七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第12話 ティムは七賢人のことに興味があるらしい

 

 冒険者の新規登録を終えた次の日、初心者講習を受け終えたティムは背伸びをしながら「疲れたー」とだらしない声を出し、机に突っ伏す。

 

「はぁー、すごいためになる講習だったけど、八時間続けては疲れるよ〜」

 

 講習では依頼の受け方や報酬の仕組み、ギルドの制度など基本的な冒険者のルールや、冒険者の死亡原因などの知っておくべき情報が多く盛り込まれており、非常にためになった。

 

 俺様の時代の冒険者ギルドは荒くれ者だらけで、まさに無法地帯といった場所だったが、現代では制度やルールが整っており、また小綺麗な若者も多く、ここでも時代の変化を感じていた。

 

『ティム!そんなところでだらけていないで、早くアイアン・ボアのツノを売りに行くぞ!これが売れなければまた野宿だ』

 

「あっ!そうだった!早くしないと」

 

 ティムは急いで今日の講習の資料をバックに詰めて、走って冒険者ギルドの受付に向かう。受付には昨日、ティムの新規登録を担当した女性職員が肩肘をつきながら座っていた。

 

「ティムちゃん、講習お疲れ様〜、これで正式に冒険者ね。はいこれティムちゃんの冒険者カード」

 

 女性職員は、黒い革のケースに収められた、手のひらサイズの金属プレートを差し出した。プレートの中央には魔力で光る文字でティムの名前とランクが記されており、手に取ると、微かな魔力の振動を感じる。

 

「ちなみに、冒険者カードはなくしたら、再発行に一ヶ月はかかるし、手数料も大銀貨五枚になるから、無くさないようにね」

 

「は、はい!無くさないようにします!」

 

 ティムは冒険者カードを両手で握りしめながら返事をした。

 

「受付のお姉さん、早速なんですが私、売りたいものがあって...」

 

 そう言いながらティムはバックからアイアン・ボアのツノを取り出し、受付の台に置いた。

 

「これ、アイアン・ボアのツノね。でもこれは冒険者になる前に手に入れたものでしょ?ここの受付では冒険者ギルドの依頼で手に入れた素材しか買取はしてないの、ごめんね」

 

 女性職員は眉を歪め、申し訳なさそうな顔で断りを入れた。

 

「もう夕方だし、この時間になると今日は魔物の素材の買取はできないかもね。明日、朝早くに商人通りに行って売りに行けば?」

 

「明日ですか...分かりました...今日も野宿だね、シャルル...」

 

 ティムは残念と言ったばかりに肩を下ろす。その言葉を聞き女性職員は目を丸くした。

 

「もしかして、お金がなくて、宿に泊まれないの?それだったら冒険者ギルドの宿に泊まっていく?ちょうど一部屋空きがあるわよ」

 

「あ!」

 

 ティムは思い出したように声を上げた。確かにそうだった。今日の講習で、ギルドには駆け出し冒険者のために週に一度無料で泊まれる宿泊スペースがあるという話をしていたのを、俺様も今思い出した。

 

「ぜ、ぜひ!お願いします、そこに泊まりたいです!」

 

「ふふ、分かったわ、はい、これが宿の鍵よ。宿は裏口から出てまっすぐ行った場所にあるわ」

 

 ティムはその言葉に救われたと言わんばかりに明るい笑顔を見せ、受付の職員に向かって丁寧にお辞儀をして、宿へと向かった。

 

 

 

* * *

 

 無料の宿というから、どのような場所かと思えば部屋は個室でそれなりのスペースがある。風呂場はないが、共有のキッチンなど設備も整っており、他の安宿と遜色ないレベルで過ごしやすい。

 

 ティムは宿に着いた瞬間、ベットに飛び込み、ゴロゴロと転がる。

 

「あぁ〜、疲れた〜、久しぶりのベットだ〜」

 

 少しだらけすぎな気もするが、ひとまず冒険者になるという課題を一つ乗り越えた。俺様も緊張を解き、息を漏らす。

 

「まぁ、ご苦労だったティム。明日からは冒険者ギルドの依頼を受けるからな、今日はゆっくり休むといい」

 

 その声は、ティムの頭の中ではなく、テーブルに鎮座する俺様の体から響いた。

 

「あ!今日一日中、ずっと念話で会話してたから久しぶりにシャルルの声聞いた気がする!」

 

 なるほど、俺様も妙に今日は疲れたと感じていたが、念話でずっと魔力を消費していたからか。

 

「そういえば、街に着いたら魔術の座学を教えてくれるって言ってたよね?教えてよ、シャルル」

 

「ほう、良い心がけだ。疲れている様子だし、魔術の勉強は明日からにしようと思っていたが、明日に支障をきたさないレベルで、少しだけ教えてやろう」

 

「やったー!魔法陣の法則や規則を覚えたら、自分だけの魔術が作れるようになるんでしょ?すっごく便利!楽しみ〜」

 

 そう言ってティムは椅子に座り、俺様はテーブルに鎮座する。やはり、まだ、ティムにとって魔術とは便利な道具なのだな。まあいい。

 

「まず、基本的な魔法陣の法則として、魔術の威力を調節する方法だが.........」

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 ティムに魔術の座学を教えた感想としては、至って普通と言ったところか。 こちらの話をある程度は理解できているし、分からないところがあっても丁寧に説明してやれば、一定の理解は示している。呑み込みも悪くはないが、特に天才的な発想があるというわけでもない。本当に平凡な魔術師見習いといった様子だ。

 

 しかし、実技の練習の際はそれなりに楽しそうに魔術を学んでいたのだが、座学の方はあまり楽しくなさそうだ。 

 

「実技はピカイチ、座学は平凡、なるほど、全くもってエレノアと同じタイプだな」

 

「え?エレノアって?もしかして初代七賢人のエレノアさんのこと!?」

 

 俺様のことはまるで知らなかったティムだが、どうやらエレノアのことは知っているらしい。 少し癪だか、あいつなら仕方ない。

 

序列一位、初代七賢人、焦熱のエレノア

最強の魔術師。単身で戦場に乗り出し、争いを鎮める。単独でドラゴンの群れを撃ち落とす。様々な伝説は数知れず、一人で国一個を滅ぼせるとまで言われていた魔術師だ。アルカナスと並び、最も有名な魔術師と言っても過言ではないだろう。ちなみに俺様の師匠でもあった。

 

「エレノアさんってシャルルの師匠だったの!?あんな有名な人の弟子だったなんてシャルルってすごいね!」

 

 褒め方が若干ズレている気がするが、まぁいいだろう。魔術にあまり興味のなかったティムですら知っているのだから、俺様が死んだ後も様々な伝説を作ってきたんだろうな。

 

 対人戦において、俺様とエレノアの実力自体は拮抗していた。しかし、世の人間はエレノアばかりを持ち上げ、持て囃していた。結局、俺様とあいつの違いはなんだったんだろうな...

 

 そう、思い出に浸っていると、横からティムの声が聞こえる。

 

「エレノアさんが序列一位でシリル・ロジェさんが序列七位でしょ?シャルルは何位だったの?」

 

 要らんことに興味を持ちやがって。

 

 魔術の座学の際はつまらなそうな顔をしていたのに、今度は楽しそうな顔で俺様に詰め寄ってくる。

 

「...まぁ、そんなことはどうでもいいだろう、それより、魔術の圧縮についてだが」

 

「え〜!教えてよー、シャルル〜!何位だったの!」

 

 ティムは俺様の体をがっしりと掴み、激しく揺らしてくる。全くもって鬱陶しい。

 

「あぁ、分かった!教えるから揺らすのをやめろ!」

 

「やった!何位だったの?」

 

 ワクワクとした様子でティムはこちらの声に耳を傾ける。

 

「.......五位だ、序列五位」

 

 ティムは驚いた様子で目を丸める。俺様の胸にチクリと痛みが走る。分かりきっていたことだが、そのような反応をされるのは少し腹立たしい。

 

「え、そうなんだ...もっと高いと思ってた、序列二位とか三位とか」

 

「低くて悪かったな、だが、仕方あるまい。七賢人とは基礎属性の魔術全てにおいて少なくとも上級魔術を習得しているのが最低条件だった。その中で俺様は水属性の魔術に才がなく、中級魔術までしか使えなかったのだ。七賢人として出来損ないなんだよ、俺様は」

 

 結局、俺様とエレノアの差はこれだったのだろう。俺様は普通の魔術師としては天才で、七賢人としてはどこまでも平凡だったのだ。応用属性である氷、木属性の魔術も中級魔術までしか使えなかったしな。

 

 そう言って俺様は落ち込んだそぶりを見せ、ティムと目を合わせないようそっぽを向いた。ティムはアワアワと慌てている様子だ。

 

「あ、え?ご、ごめん、シャルル!え、無視しないでよ...」

 

 いい気味だ、人の話したくない部分を無理やり聞き出した罰だ。せいぜい困るといい。

 

 すると、ティムは突然俺様の顔を掴み、自分の顔の目の前に無理やり持ってくる。その様子は真剣だ。

 

「ごめん!シャルル、私はシャルルのこともっと知りたくて、変なこと聞いちゃって、でも!誰が何言ってもシャルルは私の師匠だから、シャルルはすごい魔術師だって私が一番知ってるから、私が証明するから、だから...」

 

 ティムは色々と伝えたいことはあるが、言葉が出てこないと言った様子で、涙目になりながら言葉を探しているようだった。

 

 ......何をしているのだ俺様は、流石にこれは大人気なさすぎだ。

 

「ふん、お前なんぞに証明されなくともとっくに歴史が証明している。そもそも、七賢人の序列とは扱える魔術の種類、人々への貢献度、国民どもの人気、魔術の研究成果など様々な要素を含めた総合順位のようなものだ」

 

「こと対人戦において、俺様はエレノアと並び、最強の雷魔術師だと誰もが知っていたし、魔物の討伐数だって七賢人の中で俺様が最も多かった。とっくに俺様は一番の魔術師だ、もっと歴史を勉強しろ!」

 

 そう言い伝えると、ティムは涙を引っ込め、パッと満面の笑顔に戻る。

 

「や、やっぱりシャルルってすごい魔術師じゃん!自分で出来損ないとか言って、私のこと揶揄ってたんでしょ!」

 

「はっ、ズカズカと人の内面を聞き出そうとする、ティムが悪い。それに俺様の輝かしい実績を知らないなど魔術師失格だな、反省しろ」

 

 そういうとティムはぷくーと口を膨らませ、怒った様子を見せる。

 

「分かったよ、そこまで言うんだったら、シャルルのことが載ってる歴史書買って、シャルルのこと隅々まで勉強しまーす」

 

「おい、まて、それはなんか嫌だ、ほどほどに勉強しろ」

 

「ふーん、シャルルの好きなことから苦手なことまで全部調べてあげるんだから」

 

 ティムを止めようと抑え込もうとするが、ティムはヒョイと俺様を躱し、部屋の中を走り回る。

 

 ドン!

 

「おい!隣、うるせーぞ!早く寝ろ」

 

 突然、隣の部屋から怒鳴り声が聞こえる。少しはしゃぎすぎたらしい。

 

「...早く寝るぞ、ティム」

 

「...うん、ごめん。おやすみシャルル」

 

 俺様とティムはこの日死んだようにぐっすりと眠った。

 

 




魔術は大まかに
基礎属性の火、水、風、土の四属性と
応用属性の氷、木、雷の三属性、そのどれにも属さないものを無属性とし、合計八属性に分けられます。

第5話から引用
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