英霊の稲荷様   作:名無しのペロリスト

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策略

 色々あってランサーが脱落し、マスターの二人を保護という名の監禁することになった。

 雁夜おじさんと桜ちゃんは驚いたが、私の突飛な行動にも大分慣れてきたようだ。

 

 聖杯戦争中だけならと、かつて蟲が蠢いていた地下室に放り込んでおく。

 ただ流石に、そのままではない。

 文明の保管庫から、彼らの祖国っぽい内装を、適当にピックアップして配置しておいた。

 

 傷はアイリスフィールが治療したので、ほぼ治っている。

 少なくとも命に関わるようなものではないため、病院に連れて行かなくて済んだのは何よりだ。

 ただし魔術回路がズタズタなのは治せなかったし、彼女さんの腕も失っていたので、最悪そこは自分が何とかする予定である。

 

 交渉は私がするから、雁夜おじさんと桜ちゃんの出番はない。

 しかしやはり心配なのか、後ろに控えていた。

 

 やがて二人が目覚めると、知らない場所で寝ていて、敵のサーヴァントとマスターが居ることに驚く。

 しかしパニックになって騒がれると面倒なので、鳴狐を喉元に突きつけて強制的に黙らせる

 

「今から貴方たちの現状を説明しますの。良く聞くように」

 

 二人は青い顔をして、震えながら頷いた。

 私は気を失っている間に、何が起きたのかを簡単に語って聞かせる。

 ついでに少し長くなるのでコップに水を注ぎ、喉の渇きを潤して少しでも落ち着いてもらった。

 

 どれぐらい話したのか、今初めて名前を知ったケイネスがポツリと呟く。

 

「……そうか。我々は負けたのだな」

「ええ、ランサーは敗れました。最後にマスターの望みを叶えられず、申し訳ないと」

「いや、ランサーは良くやってくれていた。私がいたらなかったのだ」

 

 ガチガチにプライドが高い魔術師だと思った。

 だが意外なことに、自らの敗北を真摯に受け止めている。

 そのことに私は、ちょっとだけ驚いた。

 

「だが何故、脱落した我々を拉致した。

 利用価値などなく、排除したほうが、そちらのマスターも喜ぶであろう」

 

 ランサーの遺言だし、切嗣との契約でもあった。

 あとは私が、無駄に命を奪うのを良しとしないのだ。

 

「軽はずみに命を捨てるような真似は止めてください。

 私は守ると誓ったのです。今さら殺す気はありません」

 

 聖杯戦争が終わるまでは、彼らの身柄を保護というか拉致して外との接触を断つ。

 

「……甘いな」

「ならば、その甘さに命を救われたこと自覚し、せいぜい恥辱を感じてください」

 

 ケイネスは少しだけイラッとしたようだが、婚約者のほうは青い顔をしている。

 私の怒りを買ったら、その場で斬り捨てられると思っているのだろう。

 

「とにかく貴方たちは、本来なら死んでいたところを、私に救われました。

 ならその命をどう使っても、私の勝手というわけです」

 

 別に本当に、そんなことを思っているわけではない。

 だがこのままプライドをへし折るために、舌戦を続けても時間の無駄だ。

 

 聖杯戦争はまだ終わっていないし、いつまでも二人の面倒を見ているわけにはいかない。

 

「ですが、私が何を言おうと、素直に従う気はないのでしょう?」

「ならばどうする? 服従のギアスで縛るか?」

 

 切嗣がやったように、魔術師同士が合意の上で正式に契約を交わすのだ。

 絶対に破ることができないギアスで縛れば、こちらの言う事を聞かざるを得ない。

 

 まあ私はそんなことはできないが、何かそういうのがあるらしいとは聞いていた。

 

「いいえ、ギアスは使いません。

 ですがもし、私が貴方たちの治療が可能だとしたらどうですか?」

「できるのか!? 私は再び! 魔術師に戻れるのか!?」

 

 体は殆ど動かないのに、凄い食い気味に来られてちょっと引く。

 だが今は交渉中なので顔には出さないように平静を装いつつ、続きを話していく。

 

「ええ、できますよ。

 ただ何もかもが、元通りとはいきません」

「そうであろうな。だがたとえ完治でなくても、今一度魔術を扱うことさえできれば──」

 

 ケイネスはかつての天才魔術師には及ばなくても、落ちこぼれからやり直せると考えている。

 だが彼にとっては、魔術を使えるのが重要なのだ。

 どれだけ困難でも、石に齧りついても一から築き上げていくつもりだろう。

 

「私は魔術回路を修復するのではなく、上書きします。

 なので、元通りではないと言いました」

 

 ケイネスも婚約者も良くわかっていないようだ。

 困惑した表情をしている。

 なので、わかりやすくはっきりと告げる。

 

「貴方には、私の眷族になってもらいます」

「眷族になれば、再び魔術が使えるようになるのか?」

 

 雁夜おじさんと桜ちゃんは、私の眷族になったことで魔術の属性が変わってしまった。

 なので、新しく一から築き上げていく必要があったのだが、蟲よりはマシだ。

 あとは別に全く使えないわけではなく、元の魔術は相性が悪い程度だった。

 

「魔術回路を上書きしますので、これまでの技術や経験はガラクタ同然になるでしょう」

 

「構わない。今の私は、魔術師としてとうに終わっている。

 それでもみっともなく縋りついていたが、ランサーを失った今となっては──」

 

 ケイネスは余程悔しかったようだ。

 両手で顔を押さえ、静かに泣き出してしまう。

 思わぬ弱さを見せた彼に、婚約者は驚く。

 しかし、慈しむような表情で静かに寄り添って抱きしめる。

 

 こういうのを、雨降って地固まると言うのだろう。

 

 だが私たちは、一体何を見せられているんだと、今度はこっちが困惑してしまう。

 あと、話が進まない。

 今のうちに毛を二本抜いて神気を込め、準備だけは済ませておく。

 

 やがて泣きやんでイチャイチャしだした。

 いい加減にせいやと、わざとらしく咳払いをする。

 

「とにかく貴方たちは、今から生まれ変わります。

 この毛には私の加護が込められていて、飲み込めば傷ついた肉体や魔術回路を修復してくれます。

 ただし私の眷族に近づくということは、人から遠ざかることを意味します」

 

 彼らに毛を渡して、どちらを選ぶかは自由意志に任せる。

 これで断ったら交渉失敗だが、流石に無理強いはできない。

 誰だって人間を辞めたくはないし、私はいつでも普通の女の子に戻りたがっている。

 

 なので良く考えるようにと続けようとしたが、ケイネスたちは一切の躊躇をせずに飲み込む。

 

「思い切りが良すぎる!」

 

 あまりにも急なことだったので、ついポロッと口に出てしまった。

 しかし彼は私以上に驚き、ベッドから突然立ち上がって大声を出す。

 

「おおっ! 私の体が! 動くぞ!

 それに全身を流れる魔力量! 前よりも遥かに良好な魔術回路!

 根源にまた一歩近づいたぞ!」

「失った腕が戻ったわ! まさに奇跡だわ!」

 

 そのまま大声で笑いだす二人に、私と雁夜おじさんは引きつった表情でドン引きする。

 さらに嬉し涙を流して喜びを共有しているし、桜ちゃんは小さな胸を張って得意気だ。

 

 何とも混沌とした空間ではあるが、これなら契約上は問題なさそうだし、取りあえずヨシとする。

 

 

 

 その後は二人揃って、私の前に跪いて永遠の忠誠を誓い出す。

 雁夜おじさんが俺たちもやった方が良いかと尋ねてきたので、私が恥ずか死ぬから止めてくださいと断固拒否する。

 

 だが、魔術の先生役は快く引き受けてくれた。

 契約上は聖杯戦争の間だけだけど、予期せぬ出費には違いない。

 無駄飯食いにならずに済んで良かったと、安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 

 それから少しの間、平穏な日々が続いた。

 だがやがて、状況が動き出す。

 

 眷族の一人であるアイリスフィールに危機が迫っていることを感じ取った私は、急ぎ犬ぞりを走らせて衛宮邸に向かった。

 しかしあと一歩で間に合わず、残念ながら攫われてしまったようだ。

 

 もちろん居場所の追跡は可能だが、その前にやることがある。

 私は土蔵の中に入り、血だらけになって倒れている切嗣の相棒である舞弥に近づく。

 だがその前に、何故かセイバーが転移してきた。

 

「ここは!? それにバーサーカー!? 何故ここに居る!」

「アイリスフィールに危機が迫っていることを感知したので、助けに来ました!」

「全く! 貴方という人は! 何処までもお節介焼きですね! ありがとうございます!」

 

 セイバーが苦笑しながらお礼を言うが、今は悠長に話している時間はない。

 私は狐毛を一本抜いて神気を込め、瀕死の舞弥に許可を取らずに強引に飲ませる。

 

「非常事態なのでご容赦願います!」

 

 無理やりだったので少しむせたが、それでも何とか飲み込ませた。

 すぐに肉体の治癒が始まったので、これで取りあえず命は助かるはずだ。

 

 しかし今は状況が切羽詰まっているため、私は舞弥を床に寝かせたあと、すぐに外に向かって駆け出した。

 

「バーサーカー! 何処へ!」

「決まっているでしょう! アイリスフィールを取り返します!

 せっかく助けたのに殺されては! 寝覚めが悪いですから!」

 

 命が助かった舞弥は、ライダーに襲撃されたと教える。

 私も眷族を通して、確かにそのように見えたが、どう考えても不自然だ。

 彼は正々堂々を良しとするので、間違ってもそんなことをするような輩ではない。

 

 とにかく考えるのはあとにして、消さずに残しておいた犬ぞりに向かって走る。

 

「ならば、バーサーカー! 私も同行させて欲しい!

 狼だろうと、華麗に乗りこなしてみせよう!」

 

 彼女がそう言ったので、私は足を止めて考える。

 そして、すぐに結論を出す。

 

「でしたら、お願いします!

 バーサーカーの私は、操縦は苦手ですので!」

「ああ、任された! ただし風の加護で加速するので、少し荒っぽいですよ!

 振り落とされないように注意してください!」

 

 敵に追いつくためには、安全に運転している余裕はない。

 だがそのぐらいなら問題はなく、狼たちに指示を出して一時的にセイバーに貸し出す。

 彼女に手綱を握らせた。

 

「では! 行きますよ!」

 

 躾けが行き届いているようで、命令には大人しく従ってくれるようだ。

 私が口頭だけで動かすよりも、遥かに俊敏に走り出す。

 

 内心で騎乗スキルってスゲーと思ったのも一瞬で、殺人的な加速に驚いて悲鳴をあげる。

 だがそれでも泣き言を言っている暇はなく、セイバーと二人で連れ去られたアイリスフィールを追いかけるのだった。

 

 

 

 治療をしたあとに話していたせいで見失ったが、それでも再びライダーを見つける。

 だが途中で何故か、峠で競争が始まってしまう。

 乗っている私は、振り落とされないように掴まっているのがやっとだ。

 

「セイバー! 確かにライダーには違いありませんが! アイリスフィールは乗っていませんよ!」

「何ですって!? どうしてもっと早くに、教えてくれなかったんですか!」

「セイバーが話を聞かなかったせいでしょう! あと! 運転が荒すぎです!」

 

 彼女の暴走運転に抗うために、私は落ちないように必死に掴まっていた。

 そのせいで、まともに話せなかったのもある。

 

 しかし戦いそっちのけで急に言い争いを始めた二人を見て、ライダーは毒気を抜かれてしまう。

 

 だがまだ警戒を解いてないし、セイバーもやる気のようだ。

 敵同士だから仕方ないが、どうして英霊はこんなに喧嘩っ早いのかと、私は内心で頭を抱える。

 

「ああもう! 二人共! 待ってください!

 セイバーも! 今は戦っている時間はないでしょう!」

「バーサーカー! ですが、ライダーはやる気のようですよ!」

「いやいや! お前さんから突っかかってきたのではないか!」

 

 マジで英霊はどいつもこいつもと思いながらも、私は何とか怒りを静める。

 そして大きく息を吸い込んで、改めて二人に話しかける。

 

「これ以上、グダグダと無駄な戦いを続けるようなら、本気で怒りますからね!

 狂化して喧嘩両成敗しますけど、よろしいですか!」

「そいつは勘弁願いたいのお」

「私もです。わかりました。一時休戦しましょう」

 

 取りあえず両サーヴァントが矛を収めてくれたので、私はようやく気を抜いて息を吐く。

 すると今度はライダーが、顎髭を弄りながら質問してくる。

 

「それで、何があったんだ?」

「アイリスフィールが攫われました」

「私とバーサーカーは、ライダーが連れ去ったと聞き、ここまで追いかけてきたのです」

「なるほどのう。それで勘違いして、斬りかかってきたのか」

 

 時間がないので手短にライダーに事情を説明すると、どうやらわかってくれたようだ。

 私は最初から彼が誘拐したのは疑っていたが、セイバーは目撃情報をすっかり信じ込んでいた。

 

 なのでそういった疑いを晴らすためにも、この場で自分なりの考えを口に出す。

 

「私は何者かが、セイバーとライダーを戦わせるために仕組んだ罠と考えています」

「何者かと言うと?」

 

 セイバーの疑問に心当たりがあるのか、ライダーが思いついたことを口に出す。

 

「それはまあ、余と騎士王を戦わせて得をする者など、バーサーカーを除けば一人しかおるまいよ」

「……遠坂時臣か」

 

 思えば彼は、裏で教会と繋がっていて、何かと暗躍していた。

 野良の魔術師を雇って奇襲し、アイリスフィールを攫ってライダーの仕業に見せかけても、おかしくはない。

 

 もしくは、彼自身が手を下したかだ。

 英雄王は小細工は嫌いそうなので無関係であっても、マスターは割と手段を選ばないので可能性は高い。

 

 しかし私は、どうにも妙な引っかかりを覚える。

 

「確かに消去法で考えれば彼しかいないのですが、何か妙なんですよね」

「妙とは? 何処がですか?」

「それがわからないのでモヤモヤするんです!」

 

 私は困った顔をして髪を掻くが、残念ながら違和感の正体はわからない。

 ただ直感では、今回の犯人は遠坂時臣ではなく、誰が別の人物だ。

 

「ああもう! 考えてもわかりませんし!

 今はとにかく、アイリスフィールを助け出しましょう!」

「そうですね! ライダー! すみませんが、決着はまた後日!」

「待て! セイバー! バーサーカー! 余も同行しよう!」

 

 セイバーが犬ぞりに飛び乗って手綱を握って走り出す直前、ライダーから意外な提案をされる。

 

「どういう風の吹き回しですか?」

「この征服王を罠に嵌めようとしたのだ。ならば、相応の報復をせねばなるまいよ。

 だが、このままお前たちを行かせれば、余は黒幕の顔も名前も知らず、直接手を下す機会も失うだろう」

 

 私もセイバーも、アイリスフィールを誘拐し、舞弥に瀕死の重傷負わせた犯人と、その黒幕を許す気はない。

 その場で殺してしまう可能性が高く、ライダーがその人物の顔を名前を知ったり、恨みを晴らす機会は多分来ないだろう。

 

「わかりました! 同行を許可しましょう! ですが、遅れたら置いていきますよ!」

「ふん、遅れるはずがなかろう! こと騎乗に関しては、余のほうが上よ!」

「……何でセイバーが仕切ってるんですか」

 

 私は呆れた顔でツッコミを入れる。

 なお、ライダーのマスターはあまりの急展開に困惑している。

 

 だが取りあえず皆の意見として、反対ゼロで決定だ。

 取りあえず意識を集中させてアイリスフィールの居場所を感知し、セイバーに方角を指示して急ぎ向かうのだった。




アイリスフィールの誘拐は、腹黒神父がやってくれました。
フェイトの世界は短時間なら英霊とやり合えるような人間もいるので、あとはまあ変装用の使い捨てマジックアイテムを使うなどして、そこはまあそういうものだと思ってください。
物語の強制力とも言いますが…。
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