チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
なお、プロットも組まずにその場その場で思い付いた設定を文字に起こしているので更新頻度はズブい模様。
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは転生者である。
ブラック社畜特有のサービス残業を死ぬ気でこなした後、最寄りの家電量販店で予約していたポケットモンスターの新作ゲームを受け取るのを楽しみに会社を出た瞬間、突然歩道に乗り上げて来た大型トラックに勢いよく撥ね飛ばされ──。
気が付くと、彼は見知らぬ土地の、見知らぬ森の中、そこに住まう不思議な生き物達にぐるりと囲まれた十代前半の子供の体で倒れていたのだ。
俗に言うところの異世界転生──もとい、暴走トラック特急:現世発 → 異世界行に巻き込まれてしまった形である。
唯一の救いは、今世の体にも前世の知識という名の原作知識を一つ残らず持ち越せたことと、前世で受けた暴走トラックによるダメージを一つたりとも持ち越さなかったことだろう。
どうやら今世の体は思いの外丈夫だったようだ。
……もっとも、そんな転生したての新品ボディは、彼のことを取り囲んでいたビードル達の毒針によってすぐにボロボロにされてしまったのだが。
泣きっ面に蜂とはまさにこのことである。
そんなまさかの貰い事故染みた異世界転生を果たしてから早十数年。
件のマスクマンことホオズキが今どこで何をしているのかというと──。
「……フフッ」
「あら……。あたしを目の前にして思い出し笑い?失礼しちゃうわね」
「──ああ、すみません。ですが、決して貴女のことを笑ったわけではないんですよ?ただ……不意に、とても懐かしい記憶が頭を過ったもので」
「……そ。なら、あたしとのティータイムの時くらい、その似合わない敬語キャラは止めてくれない?今日はチャンピオン同士としてじゃなく、昔一緒に旅をした親しい仲間として顔を合わせているんだから」
「──ね、ホオズキ
「……全く。敵わないなぁ、カルネ
カロス地方はミアレシティのとあるカフェで、世界を股に掛ける超有名女優にして現カロスポケモンリーグチャンピオンであるカルネと共に、和やかなティータイムを楽しんでいた。
何を隠そう、この二人はかつてカロス中を巡る旅を共にした仲間だったのだ。
そういった仕事仲間とは異なる関係性があったからこそ、彼らは多忙なスケジュールの合間を縫って何とか時間を捻出しては、こうして何の縛りもしがらみもない穏やかなひと時を過ごしているのである。
……ただ。
「……それにしても、このカフェテラスに面した通りを歩いている人達は必ずと言っていいほどカルネちゃんに注目しているね。流石は世界的な大女優といったところかな?」
「えっと……。ホオズキくんの言っていた人達はどちらかというと──いえ。まず間違いなく私よりも君の方に注目していると思うけど?」
「え?ボクに?何故?」
「何故って……。そりゃあ貴方、私御用達のカフェの一席に変な仮面を付けた如何にも不審者って格好の男の人が呑気にお茶してる姿を見たら、誰だって注目してしまうものでしょう?」
「……マジで?」
「マジよ」
──そんなホオズキとカルネの関係を知らない周囲から見れば「カロス地方の誇る美麗のチャンピオンが正体不明の仮面男と楽しげに茶をしばいている」という、何ともカオス極まりない光景が出来上がっていたわけだが。
彼らがホオズキのことを「我らのチャンピオンに言い寄る不審なマスクマン」として通報しなかったのはミアレっ子達の最後の良心か。
はたまた「まぁ仮に何かあってもカルネさんなら大丈夫でしょ」という無言の信頼があったからなのか……。
「何ということだ……。これがカントー地方なら、ボクはどこへ行っても『バトルが強い不審者』として子供達に大人気だというのに……。成る程、これがアウェーの空気というものか……」
「ホオズキくんの場合はどこへ行ってもアウェーだと思うけど……。というか君、ホームですら不審者扱いされていること自体は別に気にしてないのね……」
「まぁボクが神出鬼没な不審者なのは動かぬ事実だし」
「……自覚があり過ぎるというのも、それはそれで問題よねぇ」
真偽のほどは定かではないが、先程から軽快な軽口を交わし合うホオズキとカルネの二人にとって、この程度のことは良くも悪くも日常茶飯事だったようである。
それでいいのか現役チャンピオンズ。
「全く……。相変わらず寛容なんだか頑固なんだか分からない人よね、ホオズキくんは。それに、あたしは昔から言ってたでしょ?こんな風に周りの人達から変な目で見られたくなかったら、いっそのことその変な仮面を取っちゃいなさいよ、って」
「いやいや……それこそ無理な話というものだよカルネちゃん。ボクも昔から言っていただろう?この仮面はボクという人間を構成するのに欠かせない必須アイテムなんだって。それに──」
──しかし。
「この仮面の下にある醜い素顔を見てしまったら、きっと皆ボクから離れていってしまうだろうから」
そんな親しい間柄の二人だからこそ絶対に踏み込めない領域がある。
「──あたしだけは何があっても君の元から離れない……って言っても?」
完成し、完結してしまった関係だからこそ引いてしまった最後の一線がある。
「……ごめん」
「……ううん。あたしの方こそごめん」
そんな最後の一線を越える勇気を持てない己の弱さが。
(……分かってる。分かってるよ。あたしなんかじゃ、彼の抱える心の傷を埋めることは出来ないって。あたしなんかじゃ、傷付いた彼が休むためのとまり木にもなれないって。そんなこと、昔っから分かってた筈なのに……ッ!)
ホオズキの抱える心の傷に触れることすら出来ない己の無力さが。
(でも……。やっぱり……キッツいなぁ……)
今も昔も、カルネにとっては何よりも辛いことだった。
(言えねぇ……言えねぇよ……。今更「前世と同じ何の特徴もないモブ顔を隠すために仮面を付けている」なんてとても言えねぇ……)
それが想い人の付いた苦し紛れの嘘を発端とした盛大な勘違いだとも知らずに。
・ホオズキ
勘違いの原因を作った人。
同様の手口で数多くの原作キャラを曇らせてきた。
・カルネ
勘違いで曇ってしまった人。
同様の理由で曇っている被害者が数多くいることを、彼女はまだ知らない。
今後は主人公の設定を深掘りしながら、そんな彼に脳みそウェルダンされた原作キャラ達との関係を描写していきたいですね。