Wizard of the World of Stand   作:泡醤油

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気付いた時にはニヤニヤしてしまいました。

これでやっと初日は終了です。書いてて長かった……。
ペース遅めですが、エタる気はないので気長に待っていただけると嬉しいです。


05

診察室の扉を閉めたカルミアは深く息を吐いて腕を軽く回して肩の筋肉を解した。

普段学校で世話になっている医務室の担当は教師というより祖母のような存在な為、病院に勤める医師と接するとなんだか無駄に緊張して疲れてしまう。

 

世界有数の金持ちが数十年前に設立したというSPW財団の息がかかった医師は、カルミアを旅の仲間に招いた張本人であるジョセフ・ジョースターからある程度の説明を聞いていたようで、傷がほとんど治っていることに驚きはしたものの深く追求してくるようなことはなかった。ただ、カルミアが子供ということもあってか極力無理をして戦わないようにと釘を刺されてしまったが。

SPW財団の話が出て来たところで、なぜそんなに大きな組織が関わっているのだろうと疑問に思ったが、ジョセフの話では財団の創始者がDIOや吸血鬼に深い因縁があるとかないとか。話の途中DIOの奴因縁つけられすぎだろう、とカルミアが呆れ気味にそう思ったのはここだけの話である。

 

石仮面やら波紋やらと意味の分からない単語を並べていたが、カルミアが全てを理解するにはしばらく時間がかかりそうだ。

あまりにも話が複雑なもので、昼食後に行われる座学の授業中のように眠りかけたカルミアをジョセフが何回起こしたのか、途中までは数えていたがそのうち面倒になって数えることをやめた。

 

「よッ、お疲れさん」

 

特に行く宛もなくぼんやりと院内の案内図を眺めていたカルミアに、後ろから妙に明るい声がかかった。

振り返ると、数分ほど前カルミアに「自分はジャン・ピエール・ポルナレフだ」と名乗っていた銀髪の男が歯を見せて笑っている。すぐ近くまで来るとカルミアの頭に手を乗せ無遠慮に髪の毛を掻き混ぜる。子供扱いされているようで頭にきたカルミアは(そう思う時点で充分子供だと本人も一応自覚してはいる)、ポルナレフの手を払いのけると腕を組んで高くセットされた髪の毛を入れると二十センチ近くは身長差のある彼を見上げる。

 

「お前、女性にモテないだろ」

「ハァ〜? 何でいきなりそんな話になるんだよ」

「出会い頭に髪の毛を弄るような奴は嫌われるぞ」

 

言いながら自分の今のぐしゃぐしゃな髪を思い出して面倒臭そうに軽く手櫛で直す。そんなカルミアの姿にポルナレフは彼の言いたいことを理解したのか、軽い調子で謝りながら頭を掻いた。

 

「で、どうかしたのか? カキョーインの所で様子を見てるって聞いてたけど」

「ああ! そうそう、その花京院が目ぇ覚ましたからお前呼んで来るように言われたんだった!!」

 

ジョセフの言葉を思い出しながら尋ねると、一連の流れですっかり用件を忘れていたのかポルナレフが思い出したように手を打った。その声があまりにも大きかったもので、慌てたカルミアの手によって口が塞がれてしまった。

もごもごと何か言いたそうに手の下で動く口にくすぐったさを覚えて耐えるように眉根を寄せたカルミアは、声を抑えるようにジェスチャーで指示しながら手をポルナレフの口から離した。

 

マグルの病院のことなどほとんど知らないカルミアでさえあまり騒いではいけない場所なのだと直感的に感じ取っているというのに、カルミアより遥かに病院を利用する頻度が高いであろうポルナレフがマナーを守らないとはどういうことか、年下の子供に密かに呆れられていたということを彼は気付くはずもなかった。

 

「まあ、別に急ぎってわけでもねぇから用があるなら済ませちまって構わねーぜ」

「用事? 何かあるのか?」

「何って……俺が話しかけるまで真剣な顔してそれ見てたじゃあねぇか」

 

それ、と言いながら指差したのは病院の案内図だった。本人としては真剣だったわけではないのだが、元々の目つきのせいかぼんやり眺めているつもりでも周りから見ればそうは見えないらしい。

 

「大丈夫、特にこれといった用事はないから」

「そうかァ~? それならいいけどよォ……」

 

強いて言うならば小腹が空いたから何か軽く食べたいと思うくらいか、などと考えていると、どこか納得のいかない表情のポルナレフが首を傾げた。そこまで不審がられるほど真剣に見えたのだろうか、とカルミアも内心ポルナレフのように首を傾げる。

 

「連れて来たぜ~」

 

ポルナレフがそう言いながらノックもなしに扉を開けたのは、四人用の病室だった。

入院患者の名前が書かれているプレートには花京院のものともう一つ男の名前があった。この病室はカルミアと花京院の二人しか利用していないと記憶しているので、恐らくカルミアの名前が分からないといった理由で適当な偽名でも使ったのだろう。

ジョン・スミスというどこかで聞いたことがあるようなないような、一般的すぎて偽名としてもよく使用されている名前を横目に、カルミアも病室の中へ入って行った。

四つ並んだベッドの内、右の窓際に三人の体格の良い男達がベッドを囲むように立っており、正直見ているだけで暑苦しい。ちなみに、カルミアの使用していたベッドはその向かいであり、すでに看護師が片付けを終えた後のようで綺麗にベッドメイキングされていた。

 

「ジョセフさん。プレートの名前、考えたの貴方ですよね?」

「ああ、一応名前は必要だと言われてのう。その時あの名前がビビッと来たんじゃよ!」

「俺ァ止めたんだぜ…?」

 

得意気に鼻を鳴らして胸を逸らしたジョセフの姿に、黒の学生服を着た男が「やれやれ」と呟いて帽子の鍔を下げた。砂漠でカルミアの忘却呪文を止めた男だ。

もう一人、黒人の男はポルナレフが余っているベッドに腰掛けようとしているのを注意して全く関係のない口喧嘩に発展していたが、皆それを止める気はないらしい。ヒートアップしている二人の横を通り、上体を起こした花京院がいるベッドへ近寄る。

 

「君が、僕を助けてくれたノスワージーさん?」

 

人の気配が近付いて来たのを察したのか、目元に包帯を巻いた痛々しい姿の花京院が見当違いな方向に顔を向けながら尋ねてきた。近くに立つ学生服の男に耳打ちされ、恥ずかしそうに苦笑しながらカルミアの方へと顔の向きを変える。

その姿にカルミアは思わず視線を伏せる。目の傷は癒したと思っていたが、その包帯が自分の力不足を示しているようで込み上げてくる悔しさを強く拳を握ることで我慢する。

 

「何て顔しとるんじゃ。お前さんのお陰で花京院は失明せずに済んだのだから自信を持てばいいだろう?」

「……え?」

 

ベッドを挟んだ向かい側から、ジョセフが歯を見せて笑っているのをカルミアはポカンとした表情で見返した。ジョセフの言っている意味が分からずに瞬きを繰り返す。

 

「まあ、瞼の傷が完全に治ってねぇから数日は包帯を巻いたままだがな」

「瞼の方はぱっくりいってるらしいからな」

 

相変わらずの無表情のまま花京院を見た男に、花京院は口元に笑みを浮かべて肩を竦めた。

完全に固まってしまったカルミアに目を向けると、男はつばの下から覗く目を細めて意地が悪そうに口角を上げる。初対面の人物がこの顔を見たら財布ごと渡して一目散に逃げ出しそうな笑顔だったが、今のカルミアに恐怖を感じる余裕はない。

 

「何だ。もしかして、自分が失敗したとでも思ってたのか?」

「いや、だって包帯……」

「花京院は失明しちゃあいねぇぜ」

 

言いながら男はカルミアの頭を乱暴に撫でた。驚いて視線を上げると、先ほどの悪役のような笑顔とは打って変わり、口元は笑っていないものの目元を和らげてカルミアを見下ろしていた。これは、彼なりに勘違いした自分を励ましてくれているのだろうか。カルミアが男を見上げながらぼんやり考えていると男は視線から逃れるように鍔を下げた。

不器用な奴だ、と吹き出しそうになったが見るからに柄の悪い男を笑うなどさすがのカルミアでも出来そうになかった。口元を押さえてなんとかやり過ごす。

 

「ノスワージーさん、本当にありがとうございます」

「その呼び方は何だか変な感じがするんでカルミアって呼んでください」

「ふふ、カルミアさんが旅に同行してくれると聞いてとても頼もしいです」

 

何だか他人行儀(本人達は初めて会話をするのだからこれが普通なのだろうが)な会話に、ジョセフがたまらず吹き出した。突然掴みかかられた彼としてはカルミアがここまで大人しいのがおかしいのだろう。

 

「さて、そろそろ本題に移るかの。二人共喧嘩は後にしてこっちに来るんじゃ!」

 

不思議そうにジョセフに顔を向けた学生服の二人と軽く睨み付けるカルミアの視線から逃れるように咳払いをしたジョセフは、わざと大きな声を出してそれぞれの背後にゴーストのようなものを出していたポルナレフと黒人の男に呼びかけた。その声の大きさに、意外と常識人だった学生服の男がジョセフを後で叱っていたのはここだけの話である。

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