チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
お楽しみいただければ幸いです。
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは自他ともに認める最強の男である。
しかし、それは彼が全世界のポケモンリーグとそれに連なる各機関を束ねるカントーポケモンリーグの頂点に立っているからそう呼ばれているわけではない。
というより、この男の──もとい、この生物の強さのほどを語るには、彼の持つリーグチャンピオンという肩書すら甚だ役不足だったのだ。
それは何故か?答えは実にシンプルである。
「ス……」
「スリ~……」
「パパパパパパパパパパッ……!」
「大丈夫、何も怖がることはないよ。君達が『その人』に何もしなければ、ボクだって君達に手を出したりなんかしないさ。当然だろう?理不尽な暴力ほど酷いものなんてこの世には存在しないのだから。……さ、分かったら早くその眠り姫を置いて早く森に帰った方がいい」
「──さもなくば、ボクは君達に対して人命救助という名の正当な暴力を振るうことになってしまうかもしれないよ?」
何故なら、このマスクマンは一人のポケモントレーナーとして類稀な才能を持っていること以前に、一匹の生物として伝説のポケモン達とも真っ向からどつき合えるほどの人外パワーを秘めているのだから。
「「「──サ、サーセンシタッッッ!!!」」」
「……。行ってくれたか。……それにしてもサーセンシタって。最近のスリーパーは人間の言葉も喋れるようになったのかな?」
おかげで、そんな人類の皮を被った化物から放たれた割とガチめの殺気をもろに浴びせられた野生のスリーパー達も思わず尻尾を巻いて逃げ出す始末である。
「いや、そもそも君等ってそんなに巻けるほどの尻尾持ってなかったよね?っていうか何か妙に体デカくない?」という疑問兼ツッコミが何処かから入ってきそうな光景ではあるが、そんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。
「それにしても、日課のお昼寝と称してこんなところで日向ぼっこに興じるとは……。相変わらず繊細なのか豪胆なのか分からない人だね、エリカさんは」
「んぅ……。むにゃむにゃ……。……ホオズキ様の香りがしますぅ」
何はともあれ、この不審者の活躍によって、不審なスリーパートリオによるお昼寝大好きお嬢様ことエリカ誘拐事件が未然に防がれたのは疑いようのない事実なのであった。
「あらあら……。ということは、ホオズキ様はカスミ様との逢瀬に適したお店の下見のためにタマムシシティを訪れようとしていた矢先に、日向ぼっこをしていたわたくしのことを見付けて下さったのですね?」
「うん、まぁ大体そんなところかな。……といっても、ボクとカスミさんとの予定は逢瀬なんてロマンチックなものじゃないよ?彼女にとってもボクみたいなのは精々便利な荷物持ち程度の認識だろうし」
「そうなのですか?……因みに、その時のカスミ様からはどのような言葉で誘われましたの?」
「えっと……確か、『あたしを泣かせた罰として、ホオズキには一日あたしとデーt……っじゃなくて、一日あたしの買い物に付き合いなさいッ!勿論、その日のプランはアンタが自分で考えることッ!!いいわねッ!?』──だったかな?まぁボクとしてもここには近い内に視察に着たいと思っていたから丁度よかったんだけども」
「なるほど、それはそれは……。……カスミ様も苦労していらっしゃいますのね」
「……?」
そうして約1時間程度の時間が立った今現在。
カントー地方最大の都市であるタマムシシティに数多いる豪商・名士の中でも特に名の知れた名家の一人娘にしてこの街のジムリーダーでもあるエリカの自宅に招かれたホオズキは、彼女が手ずからに淹れてくれた上質な緑茶の味に舌鼓を打ちながら穏やかな一時を過ごしていた。
それも、ただの来客程度の者では決して足を踏み入れるは許されない乙女の花園──即ち、色とりどりの花々に囲まれた小さな花畑のすぐ側に構えられた彼女の自室の中で、である。
その部分だけでも、エリカとホオズキの間にはただの友情以上の深い絆が結ばれているとみて間違いないだろう。
(──ですが、そんなカスミ様との逢瀬に先駆けてホオズキ様との二人っきりの時間を味わえるというのは何とも役得なものですね♪)
(何か今日のエリカさん、何時もよりもテンション高いなぁ。何かいいことでもあったのかな?……あ、この羊羹うっま)
もっとも、そんな友情以上の深い絆で結ばれているはずの二人の脳裏に浮かぶ感情は、片や意中の異性と過ごす穏やかな時間を心から楽しむ乙女のそれと、片や目の前の羊羹の優しい甘さに感動するクソボケのそれとで全く異なっていたわけだが。
Q.二人の間に友情以上の絆はありましたか……? A.そこにないならないですね。
因みに、先のエリカとホオズキとの話題に上がったカスミはホオズキと一日デートの約束を取り付けたおかげでブレイクしたメンタルが劇的に回復し、そんな彼女の浮かれポンチ振りをまざまざと見せ付けられたレッドとグリーンの二人の瞳からはハイライトがさよならバイバイしていたそうである。
女の敵と書いてホオズキと詠む──そんな日が来るのもそう遠くはないのかもしれない。
「そういえば、ホオズキさんのお弟子さん方……確かレッドさんとグリーンさんと仰いましたか。そのお二人も順調に各地のジムを制覇していらっしゃるそうですね」
「弟子というよりは年の離れた妹分みたいなものだけど……まぁ少し前から面倒を見ていたのは確かだね。つい先日もレッドさん、グリーンさんの順でクチバジムのマチスさんに挑戦して、何とか勝てたって連絡を入れてくれたみたいだし」
「あらあら……。そうなりますと、件のお二人が次に訪れるジムはわたくしのいるタマムシジムになるということですね。どんなバトルになるのか、今からとても楽しみですわ」
「うん。ボクも、あの子たちがどれだけ強くなっているのか……もとい、彼女達がどんな素晴らしいトレーナーになってボクの前に現れてくれるのか、今からとても楽しみだよ」
そうして何処か微妙に噛み合っていないにも関わらず、不思議と和やかで心地よい会話がエリカとホオズキの二人の口から紡がれること暫し。
──そんなエリカとホオズキとの間に流れる和やかで心地よい空気は、他でもないこのマスクマンの口から飛び出したたった一つの言葉によって、何の前触れもなく破壊し尽くされた。
「そうすれば、ボクも何の憂いもなく
そう言って、美味しそうにエリカの淹れたお茶を啜るホオズキ。
そんな彼の顔には、マスク越しからでもそれと分かるほど実に楽し気な笑みが浮かんでいた。
事実、このマスクマンにとっては、自身が才能を見出した若いトレーナーが切磋琢磨しながら自分を超えるために日々頑張っている姿を見守るのは楽しくて仕方がなかったのだろう。
それが彼の前世からの最推しである赤緑コンビ(幼少期の姿(TS))となればなおさらである。
しかし、だからこそホオズキは気付かなかった。
長年に渡って
彼という
そして何より──。
(え……?ホオズキ様がここから……わたくしの前から……いなく、なる……?)
ホオズキに脳と恋心の両方を焼き尽くされ、彼の為ならどんなことでもできるという覚悟を決めた者達の前から姿を消すという行為が、彼女達の心に一体どれだけの変化を与えることになるのかを。
(──でしたら、他の方々に盗られてしまう前に、わたくしの手で貴方の心と体の両方をゲットするほかありませんわね♪)
捕食者と化したお嬢様の前で呑気に茶をしばいているクソボケマスクマンにはまるで知りようのないことなのであった。
・ホオズキ
今日も今日とてクソボケムーブをかますマスクマン。
本人的には「初代コンビのどちらかに負けたあとなら俺みたいな不審者なんて誰も引き留めないだろうからスムーズに隠居できるな!ヨシッ!」とか思ってる。
何を見てヨシッ!って言ったんですか?(当然の疑問)
・エリカ
タマムシシティ随一の名家の一人娘にしてタマムシジムのジムリーダー。
ほんわかぽやぽやとした性格で、花畑でのお昼寝とホオズキとのお茶会が大好き。
なお、そんなお嬢様然とした仮面の下には捕食者の一面が隠されている。実際怖い。
・スリーパートリオ
ご存知幼女を攫う不審なエスパーポケモン。
何故かゴーリキー並みの肉体を持つパワー系トリオだったが、そんな見せ筋、本物の強者たるマスクマンの前では何の意味もないことを思い知らされた。
・カスミ
前話でメンタルブレイクするも、ホオズキとの一日デート権を得てからはすっかり浮かれポンチになった。
可愛い。
・初代赤緑コンビ
浮かれポンチになったカスミの姿を見てかるく殺意を覚えたローティーンズ。
なお、そんな二人の殺意をもろに受けた挙句にナレ負けしたマチスは泣いていい。