七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

10 / 19
第9話 今の時代は面倒な法律が多いらしい

 

 ティムが発見した小さな結晶湖のほとりで、一晩の休息を終えた。朝食も食べ終え、ティムも旅立つ準備が出来たようだ。

 

「さて、寄り道は終わりだ。レスタリアはもうすぐだ、早く冒険者ギルドに加入するぞ」

 

「うん!楽しみだな〜」

 

 ティムはご機嫌な様子で体を揺らしながら歩き出す。

 

 町に着く前、今のうちに、情報伝達の手段を確保する必要がある。俺様はティムに向かって魔術を発動させた。

 

『ティム、この声が聞こえるか?』

 

「ひゃっ!なんか、頭の中に直接シャルルの声が!びっくりしたぁ!」

 

 どうやら成功したようだ。

 

『念話で直接、ティムの頭の中に話しかけている。町でベラベラと猫が喋っては悪目立ちするし、不届者に目つけられる可能性がある。ティムが一人前の魔術師になるまで、人前では念話で話すことにするぞ』

 

「うん、分かったよ!でも念話ってすごいね、私もできるかな?」

 

 念話は消費魔力こそ少ないが、難易度は上級魔術並だ。しかし、ティムの才能があれば、意外とあっさり習得するかもしれない。

 

『またいつか教えてやる。それよりレスタリアはすぐそこだ、日が沈むまえにさっさと町に入るぞ』

 

「うん!レッツゴー!」

 

 

* * *

 

 俺様とティムはレスタリアを目指して街道を急いだ。しかし、結晶湖に向かうために正規のルートから外れたため、その道は険しく、ティムの疲労量は段違いだった。

 

「ハァ……ハァ……もうすぐ……レスタリア?」

 

「あと一時間ほどで着くぞ。もう少しだ、頑張れティム」

 

 俺様がそう言った瞬間だった。

 

 木々の影から、茶色の毛並みをした魔物が飛び出してきた。体高はティムほどで、あれは全身が硬い毛皮で覆われた魔物『アイアン・ボア』だ。

 

「ブルルゥ!」

 

 アイアン・ボアは咆哮を上げ、その角をティムに向けて突進してきた。

 

 ティムは咄嗟のことで驚き、動けずにいる。

 

「馬鹿者!魔術で反撃しろ!……クソ、今のティムには荷が重いか!」

 

 間に割って入り、代わりに俺様が猪を倒そうと魔術を構築しようとした瞬間、ティムの周囲に二つの魔術が展開されるのを感じた。

 

「この魔法陣、雷魔術と風魔術か!」

 

 まだ魔術の完全な同時発動は出来ていないが、その間隔はもはや肉眼では判別できないほど短い。

 

 そして、ティムは直感で魔術を重ね合わせた。

 

「【雷の昇風(ライジング・ウィンド)】!」

 

 雷魔術はアイアン・ボアの顔面へ。そして、風魔術は雷魔術と合わさり勢いを増幅させた。

 

 ドォンッ!

 

 風によって勢いを増し、拡散された雷撃が轟音と共に魔物の全身を包み込んだ。その威力は通常の初級雷魔術とは思えないほど強力なものになり、硬い毛皮を持つアイアン・ボアの硬質な体表を一瞬で焼き焦がす。

 

 アイアン・ボアはそのまま悲鳴を上げる間もなく、倒れ活動を停止した。

 

「よくやったぞ!ティム!そうだ、それこそが異なる魔術の組み合わせ、"複合魔術"だ!たった数日でこれを習得するとは!」

 

 ティムは緊張した顔から安堵した顔になり、その場に腰が抜けたように座り込む。

 

「こ、怖かった〜。よかった、魔術の練習してて本当によかった〜」

 

 実技面における上達スピードは、俺様の想定を遥かに超えている。座学はともかく、実技においてはたった数日でいっぱしの魔術師を名乗れるレベルだ。

 

(ティムが魔術学院で本格的に魔術を学び始めたら、一体どのような魔術師になるのだろうか、今から実に楽しみだ)

 

 未来を楽しみに思いながら、いまだに座り込んでいるティムに声をかける。

 

「いつまで座り込んでいるのだ!それよりもこの猪を早く解体するぞ。こいつの肉や毛皮、ツノを売れば、金貨一枚、少なくとも大銀貨七枚ほどにはなるはずだ」

 

 アイアン・ボアはDランクの魔物だ。このレベルの魔物を一撃で倒せるなら、金貨十枚などあっという間に貯まるかもしれない。

 

(金貨十枚とはあくまで魔道列車の代金と魔術学院の入学料、そして半年分の授業料に過ぎない。しかし、これならば残りの授業料も簡単に貯めれるだろう!)

 

「まって!シャルルだめだよ!」

 

 突然ティムが我に帰ったように叫ぶ。

 

「魔物の売買は、ギルド加入者じゃないと違法なんだよ!私たち、まだ冒険者じゃないから捕まっちゃう!」

 

「なに!?なぜ魔物を売ることが違法になる!?魔物は公共の利益だろう!」

 

 昔はギルドなどに加入せずとも、その辺の商人に売り飛ばせば良かったのだが、面倒な時代になったものだ。

 

「それなら、ひとまず持てるだけの素材を持って、冒険者ギルドに加入した後にこっそり売ればいいだろう」

 

「だめ!魔物の素材は流通規制対象だから、一定量以上の素材を運ぶには許可がいるの!そんなのすぐに門番の人にバレちゃうよ!」

 

 俺様は、アイアン・ボアの肉塊を前に、唸り声を上げた。一体、その法律はなんのためにあるのだろうか。その法律を考えた奴に文句を言いたい気持ちをグッと押し殺し、冷静を装う。

 

「……では、ツノを一本だけ持って行くぞ。流石にそれぐらいなら許されるだろう」

 

「う〜ん、うん!それぐらいなら、たぶん大丈夫なはず!」

 

 ツノ一本では大銀貨一枚程度の価値にしかならない。俺様が抱いた「金貨十枚を一瞬で稼ぐ」という甘い目論見は、簡単に打ち砕かれた。

 

 この調子では冒険者ギルドに加入しても法律やら規則やらと文句を言われ、手数料をぼったくられたりするのではないだろうか。

 

 さっきまでの余裕は泡のように消え、一気に不安になる。

 

「冒険者〜、ギルドー!ふんふんふーん♪」

 

 ツノ一本をリュックにしまい、ティムは嬉しそうな表情で鼻歌を歌い始めた。

 

 何も考えていなさそうな、ご機嫌な様子のティムを横目にため息を吐く。

 

 ......こんな調子で本当に大丈夫だろうか、不安だ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。