チャンピオン、リーグ辞めるってよ   作:スゲー=クモラセスキー

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 何時自分がいなくなってもいいように。
そんな遺言めいた理由で自分を題材にした小説を書くのに協力的な謎多き異性って、小説家にとってかなり精神的にくるんじゃないかと思いました(小並感)。


マスクマンとシキミ

 カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは謎多き人物である。

それは同リーグに所属する全トレーナーの経歴がまとめられた公式HP上の彼に関するページに掲載された情報の少なさからも明らかであった。

 

 そして、以下がカントーポケモンリーグ公式HPから抜粋した件のマスクマンについてのプロフィールである。

 

 

 


 

 名前   :ホオズキ

 職業   :カントーポケモンリーグ○○代チャンピオン

 性別   :男性

 生年月日 :不明

 年齢   :不明

 出身地  :不明

 趣味   :目的地を決めない旅行とそこで出会った人々やポケモン達との交流

 好きなこと:強者との心躍るようなバトル

 嫌いなこと:無為にポケモンを傷付ける人や行為

 


 

 

 

 ──以上が同リーグ本部及びその関係者が知りうるホオズキの全てである。

当然、これらの情報が掲載された当初は「何で必須個人情報以上に趣味嗜好に関する情報の方が充実してるんだ」や「謎のマスクマンの正体が本当に謎すぎる」といったツッコミが方々から寄せられていたし、特に熱心なマスクマンファンからは今でも彼に関する情報開示要求がバンバン寄せられているのは確かである。

しかし、そのようなツッコミや要望の声を聞いてもなお、リーグ本部は前述したホオズキに関するプロフィールの内容を変えようとはしなかった。

……いや、この場合は「どうしても変えることが出来なかった」と表現する方がより適切であろう。

何故なら、暴走トラックによる貰い事故で現実世界からポケモン世界に転生したホオズキは、こちら側で自身の身分を証明出来るものは勿論、それを周囲の人々に説明するための最低限度の情報すら持ち合わせていなかったからだ。

 

 

 

 そしてそれは、彼という人間がその人生の大半を周囲からの支援や僅かな手助けすらも得られないような過酷な環境の中で生きてきたことを──生きざるを得ない身の上であったことを、いっそ残酷なまでに表していた。

 

 

 

「──というのが、トレーナーの人達の間で『公式HPに掲載されているホオズキのプロフィールが謎過ぎる』と言われている理由かな。まぁ端的にまとめてしまえば、『ボク自身が自分のことについて殆ど何も知らないからろくな情報が載せられなかった』というのが正直なところなんだけどね。何ということもない、何処にでもあるような話だよ」

 

「……いえ、その。何処にでもあるような話というには些か重過ぎるというか……。流石の私でも飲み下すには結構な時間を要するほど衝撃の真実だったいいますか……」

 

「ふむ……。言われてみれば、さっきシキミさんが言っていたものと同じようなことを広報の人からも言われたよ。『ホオズキさん関連の情報は色んな意味で闇が深すぎる』って」

 

「……今ならその方の気持ちが痛いほどよく分かります」

 

 

 

 そう言って仮面越しに苦笑いを浮かべるホオズキに対し、そんな彼の身の上話を聞いたシキミの顔は、誰が見てもそうと分かるほど酷く暗く落ち込んでいた。

まさか新しい小説の題材にするために態々来てもらったマスクマンへのインタビューの中、よもやこれほど胃にずっしりと来るような話を聞くことになるとは夢にも思わなかったからだ。

それが見た目こそ怪しいものの、誰に対しても等しくフレンドリーで、チャンピオンとしても他に類を見ないほどの実績を積み上げてきたホオズキの口から淡々と語られたのだから、そのギャップから生み出された精神的負荷は相当なものであったことだろう。

だからこそ、そんな「とにかく明るい不審者」として皆に愛されているマスクマンが、その心の内にこれほどのトラウマを抱えてきたという事実に、シキミはただただ絶句するほかなかったのである。

 

 

 

「ごめん、なさい……。私の無遠慮のせいで、ホオズキさんには言わなくてもいいことどころか、他の誰にも聞かせたくなかったようなことまで言わせてしまって……」

 

 

 

 そして、そんな彼の過去という名の心の闇を他ならぬ自分の(ペン)で暴き出してしまったという事実に、彼女が自身のこれまでの作家人生の中で最も強い罪悪感と、それ以上に強烈な後悔の念を覚えてしまったのも無理のないことであった。

 

 

 

「……?どうしてシキミさんが謝る必要があるんだい?」

 

「──え?」

 

 

 

 しかし、そんなシキミが思わず吐露してしまった謝罪の言葉に対し、それを受けたホオズキからの言葉は、彼女にとって予想だにしないものだった。

 

 

 

「寧ろボクは嬉しいよ。貴女ほどの著名な作家さんからボクをモチーフにした小説を書きたいというオファーを貰ったことも。そして、別に面白くもないボクの身の上話に本気で心痛めてくれる貴女の優しさにも。──だからシキミさん。貴女には是非、ボクという人間を、ボクの人生そのものを題材にした小説を書いて欲しい」

 

 

 

 そんなまさかの返答に呆然とする彼女に対して、最後にホオズキは、その無機質な黒い仮面越しでも分かるほど柔らかな笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

 

「そうすれば、例えこの先ボクがいなくなっても、貴女の作品を通して、ボクという人間がこの世界にいたことを沢山の人達に覚えていて貰えると思うから」

 

 

 

 そんなホオズキの口から語られた世界中の誰よりも優しく、そして世界中の誰よりも残酷な言葉を聞いた瞬間。

 

 

 

「……ッ!は、い……ッ!私の、作家人生の、全てを掛けて……ッ!必ず、貴方という人の物語を、書き上げてみせます……ッ!!」

 

 

 

 シキミの双眸からは、自身の作家人生最大とも言えるほどの大作を任されたことに対する感激と、密かに恋焦がれていた想い人に託された遺言にも似た願いに対する悲哀の念が入り混じった大粒の涙が零れ落ちたのだった。

 

 

 

……な、何かめっちゃ泣いとるーッ!?え、なして?なしてシキミはんはこんな盛大に泣いてはりますのん?もしかして嫌だった?俺みたいな世界最強のチャンピオン(笑)な面白仮面人間を元にした作品を書くのがそんなに嫌だったのッ!?だとしたらめっっっっっちゃくちゃ申し訳ないんですけどぉッ!?)

 

 

 

 なお、そんなシキミの涙の裏で、目の前のアホが見当違いも甚だしい勘違いをしていたことを知る者は、誰もいない。




・ホオズキ

 遺言めいた願いをシキミに託してしまった人。
お前そういうとこやぞ。

・シキミ

 淡い恋心を抱いていた相手から遺言めいた言葉を託されて曇らせ&脳みそウェルダンされてしまった人。
今後の執筆活動にとんでもないバフとデバフがかかったのは言うまでもない。



 直近の日刊ランキングで本作が2位になっていました。
皆さんの応援のおかげです、本当にありがとうございました。

 余談ですが、作者は投稿した作品への感想や一言を添えて付けていただいた評価欄を見てニヤニヤしながら次の話の内容を考えている変態です。
そのため、それらを沢山貰えると作者は泣いて喜び、意欲的に続きを書くようになるでしょう。

 要約:感想くれー!一言付きの高評価くれー!
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