チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
そんな話です。
マサラタウン出身の新米トレーナーことグリーンは自他共に認める成績優秀にして品行方正な正統派美少女である。
ポケモン研究における世界的権威であるオーキド・ユキナリ博士を祖父を持つ彼女は、幼い頃から毎日のように彼の後をついて回り、時には大好きなお爺ちゃんのお手伝いと称して彼の研究所に一日中入り浸ることもあった。
その部分だけを切り取って見るなら、周囲の者達は皆そんなグリーンのことを「お爺ちゃんっ子の可愛い孫娘」としか思わなかったことだろう。
しかし、そのような祖父想いの優しい性格と誰もが羨む完璧な
そんなグリーンの持つ凄まじいほどの上昇志向を正しく理解していたからこそ、ユキナリは孫娘に対して自分の持つ全ての知識と経験を惜しみなく与えてきたし、彼女の幼馴染であるレッドもまた、そのような親友の姿勢を隣で静かに見守って来た。
恐らくは両者の目から見ても、グリーンの持つ貪欲なまでの向上心と、それを支える並外れた精神力の強さはとても好ましく思えたのだろう。
そうでなくとも、常日頃から自己研鑽を欠かさないグリーンの姿を間近で見て来てた彼らからすれば、そんな彼女の姿勢に一種の尊敬に近い感情を抱くのも当然のことと言える。
だからこそ、ともすれば倦厭されがちな自分の本性を正しく認め、なおかつそれを好意的に受け止めてくれた大切な祖父からの貴重な教えと、姉妹同然に育ってきた一番の親友からの信頼の眼差し──。
「手伝ってくれてありがとうグリーンさん、レッドさん。……それにしても、ニビジムのタケシくんに続いてロケット団すらも倒してしまうとは、二人共順調に強くなっているようだね。これは君達とバトルする日が今から楽しみになってきたよ。な、アリアドス?」
「アリッ!」
「ありがとうございますホオズキさん♡私、これからももっともっと強くなって、貴方とバトルする時には必ずいい勝負が……いえ、絶対に貴方に勝てると思えるくらい強いパーティーを組んでみせますね♡ ──あ、でもアリアドスは……。懐いてくれるのは嬉しいのですが、実は私、虫ポケモンはそんなに得意じゃなくってぇ……」
「……私も、ホオズキさんとバトルする時までには自分なりのパーティーを組んでおきます。楽しみにしておいて下さい。……あと、グリーンは変なところで猫被ってないで、虫ポケモンが無理なら無理って言った方がお互いのためだと思うけど」
「お黙りレッドォッ!!!」
「フフッ……。相変わらず仲が良さそうで何よりだよ」
そして、そんな自分に大きな期待と
因みに、深夜のおつきみやまでつきのいしとピッピの乱獲を目論んでいた件のロケット団カルテットは、彼らの動きを察知して急行して来たホオズキの手持ちであるやけに大きなアリアドスに実力で分からされたのは勿論、ここまでの旅で最初の相棒をフシギソウとリザードに進化させていたグリーンとレッドの二人にもこてんぱんにやられて大人しくお縄に付いていた。
もっとも、彼らを縛り上げている縄はマスクマンパーティーの切込隊長であるアリアドスが出した強靭な蜘蛛の糸に「エレキネット」と「どくのいと」が複雑に絡み合った非常に危険な代物であるため、実際には逃げたくても逃げられない状態にあったと言った方が正しいのもしれないが。
「──さて。それじゃあボクは、これから彼らをハナダ署まで連行する必要があるから一旦山を降りるけど、よかったら二人も一緒にどうだい?その道中、君達がマサラタウンを出発してから今日までのどんな旅をして来たのか教えてくれると嬉しいな」
「勿論です♡こんなに暗い山の中、私達二人だけで夜を越すのは心細いなぁと思っていたところなので♡」
「……ホオズキさんのご迷惑じゃなければ、ご一緒させていただきます」
「それはよかった。……それじゃあ、足元に気を付けながらのんびりと行こうか」
そう言って捕縛済みのロケット団員達と共に歩き出したホオズキに続いて、グリーンとレッドの二人もまた、そんなマスクマンの両脇を挟む格好で彼と共におつきみやまを下り始めた。
その際、ホオズキの右側に立ったグリーンは彼に向かって今日までの出来事を具に語り、左側に立ったレッドはそんな幼馴染の話に時折補足を入れながらも、基本的にはマスクマン同様、静かに彼女の話に耳を傾けていた。
というのも、昔からこの二人の間には社交的で話し上手なグリーンが語り役、寡黙ながらも適度に鋭いツッコミを入れるレッドが補足役という明確な役割分担が出来ていたのだ。
語る内容によっては両者の役割が入れ替わることも稀にあるものの、基本的には前述したそれがこの二人にとって最も安定した定位置だったのである。
(……やっぱり、ホオズキさんは他の男の人達と比べてもより紳士的で素敵な人ね。私達とロケット団達の間に体を入れて一定の距離を確保してくれているのは勿論、こうして一緒に歩いている時にはさり気なく歩幅を合わせてくれることで、私達が道に迷ったり山の起伏に足を取られたりしないように気を配ってくれているみたいだし……。そういうことを自然に出来るのがこの人の素敵なところよね。──でも)
「成る程、レッドさんのピカチュウは『でんきだま』を持っていたのか。先のバトルで彼が見せてくれた『でんこうせっか』の威力がやけに高かったのにはそういう理由があったんだね。納得したよ」
「……私も、あの不思議な玉にそんな効果があるとは思いもしませんでした。トキワの森でゲットしたあの子がそれを持っているのを見た時には何だろうと思っていましたけど……」
(気のせいかもしれないけど……。ホオズキさん、私と話している時よりもレッドと話している時の方が楽しそうに見えるのよね……)
しかし、だからこそグリーンは、そんな饒舌な自分よりも明らかに言葉少ななレッドとの会話を楽しんでいる──ように見えたホオズキに対して複雑な感情を抱いていた。
勿論、当のホオズキ自身にそのような意図は毛頭ない。
何故ならこの時の彼は、世にも珍しいピカチュウをゲットすることが出来たレッドの幸運を素直に祝福していただけだったからだ。
根っからのポケモン好きを自称するこのマスクマンにとっては当然の行動であったと言えよう。
(……私だって、頑張って色んなポケモンを捕まえてるのに)
だが、それが逆に自尊心の強いグリーンの逆鱗に触れた。
(私だって、レッドみたいにホオズキさんと自然に笑い合いたいのに)
自分のように周囲から愛されるための仮面を被ることなく、何処までも自然で飾り気の欠片もない態度を貫くレッドと、そんな彼女のことをさも当然のように受け止めるホオズキの関係性が、今のグリーンには羨ましくて仕方がなかったのだ。
(私だって……。私だって、レッドに負けないくらい魅力的な女の子なのに……ッ!)
幼い頃から自分にないものを持っていたレッドに対する嫉妬と憧憬。
そして、そんな幼馴染の持つ魅力を誤解することなく受け止めることが出来るホオズキへの嫉妬と共感。
そのような複雑な感情が入り混じったグリーンの心中に浮かんだ思いはただ一つ。
(負けないわよレッド……。バトルでも恋愛でも、私は必ずアンタを倒して、自分の欲しい物を全て手に入れて見せるんだから!)
そう心の中で誓ったグリーンの瞳には、何処か危うげな雰囲気を感じさせる碧色の光が僅かに映り込んでいた。
・グリーン(♀)
自分にはない魅力を持つレッドとそんな幼馴染の魅力を誤解なく受け止めることが出来るホオズキの両方に嫉妬している系女子。
どっちのこと好きだから余計に感情が重くなる辺りが流石の初代ライバルといったところ。
この度、少しだけ病み落ちのフラグがたった。
・レッド(♀)
何処までもゴーイングマイウェイな初代主人公。
そんな可愛げのない自分に誰からも愛されるグリーンが嫉妬込みの激オモ感情を抱いているとは夢にも思っていない。
・ホオズキ
怪しげな色気で11歳のTS初代コンビを誑かすマスクマン。
なお、本人にその自覚はまるでなし。
クソボケ。
・アリアドス
ホオズキの手持ち。
過去にイッシュ地方を旅していた際に遭遇した親分個体。
根城にしていたライモンシティ周辺では「親愛なる隣人」の異名で親しまれ、彼自身も陰ながらに人々やポケモン達の生活を見守って来た。
先発、サポート、後詰と何でもありのオールラウンダー。
次回はまたホオズキ視点に戻って彼に曇らされる女性陣の話を書いていきます。
そんな曇らせ展開にご期待いただける方は是非感想と一言付き高評価をお願いします。