チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
お楽しみいただければ幸いです。
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは自他共に認めるカントー地方最強のポケモントレーナーである。
公式・非公式問わずに彼と彼のポケモン達がこれまでに屠ってきたトレーナー達は数知れず、そんな彼の異常なほどの強さと巧さに脳を焼かれた犠牲者達に至っては最早数えるのも馬鹿らしくなるほど膨大なものであった。
そしてそれは、前述したホオズキのあまりにも突出しすぎた強さに心をへし折られ、もう二度とポケモントレーナーとして再起できないほどの挫折を味わった兵共の骸が、彼という最強の男の背後に堆く積み上がっていることを在り在りと示していた。
無論、力試しと称して手加減抜きのガチ勝負を挑んできたトレーナー達の行く末を逐一気にするほどこのマスクマンは暇ではない。
だがそれでも、前途有望にして未来への希望に満ちあふれた若者達や、自身の力量にある程度以上の誇りを持っていた中堅トレーナー達の自尊心を粉々に粉砕してしまうばかりか、そんな彼等の人生をある種の影を落としてしまったとの噂を聞く度に割と……いやガチ目に凹んでしまう程度の優しさと責任感の強さが、この男にはあったのだ。
──少なくとも、ことある毎にこれらのことを思い出しては、自室の枕を涙でびしょびしょに濡らしてしまうくらいには。
泣いちゃった!
だからこそ、このマスクマンは相手から是非にと求められない限りは決して自身の本気を見せることはない。
彼と彼のポケモン達の見せる本気という名の真の姿が、これまでも、そしてこれからも数多のトレーナー達の心をへし折ってしまうことを痛いほどに知っているからだ。
だが、逆に言えばそんなホオズキ達の強さを前にしても決して心を折られることがなく、寧ろ
例えばそう──。
「行け、カイリューッ!今日こそあの悪趣味極まりない不審者マスクをボク達の手で剥ぎ取る時だッ!!破壊光線ッ!!!」
「リュゥゥゥーッ!!!」
「その意気やよし!だけど、このマスクはボクのアイデンティティそのもの!そう簡単に剥ぎ取らせてあげるわけには行かないよッ!迎え撃て、オノノクスッ!!ばかぢからッ!!!」
「オノォォォッ!!!」
手合わせという名目でことある毎にマスクマンの本体を力尽くで剥ぎ取りに来る若きドラゴン使いにして、カントーポケモンリーグ四天王の筆頭ことワタルとの手加減抜きのマジバトルなどは、まさにその最たる例と言えるだろう。
同じポケモンリーグに所属する同僚?
はたまた互いの力量を認め合える終生のライバル?
それとも世界トップクラスの絶対強者に挑む最強の挑戦者か?
確かに彼らの関係にそう言った側面があるのは紛れもない事実だろう。
実際、若手随一のドラゴン使いとして一族の中でもメキメキと頭角を現していたワタルが長以外の者の下に付くことをよしとしたのは、自身の持つ絶対的な強さに奢りにも似た感情を抱きつつあった若いトレーナーの鼻っ柱が、他ならぬホオズキの手によっていとも簡単にへし折られてしまったことに他ならないからだ。
もっとも、当のマスクマンとしては、「何か急に勝負を挑んできた若い子がそのまま変な方向に懐いてきた上に新生四天王の一角に収まってやるとか言い出した。何この子怖い」程度の認識でしかなかったわけだが。
ともあれ、そんな変な方向に懐いてきたプライドチョモランマの若手ドラゴン使い……もといワタルが、リーグ四天王としての多忙な合間を縫ってでもチャンピオンであるホオズキに全力バトルを挑んでくれるような距離感で居続けてくれるのは、知らず知らずの内に強者故の孤独に悩まされていた彼にとってもある種の救いになっているのは間違いない。
「むむむ……。認めたくはないが、やはり今のボクとカイリューの実力では、君が一から鍛えてきたオノノクスの牙城を破るには至らないということか……。っていうか、なんでボクのカイリューが出した全力の破壊光線をばかぢからで相殺したはずのオノノクスが当たり前みたいな顔で普通に反撃してきたんだ……?前々から思ってたけど、やっぱりホオズキのとこポケモンって何か色々おかしくない?──しかし、だからこそ挑み甲斐があるというもの!次こそはボクとカイリューの手でその忌々しいマスクを剥ぎ取ってやるから、精々覚悟しておくのだなッ!」
「ほほぅ……それは楽しみだね。ボクもワタルくんとカイリューのコンビが日を追う毎に成長していく姿を見る度にいい刺激を貰えているから、そんな君達に負けないよう、これからもオノノクス達と一緒に日々精進の精神で頑張らせて貰うことにしよう。……ただ、バトルの勝ち負けに関わらずボクのマスクを剥ぎ取ろうとするのは止めてね。割とマジで」
「断る。君のマスクを狙うのは、ボクが君という強者に挑む際の一番のモチベーションになっているんだ。何より──」
「何より?」
「そのマスクの下に一体どんな顔が隠れているのか、単純に見てみたいしなッ!」
(どんな顔って……。別に何の面白みもない普通のモブ顔があるだけなんだけど……。まぁこの子が楽しいのなら、それはそれでいいか)
何故なら、回避不可能な不慮の事故によって、現実世界から文字どおり己の体一つでポケモン世界に放り出されてしまったホオズキにとって、ワタルはこの世界でできた初めての男友達だったのだから。
──と、そんな具合に綺麗に話がまとめれば何よりだったのだが、そうはならなかった。
だから──この話はここでお終いなんだ
ホオズキにとって、ワタルは確かにこの世界でできた初めての男友達……
そう、確かにこのマスクマンは、ある程度の時期までこの若きドラゴン使いのことを、共に苦難を分かち合える同性の友人だと思っていたのだ。
「──ところでホオズキ。君は一体何時になったらボクの番になってくれるのかな?一族の長……いや、ボクのお爺様も『可愛い孫娘の結納と曾孫とその子供達の顔を見るまでは死に切れん』と毎日のように嘆いているんだけど?」
「いや、そこまで生きたら十分どころか普通に人間の寿命の範疇を超えちゃってるんじゃないかなッ!?」
……ホオズキの♂としての強さに脳を焼き尽くされた挙げ句に辛抱堪らなくなったワタル(♀)が、彼に対して告白という名の求愛活動を始めるまでは。
なお、そんな彼女からの怒濤の求愛活動にたじたじになっているマスクマンの姿を目の当たりにしたオノノクス氏からのコメントは「Oh,No」の一言であった。
諸行無常とはまさにこのことである。
・ホオズキ
ただそこにいるだけで数多のトレーナー達の心をへし折ってきた生粋のバトルモンスター。
なお、本人的には本気のバトルを求められたから応じただけの模様。悲しいね。
ワタルのことは可愛い後輩兼苦難を分かち合える貴重な男友達だと思っていたのに見事とに裏切られる形となった。
やはりクソボケ……クソボケは全てをカオスにする……!
・ワタル
カントーポケモンリーグ四天王の筆頭にして新進気鋭のドラゴン使い。
はたしてその実態は肉食系ボクっ娘トレーナー。
隙あらばホオズキのマスクを剥ぎ取る名目で彼を襲い、既成事実を作りたがる肉欲ドラゴン。
いいぞ、もっとやれ(無慈悲)。
・オノノクス(色違い)
ホオズキパーティのまとめ役。
キバゴ時代、色違いであることを理由に群れから追放されたところをホオズキに保護され、そのまま彼の手持ちに加わることに。
当初こそキバゴらしい甘えん坊な一面も散見されたが、他メンバーのあまりのフリーダム振りに「俺がこの人達のまとめ役にならないと!」との自立心が芽生えたことで心身共に大きく成長。
今ではパーティ一の力持ち兼エースとして自由人なメンバー達をまとめている。
・カイリュー
ワタルの手持ちにしてエース。
ミニリュウの頃からワタルと共に育ってきた幼馴染み的な存在で、彼女から向けられる絶大な信頼に応えるべく日々鍛錬を欠かさない努力の人。
最近、色気のある黒い甲殻と落ち着いた雰囲気を持つホオズキのオノノクスのことがとても気になっている。