七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第10話 ティムは人見知りするらしい

 

 日盛りの時間、ようやくレスタリアの町の入り口、頑丈な土壁に穿たれた大きな門が見えてきた。すぐさま俺様は会話の方法を念話に切り替える。

 

『これから人前では念話で話すからな、慣れろよ』

 

「わ!突然やられるとやっぱりびっくりするね。わかった、早く慣れるよう頑張るよ!」

 

 ティムはふんすと自信満々の様子だ。これならひとまずは安心だろう。

 

 レスタリアは、様々な場所の中継点として栄える、活気に満ちた宿場町だ。門の外には、多くの商人の馬車や旅人が列をなしており、入町手続きのために混雑していた。

 

(昔のレスタリアはくたびれた田舎町と言った感じだったが、六十年でここまで変わるのか。ここが首都だと言われても不思議ではない賑わいだな)

 

「わぁ……熱気がすごいね!この匂い、パンと、お肉と、あと、スパイスの匂いかな?都会の匂いだね!」

 

 ティムは興奮した様子で目を輝かせ、初めて見る大きな町の喧騒に胸を高鳴らせていた。

 

 ティムの隣を歩きながら周囲の様子を観察する。門番は、簡素だが上質な金属鎧をまとい、腰には魔力駆動式の剣を差していた。彼らが持つ槍の先には、周囲の魔力を感知する小型の魔道具が取り付けられている。

 

(警戒が厳しいな。魔道具が発展し、庶民の生活水準が上がった一方で、治安維持にも多くの魔術や魔道具が使われているようだ)

 

 しばらく列に並び、ようやくティムの番になった。

 

 門番の一人が、ティムの幼さに目を留め、少し怪訝な表情を浮かべた。

 

「お嬢ちゃん、一人かい?旅の目的は?もしくは保護者はいるのか?」

 

「あ、え、はい...、エクレシアの方から来て、ぼ、冒険者ギルドに、えっと、この子と二人できました...」

 

 門番は困ったような顔をして、腰をかがめてティムに目線を合わせ、再度、話しかける。

 

「ごめんね、お嬢ちゃん、少し聞こえづらかったから、もう少しだけ大きな声でお願いできるかい?」

 

 ティムはいつもの様子とは一変し、オドオドしながら目を泳がせ、小さな声で呟いている。

 

「え、えっと、その....」

 

 もしかして、こいつ人見知りなのか?いつも元気でご機嫌なティムしか見ていなかったが、確かにティムが俺様と母親以外の人間と喋っているところを見たことながない。町の学校でも友達と喋りもせず、ずっと黙っていたことを思い出した。

 

 どうやらティムは仲のいい人とは話せるが初対面の人と話すのは苦手らしい。

 

 仕方ない、少し手助けしてやるか。そう思い俺様ティムの頭に乗り念話を発動した。

 

『おい、ティム、いつもの元気はどうした?俺様に対して散々軽口を叩いていたではないか』

 

「シャ、シャルル?だって、私あんまり大人の人と喋ったことないから、緊張しちゃって...」

 

(俺様も大人、それも偉大なる七賢人の魔術師なのだが。...まぁ、理解はできた。ティムは幼い頃に父親を亡くしているし、母親も一時期は介護状態だったと聞く、単純にコミュニケーション能力が不足しているのだろう)

 

『そんなことでは先が思いやられる、お前は初代七賢人、最強の雷魔術師な俺様の主人なんだぞ!だが、今回ばかりは助けてやろう。俺様が今から伝える言葉を何も考えず、復唱しろ」

 

 ティムは頷き、覚悟を決めたようだ、これなら大丈夫だろう。

 

「も、門番さん、すみません、ちょっと緊張してしまって、私エクレシアの方からこの猫と二人で来ました。この猫は私の使い魔で、私は魔術師見習いです。冒険者ギルドに加入して、王都魔術学院の入学費を貯めるために、この街に来ました」

 

 門番はティムの手の甲にある魔術印を一瞥し、ほっと息をついて安心した様子になる。

 

「よかった、てっきり家出少女かと思ったよ。王都の魔術学院志望とは随分と優秀な魔術師なんだね。それに頼もしい使い魔もいるようだし、これなら安心だ。」

 

 ティムは顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。

 

 門番はティムが落ち着いたのを確認すると、一転して真剣な顔になり、ティムに話しかける。

 

「それより、行商人や旅人は、身元の証明と荷物の検査がある。リュックを見せなさい」

 

 ティムはリュックを開けた。中には着替えと少量の食料、そしてアイアン・ボアのツノ一本が入っている。

 

 門番はツノを見て、眉をひそめた。

 

「む?このツノは……アイアン・ボアのツノだな。魔物の素材は流通規制品だ。魔物討伐の証明書や、ギルドの許可証は?」

 

(やはり引っかかったか!面倒な!)

 

 俺様はこの時代の法律のことをよく知らない。なんと答えればいいだろうか。俺様が言葉を探して少し考え込んでいると、ティムが先んじて口を開いた。

 

「あ、あの!これは、町の外で自己防衛のために討伐したんです!飾りとして、記念品に一本だけ持ってきました。この程度なら大丈夫だと……」

 

 門番は、少し考えるそぶりをした後、納得したように頷く。

 

「確かに、この程度の量ならば問題ない。それに魔物の素材も、加工品や個人利用目的で少量ならば流通は緩和されている。持っていても問題にはならないはずだ」

 

 門番は厳しい顔から笑顔になり、ティムに声をかけた。

 

「ただし、それを売ったり、他の魔物の素材を持ち運ぶ際には必ず冒険者ギルドに加入した後に行うように。君は賢そうだから大丈夫だと思うけどね」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 ティムは心から安堵し、門をくぐり抜けた。

 

『よくやったティム!だが、安堵するのはまだ早い、日が暮れる前にすぐ冒険者ギルドに向かうぞ』

 

 俺様は気を引き締めるようにティムへ念話で指示をした。さて、次は冒険者ギルドだ。

 

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