英霊の稲荷様 作:名無しのペロリスト
今回の事件だが、子供たちを家に送り返すのに、とても時間がかかった。
そして問題のキャスターはと言うと、あと一歩で取り逃がしたらしい。無駄にしぶとい。
だが流石に今後は慎重に動くだろうし、児童の集団誘拐は起きないだろう。
しかし今度はバレないように少数を殺して回る可能性もあるため、まだ油断はできない。
幸い聖杯戦争の停戦協定は、依然として有効だ。
しかしランサーのマスターが、そんなの知ったこっちゃねえと殴り込んできたらしい。
そして返り討ちに遭ったのだけど、そこはまあ自業自得と言える。
生きるか死ぬかの戦いで、指揮官が前線に出てくれば大怪我するのは当たり前だ。
ただし日本の最高統治者である、狐っ娘は除く。
とにかくそういう理由で、雁夜おじさんと桜ちゃんは、聖杯戦争が終わるまでは屋敷に引き籠もっていてもらいたい。
まあ私もできれば家から出ずに、平穏に暮らしたいのだが、残念ながらそうもいかなかった。
話を戻すが、キャスターとマスターは未だ健在で、何処かに身を潜めているのは間違いない。
事前に敵の拠点を突き止めておいたのが幸いしたと思いきや、残念ながら不在のようだ。
しかし、代わりに別のモノを見つけた。
なので、私は呑気に挨拶をする。
「ライダーとマスターも来たんですか? こんにちは」
「おう! バーサーカーではないか! 久しぶりだのう!」
「今はそんな状況じゃないだろお! 僕たちは殺されかけてるんだぞ!」
どうやらかなりピンチのようだ。
良く見ると周りには無惨な死体が転がっていて、私のガチギレゲージが急上昇した。
しかし残念ながらキャスターは不在なので、怒りの矛先が行方不明だ。
だが何故かライダーとマスターだけでなく、大勢のアサシンに取り囲まれている。
けれどこの状況は、私にとっては都合が良かった。
「ちょうど良かったです! アサシンは表向きは、既に脱落していますしね!
なので今ここで貴方たちを殺しても、協定違反にはなりません!」
私はにっこりと微笑みながら、鳴狐を呼び出して静かに構える。
聖杯戦争でルールを守るようにと厳命している組織が、裏では策略を巡らせて平気でルール破りをしているのだ。
そんな組織のサーヴァントが今、目の前に居る。憂さ晴らしするには良い機会だ。
一応ライダーの許可を取るために、声をかけようかと思ったが止める。怒りゲージが許されざるラインを越えしまったのだ。
「キャスターと無関係でしょうけど!
前々から、気に入らなかったんですよね!」
狂化した私は鳴狐を手に持ち、青い炎をまとわせる。
そして影に潜んでいるアサシンに、一直線に突っ込んで斬りつけた。
血飛沫が吹き出る間もなく、青い炎が全身に周り、悲鳴をあげる暇もなく焼き尽くす。
肉体は消失し、魔力の残滓に変わり果てた。
すぐに別の方向から短剣が飛んできて、さらには死角からもう一本の矢が迫る。
だがアーチャーと比べれば、遅いし数も足りない。
「踏み込みが足りん!」
素早く切り払って武器を二つとも破壊する。
そして攻撃後の隙を突いて一気に距離を詰め、二人まとめて斬り捨てた。
「やはりアサシンクラスですね。
正面からの戦闘では、他のサーヴァントが勝ります」
少なくとも一対一なら、負ける気はしない。
そして形勢不利と判断したのか、他のアサシンは全員逃げ出してしまった。
「しかし、これで倒したアサシンは四人ですか。
やれやれ、一体どれだけいるのやら」
斬り捨てたことで怒りゲージが低下したのか、狂化が解けて落ち着いてくる。
取りあえず戦闘も終了したので、大きく息を吐いて鳴狐を消す。
先日一人倒して、今日は下水で三人倒した。
遠坂邸で殺られた者も含めると五人になる。
しかしここに来た時には、もっと大勢感じられた。
とにかく私は一息ついたあとに、ライダーたちに声をかける。
「ライダーとそのマスターさん。取りあえず、ここを出ませんか?
またいつ襲撃されるかもわからない状況で、調査するのは大変ですし」
あとは子供の死体が転がっている場所に、長く留まっていたくはない。
気分が悪くなり、またいつ狂化のスイッチが入るかわからなかった。
だがイスカンダルのマスターは、まだ迷っているようだ。
「このまま放っておくのか?」
「調べれば何かわかるかも知れんが、諦めろ。
取りあえず、ぶち壊せるだけは壊していくさ!」
ライダーも賛成してくれたようだ。
しかし私はここで、あることを思い出す。
「すみませんが、壊すのは少しだけ待ってくれませんか?」
「構わんが、悠長に調査をする余裕はないぞ」
「いえ、調査ではありません。……せめて私にできることをしようと」
周囲には死体が転がっているが、まだ辛うじて生きている子供たちもいる。
死んだほうがマシな酷い有り様だが、それでも息があることには違いない。
私はなるべく早く済ませるため、鳴狐で後ろ髪をバッサリ斬り落とす。
そして強く願いながら神気を込め、周囲にばら撒いた。
世界そのものを作り変えて、一時的だが死を遠ざける聖域にしたのだ。
まだ息があった子供たちの傷はたちどころに癒え、やがて安らかな寝息を立て始める。
だが逆に、私の顔色はみるみる悪くなっていく。
「おい、バーサーカー。大丈夫か?」
「すみません。正直に言うと、かなり辛いです」
もし私がキャスターとして顕界していれば、ここまで疲労はしなかっただろう。
しかし陣地構築のスキルもないのに奇跡でゴリ押したため、今は立っているのもやっとなほど、魔力を消耗していた。
雁夜おじさんから魔力供給を受ければ良いが、今やっているのは聖杯戦争とは関係のない、私のわがままだ。
なので意地を張って、自身の魔力だけで賄おうとしている。
「すみませんが、子供たちのことをお任せします。
私はまだ、やることがあるので」
「おう、任せておけ!」
「もちろんだよ! こんな所に、置いてはおけないしな!」
二人が回復した子供たちを回収し、戦車に乗せている間に、私は文明の保管庫から神楽鈴を引き出した。
すると、ライダーのマスターが目を丸くして口を開く。
「何でも出せるんだな」
「何でもは出せませんよ。保管してある物だけです」
流石に何でもは出せない。世界中の人々が、捧げてくれた物だけだ。
ただしあっちの世界では、殆どの国が狐色に染まっている。
宝具になったことで、過去から現代までの物品は殆ど出せるようになっていた。
それはともかく気を失っている子供たちを除くと、二人だけしか見物人がいない地下で、私は静かに舞い始める。
自分の周りに、少しずつポツポツと青い炎が灯っていく。
やがてそれは、小さな子供たちの姿に変わっていった。
彼らは言葉を喋ることはできない。
それでも己の死を理解して受け入れ、私に精一杯感謝を伝えようとしてくれた。
その後、安らかな表情でゆっくり天に登っていく。
地下の天井に到達する頃には、青白い粒子になって消え去る。
これで、殺された子供たち成仏したはずだと前向きに考えた。
私は大きく息を吐いて、神楽鈴を消す。
「見事な舞いだったぞ! 今のは鎮魂の儀か!」
「私も良くは知りません。
でも、殺された子供たちは、これで迷わず天国に逝けたと思いたいですね」
過去にも戦没者を慰めるために、力を振るったことはある。
なのでサーヴァントとして召喚された私にも、過去の伝承から補正が入っていた。
まあ実際のところは、良くわかっていない。
そういうものじゃないかなと、適当に考える。
とにかく、やることはやった。
色々あってかなり疲れているが、許容範囲内だ。
狼たちを使って遺留品を運び出すか迷ったが、遺族に上手く説明できる気がしない。
せめてキャスターを倒したあとは、行方不明ではなく死亡扱いになることを願うばかりだ。
その後、ライダーの宝具でキャスターの魔術工房を破壊する。
私たちは、暗い地下から外に出る。
だが自分は疲労困憊のため、今日は屋敷でゆっくり過ごしたい。
申し訳ないが子供たちのことはライダーと、そのマスターに任せて、お先に失礼させてもらうのだった。