「ほどよい馬鹿」と言われた俺が、美人ばかりの生徒会に参加して学園の人気者になる話   作:えんだー

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19 日比谷と滝沢2

「チョコの話ですか?」

 

「違うわ。あなたが疲れているんじゃないかってはなし」

 

「そっちですか」

 

 

 隣を歩く副会長の方を見ると、副会長の視線は前だけに注がれていた。俺には向けられていない。

 

 

「急にどうしたんですか? もしかして、心配してくれてます?」

 

「心配してるんじゃないわ。ただ、事実確認としてあなたに疲れが溜まっているのか知りたいのよ」

 

「だったら先ほども言った通りですよ。疲れはありますけど、疲労度自体は部活をやってる連中とそう大差ないと思いますよ」

 

 

 ほら、と俺が校舎の外を指さした先では同じコートで身長差の激しい集団がなにやら片付けをしている。

 

 中高一貫校である来栖学園では、生徒会が中等部と高等部で分かれているように、同じ活動内容の部活が中等部と高等部で分かれて存在している。だが、施設が限られている関係で中等部のサッカー部と高等部のサッカー部が同じコートで練習をするといったことも多い。特に、文芸部や手芸部といった文化系の部活は中等部と高等部の生徒が同じ部室を使うことも多いようだ。

 

 それゆえ、彼らは年齢がかなり離れているのにも関わらず同じ場所で活動するために交流が生まれるらしい。その結果、彼らのような身長差の激しい集団をときどき見かけることができるのだ。

 

 下は中学1年生、上は高校3年生の集団なので身長差の激しい集団になるのは当然だろう。

 

 そんな彼らのように。生徒会だけではないのだ、この時間に残っているのは。

 

 

「あなたの場合、生徒会に入ってひと月も経ってないのに私や会長とそれほど変わらない仕事量をこなしている。そのうえ、昨日からではあるけど新しい生徒会役員も探している。それなのにそこまで疲れがたまっていないというなら......サボりの自白ととらえてもいいかしら?」

 

「帰ってから一歩も動けないほど疲れてます」

 

「その割には元気そうね」

 

「なんていえばよかったんですか?」

 

「別に、普通に疲れてますって言えばいいのよ」

 

 

 2人しかいない廊下で副会長の通りのいい声が響く。

 

 どうして気を遣って「疲れてないですよ」と言ったら詰められなきゃならんのだろう。

 

 

「生徒会の多忙さを見れば疲れたと言い出しにくいのは理解しているわ。でも、いまの生徒会には3人しかいないのだから無理して倒れられたら困る」

 

「......もしかしなくとも心配してくれてるんですか?」

 

「倒れられたら困ると言ったのよ。私は別に勘がいい人間じゃないから、あなたがEスポーツ部のときみたいにコソコソしていたり隠し事をしても気がつけないわ」

 

「そのことについては弁明のしようがありません」

 

「あの時のことはもう終わったのだからいいのよ。いま滝沢くんに謝って欲しいわけじゃない。ただ、疲れたり困っているなら相談しなさいって言ってるの。分かった?」

 

「......ははは、分かりましたよ」

 

 

 

 俺は面白くなって笑ってしまう。俺が笑いだした理由が理解できなかったのか、副会長が目を細めながらも俺の方をようやく見た。

 

 廊下を照らすLEDライトの白色の光が副会長の白い肌をよく照らしている。やっぱ美人だなぁ、この人は。

 

 

「なにがおかしいの?」

 

「俺のことを心配してくれてるのは分かるんですが、そう怒ったように言わなくてもと思って」

 

 

 曲がり角を曲がって階段を降りる。俺が少しだけ先に降りてそのあとに副会長が続く。

 

 

「別に怒ってないわよ。怒って欲しいわけ?」

 

「いいえ? 笑っていてほしいですよ」

 

「......えっ?」

 

 

 先に俺が階段を降りきって、副会長が降りてくるのを階段を見上げながら待つ。そのあいだ副会長は何か言いたそうな顔をしていたが、とくに何かを言うことも無かった。

 

 副会長が階段を降りきると再び並んで歩き出す。

 

 

「副会長は面倒見のいい人ですよね」

 

「いきなり何よ」

 

「初日から俺のことを気にかけてくれてましたし。いまだって......言い方がキツいですけど」

 

 

 いまだって最終的に副会長は心配しているという部分については否定しなかった。

 

 

「不満があるなら聞くわよ......と言いたいところだけど。あなたの言うことももっともね」

 

「あら、てっきり否定されると思ってました」

 

「さすがに16年以上も生きれば自分の言い方が相手にどう受け取られるかぐらい理解しているわ。あなただって自分が相手から軽そうな人だって思われる話し方をしてる自覚はあるでしょ?」

 

 

 そう副会長が言ったタイミングで玄関に到着する。俺と副会長はクラスは違うが靴箱はほぼ同じ位置にある。

 

 俺と副会長は一緒に靴を履き替えながら会話を続ける。

 

 

「俺のことそんなふうに思ってたんですか?」 

 

「私と同じくらい生きていても理解していない人もいるのね。ありがとう、勉強になったわ」

 

「冗談に決まってるじゃないですか。本当にご自身の言い方がナイフみたいな切れ味してる自覚あります?」

 

 

 俺が先に靴を履き終えると、副会長は少し急いだ様子で靴を履こうとする。

 

 

「いままで直そうと思ったことはあるわ。当たりも強いから私のもとから離れていった人、も......っ!?」

 

 

 足元が暗かったせいか副会長がつまずいた。俺の方に倒れて来そうだったのでそのまま突っ立ていると、案の定副会長が俺の方に倒れてくる。

 

 掴まりやすいように腕を差し出しておくと、副会長はうまく掴み倒れずにすんだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「っ……ごめんなさい、靴をちゃんと履けてなかったみたい」

 

 

 相当焦ったようで副会長はゆっくりと深呼吸をしながら俺の腕を離す。

 

 

「膝とか腰とか痛めたりしません?」

 

「妙に具体的なところ気にするわね。大丈夫よ」

 

「ならよかったです」

 

 

 こけそうになったのが恥ずかしかったのか。それとも暑いだけなのかは分からないが、副会長は顔を手であおぎながら靴を履き直す。

 

 その間俺はなんとなく玄関のドアの前まで行き外を見る。よし、副会長のこけそうな姿を見た者は他にいないらしい。

 

 足音がしたので振り返ると、靴を履き直した副会長が肩が揺れない程度の小走りで俺の方へとやって来る最中だった。

 

 

「待たせたわね」

 

「いーえ」

 

 

 玄関のドアを開け副会長と外に出る。

 

 副会長と俺は家の方向が反対なのでなにもトラブルが起きなければ校門でお別れになる。

 

 個人的には先ほど副会長がこぼした「私から離れていった人」というのが気になるので、もう少し会話を続けたいところ。

 

 

「副会長、さっきのあれ……自分から離れて行った人って話ですけど」

 

「はぁ……忘れてと言ってももう遅いわね」

 

 

 副会長がこめかみを押さえながら頭を振る。普段俺に対してあきれてる時とは違う少し後悔するような顔だ。

 

 

「どうしてあんなこと言ったのかしら……調子が狂う」

 

「そんなに聞かれたくない話だったなら二度と話題に出しませんよ。忘れる努力もします」

 

「努力してどうにかなることでもないでしょうに……単純に私が未熟だから相手を傷つけて私のもとから人が離れていった、という話よ」

 

 

 今日はいままで見たことがない副会長の顔をたくさん見る。後悔するような顔も、悲しそうな顔も。初めて見た。

 

 そして、申し訳なさそうな顔も。

 

 

「滝沢くん、あなたにも迷惑をかけるわね」

 

「……なんのことです?」

 

「うちの生徒会に3人しかいないから、まだ入ってひと月しか経ってない滝沢くんを忙しくさせてしまってる。ありがたいことにあなたの物覚えがいいから何とかなっているけれど、本来であればもっと仕事に慣れる時間があっていいはずよ……少なくとも私が生徒会に入ったときはそうだった」

 

 

 それは仕方がないでしょう、という言葉が出かかった。すぐに自分の本心でないから言うべきじゃないと思った。

 

 

「それについては仕方がないこと......とは思いません。いまだから正直に言いますが、最初に会ったときの副会長の態度は生徒会に入る人を減らす要因になっていたと思います」

 

 

 俺は思っていたことを正直に話す。4割ぐらいの確率でむっとした表情になるかと思ったのだが、副会長から返ってきたのは図星だと言わんばかりの苦笑だった。

 

 

「そうね、あなたの言うとおり。私がしてもらったことをあなたにしてあげられないのは私が未熟だからよ。私が生徒会に人を集めることも引きとめておくことも、来てくれた人を受け入れようともしなかったから。その結果、あなたが苦労をしている。だから、申し訳ないと思う」

 

 

 そう正直に言われるとどう返したらいいのか分からない。

 

 

「......本当に今日はどうしたんですか?」

 

「私が滝沢くんに対して申し訳ないというのがそんなにおかしい?」

 

「いえ、そんなに申し訳ないと思うなら普段からもうちょっと俺に対して手心を加えてくれないかと思いまして。主に言い方とか」

 

「他の人には気を付けたいと思うけれど、あなたにはあれぐらいで十分......ではないわね。足りないぐらいよ。いくら言っても軽口が返ってくるもの」

 

「あれは傷ついた心を悟られないように精いっぱい明るく振舞ってるだけです」

 

「ほらまた軽口が返ってくる」

 

 

 副会長がクスッと笑った。

 

 たぶん俺がはじめてみた副会長の笑顔、俺もつられて笑ってしまう。

 

 

「とりあえず副会長が何を考えているのかは理解しました。そんな風に考えているなら新しいメンバーが来たとき優しくしてあげてくださいよ」

 

「努力するわ......それにしても」

 

 

 副会長がジッと俺を見つめる......というかにらみつけてくる。

 

 

「なんすか?」

 

「なんでもないわ。あなたの顔が気に入らなかっただけ」

 

「俺の知らないうちになんでもないって言葉の意味変わったんですか?」

 

「レンちゃーん!!! ハヤトくーん!!!」

 

 

 俺と副会長がかなり長く話し込んでいたからか、鍵を返しに行った会長に追いつかれたらしい。後ろから屋外でもよく通る元気な声が聞こえる。

 

 

「2人ともまだ帰ってなかったの!?」

 

「会長を待ってたんですよ。ね、滝沢くん?」

 

 

 なんと答えようかと俺が考えているうちに答えてしまった。実際は長話をしていたからだが、わざわざそのことを言う必要もないので、俺は副会長の返答に全力でのっかることにした。

 

 

「そうなんですよ。やっぱり会長を待ちたいなと思って」

 

「ふ、ふたりとも......っ! なんて優しい後輩たちなんだ!」

 

 

 後ろから届く校舎の光のせいで会長の顔はよく見えない。だが、満面の笑みを浮かべているのが分かった。

 

 

「じゃあ校門までだけど一緒にかえろ!」

 

 

 日が沈んだ校内、会長と副会長と俺の3人で校門へ向かう。

 

 ぴょんぴょんとスキップしながら前を歩く会長を微笑ましく思いながら、俺は隣を歩く副会長の顔を見る。赤いフレームの眼鏡の奥にある瞳が俺の方へ向く。

 

 

「そうジロジロ見られたら恥ずかしいわ」

 

 

 いつも鋭いその瞳が、いまは少し柔らかくなっていたような気がした。




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