Wizard of the World of Stand 作:泡醤油
「お前、スタンド使いか?」
「スタンド? ああ、さっき言ってましたね。俺が固めたあれがそうなら、俺はあれを使役していませんが」
スタンド使いかと聞かれても、スタンドというものが何なのか理解出来ていない為自分が使役しているのかも分からず、軽く首を傾げながらカルミアは言葉を返す。掴まれたままの腕を軽く振り、離して欲しいという意を伝えてみるが、男はカルミアに疑わしげな視線を送っただけで手を離すつもりはないらしい。
「スタンド使いじゃあないなら、何者だ」
警戒するように目を細めて言った男に、カルミアは何と答えようか少し考え込むように眉根を寄せた。
魔法使いだと言ってしまってもいい、どうせここにいるマグル達は後で魔法省の魔法使いに記憶を消されてしまうのだから。しかし、問題は目の前のマグルがその答えに満足するのかというところにあった。
マグルは自分達が魔法を使えないことや、魔法界側が必要以上の関わりを避けていたことが原因で、魔法の存在を知らぬ者がほとんどであり、魔法などそれこそ絵本等の創作世界の物だと認識している。
魔法の存在など現実に意識もしていなかったマグルに「私は魔法使いです」等と言ったところで病院に行って頭を診てもらえと言われてしまうだろう。
しかし、他に答えようがない。スタンドとやらを手も触れずに固めて身動きを封じ、目の怪我まで一瞬で治してしまった。今の状況であれば、カルミアが一般人を主張するほど男の疑いは濃くなっていくだろう。
「………い」
「あァ?」
「魔法使い。俺はスタンドとやらは使えないけど、魔法なら使える……です」
怪しくなってしまった敬語を必死に取り繕いながら、カルミアは尻窄みに答えた。自然と伏せてしまった目を恐る恐る上げると、ポカンと口を半開きにして男は固まっていた。先ほどから睨まれっぱなしだった為、こんな顔も出来るのかとカルミアは感心したようにその顔を見つめる。
「っぷ……ま、まあ、魔法使いなら納得だな」
「あッ! てめ、今笑っただろ!?」
「ちょっと、その姿で魔法使いってのが似合わなくてな」
予想はしていたが、笑われたことに若干の苛立ちを覚えついには敬語を意識せず掴みかかる。身長差的に子供が大人に捕まっているようにしか見えないところがいただけないが。
掴みかかられた男は、カルミアの学生服なのだと思われるセーターやその綺麗な金の髪、少々目つきが悪いがさぞや女子に好かれるだろう端正な顔立ちを見て堪えていた笑いが込み上げてくる。
自分達がスタンドという普通では理解出来ない能力を使っている為、魔法使いだと名乗るカルミアの言葉を否定することは出来なかった。
しかし、男の抱く魔法使いの図とは自分の探している吸血鬼のような邪悪さを持ち合わせ、どんな時も黒いローブを羽織っていて鍔の広い三角帽子を被っているというものだ。間違っても、こんな将来ホストにでもなりそうな少年ではない。
「まあ、呪文が解けないうちに逃げろ……ッガ!?」
「……ッ!!」
どこか腑に落ちない様子で拗ねたように唇を尖らせつつも男へ忠告してやろうとするカルミアだが、言い終わらぬ内に背中に衝撃を受け思わず前へバランスを崩す。痛みが襲ってくるが耐えられない程でもない痛みで少し安心した。例えるなら、クィディッチの試合では日常茶飯事なくらいの痛みだ。
しかし、嫌な予感がして背中に手をやると、カルミアの背中が一部分だけ制服ごと切れていることが分かった。
「てめぇ……新種の魔法生物か何なのか知らねぇけどな。制服に傷つけてんじゃねぇよ!!」
驚いた拍子に離された男の手を振りほどき、振り向き様に無言魔法で失神の呪文を向けると、今度は当たったようで大きく揺れたそれはその場に水溜りを作って消えた。正体は水だったようだ。
「あー……制服の言い訳どうしよう。先週マルフォイの奴と喧嘩して買い換えたばっかなのに」
頭を抱えてぶつぶつと何事か呟くカルミアは、笑顔で静かに怒りを表現する母イヴリンの姿を思い浮かべて思わず身震いした。
「危ねぇッ!!」
言い訳を考えていたカルミアは、後ろから聞こえた男の声に顔を上げた。失神したはずの手が再びカルミアの近くに迫って来ていたのだ。
水に失神は無理があったかと内心舌打ちしながら杖を構えようとするも、呪文を唱える前に攻撃されてしまうのは目に見えている。
予想される痛みに身構えたところで、ピピピピという電子音が響き渡った。
ピタリと動きを止めた手は方向を変えて死体の腕を攻撃した。電子音は死体がつけていた腕時計から鳴っていたようで、音が完全に止まっている。
「い…一体なんだ……パイロットの死体を攻撃したぞ!」
「いや違う、死体ではない。時計だ……時計のアラームを攻撃したんだ」
「音だ。音で探知して攻撃しているんだ!」
男達が色々と言うのを聞いて、察しが良すぎだろと内心突っ込みを入れる。
全員の位置を把握しようとカルミアは物音を立てないように辺りを見回す。先ほどまでの混乱に乗じて老人と黒人の男が車の用意をしているのが見えた。男達は車で逃げるだろうと、カルミアは胸ポケットへ手を伸ばす。
しかし、その手がポケットに届く前に何かに掴まれ、強引に上へ引っ張られて体が浮く。肩に担ぎ上げられ、腹の圧迫感に思わず潰れたカエルのような声が出た。
「落とされたくなけりゃ、しっかり捕まってな」
「いや、俺一人でも逃げられるんだけど!?」
男はカルミアの訴えを無視して車の方へ走っていく。なぜか荷台に乗り込んだ二人の後ろで、花京院を抱えていた銀髪の男が若干足を切られて棘のある触手に引き上げられていたが、カルミアは杖が折れていないかと確認するのに忙しかった。
このたまに加減が効かなくなる厄介者の杖はカルミアにとってはこの上なく相性が良い。他にも媒体はあるが、この杖が折れてしまうという事態は避けたかった。
「じ……地面に染み込んだ」
「敵は音を探知して動くわけだから、我々に姿を見せないで土の中を自由に移動できる。地面から、我々が気づく前に背後からでも足の裏からでも攻撃が可能! しかも本体は遠くにいることができる!」
無駄に丁寧な説明をしてくれた老人を横目に、カルミアは誰も乗っていない様子の後部座席を覗いた。ヨダレを垂らして寝ている犬がなぜか後部座席のシートを陣取っていた。まあ、こんなヨダレ塗れのシートに座りたくはないよな、と納得して一人頷くカルミア。
こんな狭い所で攻撃されては杖が折れてしまうかもしれないと、とりあえず杖を懐にしまう。そして、巾着袋を取り出すとその中から真っ直ぐな薄茶色の杖を取り出した。カルミアの知り合いが昔使っていた物を譲ってもらった物だ。勿論杖の所有権はカルミアに移っている。
巾着袋を懐にしまい杖を軽く振るカルミアは、こんなもんかと呟く。その様子を信じられないものを見るような目で見てくる銀髪の男は、隣にいる男の服を引っ張った。
「な、なあ。あいつ、一体何なんだよ……」
「さぁ? 本人は魔法使いとか言ってたが」
「魔法使いぃ!?」
丸聞こえな会話を黙って聞いていたが、直接的なことは言っていないものの銀髪の男の声音が何だか馬鹿にしているような気がして、文句の一つでも言ってやろうかとカルミアが顔をそちらに向けた瞬間。車が前方に傾き、カルミアはバランスを崩して男の方へ倒れ込む。
「わ、ぶっ!?」
「タイヤが水の中に! や…やばい……引きずり込まれる!」
胸元に飛び込んでしまい、すぐに離れようと男の胸を押すカルミアの背中に腕が回り更に密着してしまう。
落ちないようにという気遣いなのだろうが、自分よりゴツい男と密着するくらいなら車から飛び降りて敵の的になった方がましだと、カルミアは内心ため息を吐く。
「う、うおおっ」
「す…滑り落ちるぞッ!」
「もっと車の後ろの方へ移動しろッ!」
だんだん地面と直角に近い角度になって沈んでいく前方を見て、カルミアは嫌な予感を覚えた。
もし、この車の前がいきなり持ち上がったら……と。
慌てて顔を上げると、腕を叩いて男の注意を引いた。
「おい、これって敵の思う壺……」
言い切る前に、二回大きく車が揺れた。車の前方を見ると、前輪が二つとも切断されている。
「な…なんて切れ味じゃッ! 前輪を切断しやが……」
こんな時までよく口が回る、と半ば呆れながら老人を見たが、すぐにカルミアの顔は再び男の胸元に押し付けられた。
焦って力の加減を忘れているのか、力一杯押し付けられていて息が出来ない。腕や背中を叩いて力を緩めて欲しいことを訴えるが、何を勘違いしたのか男は更に力を加えた。
敵に殺される前にこの男に殺されるかも、と無駄に抵抗をしたせいで酸欠気味になったカルミアは諦め混じりの光を目に宿して思う。
「うわあああああーーーーッ!!」
「し、しまったあああッ!」
地面へと落ちる車に、遅れてくる浮遊感。酸欠も相まって、カルミアを激しい吐き気が襲った。
吐き気をなんとか堪えていると、次に来たのは地面へ落ちた衝撃ではなく、男の胸元に更に顔が押し付けられる痛みだった。これならまだ普通に落ちた方がましだった、とどこか遠い目をしたカルミアは思う。
折れてはいないだろうが鼻が物凄く痛い。この時だけは、父親譲りの高い鼻が恨めしかった。
「"
酸欠と痛みで遠のいて行く意識の中、誰かが叫ぶ声が聞こえる。どうやら、男達の誰かが敵と戦闘を始めたらしい。
カルミアが意識を手放しかけたその時、不意に男が拘束を解いて離れて行った。反射的に思いっきり空気を吸い込み噎せてしまうが、それでも酸欠で死ぬよりかはましだった。
「じょ…承太郎!」
「ば…馬鹿なことをッ! 承太郎が走り出した、なんてことを!」
相変わらず口のよく回る老人は何かを叫んでいたが、カルミアはそれを最後まで聞き取る前に今まで何とか保っていた意識を手放していた。