チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキはそれなりの良識をもった大人である。
これまでにも困っている人を見掛ければ自分の出来る範囲での手助けを申し出ることは多々あったし、そうでなくとも元々人がいい彼の余計なお節介が結果的に事態を好転させてきた回数などとうの昔に百を超えているほど。
当然、それらの行動の中には彼なりの思惑や損得勘定が働いた上で行われたものが含まれているのは事実なのだが、この不審者は基本的にアホの子なので、先の行動の凡そ9割は純粋な善意と某現場猫のような「結果よければ全てヨシッ!」の精神で生まれたただの偶然であることが殆どである。
それでいて自分の起こした行動やそれによって齎された結果に対して何の見返りも求めることがないのだから、そんなマスクマンのヒーロー然とした姿勢に脳を焼かれる者が続出するのも致し方のないことだと言えよう。
──しかし、そんな基本的に温厚で善意のアホの子であるホオズキにも決して許しておけないことが三つある。
一つは「何の理由もなく周囲の人々やポケモンを傷付ける行為とそれを行う人」。
一つは「大切に育ててきたポケモンやそのパートナーであるトレーナーが育んできた絆と思い出を愚弄する行為」。
そして、ホオズキが何よりも許せない、所謂彼の逆鱗に触れる行動というのが──。
「──さて。これで残るは君一人になってしまったわけだけど……何か言い残すことはあるかな?」
「へ、へへっ……まぁ落ち着け。そんな殺意の籠った熱い視線を向けられちゃあビビって話も出来やしねぇ……」
「……ほう?」
「俺達が売り捌こうとしていたポケモン達は無事だチャンピオン。少なくとも今のところはな。この先どうなるかはあんた次第さ」
「……ふむ」
「アイツらを無事に取り戻したければ……このまま俺を見逃せ。あんたが手を出しさえしなけりゃ、俺だってあのポケモン達に手荒な真似はしねぇさ……。簡単な話だろ?な?OK?」
「……面白い人だね、君は。気に入ったよ」
「……ッ!へへっ、流石は天下のチャンピオン様ッ!胡散臭ぇ見た目の割には意外と話が分かるじゃ──」
「ぶん殴るのは今すぐにしてやる」
「うわぁぁぁッッッ!!!???」
「自分達の私利私欲のためにポケモンを蔑ろにし、更には彼らを商売の道具として粗雑に扱う下種な輩」。
つまり、今しがたホオズキの怒りの鉄拳を受けて意識を失った男や、その途中で無慈悲に叩きのめされた他のロケット団員のような連中が、彼は何よりも嫌いだったのである。
(ロケット団が関与したポケモンの強奪事件や、カントー地方外からの不法なポケモンの密輸入を阻止したのは今月だけで既に数回……。似たような事件はこれまでにも何度も起こってはいたけど、それでもこの頻度は明らかに異常だ。……やはり原因は
そして、だからこそホオズキはこう思うのだ。
「幾ら最強無敵の初代コンビとはいえ、まだ11歳になったばかりの子供達を大人の事情に巻き込むわけにはいかないよね」
今こそ、
「──あ、お疲れ様です。ホオズキです。はい、お察しのとおり何時もの案件です。……いえいえ、こちらこそ毎度お騒がせしてしまって申し訳ありません。ということですので、お手数ですがこちらに応援を何人かと救急車を数台お願いします。ああ、それと……」
「連行する時には彼らを起こさないでやって下さい。死ぬほど疲れているようなので」
なお、ホオズキにのされたロケット団員達は主に顔の辺りが「前が見えねぇ……」状態になっている以外、特に命に別状はないため、あしからず。
「あ”~、疲れた~……。バトルの申込だけなら兎も角、私が可愛いからって下心見え見えで声掛けて来るナンパ野郎共が多すぎて嫌になっちゃうわね……。全く、少しはホオズキさんの紳士然とした態度を見習って欲しいもんだわ」
「……確かに、ここに来るまでだけでも軽く10回は声掛けられてたものね。グリーン、親しくない人の前で猫被るのは上手いから」
「逆にアンタはそういうところに無頓着過ぎるのよレッド。何せ自分に声を掛ける連中はナンパ野郎も含めて全員容赦なくなぎ倒してたくらいだし」
「……あれはグリーンのついでみたいな感じで私に声を掛けてきたあの人達が悪い。まぁそれなりの経験値になってくれたことだけは感謝してるけど」
所変わって、こちらはニビシティとハナダシティの間に連なる雄峰こと「おつきみやま」の麓にあるポケモンセンター。
カントーポケモンリーグ制覇のための最初の難関であるニビジムを見事に攻略したグリーンとレッドの二人は、その後も道中のトレーナーや草むらから飛び出してくる多種多様な野生ポケモン達とのバトルを何とか乗り切り、前述したおつきみやまに乗り込む前の最後の休憩場所としてここを訪れていた。
途中、彼女らの言うような厄介な連中に絡まれることも多々あったようだが、その程度の妨害で足を止めるほどこの二人は生半可な鍛え方はしていない。
何せ、今日までこのTS初代コンビにバトルのいろはを伝授してきたのは、彼女達の憧れの人であるマスクドチャンピオンことホオズキその人だったのだから。
因みに、グリーンはレベルアップしたフシギダネと共に相手の弱点を巧みに突いたクレバーな立ち回りでニビジムのジムリーダーを撃破し、対するレッドは弱点である筈の岩タイプの攻撃をものともしないヒトカゲの圧倒的なパワーで同ジムリーダーを圧倒していた。
特にこれと言った見せ場のなかったタケシは真面目に泣いていい。
「……それで、どうするのグリーン。本当なら私達、ニビシティを最後にそれぞれ単独行動する予定だったけど」
「んー、そうねぇ……。まぁおつきみやまを抜けるまではこのままでもいいんじゃない?ナンパ野郎程度ならお互いに一人でどうにか出来ると思うけど、それ以上の連中相手となったらそうもいかないかもだし」
「……それって前にホオズキさんが言ってたロケット団って人達のこと?」
「そ。まぁそういう悪い奴らはホオズキさんの主導でカントーからどんどん駆逐されちゃってるみたいだから、私達みたいな子供が出くわす機会なんて早々ないとは思うけどね」
「……フラグじゃないといいけど」
「その時は私の鍛えたポケモン達でぶっ飛ばすのみよ」
そう言ってケラケラと楽しげな笑い声を上げるグリーンと、そんな親友兼ライバルのことを静かに見つめるレッド。
──彼女達は知らない。
ロケット団という組織の影響力がどれほどカントー地方全域に根深く食い込んでいるのかを。
そして、そんな悪の組織が伸ばす陰謀の魔の手が何も知らない自分達のすぐ側まで迫っていることを。
彼女達は、まだ知らない。
「──ところでアンタ。あの変なおじさんに押し売りされた明らかに塗装済みのその……コイキング?ってポケモン、本当に手持ちに入れるの?」
「……勿論。この子には可能性がある。目を見れば分かる」
「ギョッ!」
「……まぁアンタがそれでいいのなら別にいいんだけど」
・ホオズキ
圧倒的暴力で悪の組織の構成員を一網打尽にした元コマンドーなマスクマン。
やはり暴力……暴力は全てを解決する……!
なお、本格的に組織壊滅のフラグが立った某サカキ様は泣いていい。
・ロケット団員
人間(600族)の圧倒的パワーから繰り出される顔面パンチを受けた可哀想な人。
(檻の中に)離してやった。
多分死んでない。
・タケシ
特に見せ場もなくナレ負したジムリーダー。
可哀想。
・グリーン(♀)
行く先々でナンパ野郎共に声を掛けられる美少女。
最初は丁重に断るが、しつこいと実力行使でぶっ飛ばされるので要注意。
幼馴染が将来変なセールスに引っ掛からないか少し心配。
・レッド(♀)
問答無用でナンパ野郎共をぶっ飛ばしたバーサーカー。
貴様らの経験値は我がポケモン達が成長するための一端となるであろう。
可能性を感じで購入したコイキングの惚けた顔に癒されている。
・コイキング
レアカラーだからという理由で通常の10倍でレッドに売られたポケモン。
実は塗装ではなく天然ものの色違いなのだが、それに周囲が気付くのはまだ先の話である。
次回はロケット団を名乗る不審者集団に囲まれた美少女コンビのピンチに颯爽と介入した不審なマスクマンの八面六臂の大活躍(暴)を書いていきます。
オイオイオイ(悲哀)
死んだわあいつら(諦観)
そんな攻撃特化の推定600族な人間に襲撃されるモブロケット団可哀想……な人は是非感想と一言付き高評価をお願いします。