ティムは太い木の幹にもたれかかり、荒い呼吸を整えていた。
『残りの二匹を仕留める魔力はまだ足りるだろう?だが、無理に中級魔術を使おうとしなくてもいい。次の魔術は【ストーン・バレット】だ。威力よりも速度と命中精度を重視しろ』
ティムは疲労を感じながらも、俺様の指示を真剣な表情で待つ。
『良いか。魔術師において最も重要なのは魔術の速度だ。無駄に威力の高い魔術を使う必要はない。基本、人間や低級の魔物程度が相手であれば、初級魔術だけで全て事足りるからな』
十数分の潜伏の後、ティムは左前方の岩陰に潜む気配を捉えた。
『来たぞ、一体だ。魔力の気配からして、先ほどの奴らより小柄だ。ティム、杖を水平に構えろ。的を絞るんだ』
ティムは深呼吸し、杖を静かに構える。
「【ストーン・バレット!】」
小さな石の礫は空気を切り裂き、岩陰から半身を覗かせていたラットウルフの右目を正確に射貫いた。
「ギュゥッ……!」
断末魔を上げ、のたうち回る魔物。急所を貫通された個体は、すぐに事切れた。
『よし、九匹目だ! 良くやったぞ、ティム』
先ほどまで自信なさげにしていたティムだが、この一撃で確かな手応えを感じたようだ。魔力核を回収し、さらに森の奥へと進む。
最後の一匹は、開けた場所で警戒を強めていたが、ティムは茂みの中からその隙を見逃さなかった。
『ティム、今度は二連射で畳み掛けるぞ。お前の放出速度では、一発撃ってから次を練るのは遅すぎる。あらかじめ二発分の魔力を練っておき、一発目で怯ませ、即座に二発目で仕留めてみろ』
ティムは集中し、杖をラットウルフに向ける。
「【ストーン・バレット!】」
一発目がラットウルフの足を打ち、魔物は痛みに顔を歪ませて体勢を崩した。その隙を逃さず、並行して構築していた次弾を解き放つ。
「【ストーン・バレット!】」
二発目の弾丸は、無防備に晒された胸元を正確に撃ち抜き、ラットウルフは前のめりに倒れ、ついに全目標の討伐が完了した。
「……よ、よーし! 討伐完了!」
ティムは最後の一粒となった魔力核を手に、喜びの声を上げた。
* * *
冒険者ギルドの受付に戻ったティムは、疲れ切った体を何とか支えながらカウンターへと歩み寄った。
「お姉さん! 依頼、完了しました……!」
ティムはポケットから依頼書と、十個の魔力核、そして証明部位の牙をカウンターに並べた。
「あら、ティムちゃんおかえり。え、もう!? ラットウルフ十匹を初日で完了させるなんて……やっぱりあなた、才能あるわね!」
職員は魔力核の数を確認し、驚きの声を漏らした。
「魔力核は十個、牙も十個。確かに確認したわ。……ただ、一つだけ魔力核の破損が激しいわね。核に直接魔術をぶつけすぎると、討伐証明にならないこともあるから次は気をつけて。でも、新人としては文句なしよ! はい、報酬の大銀貨二枚と大銅貨三枚です!」
女性職員は満面の笑みで、キラキラと輝く報酬をティムの前に置いた。
「大銀貨二枚と、大銅貨三枚……!」
初めての冒険者業で手に入れたお金の重みに、ティムは感動で胸がいっぱいといった様子だ。
『ふん。当然の結果だ。俺様がついていれば、こんな雑魚共など敵ではない。だが、今日はよく頑張ったな。疲れているだろう、すぐに宿へ行け』
「お姉さん、この近くで、おすすめの宿を紹介してもらえませんか?」
「ふふ、もちろんよ。この通りをまっすぐ行ったところに、比較的安くて居心地のいい『宿屋 憩いの木』があるわ。今日はそこでゆっくり休みなさいな」
* * *
宿屋の部屋に入ると、ティムは早速、手に入れたばかりの硬貨をベッドに広げた。
「見て、シャルル! 私たち、今日だけでこんなに稼いじゃったよ!」
「ああ、初日としては完璧な滑り出しだ。お前は少し休め。魔術の座学と今日の戦闘の反省は、晩飯の後に行うぞ」
しかし、ティムは腕を組み、何やら考え込んでいる。
「冒険者ってこんなに儲かるんだぁ……これ本業にして、まったり楽しく生活とかできちゃいそう……」
思わず漏れ出た不穏な呟きに、俺様は即座に喝を入れる。
「おい! 俺様との契約内容を忘れたとは言わせんぞ! お前は俺様と共に、魔術の深淵を探究する契約だったはずだ」
「いやいや! 約束はちゃんと覚えてるよ! ただ……こんなに儲かるんだったら、学校とか行かずに最初から冒険者になってれば、もっと早くお母さんを楽させてあげられたのかなって思っちゃって……」
ティムは真剣に思い悩んでいるらしい。だが、それはあまりに幼く、危うい考えだ。
「くだらん、冒険者には常に死がつきものだ。俺様がついていなければ、お前など今日だけで何度野垂れ死んでいたことか」
俺様は、ティムの目を真っ直ぐに見据えて続けた。
「それに、学校で学んだ基礎があったからこそ、お前は俺様の魔術を即座に吸収できたのだ。知識のない者は魔術師になれん。それどころか、悪意ある者に騙され、まともな選択もできず、人としての生活を謳歌することすら叶わんからな」
ティムは目を丸くし、驚いた様子を見せた後、ふわりと微笑んで俺様の毛並みを撫でた。
「……ふふ、確かにそうだ。本当に、シャルルの言う通りだね。ありがとう、シャルル」
「ふん、分かれば良い! そんなことより、この宿は晩飯が評判らしいぞ。さっさと身嗜みを整えろ。食事にするぞ!」
「あ、待ってよシャルル! すぐ準備するから!」
慌てて身支度を始めるティムを眺めながら、俺様は鼻を鳴らす。 前途多難ではあるが、確かに成長するティムに俺様は小さな充実感を抱いていた。
*作品設定:この世界の金銭感覚について*
作中の通貨を日本円に換算するとこのようになります。目安としてお使いください。
(金貨:100,000円、大銀貨:10,000円、銀貨:5,000円、大銅貨:1,000円、銅貨:500円、大銭貨:100円、銭貨:10円)
〜追記〜
不定期投稿な本作をここまで読んでくださり、ありがとうございます。
自己満足で描き始めた小説ですが、やはり人に読んでもらえると、とても嬉しいです。
これからも不定期にはなりますが、ゆっくり少しずつ投稿していくと思いますので、これからも読んでくださると嬉しいです。