七賢人の俺様は黒猫になったらしい   作:まろんや

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第7話 やはりティムには魔術の才能があるらしい

 

 この森は危険な魔物も少なく、ティムはスキップをしながら歩くほど、歩調は終始軽やかだった。

 

 しかし、夕暮れが迫る頃には、ティムもさすがに疲労を見せ始めた。

 

「ハァ、ハァ……シャルル、もう無理……」

 

「軟弱者め。魔術師は体力も魔力も尽き果ててからが腕の見せ所だ。だが、今日はここまでとしよう」

 

 ちょうど木々が開け、月明かりの当たる場所を見つけた。昨夜人がいたのだろう、燃え尽きた焚き火の跡がある。野営にもってこいの場所だ。

 

「やったー、やっと休憩だ〜」

 

 ティムはドサッと尻餅をついて、その場に座り込む。旅の初日で大きな荷物を持って歩き続けたのだから、今日ばかりは仕方がない。

 

「ご苦労だった、ティム。今日の野営と食事の準備は俺様が代わりにするから安心しろ」

 

「え、今日のシャルル、なんかすっごく優しくない?どうしたの?体調悪いの?」

 

 ティムの不躾な発言に抗議したい気持ちをグッと飲み込み、俺様は本題を切り出した。

 

「もちろん、今日のティムは頑張ったからな、ゆっくり休むといい。その代わり、これから魔術の特訓をしてもらう」

 

「ありがとう、シャルル!……え?魔術の特訓?」

 

 ティムはポカンとした顔で困惑しているようだ。

 

「あぁ、ひとまずお前を一人前の魔術師にしなければ、そもそも魔術の真理を極めるなど不可能だからな。いいか、ティム。お前は同じ魔術を同時に何個まで展開できる?」

 

「えっと、最大三個ぐらいかな?」

 

(独学でそれを成し遂げているティムにはやはり才能がある。本来、魔術師見習いが三ヶ月練習してようやく到達するレベルなのだが)

 

「ならば、異なる魔術を同時に展開できるか?」

 

「やったことないかも。少しやってみるね」

 

 ティムはそう言って魔術を展開しようとするが、すぐに魔術は崩壊し、発動できなかった。

 

「うわ、これ思ったより難しいかも。頭がこんがらがってうまく魔術を展開できない」

 

「異なる魔術の同時展開は、難易度が格段に違う。ひとまず、一つの魔術を展開した後、一秒後に異なる魔術を展開してみろ。その間隔を徐々に縮めていき、同時に展開できるまで繰り返す。これが当面の課題だ」

 

 王都魔術学院は完全なる実力制だ。魔術の知識に乏しいティムだが、異なる魔術の同時展開を習得できれば、最低限のレベルには達せる。

 

「いずれは魔法陣の暗記ではなく、自ら魔法陣を構築し、魔術を開発できるようになってほしいが、座学は町についてからだ。ひとまずティムには、実技面の技術を徹底的に叩き込む」

 

「わかった、早く魔術の同時展開をマスターして、シャルルを驚かせてあげるんだから!」

 

 ティムはドヤ顔で自信満々に答える。この前向きさだけは評価できる。

 

 俺様は「フン」と鼻を鳴らし、必死に試行錯誤を始めるティムを見ながら、晩飯の準備に取り掛かった。

 

 

 

* * *

 

「ティム、晩飯の準備ができたぞ、魔術の調子はどうだ?」

 

「ごめん、シャルル、別な魔術を同時に展開するって思ったよりも難しくて……でも、魔術を展開した後一秒後に別な魔術を展開するってのはできるようになったよ」

 

 そう言って、ティムは右手に小さな火魔術を展開した後、すぐに左手に水魔術を展開して見せた。

 

(なッ……バカな!)

 

 正直、それすらも、もっと時間がかかるものだと思っていた。たった数時間の試行錯誤で、普通の魔術師なら一週間かかる課題を成し遂げた。その才能は、七賢人のアーテルを思い出すほどだ。

 

「上出来だ。魔術の同時展開は常に練習しておくように。じゃあその二つの魔術でお湯を作って、この釜に入れてくれ。風呂にするぞ」

 

 俺様は、土魔術で作った釜を見せ、お湯を入れるよう促した。

 

「分かった!それより、この釜、シャルルが魔術で作ったの?全然土の感じないし、すごく硬くて鉄みたい」

 

「あぁ、これは魔力を含ませた土を圧縮して作ったものだ。この魔力の圧縮は魔術の威力やスピードを高めるのに必須で……こほん、話すと長くなるから、これは後日教えるとしよう。ひとまず体を清めておけ。その後ご飯にするぞ」

 

 ティムには、俺様の予想を遥かに超える魔術の才能があるらしい。異なる魔術の同時展開、応用的な魔術の扱い方、そして魔力の圧縮――これらを指導すれば、この魔術が発展した時代であっても、魔術学院の入学ぐらいは余裕だろう。

 

 それよりも問題は、魔術学院の入学費用と魔導列車の代金だ。ひとまず金貨十枚……冒険者ギルドに入ったとして、どのぐらいかかるだろうか?

 

「シャルル、ご飯作るの上手だね。この干し肉のスープ、すっごく美味しいよ」

 

「つまみ食いするな!晩飯は体を清めてからだ!」

 

 叱られているというのにティムはニコニコしながら、渋々つまみ食いを辞めてそそくさと風呂に入る準備をする。

 

 ティムの才能を見て、ティムが魔術師となり魔術の真理を追い求める姿を、俺様は俄然見たくなった。

 

 楽観的になるなど、まったくもって自分らしくない。しかし、

 

(金がなければ俺様が魔道具や魔術書を作り売ればいい。なんとかなるだろう)

 

 ティムの姿を見ていると、なぜか、そう思ってしまうのだった。

 

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