七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第5話 俺様は使い魔になったらしい

 

 ティムの家に居候してから一ヶ月が経過した。

 

 その際に町で情報を集めたり、ティムに簡単な魔術の基礎を教えながら、この黒猫の体についての確認なども行なった。

 

 その結果、分かったことがいくつかある。

 

 まず、自分の体についてだ。この黒猫の体は驚くことに俺様の生前の五分の一程度の魔力を保持しており、これは一般的な魔術師の平均魔力量に相当する。

 

 しかし、やはり猫の体だ、魔力を放出する能力に限界があり、現在は初級魔術程度しか使えない。これから体を慣らし、鍛えていっても中級魔術までが限界だろう。

 

 そして、ティムだがやはり魔術の才能がある。ティムは自分が教える前から水、火、風の三属性の初級魔術が使えており、最近は雷魔術を含め合計四属性の初級魔術を使うことができている。

 

 魔術の属性には自分が保有する魔力の性質により、向き不向きがある。しかし、ティムはあの稚拙な魔術講義ですんなりと魔術が使えるようになっていることから、魔術に関しては天性の才能があるようだ。

 

 しかし、本人は魔術にあまり興味がないようだ。魔術を便利な道具として捉えており、魔術の探究よりも今の生活を大事にしているようだった。

 

 正直、その才能を腐らせておくのは我慢ならないが!今の平和な時代、魔術などある程度扱えれば十分なのだろう。ティムには母親がいることだし、今後も魔術に興味を持つことはないだろう。

 

 また、町についてだが自分の時代と比べ、今の時代は魔道具の発展が著しい。この魔道具の発展により、庶民の生活は明らかに向上し、生活水準が上がっているようだった。

 

 そして、これは俺様の同僚、初代七賢人の一人、シリル・ロジェが関与しているらしい。

 

序列七位、七賢人シリル・ロジェ

俺様の同僚、初代七賢人、マイスターと呼ばれた男だ。根っからの研究者タイプで実践的な能力は低かったが、水属性と無属性の研究において、奴の右に出るものはいなかった。

 

 あいつが三十代の頃、魔道具の研究に注力したらしく、そのおかげで魔道具が発展、庶民の手にも渡るようになり、生活の質の向上に貢献したらしい。ちなみに既に死亡しているそうだ。

 

 というか、俺様の同僚は『全知のアーテル』を除き、全員死亡しているらしく、現在の七賢人はアテール以外、全て様変わりしているようだった。

 

 あの堅物で魔術以外に興味がないような面をしていたアーテルは、現在、七賢人の業務の傍ら、王都の魔術学院で学院長をしているというから驚きだ。

 

 最後に、魔術のことだが、俺様の時代、魔術は基礎属性の火、水、風、土の四属性と応用属性の氷、木、雷の三属性、そのどれにも属さないものを無属性とし、魔術は合計八属性に分けられるという考えが一般的だった。

 

 しかし、現在、無属性はさらに闇属性と光属性、それ以外の属性という三つに細分化されるという考えが主流らしく、これは俺様の時代にはなかった考え方だ。

 

 このように魔術とその在り方は、さらなる進化を遂げているようだ。やはり、新しい魔術を学ぶためにも、そしてアーテルの奴に会いに行くためにも王都の魔術学校へ行く必要があるだろう。

 

 これが一ヶ月間情報を集めた成果だった。

 

 しかし、町だけでは情報には限界があり、そろそろこの町からも旅立つ時が来たようだった。

 

 俺様は両前足を揃え、真剣な面持ちで二人に声をかける。

 

「ティムとティムの母上殿、話がある」

 

「どうしたの?あ、もしかして、新発売のラズベリーアイスのこと?ちょうどシャルルと一緒に食べに行こうと思ってたの!」

 

 ...正直、ラズベリーアイスには興味があるが、今日はそれ以上に大切なことがある。俺様はティムと母上殿の目を見ながら話し始めた。

 

「俺様は、本当は森に住んでいる長生きの猫などではない。俺様は初代七賢人の一人、シャルル・エクレール。これが俺様の本当の名前だ」

 

 突然のことに頭が追いついていないようで、ティムは驚きと戸惑いを隠せない様子でいる。

 

「訳あって、黒猫の姿となり、この家の世話になっていたが、俺様は七賢人として元の体に戻らなければならない。」

 

「そのためにも、俺様はこの家を出て、旅に出ることにした、ひとまずは王都の魔術学院に向かうつもりだ。今まで世話になったな」

 

 俺様の「家を出る」という言葉を聞いた途端、ティムの顔は冷水に浸されたように青ざめた。

 

「出て、いくって……?」

 

「ああ。これ以上、世話になるわけには行かない。俺様は七賢人、魔術の探究こそ俺様の生きる道だ。それに、この時代は俺様が知るよりもさらに魔術が発展している、俺様は新しい魔術を学び、魔術の真理を追い求める予定だ。」

 

 ティムは下を向いたまま、黙ってしまった。俺様はこの娘に少し構いすぎたのかもしれない。

 

 この年ごろの子供は人に情が移るのが早く、たった一ヶ月程度の仲である俺様と別れることですら辛いのだろう。だからこそ、これでよかったのだ。

 

(それに、これで長居をして逆に俺様がティムに情でも移ったら笑い話にもならない。)

 

 家のドアを前足で開けながら俺様はティムに話しかける。

 

「世話になったな、またどこかで...」

 

「待って、シャルル!」

 

 作りかけの木彫りの置物を握りしめながら、ティムは初めて聞くような、叫び声に近い、大きな声を上げた。その手は震えている。

 

「シャルルが言ってること全然整理できてないし、こんなことを言うのも私らしくないって自分でも思うけど!」

 

「……私も、魔術を学ぶ。本気で、七賢人を超えるぐらい、魔術を探究するから!」

 

 想像もしない言葉だった。

 俺様の瞳孔が大きく開いたのが分かった。

 

「ティム、何を言っている。お前に魔術の探究など、退屈極まりないだろう」

 

 ティムは息を飲み、必死に言葉を探しながら、話しているようだった。

 

「私はシャルルが初めての友だちだったの、シャルルは私のことなんて、どうでもいいかもしれないけど、でも私はシャルルのこと友だちで家族だと思ってた。」

 

「だから、私、王都の魔術学院に通う。そして、私が『あなたにとって価値のある魔術の真理』を見つけるから、そしたらずっと私と一緒にいるって、私と約束して!」

 

 ティムと一ヶ月過ごしていて分かったことだが、この娘には向上心がなかった。魔術には興味もなく、出世や成り上がろうと言う気持ちもない。ただ母親のことを気にかけて、穏やかな生活を望み、一人になった自分の老後をただ心配するような情熱に欠ける印象の子供だった。だからこそ、ここまで熱意をもち、食い下がってくるなど予想もしていなかった。

 

「しかし、お前には母親がいるだろう、それは...」

 

「行きなさいティム、そしてどうか娘を連れていってあげてください。黒猫ちゃん、いやシャルルさん」

 

 今まで黙っていたティムの母親から突然、声がかかる。

 

「ティムには魔術の才能があります。ティムは魔術には興味がないといっていたけれど、ティムはちゃんとした魔術学校に通うべきだと思っていました。」

 

 ティムは母親のことを思い出し、我に帰ったのか心配そうな顔で母親に尋ねる。

 

「お母さん、本当にいいの?最近はお母さん元気だけど、でも、私まだ十四歳だし、それに...」

 

「いいんです。ティムのおかげで最近は調子がいいですし、それに私は十四歳の頃に両親の反対を押し切って、お父さんと駆け落ちしたんですから」

 

 ティムの母は顔を赤くしながら恥ずかしそうに、そう語った。

 

 どうやら、見かけによらず、案外、昔はアグレッシブな性格だったらしい。

 

「だからこそ、ティムは旅をして、魔術をしっかりと学ぶべきだと思います。シャルルさん、どうかティムを連れていってあげてください。」

 

 自分にとっても、願ってもない提案だ。喋る黒猫は悪目立ちがすぎるし、情報を集めたり、金銭を得るにはやはり人の手が必要だろう。それに、そもそも猫の体では魔術学院に入れないかもしれない。

 

 俺様は一息つき、決断を下した。

 

「いいだろう!魔術の情熱に欠けるお前がどこまで魔術の真理に迫れるか興味が湧いた!ティム、お前が魔術の探究を続ける限り、俺様はお前のそばにいること約束しよう!」

 

 そう宣言をした瞬間、俺様の体とティムの手が青白く光り始めた。

 

「な、なんだこれは、これは魔術?...っ!契約魔術か!?」

 

 ティムの手には猫の手のような形をした魔術印が浮かび上がってくる。あれは使い魔契約の魔術印だ。

 

(ティムのやつ、イメージだけで契約魔術を成立させたのか!?)

 

 確かに、主人が契約内容を提示し、使い魔が契約を承認する。使い魔契約の手続きは正式に踏んでいる...だが!

 

「お、俺様が...この俺様が使い魔だと!?」

 

 前足で頭を抱えながら、俺様はうずくまった。

 

 逆にティムの方は自分の手を見ながらニマニマとご機嫌な様子だ。

 

「これって確か、使い魔契約の魔術印だよね、そっか〜、シャルルが私の使い魔になったんだ...」

 

 ティムは俺様の顔を覗き込みながら、年相応な満面の笑みを見せた。

 

「これからよろしくね、シャルル♪」

 

 ...どうしてこうなった?

 

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