チャンピオン、リーグ辞めるってよ 作:スゲー=クモラセスキー
カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは幅広い知識を持つ博識な男である。
それは彼自身が前世でそれなりに勉強して入ったそれなりの大学をそれなりの成績で卒業してからそれなりの会社に入社し、そこで日々の業務に追われながらもそれなりの成果を出せる程度には勤勉でマメな性格の持ち主だったことも深く影響しているのは間違いない。
勿論、前世の彼が前述したようなそれなりの人生を送ってきた背景には当然それなりの苦労があったわけだが……その辺りの事情は後日改めて語ることにしよう。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば、「サービス残業はクソ」ということだけである。
そして、そのような勤勉さとマメな性格、おまけに赤緑時代から欠かさずプレイしてきたポケモンに関する膨大な知識を引き継いだ状態でこの世界に転生してきた彼は──弾けた。
──あれ?これもしかして、ゲーム中に気になった遺跡の謎とか各地の伝承に関するあれこれとか全部自分で調べられるんじゃね?
後に後世まで語り継がれることになる謎の歴史大好きマスクマン爆誕の瞬間であった。
そうしてホオズキがポケモンやそれに関わる様々な事柄に関する学問に目覚めてから早十余年。
既に考古学及び民俗学に精通する謎のマスクマンとして各学会からの注目を集めるほどの知識人に成長した彼は今──。
「──X置いてけ!なぁ!アンノーンだ!!アンノーンだろう!?なぁアンノーンだろ君!!X置いてけ!X置いてけ!!なぁ!!君さえゲット出来れば、ボクのアンノーン図鑑は完成されるんだッ!!!」
「ノ……ノ~ンッ!!!」
「待ってホオズキくん!そんなに怖い顔で迫っては幾ら何でもXのアンノーンが可哀そうよ!ここは穏便かつスマートに、初手クイックボールでの不意打ちゲットが得策だと思うわ!」
「ノンッ!?」
ジョウト地方最古にして最も謎に包まれた遺跡である「アルフの遺跡」にて、自身と同じリーグチャンピオンで歴史をこよなく愛する同好の士でもあるシロナと共に、長年探し求めていたアンノーン捕獲のために執念を燃やす「妖怪X置いてけ」と化していた。
その姿はまさに狙いの獲物を見つけた時の狩人そのもの。
そこに普段から身に着けている無機質で威圧感に満ちた漆黒の仮面から放たれる異様なプレッシャーまで加わってくるのだから、突如としてそんな恐怖の「妖怪X置いてけ」に狙われる立場となってしまったXのアンノーンの立場からすれば堪ったものではない。
もっとも、そんなマスクド・ハンターによる強行を諫めるでもなく、寧ろ人権ならぬポッ権無視も甚だしい初手クイックボールによる悪質な不意打ちゲットをいい笑顔で提案するシロナに対して、このアンノーンがホオズキに感じたそれとはまた別ベクトルの恐怖を感じたのは言うまでもないが。
「ナイスアイディアですシロナさん!うぉぉぉ!唸れボクのクイックボールッ!往生せいやアンノーンッ!!X置いてけェェェッッッ!!!」
そうして、とんでもない速度で放たれたマスクマンのクイックボールが勢いよく自身の体に着弾したことを悟ったその刹那、最後にXのアンノーンの脳裏を過ったのはこの一言であった。
──解セヌ。
いやはや、全くもってそのとおりである。
「▶ねんがんの アンノーンをてにいれたぞ!」
「おめでとうホオズキくん!……だけど、どうしてさっきの一言の時だけ妙に声と動作がカクついてたの?」
「仕様です」
「え、でも……」
「仕様です」
「……そう。仕様なら仕方ないわね」
ホオズキが念願のアンノーン(X)をゲットしてからしばらく。
彼と彼のフィールドワークに同行する形でアルフの遺跡を訪れていたシロナは、無事に当初の目的を達成出来たことに対する安堵と同時に、二人にとっての長年の夢であったアンノーン図鑑をようやく完成させることで出来たことへの満足感とをゆっくりと噛み締めていた。
何せリーグチャンピオンとして日々多忙を極める二人が十年近くの地道な努力を重ね続けてきた末にやっと完成させた世界初のアンノーン図鑑なのだ。
これを完成させるまでに要した膨大な時間と労力を思えば、歴戦の強者である彼らの顔に疲労と達成感の両方が色濃く浮かんでしまうのも寧ろ当然というものであろう。
つまり、先程からホオズキとシロナの間で交わされている奇妙な会話の原因も全て疲労って奴のせいなのである。
これには流石のトリプルファイブなあの人もびっくりな真実だと言えよう。
「──まぁ色々と苦労はありましたけど、何はともあれ、これでシロナさんが長年研究していた『シンオウ神話』の真相にまた一歩近付きましたね」
「ええ。ホオズキくんのおかげで、これまで解読不能と思われてきた古代シンオウ人の残した文献にもようやく手を伸ばせるわ。……だけど、本当によかったの?このアンノーン図鑑完成のために尽力したのは他でもないホオズキくん自身なのに……」
しかし、だからこそシロナは納得がいかなかった。
納得出来るわけもなかった。
というのも、今回のアンノーン図鑑完成という偉業に対して、ホオズキはその功績の一切を彼女に譲渡するというのだ。
それだけでなく、このマスクマンをその後にシロナが行うであろう古代シンオウ人の文献に関する論文を作成する際にも自分の名前を引用する必要はないとまで言い切ったのである。
まるで、自分のやってきたことなどそう大したことでもないと言わんばかりに。
「いいんですよ。ボクの場合はただの好奇心で始めた趣味みたいなもので、誰かに認めて貰いたいとか、歴史に名前を残したいとかみたいな高尚な考えは一切ありませんから。そんな奴が完成したアンノーン図鑑を後生大事に持っていたところでとんだ宝の持ち腐れってもんでしょう?それなら、シロナさんの研究に使って貰ったほうがアンノーン達も喜ぶってもんですよ」
「でも……」
「それに──」
そして、そんなシロナの様子を察したホオズキは、最後に自身の顔の大半を覆う仮面を一つ撫でた後、何処か自嘲するような声音でこう呟いた。
「バトルの強さでしか自分の価値を証明出来ないボクのような野蛮な人間が何をしたところで、きっと誰も喜ばないでしょうから」
そう言ってゆっくりと踵を返したホオズキの儚げな背中に何の言葉も掛けられなかったことが。
(そう……。貴方は……ホオズキくんは
少しずつ遠ざかっていく彼の姿に自身の胸に秘めた本当の想いをぶつけられなかったことが。
(大好きな貴方のことを、諦めきれない……ッ!)
シロナは、今にも胸が張り裂けそうなくらい、辛かった。
(いやだって、堅苦しい学者先生の中に混じって自分の研究を発表するとかもう二度とやりたくないし……。そこで「素人質問で申し訳ありませんが……」なんて言葉を合図にネチネチ詰められることを考えるだけでマジもう無理だし……)
なお、そんなホオズキの言動と意味深な態度の両方が、前世のちょっとしたトラウマに起因するものであるという事実をシロナが知る日は恐らく来ない。
・ホオズキ
ゲームプレイ中に気になったあれこれを自分の手で徹底的に調べられるという事実に弾けたマスクマン。
今ではやたらと考古学と民俗学に詳しいチャンピオンとしてその界隈ではそれなりに有名。
一部の人達の間では「目を離した次の瞬間には消えていなくなりそう」とか思われているが決してそんなことはない。
・シロナ
シンオウ地方のチャンピオン兼考古学の権威。
ホオズキとは彼が過去にシンオウ地方を訪れた際に出会い、互いの趣味嗜好が似通っていることを契機に意気投合。
今回のアンノーン図鑑に関する功績全てを譲渡された上、その際に何時になく儚い態度を見せられたせいで滅茶苦茶曇らされた。
・アンノーン(X)
妖怪X置いてけの被害に遭った被害者。
ただただ可哀想。
何時も本作をご覧いただき、まことにありがとうございます。
突然で申し訳ありませんが、本作は今話を含めて残り3話で完結となります。
短い間でしたがご愛読いただき、本当にありがとうございました。
……ということで、プロローグを含めた「謎のマスクマン編」が完結しましたら、いよいよTSしたヤンデレッドちゃんとの絡みをメインにした「カントー編」を投稿しますので、ご期待いただける方は感想と一言付き高評価をいただけると作者のモチベーションが爆上がりします。
低評価は辛いとです。