Wizard of the World of Stand 作:泡醤油
ことの始まりは、花京院のたった一言だった。
無理だと理解していて、半分冗談のつもりで「戦う練習がしたい」と調子を尋ねてきたカルミアへ返した言葉の端につけただけ。しかしそれは、連日一人で魔法の練習をしていたカルミアにありがたい誘い文句として受け入れられた。
「本当にいいのかい?」
「ああ、全力でいいぜ。その代わり手加減出来るか保証は出来ないから自分の身は守れよ」
カルミアがいつも練習を行っているSPW財団の元研究所。地下一階の一番奥に位置する大部屋でカルミアと花京院は向かい合っていた。普段使用されることのない核シェルターのような頑丈な造りの実験場は、無機物に魔法をぶつけるだけだったカルミアも入るのは初めてだ。大急ぎで準備をしていたアレンとシルヴィオは今頃上の階にある観察部屋へと移動しているだろう。
ここへ通されたということは、花京院のスタンドの威力もそうだが、カルミアの本気の魔法がただの屋内で使用されるには危険だと判断されたからだろう。少なくとも、カルミアの練習に付き合ってその魔法を見ていたアレンは迷いなく二人をここへ通すことを決めた。
貰い物の杖ではなく、魔法学校入学からの相棒であるトネリコの杖を巾着袋から取り出す。薄茶色のそれは持ち手側が大きくしなり、端は巻貝のように渦巻いている。
初めて目にする魔法使いの杖に、花京院は無意識に喉を鳴らした。ファンタジーやメルヘンでしかないと思っていた存在が今そこに存在するということに、僅かでも胸が高鳴るのを抑えきれない。
「では…お手合わせ願います」
若干芝居掛かった動作で深々と頭を下げたカルミアに釣られて頭を下げた花京院は、瞬きをすると同時に自分の分身とも言えるスタンド"
相手は魔法使いの決闘のルールを知らないマグル。背を向けて距離を開けることはしないが、杖を顔の前に翳してからそのまま三歩後ろに下がる。花京院のスタンドを真っ直ぐに見据えカルミアは杖を構えた。
「エクスペリアームス!!」
「"
カルミアが呪文を口にするのと"
長距離タイプのスタンドはその間も触手を床に張り巡らせ徐々にカルミアへと近付いて行く。足を絡め取ろうとするスタンドを後ろへ飛ぶことで躱し、カルミアは障害物として置かれている岩に似たコンクリの塊に杖を向ける。
「レダクトッ!」
粉々に砕けた岩の欠片が飛び散るが、それを軽く避け触手は蠢く。更に一歩後ろへ飛びながら、宙を舞った岩の欠片へとカルミアは狙いを定める。
「コンフリンゴ、爆発せよ!」
カルミアが狙いを定めた欠片は、やや小さいながらも確かな威力を持って爆発した。驚いたように一瞬動きを止めた花京院の隙をつき、続けて二三個爆発させる。
流石に腕で顔を守った花京院のスタンドの動きが止まったのを見て、次は足元の触手に杖を向けた。今、この状況で、花京院のスタンドを止めるのに一番適している魔法は……。カルミアは数本も伸びる触手に集中して口を開く。
「フェルーラ」
どこからか現れた真っ白な包帯が触手達に絡まり、それらを纏め上げる。抵抗するように蠢く緑の触手には未だ慣れておらず、カルミアの背筋にぞくりと悪寒が走った。
思わず腕をさすりながら後ろへ下がるが、その背中に壁が当たりそれ以上後退りは出来なくなった。スタンドの触手から逃げるうちに壁際まで追い詰められていたらしい。花京院の方を見ると意味ありげに口元に弧を描く姿が見えた。
「……チッ。余裕じゃあねーか」
カルミアは舌打ちしながら胸ポケットを探ると、中から一枚の羽根を取り出した。芯の部分が異様に太いそれは全体的に白いが所々黒が混ざっている。一見すると鳩の羽根のようだが、光に晒すとまるでそれ自体が光を発しているかのような光沢が生まれるそれは明らかに魔法生物のものだ。
これは出来るだけ使いたくなかった、と内心でも舌打ちする。しかし、追い詰められてしまったのだから仕方ない。大怪我をさせないようにとしかルールを決めていない為、何をしようが基本的には咎められないはずだ。
「エンゴージオ」
魔法をかけられた羽根はカルミアの手の中で大きくなっていき、ついには彼と頭一つ分しか変わらないほどになってしまった。
ただの羽根にしか見えなかったそれに文字や模様が描かれていることには、そこまで大きくなってから気付くことが出来た。一体何に使うのか……花京院は触手に絡みつく包帯を振りほどきながら、カルミアの動きを見逃さないようにと瞬きも忘れてじっと見つめる。
「じゃあ、スピード比べといこうか」
羽根の端に付けられた銀の装飾部分に足をかけたカルミアは、そのまま真上へと上昇した。ある程度上がったところで器用に体を操り羽根の上に跨る。その姿はまさに箒に跨って空を飛ぶ魔法使いそのものだ。なぜ箒ではなく羽根なのかが気にかかるが。
流石に空を飛ぶとは思っていなかったのだろう。花京院が一瞬ぽかんと見上げてきたのをカルミアは見逃さなかった。先ほど足をかけていた部分に再び足をかけると、からかうように花京院の上空をクルクルと高速で回る。
「エメラルド・スプラッシュ!」
「うおッ!? ディセンド!!」
カルミアが少々遊んでいるうちに包帯を完全に振りほどいた"
花京院の攻撃法を触手だけだと思い込んでいたカルミアは短く声を上げると慌てて呪文をかけるが、一つを地面に叩き落としたところで数が多すぎて話にならない。即座に片手で羽根の芯を掴み直し無言魔法を幾つも掛け直撃だけを避けると、擦り傷ができるのも気にせず体を前に倒して加速し、花京院が"
「ペトリフィカス・トタルス」
それまでの叫ぶような呪文とは違い囁くように唱えたそれは、カルミアが避けた攻撃を受けた壁が立てた音に掻き消された。花京院は後ろへ下がろうとした体勢でまるで石にでもなってしまったかのように固まり、"
「はぁ〜〜ッ焦ったー」
羽根から地面へと降りたカルミアは伸びをしながら長く息を吐く。短く呪文を唱え羽根を掌に収まる大きさへと縮め、胸ポケットにしまうと服についた埃を払った。
「おお、見事に固まってンな」
「花京院さんどうしたんですか!」
呑気に花京院の肩をポンポンと叩いても反応が無いことをカルミアが楽しんでいたところに、動く様子のない花京院を心配して慌てて上から下りてきたのだろうアレンが部屋に飛び込んで来た。瞬きもせずこんなに中途半端な状態で固まった人間などマグルは余程のことがない限り見たこともないだろうし、花京院はつい数時間前まで包帯を巻かれていた病人なのだ、そりゃあ心配にもなるだろう。
大丈夫大丈夫、と笑って手を振ったカルミアは自分が魔法で花京院を一時的に固めたのだと簡単に説明した。その言葉を聞いてもなお不安そうな表情のままであるアレンの後ろからはシルヴィオも顔を覗かせている。
「すぐに解くから大丈夫だって。フィニーッが……!!?」
「え……ッ、カルミア!?」
花京院にかけた全身金縛り術を解除しようと呪文を唱えている最中に、カルミアはガンッと重い音を立てて床に沈んだ。
カルミアの頭に直撃した物の破片がパラパラと床に落ちていく。先ほど彼の避けたスタンド攻撃を受けた天井の一部が落ちてきたのだ。呪文のかけ方が甘かったのか、解除されずとも呪文の効果が切れた花京院は突然自由になった体を少しよろめかせる。
アレンとシルヴィオ、それと金縛りの解けた花京院は状況が理解出来ないようにぽかんとめり込むほどの勢いで床に倒れ込んだカルミアをただ見つめていたが、呻き声一つ上げないカルミアに気付き慌てて彼に駆け寄った。