七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第11話 冒険者ギルドに加入するらしい

 

 日盛りの喧騒の中、俺様とティムは賑やかな石畳の道を歩きながら、ギルドへと向かっていた。

 

 人の波が激しい。行き交う人々の多くが魔道具を身に着けているのを見ながら、現代魔術の進化と普及に、改めて驚かされる。

 

『ティム、ギルドはどこだ?日が沈む前にさっさと手続きを済ませるぞ』

 

「えっとね、たしか、一番賑やかな通りにある大きな建物なはず...あ、見えてきた!」

 

 ティムが指さした先には、他の建物とは一線を画す、石造りの重厚なギルドの建物があった。入り口には剣と盾を交差させた紋章が誇らしげに掲げられている。

 

 ティムを一瞥すると、彼女は不安そうな顔で、両手で服の裾を握りしめていた。

 

『冒険者ギルドに行くことをあれだけ楽しみにしていたではないか。俺様に軽口を叩くように、自信を持って話せば良い』

 

「う、うん!ありがとうシャルル、あのね?冒険者ギルドで受付してる間、シャルルのこと抱っこしてて良い?」

 

 仕方ないと言った様子を見せ、俺様はティムの懐に収まった。

 

「ありがとう!シャルル、行くよ!」

 

 重い木製の扉を押し開け、二人はギルドの中へ入った。中は冒険者らしき屈強な男女でごった返しており、酒の匂いと、大声での談笑、そして依頼掲示板の前で唸る声で騒然としていた。

 

『騒がしいな……しかし、昔よりはまだマシか。ティム、目立たぬうちに受付へ行け』

 

「う、うん...」

 

 ティムは少し怯えた様子を見せながらも、まっすぐに受付カウンターへ向かった。

 

 カウンターには、退屈そうに頬杖をついた、銀縁の眼鏡をかけた女性職員が座っている。

 

「いらっしゃいませ。ご用件は?」

 

「あの、冒険者になりたいんです」

 

 ティムが言うと、女性職員はわずかに目を丸くした。

 

「ああ、新規登録ね。お名前と年齢は?随分と幼く見えるけれど、保護者は?」

 

「ティム、十四歳です。保護者はエクレシアの方にいます」

 

 ティムはちらりと腕の中に抱えた俺様を見た。

 

『それでいい、俺様のことは使い魔の黒猫だとでも言っておけ』

 

「あの、この猫は……使い魔の黒猫シャルルです」

 

 女性職員はティムの顔と手にある使い魔の魔術印、そして懐の俺様に視線を送った。

 

「分かったわ、ひとまずこの書類をちゃんと読んだあと、サインして血判を押して。それと、登録料は大銀貨一枚ね」

 

 ティムは慌てた様子で、服の懐から古い革袋を取り出し、職員に大銀貨を一枚渡した。

 

(結構高いな。昔は無料だったのだが、時代か。仕方あるまい)

 

「は、はい!これでお願いします」

 

 職員はティムから大銀貨を受け取り検めると、頷いた。

 

「あと、ティムちゃんは魔術師よね?あとで魔力総量と魔力放出能力の測定をしてもらうわ」

 

 ティムは先ほど渡された書類を読み、サインをする。内容自体は犯罪行為を犯した際の個人情報使用や、仕事による怪我・死亡の責任を負わないといった、基本的な事項だった。 それよりも、魔力測定か...

 

『ティム、今からお前の魔力中枢に結界魔術を施す、これは魔力総量を隠すためだ』

 

『これからティムの魔術技術を測るような試験があった際には、本来の半分程度の実力を出すにとどめておけ。お前には才能があるが、それに見合った経験がない。変に実力を見せては不届者に目をつけられる可能性がある』

 

 俺様がそう注意すると、ティムは一回こくりと頷いた。念話での会話も随分と慣れてきたようだ。

 

「あ、受付のお姉さん、これ書けました」

 

「はい、ありがとう。うん、次は魔力測定をしましょう」

 

 そう言って受付の職員はガラスに入った水晶のような道具と銀色の円盤状の装置を持ち出し、台に置いた。

 

 初めに職員はガラスに入った水晶のような道具を指さす。

 

「これは魔力結晶(マナ・クリスタル)、魔術師の魔力中枢に干渉し、あなたの魔力総量を測るの。軽く触れるだけで総量に応じた色が浮かび上がるわ」

 

 ティムはごくりと喉を鳴らし、そっと右手を魔力結晶の上にかざした。

 

『安心しろ、ティム。これは俺様が結界魔術で魔力総量を偽造しているから大丈夫だ』

 

 手が魔力結晶にかざされた瞬間、水晶の色は淡い緑色になった後、何度か色を変え、最終的には深みのある紫色に変化した。

 

「あら、十四歳で紫色……中級魔術師の域ね。紫は、魔術師として食いっぱぐれることはない、優秀な部類よ。悪くないわ」

 

 職員は記録用紙に『魔力総量:紫(中級)』と書き込んだ。

 

「次は魔力放出速度。これは、どれだけ早く、魔力を外部に展開し、魔術の形を完成させられるかを測るわ。魔力総量が多くても、これが遅ければ、強力な魔術を完成させるのに時間がかかりすぎて、戦闘中に使うのは不可能、ということになるの」

 

 職員は、もう一つの魔道具、銀色の円盤状の装置、『放出計(イジェクション・メーター)』を指さした。

 

「この放出計に、魔法陣に魔力を込めるようなイメージであなたの全力の魔力をぶつけてみて。瞬間的にどれだけ強く魔力を押し出せるかを測定するわ」

 

『ティム、先ほど貼った結界はすでに解除してある。問題なく魔術が使えるはずだ。半分だ、全力の半分の魔力を込めろよ』

 

 ティムは深呼吸し、放出計へ向け、一気に魔力を放出する。

 

 キィン!

 

 銀色の円盤(放出計)は、ティムが魔力を放出した瞬間、甲高い音を鳴らし、表面の目盛りは、六割ほどで止まった。

 

 女性職員は、今度は感心の混じった表情を見せた。

 

「.........すごいわね!上級魔術師には一歩及ばないけれど、将来的にAランク昇格も目指せる、優れた放出能力よ!」

 

「魔力総量が紫で、放出能力がここまであるのなら…ティムちゃんはきっと名のある魔術師になれるわ!」

 

 職員は、ティムをまるで宝物を見るかのような視線で見つめながら、改めて書類にペンを走らせた。

 

(半分でこれか。やはりティムには七賢人相当の才能がある)

 

「これで測定は終わりよ。登録は完了。今日からあなたは見習い冒険者、ランクはFからスタートね。ティムちゃんレベルの魔術師ならDランクから始めるべきなんでしょうけど、冒険の経験が少ないみたいだから、最初のランクから始めてね」

 

 ティムは安堵の息を漏らし、俺様をきつく抱きしめ顔を擦り寄せた。無事に冒険者登録が終わり、心から安堵した様子だ。

 

「そういえば、その猫ちゃんの魔力量も測ってみる?一応、魔術師の使い魔なんでしょ?」

 

 いい機会だ、この猫の体での能力値も知っておきたい。

 

『俺様も魔力測定を受けるぞ、ティム』

 

 

 

* * *

 

「魔力結晶は薄い紫色で中級魔術師レベル、放出計の目盛りは三割ね、魔力放出量は中級魔術師には少し物足りないって感じかしら。でもただの猫ちゃんにここまで魔術の才能があるのはすごく珍しいわ。せっかくならティムちゃんが魔術を教えてあげたら?」

 

 ティムは口元をモニモニさせながら、優越感に浸った嬉しそうな顔で俺様を見下ろしている。こいつ、今の俺様より才能があるからといって調子に乗っているな!

 

 俺様はティムの腕から抜け出し、頭の上に飛び乗ったあと、彼女の頭をぽこんと叩いた。

 

「いて、何するのシャルル!」

 

『ティム、お前、今一瞬"私の方が才能あるじゃん"とか思っただろ。勘違いするなよ、俺様が師匠、お前が弟子だ』

 

 ティムは分かったと言わんばかりに頭を激しく縦に振る。分かればいいのだ。

 

「ふふ、使い魔と仲がいいのね、使い魔は魔術師にとって一生の相棒だから大切にしてあげなさい」

 

「はい!シャルルのことはずっと大切にします!」

 

 ......まぁ、いいだろう。冒険者になったのだから、さっさと依頼を受けて金を貯めるぞ、そう考えティムを急かそうとしたのだが――

 

「これで冒険者登録は終わりだけど、まだ冒険者カードは渡せないの。ちょうど明日の朝に初心者講習会があるから、それを受講してようやく正式な冒険者になれるわ」

 

 昔はそのようなものはなかったが、今は講習なんぞがあるようだ。冒険者も制度が整ってきているのか。

 

「あ、あの、ちなみにその講習ってどのぐらい掛かるんですか?」

 

「みっちり八時間あるわよ、最後にテストもあるから居眠りしちゃダメよ?」

 

 つまり、今日も明日も依頼を受けることはできないということか。金もない、アイアン・ボアのツノも売れない。今日は野宿か。

 

 ティムも明日の講習が終わるまで、野宿であることを察したようで、二人で大きなため息をつくのだった。

 

 

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