チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
お楽しみいただければ幸いです。
……ということで、マスクマンシェフには手始めにレッドちゃんとグリーンちゃんの二人の脳をベリーウェルダンして貰うことにしましょう。
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは転生者である。
不運な事故と偶然の奇跡が超融合した結果、前世のアラサーリーマンから今世の不審なアーリーティーンズに異世界転生を果たした彼は、その転生先が自分の好きなポケットモンスターの世界だと気付いた瞬間、今世で絶対に達成すべき二つの目標を立てた。
一つは「何が何でもこの世界を生き抜きながら世界のあちこちを見て周り、その先々で出会ったポケモン達を仲間にしながらバトルの腕も磨きつつ、最終的に始まりの地カントーでリーグチャンピオンになる」こと。
そしてもう一つは「カントーポケモンリーグで最強のチャンピオンとして君臨しながら、いずれ自分に挑戦してくる、若しくは挑戦出来るようになるであろう前世からの最推しことレッドとのバトルを心行くまで堪能してから静かにその座を去る謎の男になる」こと。
──以上の二つがホオズキが今世の全てを賭してでも叶えると誓った人生の目標達である。
傍から見れば何とも雑な内容というか、「そもそも裸一貫で一地方のチャンピオンにまで成り上がった男がそう簡単に引退出来るわけないだろ」といったツッコミが四方から飛んできそうな中身ではあったが、当の彼がその事実に気付くことは終ぞなかった。
何故なら当時のホオズキは、見掛けは子供、中身も子供な何処に出しても恥ずかしい完全なアホの子だったからである。
その上、この男が「大好きなポケモン達と一緒なら最終的に何とかなるっしょ」という底抜けに明るく、楽観的な性格の持ち主だったことも彼のアホの子さ加減に更に拍車を掛けていたのだが……まぁそのことについては今さら言及したところでどうしようもないことなので割愛することにしよう。
紆余曲折こそあったにせよ、そんなアホの子が自身の立てた目標の一つを見事に叶え、今なおカントー地方最強のチャンピオンとして君臨し続けているのは紛れもない事実なのだから。
(謎の因果により、俺が現実世界からこのポケットモンスターの世界へと異世界転生を果たしてから早十余年……。カントーポケモンリーグのチャンピオンとなり、そこで最推しであるレッドと心行くまでバトルしてからその座を明け渡すことは、俺にとって最大の願いでした。それが不慮の事故で無念の内に亡くなられた、前世の自分自身に報いる道だと信じて……。今ここに、そんな最推しからの手紙を迎え、悲願の序章は達成されました。……相手が今日で11歳の誕生日を迎える
──もっとも、脳内で一人喧しく某伝説のスーパー親父ィ劇場を繰り広げている今の彼からはチャンピオンとしての威厳の欠片も感じられないわけだが。
やはりアホの子が多少成長したところでアホはアホなのである。
(ホオズキさんがこれまでにないほど苦悩した表情で今朝届いた手紙の内容を凝視していらっしゃる……。一体あの可愛らしい便箋の中にどれほどの無理難題が書かれているというのかしら?……何か私でお手伝い出来ることがあればいいのだけれど)
また、そんなアホなチャンピオンのこれまたアホな行動を深読みして微妙に曇っている担当秘書こと同リーグ四天王のカンナにはこれだけは伝えておきたい。
貴女が心配しているアホの人、そこまで考えてないと思うよ。
「……カンナさん。突然のことで申し訳ないのだけれど、少し外で用事が出来ました。数時間ほどで戻れるとは思いますが──ボクが留守の間、
「……ッ!お任せ下さい。このカンナ、全身全霊を以て
「……?あ、はい。それじゃ、行ってきます」
「……ご武運を」
そうしてカンナとの間に発生した致命的なレベルのアンジャッシュを華麗にスルーしつつ、ホオズキはレッドからの送られてきた手紙──もとい、彼女とグリーンが主役のバースデーパーティーへの招待状を懐にしまってから足早に外に出た。
時刻は午後5時45分……招待状に書かれていたパーティーの開始時間からは既に1時間近くも遅刻してしまっているのが現状である。
それもこれもチャンピオンとしての業務の多忙さを理由にレッドからの手紙を見損ねていたこのアホが全て悪いのだが、今更そんなことを言ったところで時間が戻るわけでもない。
それを嫌というほど分かっているからこそ、ホオズキは至極冷静に今の自分に出来ることを考えるのだ。
(セキエイ高原からマサラタウンまでの距離は約〇〇km……。カイリュータクシーを使っても待ち時間も含めて軽く1時間は掛かる距離だけど……)
(──まぁ
何故なら、この不審者には内心で吐露した大言壮語を実現出来るだけの身体能力と、それによって積み上げてきた確かな実績があるのだから。
「……あ、ホオズキさん!見てレッド!本当にホオズキさんが私達のバースデーパーティーに来てくれたわよッ!」
「……見れば分かるよグリーン。……だけど、本当に来てくれたんですね」
「大切な友人達からのお誘いを無下にするほどボクは薄情な男じゃないさ。……その分、遅刻してしまったことに対してはとんでもない罪悪感を覚えているけどね。いやはや……本当に申し訳ない」
そうしてホオズキがセキエイ高原を出発してから丁度30分。
まさかの人物の登場に驚くグリーンとレッドの二人の前に現れたこのマスクマンの顔には、十数kmの距離を全速力で駆けて来たことに対する疲労感はおろか汗の一滴も浮かんではいなかった。
どうやらこの不審者にとって、この程度の距離を30分で走破することなどウォーミングアップにもならないような軽い運動だったようである。
とはいえ、結局は己の凡ミスで最推しコンビ(TS済み)のバースデーパーティーに遅刻してしまった分をその有り余る身体能力で補ったのは紛れもない事実であるため、あまり素直に褒められた話ではないのは確かなのだが。
「い、いえいえそんな……ッ!私達はホオズキさんがこうして少しでも顔を出してくれただけで嬉しいですしッ!そうよねレッドッ!?」
「……グリーンの言うとおりですよホオズキさん。チャンピオンのお仕事がお忙しい中、私達のために態々お越し下さり、本当にありがとうございます」
「……そう言ってくれると幾分か心が軽くなるよ。だけど、それじゃあボクの気が済まないから、グリーンさんとレッドさんの二人にはプレゼントを用意して来たんだ。受け取ってくれると嬉しいな」
「……?これは……」
「……ポケモンの卵、ですか?」
「そう、これはボクの手持ちの子が何時の間にか持っていた卵だよ。つまり、この卵の中にはボクのパートナーの血を継いだ子供が入っているというわけさ。──そんなボクの子供ともいうべき子達の未来を、君達に預ける」
「「……ッ!」」
しかし、そのような失敗だけで終わらないのがホオズキという人間の最大の長所であり、同時にそれが、彼という人間の最大の短所でもあった。
「そして何時か、この子達が卵から孵って君達との間に確かな信頼関係が芽生えたら……その時はまたボクのいるところまで一緒においで。立派なトレーナーと、それを支える立派な相棒のコンビになってね」
「「……はいッ!!」」
何故ならこの不審者は、自分と関わる者全ての者達の脳を無意識の内に焼き焦がす、実に厄介な特性の持ち主だったのだから。
・ホオズキ
人間なのに最推しコンビのバースデーパーティーを危うくド忘れしかたマスクマン。
なお、ロスした時間はフェローチェをも上回る自慢の脚力てPayPayした模様。
お前、人間降りろ。
手持ちの子が持って来たポケモンの卵を最推しの二人に託すというリアルシャンクスムーブが出来て内心ご満悦。
・カンナ
マスクマンの行動を深読みして勝手にアンジャッシュした人。
仕事は出来るけどプライベートだと少し抜けたポンコツ眼鏡お姉さんだと個人的に嬉しい。
・グリーン
11歳の誕生日に憧れのチャンピオンから未来のパートナーを託された子その1,
これには流石のぶりっ子グリーンちゃんの脳もベリーウェルダン不可避。
・レッド
11歳の誕生日に憧れのチャンピオンから未来のパートナーを託された子その2。
これには流石のクーデレッドちゃんの脳もベリーウェルダン不可避。
次回からは11歳の門出を迎えて旅に出たTS赤緑コンビと、そんな彼女達の旅を影ながらに見守る不審者の様子をお送りします。
そんな不審なマスクマンの顔に心当たりがある方はジュンサーさんへの通報ついでに是非感想と一言付き高評価をお願いします。