七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第6話 俺様はティムと旅に出るらしい

 

「これからよろしくね、シャルル♪」

 

 ティムの屈託のない笑顔が、俺様の脳裏に焼き付いて離れない。満面の笑みでこの小娘はなんてことをやらかしてくれたのか。

 

「お、俺様が使い魔、つかいま?七賢人の俺様が?使い魔?...」

 

 前足で頭を抱えたまま、俺様は震えた声でつぶやいた。魔術師としてこれ以上の屈辱があるのだろうか?

 

 ショックのあまり、何も考えられず、床の木目を数えている俺様とは違い、ティムはご機嫌な様子で、自分の手の甲に浮かんだ、使い魔の魔術印を撫でている。

 

「シャルル、どうしたの?ほら、そんなとこでうずくまってないで。お母さんが旅のためにお弁当作ってくれるって」

 

 俺様を覗き込むティムの顔は、先程までの必死さは消え、どこか誇らしげな、そして少しだけ意地悪な笑みを浮かべていた。

 

「チッ……いいだろう、ティム」

 

 俺様は渋々、うずくまるのをやめ、堂々とした態度を装いながら立ち上がった。

 

「言っておくが、俺様は魔術の真理を追い求めるためのパートナーとしてお前のそばにいるのだ。主人と使い魔という立場は、便宜的なものにすぎん!勘違いするなよ!」

 

「はいはい、わかってるよ。パートナーのシャルル」

 

 ティムはそう言って、にこりと笑う。その笑顔が、俺様を完全に手玉に取っていると主張しているように見えて、さらに腹立たしい。

 

「さあ、シャルルさん。ティムの旅支度を手伝ってあげてください。必要なものがあれば、ティムと一緒に買ってきてもらえませんか?」

 

 ティムの母親は、先程の感動的な一連の出来事が嘘のように落ち着き払い、さっそく旅の準備を促し始めた。

 

「母上殿......本当に、よろしいのですか?」

 

「ええ。ティムが、あんなに目を輝かせたのは、初めて見た気がします。それに、旅の思い出はティムをさらに成長させてくれるでしょう」

 

 母親の優しく強い眼差しを見て、俺様も気持ちを切り替えた。

 

「ティム!ここから王都までは長い道のりになるからな、地図とコンパス、寝袋等、旅に必要なものを色々と町で買い足しに行くぞ。地図はちゃんと上等なものを買えよ」 

 

「うん!楽しみだね、シャルル!早く町に買い出しに行こ!」

 

 笑顔で町に走り出そうとするティムの背中を見つめながら、俺様は仕方なく後を追うのだった。

 

 

 

* * *

 

 翌朝、俺様はティムの頭の上に乗っていた。

 

「シャルル〜、頭に乗らないでよ、結構重いよ」

 

「ふん、魔術師たるもの頭脳だけではなく、体も鍛えねばならん、ティムは体が細いからな、トレーニングにちょうどいいだろ」

 

 実際に魔術師にもある程度の体力は必要だ。体力がなければ長時間、魔術を学ぶことはできないし、また戦闘時、魔力が切れればただの的になってしまう。

 

 もちろん、今回は単にティムを俺様の足として使っているだけだ。歩くより楽なのだ。

 

「シャルルも子猫じゃん、おっきな猫になるために、一緒に体鍛えた方がいいんじゃないの?」

 

「な、なんだと!」

 

 そう怒鳴っても、猫の口から出る声は「ミャオ!」という可愛らしい鳴き声にしかならない。ティムは楽しそうに笑い、俺様が抗議するたびに頭を優かしく撫でる。

 

「さて、王都へ向けて出発だ!お母さん、行ってきます!」

 

「はい、ティム、体には気をつけて、元気でね。たまにはお母さんに手紙でも送ってくださいね」

 

 ティムは、母親とハグをした後、母親が持たせてくれた大きめのリュックを背負い、家を出た。

 

 リュックの中には、母親お手製の保存食と、新しい服、昨日買い出しに行った地図などの必需品が詰めてある。

 

「まずは徒歩で森を抜けて、三日ほどで隣町の大きな宿場町へ。そこから馬車で二日かけ、魔道具の都アルテギアへ向かう。その後、魔導列車で一気に王都へ行くのが最短ルートだな」

 

「魔導列車!私、初めて乗るかも、楽しみだね!」

 

 魔導列車とは魔力を燃料として動く鉄の箱のようなものだ。俺様が七賢人だった六十年前、魔導列車計画というものが存在し、七賢人全体の課題の一つでもあった。

 

 今の時代はすでに現物が完成しているようで、王都からアルテギア区間とその他何箇所かの区間で実際に稼働しているようだった。

 

「もしかして、シャルルも魔導列車楽しみだったりして〜」

 

「あぁ、素直に楽しみだ。俺様が七賢人の頃、魔導列車の動力部と防護結界の一部の開発に協力してたからな」

 

「うそ、本当に!?シャルルすごいね!」

 

 ティムはキラキラと尊敬の眼差しでこちらを見てくる。今まで散々、俺様を猫扱いして、舐めていたくせに現金なやつだ。

 

「そんなことはどうでもいい、それより魔導列車の代金と魔術学院の入学費用を貯めなければならない。とりあえず今から行く宿場町レスタリアで冒険者ギルドに加入するぞ」

 

「冒険者ギルド!私、冒険者になるんだ、すごい!」

 

 ティムはまた、キラキラとした顔をしながら鼻歌を歌い、弾むようにして歩く。

 

 王都付近は現在も魔物が多く、危険な場所が多いらしいが、この辺は大した魔物もいないため、今は遠足気分でも構わない。

 

 しかし、ティムには魔術学院の試験を突破し、魔術の真理を追求してもらわなければならない。

 

 今夜から本格的に魔術の修行をつけるとしよう。

 

「ねぇ、シャルル、冷静に考えて三日間ずっと森の中を歩くって、実はものすごく大変なんじゃない?」

 

「そうか?大したことないだろう。しかし、本当は商人の馬車などに護衛として乗れれば良かったのだがな。今は防犯意識がしっかりとしているらしい」

 

「昔のことは知らないけど、今の時代って普通の商人はちゃんした護衛を雇ってるから、そんな野良の怪しい人わざわざ雇わないよ」

 

 俺様の時代、実力のあるものは商人の護衛を買って出て、馬車に乗せてもらい、色々な場所を旅していたのだが。

 

 あるとき、護衛を名乗り出て荷物を強奪する盗賊による被害が多発したため、今はそういったことは出来ないらしい。生きやすい時代になったのか生きづらい時代になったのか、よく分からないな。

 

「そんなことより、シャルル〜、お腹すいたよ。お昼にしようよ〜」

 

 なんだがティムが日に日に幼くなっている気がする。こんな小娘が本当に魔術の真理に迫れるのか、今から不安だ...

 

 

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