チャンピオン、リーグ辞めるってよ   作:スゲー=クモラセスキー

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 誤解や勘違いってこういう日々の積み重ねから生まれるんだなって思いました(他人事)。


マスクマンとリラ

 カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは神出鬼没な不審者である。

そのフットワークの軽さはまさに驚愕の一言であり、朝の新聞でシンオウ地方のとある遺跡に出入りする不審なマスクマンのニュースがすっぱ抜かれたかと思えば、その数時間後には遠く離れたアローラの花畑で野生のオドリドリ達と熱いダンスバトルを繰り広げる謎の仮面ダンサーの写真がSNSを賑わせるほど。

他にもホオズキと思わしき……というか彼本人としか思えない人物に関する目撃情報を挙げればキリがないのだが、そんな話題の不審者が現れる場所に共通する事項を読み解くと、彼がそのような行動を取り続ける理由が少しずつ見えてくる。

何故なら、このマスクマンが現れる場所には、その前後数時間の間にほぼ間違いなくといっていいほど似通った現象が発生していたからである。

 

 

 

 ──時が歪み、空間が捻れ、空に穿たれた穴の中からこちらの世界のものではない謎の生き物(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が飛び出してくるという超常現象が。

 

 

 

 ところ変わって、ここはホウエン地方の「デコボコさんどう」。

同地方最大の活火山である「えんとつやま」と、その麓に湧き出た温泉を中心に興った「フエンタウン」とを繋ぐ、その名が示す以上の起伏に満ちた険道である。

ロードサイクルが非常に盛んなホウエン地方では、この自然が生み出したロードを走破してこそ一人前という風潮があるせいか、ここでは毎日のようにこの悪路を走り抜けるロードレーサー達の姿を見学出来る、一種の観光名所となっているのだ。

そして、そんなロードレーサー達の聖地ともいうべき場所を秘密裏に訪れた謎のマスクマンが今何をしているのかというと──。

 

 

 

「──ええい、ウルトラビーストの素早さは化け物かッ!カントーにこの人ありと謳われたこのボクのスピードに一切引けを取らないとはッ!!」

 

「……フェロ~?」

 

「……フッ。あまりボクを見くびて貰っては困るなお嬢さん。確かに直線でのスピードだけなら君の方に分があるようだが──それだけで勝てるほど、このレースは甘くないッ!」

 

「フェッ!?」

 

「君のスピードは確かに脅威だ!しかしッ!至る所から顔を出す礫やうっすらと積もった火山灰、そしてこの起伏の激しい険道といった自然のトラップに足を取られまいと無自覚に歩幅を狭めている今の君相手ならッ!!幾らでもやりようがあるッ!!!」

 

「……ッ!!」

 

 

 

 巷を賑わすこの不審者は、デコボコさんどう上空のワームホールの中から突如として現れた謎の白いポケモンと、何故か己の身一つで壮絶なデッドヒートを繰り広げていた。

 

 そんなホオズキの姿を見たロードレーサーや噂を聞き付けてやって来た見物客の中には「どうしてダート自転車と合体しないんだ(に乗って走らないんだ)……?」といった疑問を持つ者も少なからずいたことだろう。

しかし、長く険しい修行の末に(ポケモン達と遊んでいる内に)スーパーマサラ人のそれに勝るとも劣らないほどの身体能力を手に入れた今の彼にとって、そのような疑問に対する答えは実に単純明快なものであった。

 

 

 

「限界を超えろ!山道を駆ける一筋の星となれッ!うぉぉぉッ!!アクセル・シンクロォォォォォッ!!!

 

「フェロォォォォォッ!!!」

 

 

 

 自分で走った方が速いから。

 

 

 

 そう言って、「UB02:BEAUTY」こと「フェローチェ」と共に猛スピードで駆け出したマスクマンの姿を見たレンタルサイクル店店長の顔が一瞬にして宇宙ニャオハになってしまったのも無理からぬことであった。

 

 

 

「素晴らしいレースだった。君のスピードに対する確固たる姿勢は称賛に値する。次の機会があるかどうかは分からないが、もしもまた相まみえることがあれば、その時はまたボクと一緒に心行くまで走ろうじゃないか。──それじゃ、向こうでも元気で」

 

「フェロ~」

 

 

 

 デコボコさんどうを舞台にした謎のポケモンVS謎のマスクマンによるタイマンレースが後者の勝利で終わってからしばらく。

硬い友情の握手と共に再戦の約束を交わしたホオズキは、実に満ち足りた笑みを浮かべながらウルトラホールの中に帰って行くフェローチェの姿を静かに見送っていた。

その後ろ姿は去り行く友との別れを惜しんでいるようにも、フェローチェが無事に元居た世界に帰れることを羨んでいるにも見える。

実際のところはホオズキ本人にしか分からないことではあるが、少なくとも、先のフェローチェをはじめとした異世界からの来訪者に対して、同様に異世界からの転生者である彼の中にも思うところがあるのは確かなようである。

 

 

 

(ああ、まただ……。またホオズキさんの背中から、彼とウルトラビーストとのやり取りを初めて見たあの日と同じ感情を感じる。──去り行く者に対する狂おしいほどの憧憬と、取り残されてしまった自分への絶望にも似た諦観を)

 

 

 

 だからこそ、物陰からひっそりとホオズキの背中を見つめていたリラの昏い瞳の中には、そんな彼に対する深い同情と哀愁の念が色濃く映っていた。

というのも、今でこそウルトラビーストに関する事柄全般を取り扱う国際警察に籍を置く彼女も、異世界から転生する形でこちらの世界に来たホオズキと同じか、それ以上に辛く、苦しい経験をしてきたからである。

 

 

 

 そう、リラもまた、不意にこちらの世界に繋がってしまったウルトラホールによって過去の記憶と帰る場所の両方を奪われた異世界人だったのだ。

 

 

 

(──けれど、それでも貴方はこれからもこちら側に迷い込んでしまった者達のために奔走するのでしょう。自分の心を押し殺し、痛みに歪む顔をその無機質な仮面で覆い隠して……。それでも貴方は、ただ帰る場所を求めて彷徨う者達のためにその手を差し伸べ続けるのでしょう。例えそれに対する報いが、何一つとして得られないとしても)

 

 

 

 しかし、今のリラの心の中には、何の前触れもなく自分に降りかかった理不尽なほどの不幸に対する悲嘆の念は微塵もない。

今の彼女の中にあるのは、何の見返りも求めることなくウルトラビースト(自分の同類)達に手を差し伸べ続けるホオズキに対する深い尊敬と、彼らを救う度に味わう壮絶な心の痛みを一人孤独に抱え続ける彼への強烈な共感(シンパシー)の二つのみである。

 

 

 

(ああ、ホオズキさん……。壊れかけた私の心を救ってくれた唯一の光……。叶うことなら、いつかその暖かな光を私だけのものにできる日が来ますように……)

 

 

 

 何故なら、リラの心を蝕んでいた深い孤独と絶望は、ホオズキという名の光によって一つ残らず焼き尽くされていたのだから。

 

 

 

(……しまった。さっきのフェローチェ、どう見ても負けず嫌いの「いじっぱり」だったじゃんか。レースが楽しすぎて普通に向こう側に帰しちゃったけど、何とか説得してゲットさせて貰うべきだったかなぁ。……それにしても、何でリラさんはあんな恍惚とした顔で俺のことを見てるんだろ?)

 

 

 

 ──なお、ホオズキ自身にその自覚は全くない上、そんな彼に対するリラの評価は完全な思い込みであることを、二人はまだ知らない。




・ホオズキ

 知らない内にリラの脳みそを丸焦げにした人。
ウルトラビースト関係は趣味と実益を兼ねて自主的にやってる変人。

・リラ

 ウルトラビーストに対するホオズキの善行(笑)を一目見た瞬間に脳みそを丸焦げにされた人。
将来の夢はこのマスクマンを自分だけのもの(意味深)にすること
 
・フェローチェ

 ホオズキとのライディングデュエルに満足して帰っていった人。
推定いじっぱりの6V個体。
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