる気の欠片もなくなってしまう。

 これ以上は見るに堪えないので、遠坂邸に帰ると言い出す始末だ。

 

 何とか考えを変えてもらおうと必死に説得するが、残念ながら失敗して英雄王の怒りを買ってしまう。

 

 慌てて謝罪して死を持って償う事態は避けられたものの、このままキャスターを放置したら目撃者が増えるどころか、大勢の犠牲者が出てしまう。

 令呪を持って命ずることも可能ではあるが、間違いなく英雄王との関係は決裂する。

 

 そうなれば、この先の聖杯戦争を勝ち抜くのは不可能だろう。

 そもそも失った令呪を取り戻すための謀が、今回のキャスター討伐なのだ。

 なのに何の利益も得られないなど、思惑が裏目に出るにもほどがあった。

 

 さらには近くの駐屯地から、自衛隊の戦闘機まで偵察のために飛んで来た。

 

 状況は刻一刻と悪化しつつある、その時のことだ。

 突然、青い火柱が天を貫き、周囲一帯の雲が残らず吹き飛ぶ。

 

「一体何が!?」

 

 私はすぐに状況を確認すべく、慌てて身を乗り出す。

 時刻は夜のはずなのに、真昼のように明るく照らされていた。

 

 術者の心象風景をカタチにして、現実を侵食する固有結界がある。

 だが周囲の景色はある一点以外は変わっていないため、この事象はもっと異なるモノだ。

 

「まさか! 対界宝具なのか!?」

 

 間違いない。直接世界を書き換えている。

 だがアレがもし一時的でも星々にまで影響を与えるとしたら、効果範囲は天体規模となる。

 

 流石にそれはあり得ないとは思うが、対星宝具の可能性もなくはなかった。

 

「一体誰が! あれは! バーサーカーか!」

「ほう、狂犬の怒りを買ったか! キャスターも運がない!」

 

 英雄王は、おかしそうにクックックと笑っている。

 だが私はその宝具が振り下ろされるのを見て、背筋が凍る思いだった。

 

「つくづく、人の身には過ぎた力よ。……だが、面白くはある。

 半神半人の狂犬は果たして、我と同じ高みに届きうるかな?」

 

 もしアレが全力で振るわれれば、聖杯戦争は完全に破綻する。

 周辺地域に、一体どれだけの被害がでるのか想像がつかなかった。

 教会の隠蔽工作も意味をなさなくなるだろう。

 

 聖杯戦争を再開できるまで、途方もない年月が必要になりそうだ。

 

 地上を明るく照らす太陽の輝きを、一つに束ねて放たれるのだ。

 周辺周囲が更地になるのは確実で、空を飛んでいる我々でさえ、無事で済む保証はなかった。

 

 このような決着は、断じて受け入れられるはずがない。

 

 幸い私の願いが通じたかはわからないが、怪物に当たる直前に炎の剣はビルほどの大きさに縮小され、被害もほぼゼロに抑え込まれる。

 

 目撃者が大勢出てしまったけれど、それだけで済んだのは不幸中の幸いだ。

 しかし今回の件でバーサーカーの脅威度が跳ね上がり、正体は相変わらず不明だが、英雄王を倒しうるサーヴァントとして認識するのだった。

 

 

 

 

 

 

<間桐雁夜>

 稲荷には古い友人に会うためと言い、俺は屋敷を出た。

 それは別に、間違ってはいない。

 

 だが、ただ話をするためではなかった。

 自分でもこの先の展開がどうなるかわからないのだ。

 

 しかし、遠坂時臣が自分の魔術工房を出る機会など、そうはない。

 これが最初で最後の機会かも知れないのだ。外は危ないからと、逃すには惜しかった。

 

 稲荷からは条件を出されたが、そのぐらいは飲むつもりだ。

 見た目は大型犬のような神獣。バーサーカーの眷族である狼は、離れた場所で待機してもらう。

 

 何かあれば呼ぶので心配はいらない。

 だが一緒に居ると、警戒して出てきてくれないかも知れないのだ。

 

 なので俺は一人で、ビルの屋上でただ静かに待っていた。

 どれぐらい時間が過ぎたのか、やがて古い知り合いが姿を見せる。

 

 そして開口一番で、いきなり俺を罵倒してきた。

 

「一度魔導を諦めておきながら、聖杯に未練を残し、結局諦めきれずに舞い戻るとは。

 今の君一人の醜態だけでも、間桐の家は堕落のそしりを免れぬ」

 

 コイツの性格的に、そう来るとは思っていた。

 だが予想はしていても怒らないわけではなく、こちらも大声で叫ぶ。

 

「遠坂時臣! 質問は一つだ! 何故貴様は! 桜を臓硯の手に委ねた!」

 

 これだけは、聞いておかなければいけない。

 もし聖杯戦争の最中で時臣が死んでしまえば、彼の心中は永遠にわからず終いだ。

 

「何? それは今、君がこの場で気にかけるべきことなのか?」

「答えろ! 時臣!」

 

 時臣の理由次第で、桜の未来が決まる。

 具体的には元の家庭に返すか、俺が引き取って面倒を見るかだ。

 

 それ以外にも道はあるだろうが、自分は子供を持ったことはないので、良くはわからなかった。

 

 しかし彼の答えが重要な意味を持つのは、間違いではない。

 

「はぁ、問われるまでもない。愛娘の未来に、幸あれと願ったまでのこと」

「なっ……何だと!?」

 

 まさかの娘のためという発言に、俺は何かの間違えかと思い、つい聞き返してしまった。

 

「二子を設けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。

 秘術を伝授しうるのは一人のみ、いずれか一人は、凡俗に落とさねばならないという、ジレンマになる」

 

 時臣が一体何を言っているのか、まるで理解できない。

 いや、違う。俺が理解を拒んでいるのだ。

 

 彼が言った通り、自分は魔導を諦めて逃げ出した男だ。

 そんな理屈を認められるはずがなかった。

 

「取り分け我が妻は、母体として優秀すぎだ。

 凛も桜も、共に等しく稀代の素養を備えて生まれてしまったのだ。

 娘たちは二人が二人共、魔導の家紋による加護を必要としていた。

 いずれか一人の未来のために、もう一人が秘め持つ可能性を摘み取ってしまうなど、親として……そんな悲劇を望む者がいるものか」

 

 つまり時臣にとっては、魔術師以外の全ては凡俗だ。

 ならば、あの親子三人で幸せそうに遊んでいた風景は、彼にとってはさぞ滑稽に見えていたことだろう。

 

「姉妹双方の才能について望みを繋ぐには、養子に出すしか他にない。

 だからこそ、間桐の申し出は天啓に等しかった。

 聖杯の存在を知る一族であれば、それだけ根源に至る可能性も高くなる。

 魔術師とは、生まれついてより力ある者。そして、いつしかさらなる力へと辿り着く者。

 その運命を覚悟するより以前から、その責任は血の中にある」

 

 そもそも価値観からして、俺と時臣は相容れない。

 彼の発言を聞くたびに、そのことをより強く自覚させられる。

 

「それが、魔術師の子として生まれるということだ。

 私が果たせなかったら、凛が。そして凛ですら至らなかったら、桜が。

 遠坂の悲願を継いでくれることだろう」

「貴様! 相争えというのか! 姉と妹で!」

 

 間桐と遠坂は、聖杯を奪い合う敵同士だ。

 当然、魔術師になれば、互いに殺し合う運命は避けられない。

 

「仮にそんな局面に至るとしたら、我が末裔たちは幸せだ」

「何っ!?」

「栄光は勝てばその手に、負けても先祖の家名にもたらされる。

 かくも憂いなき対決はあるまい」

 

 娘たちの幸せを願いながら、根源に至るためなら殺し合うことも良しとする。

 薄々気づいてはいたが、やはり遠坂時臣の考えは理解できない。

 

「貴様は! 狂っている!」

「語り聞かせるだけ、無駄な話だ。

 魔導の尊さを理解せず、あまつさえ、一度は背を向けた。……裏切り者にはな」

 

 確かに俺は、一度は魔導を捨てて逃げだした。

 裏切り者という発言も、否定はできない。

 

 だが桜ちゃんを救うために戻ってきた。今は聖杯戦争のマスターだ。

 忌み嫌っていた間桐の魔術を捨て、稲荷から新たな魔術を教わっている。

 

 もう、あの頃とは違う。

 自分の過去から逃げ出した、昔の俺ではない。

 

「俺は貴様らを許さない! 薄汚い! 魔術師どもめ!」

「君が家督を拒んだことで、間桐の魔術は桜の手に渡った。

 むしろ感謝するべき筋合いとはいえ、それでも私は……君という男が許せない!」

 

 こっちも同じ気持ちだ。

 俺と時臣は何度話し合っても、互いの主義主張が交わることはない。

 

「血の責任から逃げた軟弱さ。そのことに何の負い目も抱かぬ卑劣さ。

 間桐雁夜は魔導の恥だ。再び相まみえた以上、もはや誅を下すしかあるまい」

「ふざけるな! この人でなしが!」

 

 やはり人の道と魔術師の道は、似て非なるものだ。

 肉の体と心を持っている人間だが、根底はまるで異なる。そのことが良くわかった。

 

「違うな。自らに責任を負うのが、人としての第一条件だ。

 それが果たせない者こそ、人以下の犬だよ。……雁夜」

 

 時臣が赤い宝石をはめ込んだロッドを構えると、空中に魔法陣が出現した。

 それを中心に高温の炎が渦巻き、俺を焼き払おうと迫ってくる。

 

「昔の俺ではないぞ! 時臣!」

 

 稲荷によって強化された魔術回路に魔力を流し、複数の魔法陣を形成して青い炎を呼び出した。

 

 片手間に自由自在に操る彼女と比べると、児戯に等しい。

 それでも人の身には過ぎた力であり、神代の魔術を多少なりとも再現できるのは大きい。

 

「何だとっ!?」

 

 時臣が初めて驚愕の表情に変わった。

 奴の炎と俺の狐火が空中で激突し、拮抗する。

 

 このまま相殺して仕切り直しかと思いきや、狐火が時臣の炎を飲み込んで、さらに力を増していく。

 

「まさか! 私の炎を喰らっているのか!?」

「ははっ! 流石は稲荷直伝の神代の魔術だ!

 今後は間桐改め! 稲荷の魔術師とでも名乗るべきか!」

 

 やがて狐火は、時臣の炎を完全に喰らい尽くす。

 その勢いのまま、最初の倍ほどの大きさになって奴に襲いかかった。

 

「落伍者の分際で良く吠える!」

「ちいっ!」

 

 あと一歩というところで、時臣の展開した障壁に阻まれる。

 狐火はしばらく奴の周りで燃えていたが、やがて完全に消えてしまう。

 

 稲荷が使えば、たとえ壁に阻まれようと、対象を焼き尽くすまで決して消えない。

 だが今の俺では、この程度が限界だ。

 

 こんなことなら間桐臓硯に魔術を習っておけばと、一瞬だけ考えた。

 しかし、やっぱりあのジジイに教わるのはないわと思い直す。

 

 蟲の苗床となり、身体機能に異常をきたして命を縮める。

 たとえ死ななくても、己を蟲に変えて生き延びるなどごめんだ。

 

 最初は、俺の命は聖杯戦争が終わるまで保てば良いと考えていた。

 だが危ないところで、稲荷に助けられたのだ。

 

 そう考えると、やはり間桐臓硯は死んで正解だろう。

 そして自分が一度は魔導を捨てたのは、間違っていないと再確認する。

 

(しかし、どうしたものか)

 

 今の俺の魔術では、遠坂時臣の障壁を貫けない。

 小さな狐火を断続的に飛ばしてはいるが、あと一歩届かなかった。

 

 神獣の力を借りれば勝てるが、これは自分のケジメだ。

 死の危険が迫れば助力を請うのもやぶさかでなくても、まだ双方に余力がある。

 

 一対一で時臣を倒したかった。

 そうしなければ俺の気が済まないが、完全に自己満足だ。

 

(やはり俺は、魔術師にはなれそうにないな)

 

 感情に振り回され、魔術師としての責任を放棄する。だが、それで良い。

 俺はどこまでも人間らしく、極めて個人的なエゴを貫き通し、遠坂時臣を倒す。

 

(だが、やはり決定打に欠けるな。……ならば、一か八か!)

 

 先程、ビルの屋上から、天を貫く火柱がくっきりと見えた。

 魔力が急激に失われたので、慌てて万が一の備えとして持ち歩いている団子をドカ食いして事なきを得たが、アレは稲荷の宝具に間違いはない。

 

 一体どれだけ奥の手を持っているやらと呆れてしまう。

 しかしおかげで、ビルのように巨大な化け物が人々を襲う前に、たったの一撃で葬り去った。

 

 到底、自分に使えるわけはない。

 だがアレをほんの少しでも模倣できれば、遠坂時臣を倒すことも夢ではないだろう。

 

 咄嗟の思いつきなので、上手くいかないかも知れない。

 それでも、状況を打開するキッカケにはなりそうだ。

 

 やってみる価値はあると判断し、俺は狐火での攻撃を止める。

 

「実力の差を理解して諦めたか」

「いいや! 違うな! うおおおおおっ!!!」

 

 俺は不敵に笑い、雄叫びをあげながら時臣に向かって全力で走り出した。

 

「あれだけ息巻いておきながら、蓋を開けてみればこの体たらくか。君には失望したよ」

 

 こちらの攻撃が止まったことで、障壁を解除した。

 そして時臣は、再び炎の魔術を発動する。

 

「雁夜。私からの温情だと思え」

 

 先程よりも遥かに大きな炎が俺を飲み込もうとするが、予想通りだ。

 なので自分も魔術を発動して、右手に狐火を収束する。

 

「狐火には! こういう使い方もある!」

 

 俺がたった今出した青い炎は。稲荷の宝具よりもかなり小さい。

 短剣ほどのサイズしかなく、燃え方も不安定だ。

 

 恐らく数分足らずで制御できなくなって、暴発してしまうだろう。

 だが、それで十分だ。

 

 俺は時臣の火炎を、横薙ぎに払って真っ二つに切り裂く。

 さらに奴の魔力を喰らって、己の糧にする。

 

 短剣は倍ほどに成長したが、先程よりも不安定になった。

 この状態を維持できるのも、あと僅かだろう。

 

 だがそれで十分だ。

 俺は接近して剣を振り上げ、目の前の障壁を勢い良く斬りつけた。

 

「馬鹿な!? 障壁が!」

 

 時臣の障壁は、収束して威力を高めた狐火の攻撃に耐えきれなかった。

 ヒビ割れて砕け散る。

 

「くそっ! ここまでか!」

 

 だが、俺の魔術も限界だったようだ。

 奴の防御を突破した瞬間に、暴走して大爆発を起こすのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後のことは良く覚えていない。

 気づけば間桐の家に帰ってきており、ベッドで横になっていた。

 看病してくれていた桜ちゃんから事情を聞くと、護衛の狼が傷ついた自分を回収して連れ帰ってきたらしい。

 

 聖域の効果で、傷は完治して魔力も全回復したのはありがたい。

 だが狼に、時臣のことを聞いても首を傾げるばかりだ。

 自分を連れ帰るのに忙しく、余裕がなかったのだろう。

 

 だが俺は無事に生きているし、ならば奴も逃げ延びたと考えるべきだ。

 しかし己のエゴを貫くために戦いを選んだのは良いが、あの時は頭に血が上っていて冷静には考えられなかった。

 振り返ってみると、いくら何でもやり過ぎだ。

 

 俺はベッドに横になりつつ、大きな溜息を吐く。

 すぐ近くで、心配そうな顔をしている桜ちゃんに声をかける。

 

「桜ちゃんに聞きたいんだが、遠坂家に戻りたいかい?」

「戻りたくない! 私はお母さんと雁夜お兄さんと一緒がいい!」

 

 小さな子供が悩むことなく、はっきりと言い切ったことに、俺は驚いてしまう。

 

 自分は、まだまだ子供だったようだ。

 桜ちゃんは遠坂の家に帰って、また家族で仲良く過ごすのが、彼女にとっての本当の幸せだと思っていた。

 

 だが時臣や葵さんを前にすると、感情的になってしまう。

 しかし、これは己の性格でもあるため、直すのは難しそうだ。

 

「わかった。桜ちゃんは間桐の家の子だ」

「何を言ってるの? 私はずっと間桐桜だよ?」

「そうだったな。間違えてごめんな」

 

 間桐臓硯が養子にしていたのは知っていた。

 だが俺は頑なに、桜ちゃんは遠坂家に返そうとしていたが、今はもうそんな気は毛頭なくなっている。

 

 自分の中で、あの家には返したくないと結論が出ていた。

 それに桜ちゃんも、今の間桐家を気に入ってくれている。

 

 ならば、このまま三人で仲良く暮らすのも良いだろう。

 

「でも、まずは聖杯戦争を勝ち抜かないとな」

「雁夜お兄さん、頑張って」

「ああ、桜ちゃんのためにも頑張るよ」

 

 稲荷も協力してくれているし、桜ちゃんのためにも負けられない。

 俺は決意を新たにしたのだが、ここでふと気づいて率直に質問する。

 

「ところで稲荷はどうしたんだ? 姿が見えないが」

 

 普段ならマスターである俺が目覚めたら、ひょっこり顔を見せるはずの稲荷を見ていない。

 キャスターの討伐はとっくに終わっているのに、屋敷に帰っていないのはおかしかった。

 

 何故ならあれ程の宝具を使っておいて、バーサーカーが全く消耗していないはずがないからだ。

 もちろん俺も団子をドカ食いして補充したが、それでも到底足りない。

 

 なので稲荷も自前の魔力をかなり消耗し、もっと言えば大立ち回りをしたので肉体的な疲労もしている。

 

 だからこそ聖地に留まることで、少しでも回復に努めるのが普通だ。

 しかしマスターである自分が目覚めたのに姿が見えないため、もしかして彼女も無理をしすぎてグロッキー状態になり、ベッドで休んでいる可能性もある。

 

 

 

 なので少し心配になり、桜ちゃんにそのことについて尋ねた。

 

「お母さんなら、ちょっと気になることがあるからって、また外に行ったよ」

 

 こっちは心配したのに、ちょっと気になることって何だよと思った。

 しかし稲荷は説明が難しいときや、自分でも良くわかっていないときに、適当な発言で流すことを知っている。

 

 まだ付き合いは長くはないが、それでも何となくだが彼女の考えていることがわかるようになってきた。

 

 なので今回も多分、田んぼの様子が気になるから見に行ったぐらいの感じだろう。

 帰ってきてから、何があったのかを尋ねれば良い。

 

 桜ちゃんも俺の看病に忙しいのか、彼女の心配はしていないようだ。

 

 まあ稲荷は、色んな意味で規格外のサーヴァントである。

 滅多なことではやられないと、信頼しているからもあった。

 

 相当消耗しているはずなのに、ちょっと気になるからと躊躇うことなく外出するとは、ある意味では狂戦士であった。

 

「そうか、まあバーサーカーなら大丈夫だろう」

 

 とにかく今日は色々あって疲れた。

 聖域の恩恵で傷は癒えて、魔力も回復はしてはいる。

 だが、それでも万全には程遠い。

 

 なので俺はもう一眠りさせてもらうことにして、桜ちゃんにも看病はもう良いので明日に備えてゆっくり休むように伝える。

 その後は部屋の電気を消して、自分も横になって目を閉じ、体力の回復に努めるのだった。

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