英霊の稲荷様 作:名無しのペロリスト
巨大な化け物を真っ二つにしたことで、肉塊に身を潜めていたキャスターも、当然のように焼き尽くされる。
対魔力が高ければ生き延びる可能性はあるが、それでもビームサーベルを生身の人間に使うようなものだ。
ギャグ漫画の住人か地球防衛軍の市民なら普通にピンピンしていても、直撃したサーヴァントは間違いなく即死だろう。
少なくとも、巨大な化け物は跡形もなくなっている。
灰も残さず焼き尽くされて、近くにキャスターの魔力反応はない。
ついでに私たちが戦っている間に、キャスターのマスターは狙撃されて死亡したようだ。
サーヴァント以外が死ぬのはあまり気分は良くないが、彼らは多くの子供を惨たらしく殺し続けた。
なので間桐臓硯と同じく、アバロンのダニが一匹減ったので清々しい気持ちである。
これがバーサーカーに引っ張られているせいだと思いたいが、蟲のお爺さんと一緒で残当と言う他ないので気にしないことにした。
とにかく、戦いは終わった。
宝具の鳴狐を消した私は、この場に集まったサーヴァントにはっきりと告げる。
「用事も済んだので、私はこれで失礼させてもらいますね」
「何だ。バーサーカー、もう帰るのか」
ライダーが戦車をゆっくり降下させ、私の前に止まる。
「食事の準備中に呼び出されたので、まだ夕食ができていないんです。
あと、単純に色々あって疲れました。もう家に帰って休みたいです」
間桐家の家事は私の担当で、朝昼晩と毎日食事を作っている。
いざという時の作り置きは用意してあるが、雁夜おじさんも桜ちゃんも食卓は皆で囲む派だ。
自分の帰宅を待っている可能性も、なくはなかった。
事前に外出すると告げているから、先に済ませてくれている場合もある。
でもやっぱり心配だし、宝具の真名解放で実はかなり消耗している。
自前の魔力で賄うのは限度があり、申し訳ないが雁夜おじさんにも負担してもらっている。
なのでさっさと帰宅して回復しないと、もし今戦闘になったら非常に困るのだ。
「何だか所帯染みておるのう」
「家事は私の担当ですからね」
雁夜おじさんとの契約だけならまだしも、小さな女の子の面倒も見ている。
そして片方は成人しているが、五百年近くも生きている自分と比べれば子供のようなものだ。
家事を取り仕切るのは経験豊富な私がベストだし、特に異論はない。
「そういうことで私は帰りますので、あとのことはよろしくお願いしますね」
幸い、この場に居る私の他の三人のサーヴァントとは意思疎通ができているので、反対意見はでなかった。
キャスターを討伐して停戦協定が終わったからと、いきなり殴りかかってこなくて本当にありがたい。
まあその場合は逃げるが勝ちと、全力ダッシュで家に駆け込むので、結局目的地は変わらないのだが、そんな事態にはなっていないので一旦置いておく。
「バーサーカー! 今日は助かりました!」
「ではな! また戦場で相まみえよう!」
「いえいえ、当然のことをしただけですし。お気になさらずに」
私は定例通りの社交辞令を返して、犬ぞりを呼び出して飛び乗る。
狼たちに間桐家に帰るように指示を出し、空を飛んで少し遅い時間に帰宅するのだった。
間桐家に帰ってくると、桜ちゃんはおかえりなさいと言って、嬉しそうに迎え入れてくれた。
ちょっと身長が足りない気がするが、母親代わりとして頭を撫でる。
しかし、雁夜おじさんはまだ外出中で帰っていない。
少し心配なので、護衛の狼を通して見てみる。
どうやら遠坂時臣と会っているらしく、難しい話をしていた。
私には付いていけそうにないので、何かあったら教えてくださいと念話を送っておく。
気分的にはメール連絡のようなものであり、以降は友人との語らいを邪魔するのも悪いので接続を切る。
プライバシーの侵害になるし、他人のプライベートには興味はないし、いちいち監視するほど暇ではないし面倒なのはごめんだ。
とにかくその後は、途中になっていた晩御飯の準備を再開する。
家事仕事をしている間に、魔力や疲労は自動回復するので、聖地を構築して良かった。
ちなみに、桜ちゃんも手伝ってくれた。
完成したあとは、雁夜おじさんの分は取り分けて冷蔵庫に入れて、先に二人でいただく。
食べ終わったあとは居間でのんびりし、親子でお風呂に入って体を洗う。
さっぱりして自室に移動し、桜ちゃんの好きな絵本を読み聞かせる。
最近はいつの間にかベッドに潜り込むことも多くなり、仕方ないので一緒に寝るようになった。
それが、ここ最近の日常である。
しかし今日は少々異なり、絵本の朗読中にあることが気になった私は、窓の外をじっと見つめる。
「どうしたの? お母さん」
「いえ、まあ、何と説明したものか。
んー……ちょっと気になるので、少し出かけてきます」
私はそう言って立ち上がる。
桜ちゃんには戸締まりをきちんとして、今日はもう寝るように伝えておく。
「まだ万全とは言い難いですが、別に戦闘に行くわけではないですし、別に良いでしょう」
少なくとも私は、今日はもう戦う気は全く無い。
取りあえず外に出て本日何度目かの犬ぞりを召喚し、気になった地点に飛んでいくのだった。
目標地点に近づいて目を凝らすと、廃墟でセイバーとランサーが戦っている。
サーヴァントの自分は、己の眷族を感知できるのだ。
なので雁夜おじさんや桜ちゃん、アイリスフィールの位置も補足できるし、状態も知ることができる。
まあプライバシーの侵害はしたくないので、普段はスルーしていた。
それでも普段と違う動きをしていると、何となく気になってしまう。
今日は各陣営の英霊もマスターも疲れているので、各々の拠点で休むと思っていた。
しかし、セイバーのマスターは冬木市の外れに向かっている。
何を企んでいるにしても、プライベートの可能性もあるし普段なら放っておく。
ただ今は雁夜おじさんが不在で、自宅警備員としてマスターを守るという任務もない。
たまには覗いてみるのも良いかと、ホイホイ来たわけだ。
(なるほど。騎士の本懐ってやつかしら)
一対一の正々堂々の果たし合いだ。
私は騎士ではないが、スポーツマンシップに則っての試合形式は嫌いではない。
お互いに対等の条件で戦ったのなら、たとえ負けても悔いは残らないだろう。
私は気づかれないように空からのんびり見物していると、影でコソコソ動いている人たちを見つける。
(あれ? ランサーのマスターが脅されてる?)
建物の影になって見えにくいが、目を凝らすと朧気だが見えてくる。
まあそんな気がするだけかも知れないけど、怪我をした女の人に銃を突きつけて脅していた。
どうやらランサーのマスターと並々ならぬ関係のようで、そこから先は考える前に体が動いていた。
犬ぞりで廃墟に突っ込んで破壊し、衝撃と砂煙で視界が一時的に塞がる。
怪我をしている女性と、ランサーのマスターを確保して急速離脱した。
「お前はバーサーカー!」
「どうしてここに!」
命がけの戦いをしていたセイバーとランサーも、突然の乱入者に驚きの声を出す。
そして犬ぞりに新しく二人を乗せて空中に留まる私を見上げて、戦いを止めて固まっていた。
「バーサーカー! お前まさか! マスターを人質に取る気か!」
「いえ! ランサー! バーサーカーは確かに、突拍子もない行動ばかりですが!
そんな非道な行いは絶対にしません! 私とアイリスフィールが保証します!」
どうやらセイバーは信じてくれるようだ。
だが片腕を失った女性と同じように、車椅子に乗っていた男性も、先程の衝撃で全身がボロボロになって気絶している。
だから内心で、もし信用されずに戦いになったらどうしようと、ビクビクしていた。
「バーサーカーは敵である私の命を助けてくれたわ!
だからサーヴァントはともかく、マスターには決して危害を加えたりはしないわ!」
アイリスフィールの援護も受けて、ランサーはまだ警戒はしているが、納得してくれたようだ。
取りあえず砂埃も収まってきたので、犬ぞりをゆっくり地上に降下させる。
そして勝手に拉致した二人を、ランサーに返す。
「どうぞ」
「いっ、いや、自分で言っておいて何だが、どうぞと言われてもだな」
ランサーは女性と男性の二人を交互に見つめている。何か、迷っているようだ。
私は少しだけ考えたが良くわからなかったので、取りあえず直感で喋りかける。
「こちらの方が令呪を持っています。なので、貴方のマスターではないんですか?」
「確かにその通りなのだが、今はそうでもないと言うか」
私はコテンと首を傾げる。
セイバーとアイリスフィールも、良くわかっていないようで困惑している。
「つまり、今はマスターが二人居るということなのかしら?」
「はっきり言ってしまえば、そうです」
アイリスフィールの疑問にランサーが肯定するので、何やら複雑な事情があるようだ。
しかし自分の陣営のことを正直に答える辺り、人が良い。
だが、その辺りのことは私には関係ない。
取りあえず文明の保管庫から救急用品を出して、二人を地面に置いた簡易ベッドに寝かせる。
本来なら病院に連れて行くべきだが、一刻を争うのでこの場で処置したほうが手っ取り早い。
「バーサーカーがここに来た目的も気になるが、まずは治療が先決か」
「私も手伝うわ」
「ありがとうございます。それでは処置を始めますので──」
セイバーとランサー、それにアイリスフィールに助けてもらいながら、私は二人の治療を行う。
こう見えて本職の医者ではなくても、戦国時代は成り行きで医療学校を運営したり、第二次世界大戦時で看護師を経験済みだ。
そんなやらかしのせいで、医療の神様にもなっている。
狐の毛を取り込んだ際に回復力が物凄いのは、その影響を受けているのもあるだろう。
とにかく二人を治療しながら、自分がここに来た目的と、マスターが狙われていたことを話す。
幸い不審者は、犬ぞりの突進でダメージを受けている。
今すぐには、この場を離れられなかったようだ。
「……切嗣。やはり貴方だったのね」
瓦礫の向こうに見知った人を見つけたようで、アイリスフィールは反応した。
「そう言えばアイリは、僕の仕事を見るのは初めてだったね」
不審者も辛うじて歩けはするが、決して軽い怪我ではない。
どうやらセイバー陣営の一人のようだけど、事情を聞くより先に治療するべきだ。
「いや、僕には必要ない。アイリに治療してもらうよ」
「……私は別に構わないけど」
私もいちいち包帯を巻いたりするのは面倒だし、自分でやってくれるならそのほうが良い。
やけに大人しい襲撃犯に疑問を抱きながらも、手間がかからなければ別に良いかと適当に流す。
だけどその前に、スルーできないことがあるので、はっきりと告げる。
「それと建物の裏に隠れているもう一人にも、出てきて欲しいんですけど」
「なっ!? ……舞弥。大人しく出てきてくれ」
「……はい、切嗣」
油断なく銃を構えている女性が、建物の裏から姿を現した。
彼女はとても沈痛な表情をしているけど、これから襲撃犯として裁かれるので無理もない。
でも、聖杯戦争のルール的にはセーフだ。
たまたま目にしたから止めただけで、そういうのは自分にバレないようにやってくださいである。
「僕としたことが、アイリが探知される可能性を見落としていたよ。
セイバーの怪我、それにランサーを倒す絶好の機会に、焦っていたようだ」
何だか知らないが、切嗣という人が勝手に自供を始めた。
セイバーとランサーとアイリスフィールは戸惑っているけど、舞弥さんは彼と同じく暗い顔をしている。
私はと言うと、どうでも良いけどこの人、目が死んでるなと思った。
「それでどうする? 君に歯向かった僕たちを、用済みだと始末するのかい?
なら虫の良いのは重々承知だが、どうかアイリを殺さないで欲しい。
せっかく聖杯戦争から解放され、自由に生きられる機会を得たんだ」
どうやら彼は、私に懇願しているようだ。
しかし正直、何が何だかわからない。
さらにアイリスフィールはまだ十年も生きていないようで、見た目とのギャップがありすぎる。
そのまま、しばらく切嗣の独白が続いた。
だが、いい加減に面倒になったので喋るのを止めさせて、私ははっきりと告げる。
「何を勘違いしているのか知りませんけど、私はアイリスフィールを殺すつもりはありません。
せっかく助けたのに自らの手で始末したら、それこそ目覚めが最悪ですよ。
……まあ、一応敵対関係ですし、是が非でも助けたいわけでもありませんけど」
彼女とはただの知り合いでしかなく、敵対もしている。
だがそれでも見捨てる気はないので、助けられるなら助けたかった。
「目の前で死なれるのは、やっぱり嫌ですね。
サーヴァントと違って、死んだら終わりですし」
私が死んだら英霊の座に戻るわけではなく、本体の元に戻る。
それでも知識や経験を引き継ぐことができる。
ついでに、また天照大御神様に無茶振りされないとも限らない。
「本当に、……殺さないんだな?」
「だから、殺しませんって。貴方は私を、一体何だと思っているんですか。
ああ、バーサーカーでしたね」
我ながら、上手いこと言ったとちょびっと思いはした。
しかし笑いは取れずに、普通に受け取られたようだ。
「逆にどうして、そこまでマスターを殺すのに拘るのかが気になりますね。
聖杯戦争に勝つためなのは、わかりますけど」
しかしセイバーは強いし、負傷していてもランサーに負けるとは思えない。
令呪を使ったり、時の運にもよるので、勝利を確実にしたいのかも知れなかった。
私は文明の保管庫から椅子と机とペットボトルの温かいお茶と、それに人数分のコップを取り出す。
長話になりそうだし、飲みたい人は勝手に飲んでくれ的な感じで適当に配る。
「マスターを殺すだけでは別のサーヴァントが、そのマスターと再契約する可能性がある。
だからマスターとサーヴァントを、同時に始末する必要があるんだ」
素直に説明してくれたのが少し意外だ。
だが確かに、その理屈ならマスターを殺そうとするのもわかる。
ただ手っ取り早く勝利する以外にも、理由があったようだ。
「だが、バーサーカーは気に入らないようだね。
栄光だの名誉だの、そんなものを嬉々としてもてはやす殺人者ではなさそうなのに、どうしてだい?」
何故と言われても、別に目の前で人が死ぬのは嫌なだけだ。
サーヴァントは召喚されたときから殺し合う定めだが、マスターは違う。
偶然巻き込まれただけの人もいるし、自分から参加したにせよ、それは別に死ななくて良い命だ。
だったら聖杯戦争が終わったあとに、生きていても構わない。
「アイリスフィールを助けたのと、同じ理由ですよ」
ちなみに私の横で、セイバーとランサーが青筋を立てている。
しかし今は、私と切嗣が話しているので空気を読んで黙っていてくれるようだ。
「……そうか。ならバーサーカーは、人を助けて後悔したことはあるかい?」
「どういうことですか?」
彼の発言の意味がわからず、率直に尋ねてみる。
「目の前の人を助けたことで、別の人が犠牲になる。……と言うことだ」
「なるほど。……そうですねえ」
私は少し考えながら、整理するために口に出していく。
「私は大勢の人を、死の運命から救い出しました。
そんな彼らが別の場所で他者を虐げ、殺していたら、それはとても悲しいです」
平穏な暮らしを求める私は、そんな難しいことは考えたこともなかった。
だが、そういうのもあるかもと納得はできる。
なので彼には、自分なりの答えを話して聞かせる。
「でも、後悔はしません。
今自分にできることを、全力で取り組んだ結果なのです。
時には失敗することもあるし、想定外の事態も起きます」
私だって結果的には上手くいっているが、実のところアヒルのバタ足だ。
水面下ではヒーヒー言っているし、個人的には大失敗なのも良くあった。
そのことに嘆いたり後悔をしていないと言えば嘘になるが、割り切ってはいた。
「けれど、失敗を恐れて歩みを止めたら、私が望む未来は永遠に訪れません。
だから何度間違えようと、これからも人を助け続けます。
切嗣さんが、どんな過去を経て今の考えに至ったのかは、知りませんけどね」
ついでに、彼の過去には微塵も興味はない。
衛宮切嗣には悲しき過去なんだろうなと、容易に予想がつくからだ。
そんな重い設定は聞きたくないので、できればスルーしたいところである。
「大体、神として崇められている私でも、大勢の命を取りこぼしてるんですよ?
切嗣さんが人を助けられなかったからと、自責の念に苛まれるなんて、思い上がりも甚だしいです。
貴方は、そんなに偉くて凄いのですか?」
五百年近く最高統治者を続けてきて大勢の人を救ってきたが、やはり助けられなかった人も存在する。
全体としてみればごく僅かだろうけど、それでも衛宮切嗣が救えなかった人よりも圧倒的に多い。
桁がいくつ違うのかまでは、正確に数えていないのでちょっと想像がつかない。
でもそのおかげで、彼の願いに何となくだが見当がついた。
「だから、聖杯を求めたんですか。
例えば万能の願望器の力で、この世界から争いをなくすとか?」
何となくだが、これが近いような気がした。
切嗣は否定も肯定もしなかったので、多分合っているのだろう。
「良い願いじゃないですか。叶うと良いですね。応援してますよ」
にっこり微笑んで、彼の願いを肯定する。
切嗣と舞弥、さらにアイリスフィールが驚きの表情を浮かべた。
「応援して、……くれるのか?」
「ええ、私も平穏な暮らしを望んでいますしね。
本当に、何で聖杯戦争に参加しているのやらですよ」
何でやろうなあと遠い目になってしまう。
しかし現状を嘆いても始まらないし、私は気を取り直してコホンと咳払いをする。
「貴方の事情はわかりました。
ですが、私個人としてはマスターの殺害は認めることはできません。
しかしそのような権限は持っていませんし、口で言って止まるものでもないでしょう」
切嗣と舞弥とアイリスフィールは、緊張のあまり冷や汗をかく。
だが私は全く気にせず、続きを話していく。
「交換条件ならどうですか?」
「交換条件?」
「ええ、私はアイリスフィールの命を助けました。
そのことに少しでも感謝しているのなら、貴方たちはランサーのマスターに、今後一切手出しをしないことを誓って下さい」
一人と二人の命では、交換条件としては割に合わない。
なので私はもう少し何かないかなと考えて、あることを思いつく。
「ランサーが聖杯戦争から脱落した場合、私が新しいサーヴァントとの契約を阻止します。
それでも契約してしまったら、責任を取って倒します。……これでどうでしょう?」
たった今思いついた契約条件なので、正直自信はない。
しかし意外なことに、切嗣たちよりも先にランサーが反応する。
「バーサーカーが守ってくれるなら心強い。
もちろん最後まで勝ち抜くつもりではあるが、もし脱落してしまったら、マスターたちのことをよろしく頼みたい」
「ええ、まあ……ですが、それは彼が契約条件に納得してくれたらですね」
切嗣はかなり迷っているようだ。
私のことが、信用できないのもあるだろう。
そして、次は騎士王が静かに頷く。
「私も問題ありません。騎士として正々堂々戦い、ランサーに勝利してみせましょう」
セイバーも問題はないようだが、やはり結局は切嗣が納得するかどうかだ。
「その契約が、嘘偽りない保証は?」
「私は嘘が嫌いですし、嘘をつくのも苦手です」
ただし嘘はつかないが、言っていないことはたくさんある。
あとは拡大解釈すれば事実になるし、自分の発言は大体本当のことですと誤魔化しておく。
そして切嗣はアイリスフィールを心配そうに見つめると、彼女はにっこり微笑みながら彼の手を取った。
「……わかった。結ぼう。その契約を」
「そうですか。信用してくれて、ありがとうございます」
ただし止めたのは切嗣たちだけで、他の陣営はまだマスターを狙っている。
流石に口出しする気はないが、目の前で殺そうとしていたら、また待ったをかけるだろう。
「では、セイバー! ランサー! 戦いの続きをどうぞ!
私が見届人になりましょう!」
「そう言えば、戦いの最中でしたね」
「そうだったな。色々あって、すっかり忘れていたが」
私が戦いの開始を告げたあとは早かった。
切嗣やアイリスフィールが止める間もなく、凄まじい打ち合いが始まる。
そして令呪を使って止めようか迷っていたようだが、結局そのまま見届けることにしたようだ。
二人の戦いはとても長く続き、双方が深く傷ついた。
しかし、最後に立っていたのはセイバーだ。
「見事……だ! 最後に、貴公と戦えて良かった!
主に聖杯は捧げられなんだが! 生前は果たせなかった、騎士の本懐を遂げられた!」
「ランサー! 貴方は本当に強かった! 私は生涯、その名を忘れることはないでしょう!」
ランサーは満足そうな表情で、血を吐いた。
これ以上はもう、戦えないどころか死が迫っている。
「バーサーカー! どうか我が主を!」
「私が生きている限り、そして聖杯戦争が終結するまで、彼らを守ると誓いましょう」
彼は最後に私に笑いかけ、そしてマスターの二人に静かに頭を下げて礼を尽くす。
「主の望みを叶えられず、申し訳ありません。それでも私は──」
最後まで言い切ることは叶わなかったが、私たちは何を言いたかったのかはしっかり伝わった。
ランサーの体は霧散し、完全に消滅する。
イイハナシダナーと思いはするが、私は正直困っていた。
行き当たりばったりで契約を結んだのは良いものの、どう扱うかは全く考えていなかったのだ。
(取りあえず聖杯戦争が終わるまで、間桐の屋敷に監禁は確定かな)
彼らの監視は、狼たちに任せれば良いだろう。
あと、ちょうど魔術師の教師が欲しかったところだ。
私は魔術のまの字も知らないし、雁夜おじさんは付け焼き刃、桜ちゃんは魔術師見習いのため、良く今まで生き延びて来られたものである。
そう考えると、行き当たりばったりの思いつきとはいえ、良い契約だったかも知れない。
ランサーのマスターの雇用条件は、怪我や魔術回路の治療で良いだろう。
私はそんなことを考えながら犬ぞりを召喚して、この場の皆に別れの挨拶をする。
そして、相変わらず気を失ったままの二人を乗せ、間桐の屋敷に戻るのだった。
日間ランキング14位、ありがとうございます。
誤字脱字機能ボタンを使ってくださる方々、感想をくださる方々には、いつも大変お世話になっております。感謝。
この下は作者の雑記です。興味がない方は読まずに飛ばしてください。
ギルガメッシュ君だけでなく、フェイトキャラは難しい言い回し多用するので、そのたびにウンウン唸って辞書を引きながら執筆してます。
作者の理解力不足で、目的の漢字がなかなか見つからないことも多い。
完結まであと少しですし、このまま投稿を続けますね
この先もお見苦しい箇所が多々あると思いますが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。