七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第15話 ティムは冒険者から避けられているらしい

 ラットウルフ討伐から二週間。

 

 ティムの生活は劇的に変化していた。

 野宿生活が嘘のように、今は宿のふかふかのベットで目覚め、温かい朝食を胃に流し込むのが日課となっている。

 

「シャルル、見て!三連射まで安定して展開できるようになったよ!」

 

 街の裏側にある森の中。ティムが杖を振るうと、親指大の石礫が鋭い風切り音を立てて木標を穿つ。一発ごとに魔力を練り直すのではなく、同じ魔法陣を同時に三つ展開し、放たれたものだ。

 

「……ふん。所詮は初級魔術だ、それぐらいはできなければ困る。異なる魔術の同時展開もちゃんと練習しておけよ」

 

 俺様は苔むした大きな岩の上で、あくびをしながら前足を舐める。だが、同時にティムの魔力操作を見定めていた。

 

(……まあ、悪くない。無駄な魔力の消費も無くなってきている。庶民の娘にしては、上出来を通り越して異常な成長速度だな)

 

 この二週間で、ティムはFランクの採取や小規模な討伐を十数件こなし、冒険者ギルド内でも「手際の良い新人」として認知され始めているようだ。

 

「よし、今日のノルマ終わり! シャルル、お昼は奮発してステーキランチにしようよ!」

 

『おい、魔術学校への資金として金貨十枚を貯める目的を忘れたのか!? たまの贅沢ならともかく、貴様、昨日も一昨日もステーキだっただろうが! 今日は禁止だ!』

 

「うぅ、ステーキだけが私の楽しみだったのにぃ...」

 

 肩を落とすティムを急かし、今日の依頼を受けるためにギルドへと向かった。だが、扉を潜った瞬間に漂ってきたのは、いつにも増して殺気立った空気だった。

 

「...またかよ、森林最深部の調査の依頼、最大報酬が金貨七枚に跳ね上がってるぜ」

 

「調査依頼の割に高すぎるな。だが、Cランクの冒険者パーティが行方不明になってるんだ。原因は……凶悪な賞金首か、高ランクの魔物か?」

 

 掲示板の前で中堅冒険者共が苦々しい顔で話し込んでいる。どうやら森の奥で、Dランクを含む魔物の死体が山積みになっているのが発見されたらしい。

 

 依頼内容は原因の調査。突き止めれば金貨七枚、解決すれば追加で金貨十枚。それに関する些細な情報でも銀貨一枚以上とティムのような新人でも受けられる依頼としては分不相応な大盤振る舞いだ。

 

「ねぇ、これ受けようよ!この調査に成功したら金貨十枚なんて一瞬だし、私もステーキが食べられる!」

 

『……待て。不確定要素が多すぎる。強力な魔物や盗賊団が相手なら、お前の命など一瞬で吹き飛ぶぞ』

 

 正直、きな臭い。だが、現代の冒険者システムでランクを上げるには実績と時間が必要だ。このまま安依頼をこなしていては、目標額まで一年はかかるだろう。

 

「シャルルは心配しすぎだよ、討伐とかじゃなくて調査だけでしょ?私たちなら大丈夫だよ!」

 

『……分かった。ただし、あくまで調査のみだ。異常を見つけ次第、速やかに撤退。いいな?』

 

 受付の職員に「死に急ぐな」と止められるアクシデントはあったが、ティムの必死のアピールによりなんとか依頼を受けることができた。

 

 

 

* * *

 

「うぅ、荷物が重いよぉ、こんなに荷物必要かなぁ?」

 

「必要に決まっているだろ、アホ。今回は調査依頼だ。しかも、長い間解決していない依頼だ。少なくとも一週間はこの森に泊まり込みで調査になるぞ」

 

「うぅ、収納付きの魔法バックが欲しい。いや、そんなものなくても荷物を一緒に持ってくれるようなパーティメンバーが欲しいよぉ」

 

 ぶつくさと文句を言うティムに俺様はため息を吐きながら質問をする。

 

「お前、冒険者パーティなんぞに興味があるのか?仲間なんぞ俺様がいれば十分だろう」

 

 ティムは口を膨らませながらプンプンと言う効果音と共に抗議をしてきた。

 

「そりゃあシャルルがいるのは頼もしいけど、冒険者パーティを組んで仲間と共に苦難を共にして強大な敵に立ち向かう!本で読んだ冒険譚みたいな!そういうの、ちょっと憧れちゃうなぁ」

 

 そう目を瞑りながら空想し、夢物語を語るティムだが、とたんに我に帰ったと思えば、急にもじもじとしながら俺様に尋ねてきた。

 

「あの...誰か、私をパーティに誘いに来てくれるかな?」

 

「何だと?」

 

 ティムは顔を赤らめ、小さな声で続けた。

 

「だって、ギルドで魔力測定した時、職員さんが『上級魔術師相当の才能』だって言ってたでしょ?きっと、他の冒険者もその話を聞いてるはずだよね?Cランクとか、Bランクのすごいパーティが来て、私をスカウトしてくれたら...」

 

 ティムはそのような夢物語を想像しているのだろうか、目を輝かせている。

 その表情には、やはり外部からの評価を求める、年頃の少女らしい承認欲求が滲んでいた

 

 そんな様子を俺様は鼻で笑い、ティムに問いかける。

 

「ティム、お前冒険者になって二週間誰と話したか思い出してみろ。俺様はお前が誰かと会話しているところを見たことがないぞ。誰とも会話をしない素性の分からんやつをスカウトするパーティなんぞあるものか、内気なのも大概にしろ!」

 

 ティムはその言葉を聞き、顔を真っ赤にしながら大声で俺様に抗議する。

 

「そ、そんなことないもん!!!私、ちゃんと色んな人と話してるよ!え、えっと、シャルルでしょ、受付のお姉さんでしょ、宿の女将さんでしょ、あとえっと、えっと...」

 

 ティムは指を折りながら最近会話した人の人数を数えるが、残念ながら片手で事足りるようだ。 

 

「お前、もしかしてギルドの冒険者共からやんわりと避けられているのに気づいていないのか?」

 

「ど、どういうこと!?私、避けられてるの!?」

 

「冒険者の中にはお前の実力を評価するものも確かにいる。だが、中には魔術を覚えたての貴族が道楽で冒険者をやってるだの、不敬を働けば始末されるだの、魔物殺しが趣味のドS少女など好き勝手言ってる奴もいて、冒険者からは敬遠されているらしいぞ」

 

 どうやら顔がよく、魔術の才能があり、他の冒険者と話したがらない様子からそう言った勘違いを受けているようであった。

 

 俺様の言葉を聞くとティムは顔を真っ赤にしながら、膝から崩れ落ちうずくまる。どうやら羞恥心で若干涙目になっているらしい。

 

「わ、私そんな風に思われてたんだ、全然知らなかった。私みたいな田舎娘が貴族様なわけないじゃん。魔物討伐だって報酬が高いから優先的にこなしてるだけで、好きなんて絶対あり得ないし、なんでそんな勘違いするのぉ...!」

 

 ティムは四つん這いになりながら土を強く握りしめ、プルプルと羞恥心で震えながら俺様に八つ当たりしてくる。

 

「お前が周りとの会話をサボった罰だ。しかも周りからの陰口にすら気づかないとは重症だな。次からは俺様も手伝ってやるから、自分から人に話しかける癖をつけるんだな」

 

「うぅ〜!!、わ、わかった」

 

 ティムはどうやら覚悟を決めたようだ。拳を強く握りしめて立ち上がり、やる気を露わにしている。

 

「ふむ、雑談はこれで終わりだ。ここら辺が森の最深部だな。辺りも暗くなってきたことだ、ひとまずここを拠点とし、明日から調査を開始するぞ」

 

 

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