チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは世界でも最もフットワークの軽いチャンピオンである。
勿論、一地方のチャンピオンとして彼が務めるべき役目、任される責務は相応にあるのだが、この不審者にはそれら全てを十全にこなしてもなおカントー地方を含めた世界中のあちこちを外遊という名目で放浪出来るだけの余裕があるのだ。
特に慈善活動という名のただの趣味で行っているウルトラビースト達への対処や、事ある毎に
そして、そのようなフリーダムの極みのような行動を取っていれば、当然このホオズキの周りには大小様々なトラブルが集まって──いや、このマスクマンの場合は寧ろ彼の方から積極的にトラブルの方へ突っ込んでいくことが多々あったと言うべきか。
例えばそう──。
「く、くそ……ッ!何で……何でこんなところにチャンピオンがいるんだよ……ッ!?」
「そりゃあここカントー地方はボクの管轄なんだからね。何処へだって行くし、何処にだって現れるのさ。──ということで、後はよろしくお願いします、ジュンサーさん」
「はッ!本日も事件の早期解決にご協力下さり、まことにありがとうございますッ!!」
セキエイ高原から程近い地方都市であるトキワシティの往来で、フレンドリィショップで発生した強盗事件の犯人と思われる不審者をやたらと近接戦闘に長けた仮面の不審者が瞬く間に取り押さえるという珍事件が割と頻繁に確認される程度には。
「それにしても、ホオズキさんの掛けた
「いえいえ。ボクの場合は指導してくれた先生方の教え方が上手かったというだけで、ボク自身の技のキレなど未完成もいいところですよ。寧ろあの人達からはボクとの手合わせの度に『まだまだ精進が足りん』と窘められているくらいですし」
「あ、あれほど見事な技のキレを見せるホオズキさんをして『まだまだ』の評価なのですか?……成程、武道の道に終わりはなく、人生とは常に研鑽の連続ということなのですね!勉強になります!」
「えっと……。ま、まぁ大体そんなところです。……多分」
そうしてホオズキが取り押さえた犯人が無事にトキワ警察署の引き渡されるのを見送った後、何故かこの不審者は、その場に残った新人ジュンサーから事情聴取という名の熱烈なインタビューに答えるはめになっていた。
というのも、彼女は自他共に認めるホオズキの大ファンだったのだ。
それも、物心付いた頃からこのマスクマンのリーグ戦を全て現地観戦してきたことは勿論、これまでに販売されてきた彼のファングッズは全て美品で取り揃えているほどの筋金入りのファンガールなのである。
そんな生粋のホオズキファンが新人ジュンサーとしての初仕事で憧れの人の活躍を目の当たりに出来ただけでなく、そのまま彼と直接言葉を交わせる機会にまで恵まれたとあっては情緒とテンションの両方がぶっ壊れてしまうのも仕方ないことだと言えよう。
(……どうしよう。先生方と言っても、俺が言ってるのはガラル地方のあちこちで無限にキャンプしていた時に出会ったやたらと強い野生の格闘タイプのポケモンばかりで、さっきのアームロックなんかもそいつらと直接ヤりあった時に自然に覚えただけなんだけど……。っていうかこの人、さっきからえぐいくらい俺との距離を詰めてきてない……?)
なお、そんな強火ファンガールからぐいぐい距離を詰められるホオズキは内心たじたじであった。
どうやらこの男、各地で様々な女性トレーナー達の情緒をぐちゃぐちゃしてきた前科がある割には意外と初心な反応を見せることもあるようである。
(で、でも、ここまで俺のことを慕ってくれてるっぽい人に対して『もう少し離れて』なんて言うのも可哀そうだし……。まぁ実害があるわけでもないからしばらくはこのままでもいいかな……)
しかし、そんな初心な反応を仮面の奥に隠してひたすら紳士然とした態度を取り続けてきた結果、数多の女性陣達の脳を焼き焦がしてきたのもまたこの男であるのも事実なのだが。
お前ホンマそういうとこやぞ。
因みに、ガラル地方を旅していた当時のマスクマンに格闘技のいろはを叩き込んだのは「格闘技世界チャンピオン」カイリキー、「関節技マスター」オトスパス、「連撃と一撃の極致」ウーラオス兄弟、そしてなんかその辺をダバダバ走り回っていたガラルサンダーをはじめとした複数の格闘タイプのポケモン達である。
普通にカレーを食べていただけでこれらの猛者に絡まれる辺り、もしかしたらこの不審者からは強者を引き付けるフェロモンにも似た何かが出ているのかもしれない。
「──それでは、この辺りで本官も失礼させていただきます!本日は犯人逮捕にご協力いただき、まことにありがとうございました!あと、ホオズキさんからいただいたサイン色紙は一生の宝物にします!これからも頑張って下さいッ!」
「……ありがとうございます。ジュンサーさんもお仕事頑張って下さいね」
その後、手書きのサイン色紙を大事そうに抱えてぶんぶんと手を振りながら去っていく新人ジュンサーを見送ったホオズキの口元にはほんの僅かに、だが何とも満足げな笑みが浮かんでいた。
幾ら言わずと知れた不審者な彼でも、自分を心から慕ってくれるファンとの交流には心癒されるものがあったのだろう。
その上、そんな自分を応援してくれるファンから「これからも頑張って欲しい」という激励の言葉まで貰っしまったのだ。
元が単純なアホの子であるホオズキにとって、自身のやる気を奮い立たせるのにこれ以上の言葉はなかったのである。
(──さてと。さっきのジュンサーさんの応援のおかげで俺のやる気も一気に天元突破したことだし……)
(そろそろ「トキワの森」に入っていった最推しコンビの見守り活動を再開することにしますか)
──もっとも、そのやる気の矛先が一回り以上も年の離れた少女達への見守り行動に向けられる辺りがこの不審者の不審者たる所以なのだが。
・ホオズキ
不審者を得意の関節技で取り押さえた不審者。
なお、その辺を走っていたガラルサンダーは彼のカレーを好きなだけ食べてからまた走り去っていった模様。
何しに来たんだあの鳥。
・泥棒
不審者に取り押さえられた不審者。
可哀想でもないし当然。
・ジュンサーさん
筋金入りのホオズキファン。
彼から貰ったサイン色紙は早速自宅の神棚に飾ったらしい。
勿論ご利益などは特にない。
カントー編の序盤はこんな感じで不審者がTSコンビを見守る姿を書いていきます。
そんな不審者の不審な行動と盛られ続ける経歴にご期待いただける方は是非感想と一言付き高評価をお願いします。