Wizard of the World of Stand 作:泡醤油
ホテルに着くと、自分の部屋に花京院を連れて戻ろうとしていたカルミアは例の財団員二人に引き留められた。ロビーで待機してほしいという言葉に従って花京院と無駄に座り心地のいいソファに並んで腰掛けると、受付カウンターに目をやった。
二人は受付に立つ女性と話していたが、少しすると奥から初老の男性が出て来て女性の代わりに応対をし始めた。
「何してんだろ。ノリアキはどう思う?」
「さあ……人数が増えたから部屋の調節でもしてるんじゃあないかな?」
「スイートルームとかにグレードアップしたりして」
「まさか」
スイートルームというのはないだろうが、部屋がワンランク上の物になったりはするかもしれない。花京院には苦笑されてしまったが、カルミアは期待を捨てられずに二人の背中を見つめる。
花京院は、暇を持て余したように隣で落ち着きなく動くカルミアの気配を感じて、年相応にはしゃぐ彼に安堵の笑みを漏らした。
花京院の護衛を名乗り出た時からカルミアは若干気を張っているような雰囲気があった。視界のない自分が感じ取るほどなので勘のいい承太郎辺りは敏感に察していただろう。
それであれほどの過保護っぷりだったのだが、今こんな様子なのを見る(と言うより感じ取る、だが)限り少しは肩の力が抜けたのだろう。危険があるのは事実なのだが、四六時中気を張っていたら疲労が必要以上に溜まってしまうことは目に見えているので、それでいざと言う時に自分の身すら守れなくては元も子もない。
少しずつ掴めてきた感覚を頼りに手を伸ばすと、丸い物に掌が当たり力加減に気を付けながら軽く撫でてやる。ポルナレフに頭を弄られる度に文句を言っていたので髪型を崩されるのが嫌なのだろう。
「……ノリアキはモテそうだな」
「…うん?」
ポルナレフが事あるごとに触りたくなるのも頷けるサラサラなそれを、カルミアが拒否反応を示さないのをいいことに花京院は梳くように撫でる。
相手を気遣うように撫でる花京院と乱暴なポルナレフを比較しながら、カルミアは何の気なしに呟いたが、花京院はどうして突然その話題になったのかと不思議そうに首を傾げた。
花京院がまさか、と言った言葉が事実になるとは口に出したカルミア本人でさえも予想にしていなかった。あれは紛れもない冗談であり、"まさか"この四人でスイートルームを利用するなどとは思いもしなかった。
だから、驚いたようにカルミアの方に顔を向けた花京院には、見えないのだがこちらも驚いたような顔を返すしかなかった。
部屋に入ると既にホテル従業員の手によってカルミアの荷物(巾着袋を使っている為ないに等しい)はこちらに移されており、見栄え良く大きなテーブルに並べられていた。
いつもならばはしゃいでベッドに飛び込むようなことはするかもしれないが、カルミアはその気持ちを抑えて財団員の一人と部屋の点検を優先する。
シンガポールのホテルではポルナレフの部屋の冷蔵庫に敵が潜んでいた、などという話を事前に聞いていたので、慎重に隅々まで調べていった。
「ベッドルームはカルミアと花京院さんが一緒の方がいいですよね?」
「そうだなァ……戦えない二人が固まるのは不安だけど、保護呪文でもかけておけばなんとか……」
最後の部屋を見て回り、敵が潜んでいないことを確認すると、財団員のアレンがカルミアに話しかけた。途中いくつかの会話を挟んでいた二人の距離は少しは縮まり、フレンドリーなカルミアの性格もあってかほとんど自然体で話せるくらいにはなっていた。数日間共に過ごすのだから仲良くなることに越したことはない。
ベッドルームが二つもあるという、スイートルームでもかなりランクの高い部屋(カルミアの勝手な推測だが)だと分かり、どう分かれるかと二人は話し合う。
一つの部屋に纏まっていた方が護衛としては楽なのだが、一番細い体型のカルミアでさえ年齢の割にはガタイがいい。正直な所、四人で一つのベッドルームを使うというのは気が進まない。
「じゃあ、俺とノリアキがこっち、アレンとシルヴィオがあっちのベッドルームな」
リビングに戻ってソファに座っていた二人に意見を求めたが、なんでもいいという一番困る返答が返ってきた為、カルミアは適当にリビングに隣接するベッドルームの扉をそれぞれ指差して言った。花京院には見えていないが頷いているので良しとしよう。
ちなみに、シルヴィオというのはもう一人の財団員の名前である。彼はイタリア人なのだが、カルミアが偏見混じりに抱いていたイタリア人のイメージに全く合わず、無口で固い印象のある男だ。本人に失礼だが、アレンがイタリア人だと言われた方がよほどしっくりくるというものだ。
財団員の二人が部屋に荷物を入れているのを横目に、カルミアは巾着袋にしまっていた杖を取り出して軽く振る。
手に馴染ませてから、保護呪文を部屋にかけていく。魔法使いが攻撃に来ることはほとんど(全くとは言い切れはしないが)ないだろうし、敵を警戒するものだけを使用するが、それでもなんとか全体に呪文が行き渡る程度だ。カルミアは、自分の非力さに意識せず苦笑を漏らした。
「いやァ〜、助かりましたよ」
スイートルーム全体を覆うほど広範囲に呪文を掛けたのは初めてだったカルミアは、疲労が襲って来た為ソファに寝転んで体を休めていた。そんなカルミアの元に部屋の整理を終えたらしいアレンが近寄って来て、何の脈絡もなく頭を掻きながら言ってくるものだから、カルミアはそのままの体制で首を傾げた。
話をするのに寝ているのもどうかと思い、体を起こしてアレンを見上げると、視線だけで疑問を投げかける。
「カルミアの部屋、ワイドダブルしかなかったじゃあないですか。いい年した男が二人同じベッドってのは、さすがに…ねェ?」
「あ〜…そういうことか」
二部屋あるベッドルームの内、一部屋はワイドダブルベッドのみで、もう一部屋はシングルベッドが二つ置いてあった。カルミアと花京院の年齢ならば修学旅行で布団を並べているようなものだ、という程度で済むが大人はそうはいかないのだろう。
納得したように頷きながら、カルミアはふとアレンとシルヴィオが同じベッドで並んで寝ている所を想像してしまい、堪えきれずに吹き出した。そういう趣味の人達には喜ばれるかもしれない。
その後に行った数分の話し合いの結果、今日はとりあえず花京院が部屋に慣れるまで外には出掛けないでおこう、ということになり昼食と夕食はルームサービスを利用した。
この数日の間に一回はホテルのレストランで食事をしてみたいな、とのん気に考えるカルミアは保護呪文をかけたからか、すっかり周りへの警戒を解いていた。ちなみに、昨晩は病院の帰りがけに外食、朝は早かった為それぞれでルームサービスを頼んで済ませた。
途中暇だとカルミアが嘆いてはいたものの、過ぎてしまえば時間は意外と短く、気が付くと空には月が昇っていた。その頃には花京院も部屋の中ならば好きに動けるようになり、うっかり壁に激突する以外は視界が無いとは思えないほど普通に過ごしていた。
カルミアがリビングの窓からぼんやりと空を見上げて「ジョータロー達は今頃どこかのホテルで寝ているんだろうか」などと考えていると、花京院がシャワー室から顔を覗かせてきた。ソファに座るよう促してから、既にパジャマを着込んで髪まで乾かした花京院の目元に新しい包帯を巻いてやる。
ドアの隙間から一瞬見えた緑の触手のせいで、どうやって視界の無い中一人で着替えまで終わらせたのかが容易に想像出来てしまい、カルミアは少々複雑な心境に陥った。