「ほどよい馬鹿」と言われた俺が、美人ばかりの生徒会に参加して学園の人気者になる話 作:えんだー
男の声が聞こえたとき、ひまりはちょうど1個目の画鋲を差したところだった。そんなとき、自分の名前が聞こえたひまりはビクッと体を震わせる。
俺が声のした方に顔を向けると、制服を着た男がこちらにずんずんと歩いてきていた。
パーマをかけた黒髪にニヤけた笑みに平均よりもちょっと身長が高そうな彼は、ひまりに視線を固定していた。
体つきを見る限り、運動をする習慣があるようだが肩が揺れて歩くところを見るに運動神経がそこまでいいわけではなさそうだ。
それがいい具合にちょっと威圧的に見える。
「九条先輩……」
いつもよりテンションが低めにひまりから彼のことをどう感じているのかよく伝わってくる。
彼が噂の九条センパイか……会長たちを見ると表情の変化は薄いが目尻が下がっているのが分かる。
「ひま〜、水曜はいつもうちに来てくれてたじゃん。みんなひまが来るの楽しみにしてたのにどうして来なかったんだよ〜」
俺たちは眼中にない、というよりわざと視界に入れないようにしているようにも見える彼は、ひまり一直線でこちらに向かってくる。
そこそこ距離があるのにずいぶん通る声だ。
「今日は別の用事があったので」
「別の用事ってなんだよ〜。あ、生徒会の人らと一緒にいるってことは……もしかして体育祭関連のことだろ?」
そこではじめて九条センパイは会長と副会長を視界に入れた。会長はニコッと笑みを浮かべて会釈をしたので、九条センパイも会釈を返す。
「そうです! 体育祭のポスターを貼らせてもらうために生徒会室にお邪魔してました。それと……」
「やっぱそうか! 用事があったなら仕方ないな〜。そろそろ体験入部の期間が終わるから、入部届け早く出してくれよ。来週待ってるからさ!!!」
ひまりの話を最後まで聞かずにニヤけた笑みのまま、親指を立てる九条センパイ。
この距離でも拡声器を使っているようなクソデカボイスだ。
俺は耳がピリピリするのを感じながら、手が止まったひまりの代わりに俺は画鋲を刺してポスターを貼り続ける。
「そのことなんですけど、わたし生徒会に入るのでクイズ研には入れないです! すみません!!!」
九条センパイの声量にも負けない快活さで頭を下げるひまり。センパイの頰がひくついたのが分かった。
この手のやつが簡単に引くことはないと思うのだが……うーむ、まだポスターを貼らないといけないのに長引きそうな展開になったぞ?
「……え、まじ? はじめて聞いたけど、生徒会に入りたいとか」
「つい最近お誘いしていただきまして、生徒会に入ることを決めました。クイズ研のみなさんにはいつもお世話になっていたのにすみません!」
「いや、別にそれはいいけどさ……っていうか生徒会に入ったからって部活に入っちゃだめって規則はないだろ」
ちょっと苛立ちのこもった声だった。
「中途半端な気持ちで部活にいても先輩方に失礼だと思ったんです」
「別に俺は迷惑じゃねえって。そりゃあみんな悲しむかもしれないけどさ」
「中途半端なことをしたくなかったのは生徒会の先輩方にもです」
アドリブが得意なタイプじゃないだろうに、咄嗟にその返しが出るのか……
九条センパイもいまの返答に喉を詰まらせる。口を動かそうにもひまりをクイズ研に入れるための言葉が思いつかないのだろう。
にしても、ひまり一歩も引かんなぁ……
「生徒会の人たちも、自分たちが理由でひまが入りたい部活に入れないのは辛いはずだぜ。そうじゃないですか?」
九条センパイが会長に同意を得るように言う。
一見ひまりのためと言いながら動機はひまりをクイズ研に入れたいだけなのだろうが、ずいぶんと上手い言い方をする人だ。
自分を後輩を思いやるいい先輩だと装いつつ、こちらがYesと言わないとひまりに対する思いやりがない先輩のような印象を作る質問。
うちの姉と比べればさすがに見劣りするが、丸め込めるのが上手いと言うか手慣れている印象を受ける。
たぶん日常的にこういう言動をしているのだろう……村重くんが苦労している理由が少し分かった。
「生徒会の活動が理由でひまちゃんの好きなことができなくなるのは、私も悲しいよ。だから、生徒会でひまちゃんのやりたいことが一緒にできるよう頑張るつもりなんだ。ね、ひまちゃん」
「です! 九条先輩、私は生徒会でやりたいことができると思ったので入ることを決めました。クイズ研は楽しい場所でしたが、いまは生徒会に集中したいです! ご心配いただきありがとうございます!」
そう言って頭を下げるひまりに、九条センパイの唇が分かりやすく歪む。
「なら……まあ、仕方ないか」
納得してなさそうだったが渋々といった感じで九条センパイは引き下がる。
「じゃあ、生徒会の仕事に慣れたらクイズ研に──『いい加減にしなさい』──」
まだ懲りずにひまりを誘おうとした九条センパイに副会長が一喝を入れる。
「ここまで断られてるなら一度引きなさい。そこまでしつこく勧誘したら、それこそ彼女断りにくくなるわよ。短い時間しか付き合いがないけれど、私でも義理堅い子なのが分かるのにあなたには分からないのかしら? それとも、無理を言って部活に入ってくれた後輩が、本当に楽しめる部活にできるとでも?」
そうハッキリと口にする。この場にいる全員が九条センパイの顔をつぶさないように穏便にことを運んでいたというのに……なんとも頼もしい人である。
「……ま、それもそうっすね」
納得したようなことを言いつつも、九条センパイはふてくされた顔をする。諦めたわけではないだろうが、さすがに引いてくれるだろう。
それでもなお踏み込んでこようとするなら、俺はその面の皮の厚さに尊敬の念を抱くだろう。
「ま、いつでも来てくれていいからな。ひまなら大歓迎だからさ! 生徒会らの人も今日はすんませんでした!」
そう軽く謝った九条センパイは、踵を返してどこかへ行ってしまう。
さすがにこれ以上踏み込む気はないらしい。
あの人が来て騒がしかった廊下がシーンと静まりかえる。
「すみません! お時間取らせた上に手助けもしていただいて……なんとお礼を言ったらいいか」
ひまりがまた頭を下げるのを見て、会長はいやいやと手を横に振る。
「むしろ私感心しちゃった。ひまちゃん、先輩相手でもハッキリ自分の意見言えてすごかったよ! それにね……ひまちゃんが生徒会を頑張ろうと思ってくれてるのが分かってすごくうれしかった」
会長がニコりと笑う。いつもの、日常やトラブルを楽しむようなハツラツとした笑顔じゃない。
相手が何かしてくれたときに浮かべるような、感謝や嬉しさが混ざった微笑みだった。
「そんな……」
それでも申し訳なさそうな顔をするひまりに副会長が話しかける。
「疑っていたわけではなけれど……あの場であんな言葉が出る、あなたが生徒会に来てくれたこと……その、なんというか」
副会長は納得はしつつも、ひまりがどうして生徒会に入ろうと思っているのか。それがいまいち掴めていなかったのだと思う。
なにせ、ひまりは最初俺を理由に生徒会に入りたいと言っていたのだから怪しんで当然だ。
そんなひまりが生徒会の先輩方に迷惑をかけたくないのだと、自分よりも体が大きく威圧感もある九条センパイ相手に啖呵を切った。
副会長は意外と人情家だ。だから、ひまりについて納得できていない部分がまだあるとは思うが、その姿を見て感じるものがあったのかもしれない。
その証拠に珍しく言葉が詰まりもじもじとしている。
「私は、うれしく思う」
「……はい!」
恥ずかしそうに口にした副会長の言葉に、少し間を置いたひまりは力強く頷いた。
夏前の蒸し暑さを押し返すような温かな空間、それを作り出すための当て馬にされてしまった九条センパイが不憫にならない。
それに、九条センパイの話し方的に生徒会に入らなければまるでクイズ研に入るような言い方だったが……実際はひまりは軽音部に入る予定だったのだ。
そのことを知らずに勧誘をし続ける九条センパイには、なんとも言えない虚しさを感じたので、俺は彼に対して心の中で手を合わせる。
「それにしても、聞いていたより話が通じそうなやつですね。おかげで予想していたよりも早く話が終わりました」
もちろん、話が早くすんだ1番の功労者はひまりだ。しかし、最初に聞いていた印象が悪すぎたのか、九条センパイが思ったよりも話ができそうなやつだと感じたのでフォローのつもりで話す。
「何を言ってるのよ。日向さんにはしつこく絡んでくる上に、私たちをずっと生徒会の人って名前でも役職でも呼ばなかったじゃない……それに滝沢くんに1度たりとも視線を向けなかった」
失礼千万よ、と副会長は九条センパイが去った方向を見ながら言う。それを聞いたひまりが、勢いよくこちらを振り返った。
嫌な気分です、と主張するように曲がった眉がひまりにあまりに似合わないので俺はくすっと笑う。
「初対面の相手だから緊張していたんじゃないですか? まあ、会長と副会長に対する敬意の無さにはどうしてやろうかと思いましたが」
「はい! その話はもういったん終わり!!!」
会長が手を叩いてバチンッという鈍い音を鳴らす。
本当はパンッと響く軽い音を鳴らしたかったのだろうが、うまく叩けなかったらしい。痛そうな顔をしている。
しかし、その痛みと引き換えに、九条センパイへの陰口大会になりそうな雰囲気を吹き飛ばした会長は満足げに頷いた。
「話題とライトは明るいのにかぎる! そのことが分かったひと?」
「はい!」「分かりました」「うっす」
「よーし! 話題が暗いと気持ちまで暗くなっちゃうからね! じゃあ、ここのポスターを貼り終えて......はりきって残りのポスター貼りに行くよ~!」
「ここのはもう貼りましたよ」
俺はポスターを指さした。会長はポスターに近づいてしっかりと見る。
「いつのまに!?」
「さっき九条センパイが話しているあいだにささっと」
「さすがだね~。じゃあ残りの掲示板に向かおう!」
そう言って会長は再び前を歩き出した。こういうところを見るたびに、副会長がどうして会長のことを慕っているのかがよく分かる。
「滝沢センパイ、改めて生徒会に誘ってくれてありがとうございます」
会長についていきながら歩いている最中、隣にいたひまりが小さな声でそう話しかけてきた。
「マイさんも日比谷さんも、とても優しい方でした。私、生徒会で頑張っていきたいですっ」
「……そりゃよかった」
俺があくびをしながら返事をするころ、2つ目の掲示板に到着するのであった。
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