Wizard of the World of Stand 作:泡醤油
……てことで、お待たせしました!(待ってねぇよというツッコミは無しの方向で)
ポルナレフ・承太郎組と絡ませるとやり取りが無駄に長くなってしまい削るのが大変でした。
現在地のエジプトアスワンから目的地であるカイロまで北上する為、一行は船を用意してナイル河を渡ることに決めたらしい。船に乗るのはジョースター一行の他には誰もおらず、SPW財団の力を使えば船員の一人や二人連れて来られるのでは、とカルミアが提案した所何やら苦い思い出があるらしく皆揃って微妙な表情を浮かべていた。
幸いジョセフと黒人の男、アブドゥルが操縦を出来るということでカルミアもそれ以上その話を掘り下げることはしなかった。帽子の鍔を下げた承太郎の目が死んでいたというのは、ちょうどその時近くにいたカルミア以外に知る者はいるまい。
一晩休んだ一行は朝のうちにアスワンを出発するらしく、カルミアは見送りの為承太郎達と共に、用意された船の所まで先導するジョセフについて行った。
一緒に出発、ではなく見送りというのは、前日の内に話し合った結果しばらく視界の奪われた花京院を一人残しておくのは不安だということで、誰かが残ることになったのだ。
そこで自分から立候補したのがカルミアであり、彼の能力を信用しているらしいジョセフの後押しによって渋る他のメンバーを何とか納得させ、今日から花京院と共に一行と別行動を取ることとなった。花京院の怪我について責任を感じているカルミアを一人(正確には二人だが)で放っておくと背負いすぎてしまわないか、と表には見せないが内心では心配している承太郎は最後まで首を縦に振ろうとはしなかったが、多数決で負けてしまえばどうしようもなかった。
メンバーの中では一番戦闘歴の浅い……いや、ないと言ってもいいカルミアが心配でないわけではないのだが、DIOとその手下は確実に自分達に近付いて来る方を優先して排除しようとするだろう、というのがジョセフの考えであった。それでも花京院が襲われないという保証はない為、敵が来た時の作戦を念入りに立てて打ち合わせをしておいた。
「本当に大丈夫か」
隣に並んで歩く承太郎は、カルミアに一瞬視線をやるだけでぶっきら棒に声をかけた。承太郎を見上げて器用に片眉だけ上げて見せたカルミアは、承太郎が自分の歩幅に合わせて歩いているということに気付いていない。
「俺じゃあそんなに不安か? ノリアキがいいって言ってるんだ、諦めろよ」
「そーそー、あんまりしつけぇと嫌われるぜェ〜?」
いつの間にか承太郎とは逆隣を歩いていたポルナレフが、からかうように笑いながら一方的にカルミアの肩を組んだ。体重をかけられて若干前のめりになりつつも、表面上は何とか平常を装ってカルミアは足を踏ん張る。
そのまま歩くものだから、半ば引きずられるような状態になったカルミアは苦笑を浮かべるしかない。
「魔法がありゃあ何かあっても大丈夫だろ」
「敵が襲って来ても、昨日のポルナレフみたいにしてやるぜ」
「ポルナレフみたいな奴が何人もいればいいけどな」
「ちょっと承太郎!? それどういう意味だよッ!」
昨晩、スタンド使いと戦う為の練習としてカルミアはポルナレフと一度戦い、武装解除と失神の呪文に手加減を忘れたせいでポルナレフが数メートルほど先に吹っ飛ばされてしまう事態となった。開始数分も経たず決着がついてしまったのは、ポルナレフがふざけて挑発を仕掛けていたのが一番の原因なのだが……。
勢いでポルナレフが承太郎の方へ体を傾けた為カルミアにかかる重みが増え、カルミアは苛つきを隠すことなくポルナレフの右足を左の踵で踏みつけた。予想以上に力が入っていたのか痛みのあまりうずくまって低く唸り声を上げるポルナレフに追い打ちをかけるように、近くにいたイギーが前足でポルナレフの右足を軽く蹴った。
「ッてぇ〜〜!? カルミア、イギー! てめぇら覚えとけよ!!」
「ごめんごめん。イラッときてつい」
「アギッ!」
悪びれた様子もなく腹を抱えて笑うカルミアと、偉そうに鼻を鳴らしてさっさと先に行ってしまう妙に人間臭い表情のイギー。
起き上がったポルナレフとカルミアが言い合いを始め、承太郎がまたかと言いたげな顔で二人を眺めている。三人がついて来ないことに気付いたジョセフによってようやく歩き出したが、その間も二人は承太郎の横で小突き合いを続けていた。
最後まで心配性を発揮していた承太郎を強引に船へ乗せ見送った後、カルミアは花京院の待つ病院へやって来た。
余談だが、アスワンにいる間、カルミア達には財団員の人物が二人着くことになり、身の回りの補助をしてくれるそうだ。病院へ向かう時も、早速迷子にならないようにとカルミアと共に行動していた。
「ノリアキ? 起きてるか?」
声をかけながらカーテンを開く。財団員の二人は気を利かせて病院の待合室で待機している為部屋にいるのは二人だけだ。
ベッド脇には緑の学生服を着た花京院が座っていて、カルミアの方へ顔を向けると嬉しそうに口元を緩めた。その背後には彼のスタンドが上半身だけで浮いており、腹から下は触手のような幾つもの管に分かれて床を這い回っていた。その様子は、ハグリッドのペットコレクションを色々と見て来たカルミアでも思わず引いてしまうものなのだから、相当酷い絵面である。
「な、何してるんだ…?」
「ハイエロファントの触手を張り巡らせて物体の感覚を掴むことで視界がない分を補えないかな、と思って試してた所だよ」
「……面白い考えだけど、今は中断してもらえると嬉しいな。…ヒッ!?」
足元から若干這い上がってきた触手に驚いて足を引くと、眉を下げて肩を竦めた花京院は素直にスタンドを引っ込めた。
一般人にはスタンドが見えないから特に視覚的問題はないだろうが、見える者と一緒の時にその方法を取るのはやめていただきたい、とカルミアは遠い目をしながら思った。今自分の足を這い上がってきたように、女性の体に触手が巻き付く姿など一部のそういう趣味の人が喜びそうな絵になってしまうだろう。年齢制限がつくような場面などはっきり言って目の毒だ。
「あれ、荷物は? まだ用意出来てなかったか?」
上手く平衡感覚が掴めない花京院に手を貸して立ち上がらせてからカルミアは周りを見渡して首を傾げた。
準備万端、という風に堂々としていた為既に病院を出る準備は出来ているものだと思っていたが、彼の近くにそれらしい荷物はない。もしかすると他人に私物を扱われるのが嫌で、知り合いの枠には入っているであろうカルミアが来るのを待っていたのかもしれない。
立たせてしまったが今から準備をするならばもう一度座ってもらった方がいいかと考えていると、花京院が否定の声を上げた。
「いや、僕の荷物は全て身に付けているから大丈夫だよ」
花京院曰く、いつ戦闘の起こるか分からない旅なので必要最低限の物だけ持ち歩いているのだとか。それが財布とパスポートや細々したポケットに収まるような物らしいが、流石に少なすぎないかとカルミアは目を丸めた。
下着や肌着は現地調達かSPW財団経由で届けてもらい、使用後は荷物を極力減らす為に大体は捨ててしまっているのだとか。ふと、今朝出発した四人も荷物らしい荷物を持っていたのはポルナレフだけだったことを思い出し、他のメンバーも花京院と同じように身に付けられる物だけしか持っていないのかもしれないと考える。
困ったことがあればSPW財団に連絡すれば何とかなるそうで、SPW財団がなければ一体この旅はどうなっていたのかとため息を吐きそうになった。
花京院を支えながら病室を出ると、ちょうど見回りをしていたらしい看護師と出会い、今からホテルの方へ移る旨を伝えておいた。昨日の内にジョセフが話をつけていた為、看護師は明日からの予定を軽く確認しただけで先ほどまで花京院がいた病室へ入って行った。次の患者を受け入れる準備でもするのだろう。部屋がなかったとはいえ四人部屋を占領してしまっていたことを申し訳なく思う。
待合室にいた二人と合流し、てっきり顔見知りだと思っていたがカルミアの予想に反して初対面だったらしい三人がそれぞれ挨拶を交わすと、四人で病院を後にする。カルミアが自分の役目に感じる責任から深い息を吐き出すのを、花京院は少々複雑な気持ちで聞いていた。