チャンピオン、リーグ辞めるってよ   作:スゲー=クモラセスキー

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 パルデアでのいじめ問題やスター団関連のあれこれで心身共にボロボロだった少女が困っている子供を見過ごせないタイプの涙脆い不審者に出会ったら男性観が捻じ曲がるのも仕方ないと思いました(小並感)。


マスクマンとボタン

 カントーポケモンリーグチャンピオンにして同リーグ公認の謎のマスクマンことホオズキは涙脆い男である。

普段こそその顔の大半を覆っている仮面のせいで細かな感情の機微が殆ど分からない冷たい男と思われがちな彼ではあるが、その実、日常のほんの些細な出来事──特に子供やポケモン達に関するあれこれを見聞きするだけで涙腺が緩くなるなど、その不審な見た目に反して非常に感受性豊かな一面も持ち合わせた男でもあるのだ。

 

 例を出そう。

 

 自身の秘書を務める氷タイプの四天王とのランチタイム中に偶然目にした天涯孤独な子供と親を亡くした仔犬ポケモンとの心の触れ合いを描いた映画の予告を見た時──。

この男は普段から冷静沈着をモットーとする彼女が思わず貰い泣きするレベルで泣いた。

 

 過去にイッシュ地方を訪れた際に何度か顔を合わせたことのある頑張り屋な少女から長年の夢を叶えて同地方のポケモン博士の元で助手を務めることになったとの連絡を受けた時──。

このマスクマンはもう泣かないと決めた彼女が電話越しでも思わず号泣するレベルで泣いた。

 

 ホウエン地方で出会った自身の生まれとその使命の重さに苦悩するドラゴン使いの少女が普段の飄々とした態度からは想像も付かないほど弱弱しい声で呟いた本音を耳にした時──。

この不審者は旧知の仲である裂空の支配者が心配のあまり思わず様子を見に来るレベルで泣いた。

 

 

 

 ──このように、ホオズキという男は決して人の心が分からないタイプの無情なマスクマンではなく、寧ろ人の心が分かり過ぎてしまうタイプの有情なマスクマンなのだ。

もっとも、そんな彼の涙のせいで周囲にいらぬ誤解や勘違いを延々と広め続けているのも事実なのだが、そのことをこの不審者が知ることは一生ないだろう。

 

 

 

 何せ仮面の奥の瞳から流れ落ちるホオズキの涙を見た者達は総じて「この人は私が守護らねばならぬ」という強い決意に満ち溢れていたのだから。

 

 

 

 ──さて、それではここでちょっとしたクイズを出させていただくとしよう。

 

Q.もしも「立てば不審者、喋れば不穏、歩く姿はマスクマン」な涙腺ガバガバ勢筆頭のホオズキが、ガラルポケモンリーグからの要請で同リーグチャンピオンとのエキシビションマッチの帰りに立ち寄った公園のベンチで、彼もよく知る某アカデミーで起こったいじめ問題に一人立ち向かった少女の勇気とそんな彼女の元に集った星のように大切な仲間達との絆──そしてもう二度と戻れない楽しかった日々への憧憬を綴った物語を寂しげな笑みと共に語る少女と出会った場合、この男は一体どのような反応を見せるか?

 

 その答えは実にシンプルである。

 

 

 

「まさか……まさかあのアカデミーでそんなことが起こっていただなんて……。しかもその解決のために立ち上がったのが周りの大人達ではなく、ボタンさんをはじめとした本来守られるべき立場である筈の子供達しかいなかっただなんて……ッ!こんなの……こんなの、あんまりじゃないか……ッ!

 

「い、いや……。そのことについては勝手に周りを見限って身近な先生とかにも碌に相談しなかったうちらにも問題があったし……。っていうかお兄さん、さっきからうちのことほっぽり出して一人で泣き過ぎやない……?」

 

 

 

 A.当事者であるボタンが思わず困惑するレベルで泣いた。

 

 

 

 ホオズキは泣いた。

人目も憚らず──具体的には自分の隣で突然泣き出した不審者に対して明らかに引き気味な視線を向けてくるボタンの様子にも気付かないくらい盛大に泣いた。

 

 だが、それも無理もないことであった。

何故ならボタンが主要キャラクターの一人として登場するポケットモンスターSV(スカーレットヴァイオレット)は、前世の彼が最後にプレイした思い出のゲームだったからだ。

その時でさえもゲーム中で描写されてきたボタンや彼女の周囲を取り巻く諸問題に対して強く感情を揺さぶられていたというのに、それを他ならぬ本人の言葉で語られたとあっては、普段から涙脆いこの男の涙腺が更にガバガバになるのは当然の結果だったと言えよう。

……まぁだとしても流石に泣きすぎなのではという意見も確かなのだが。

 

 

 

(はぁ……。いや、ほんと何なんこの人。いきなりうちに話し掛けて来たかと思ったらいきなり泣き出して……。もしかして見た目どおりの危ない人だったんかな?だとしたら今からでもここから逃げた方がいいんだろうけど……)

 

 

 

 ──しかし、だからこそボタンは分からなかった。

何故この人は偶然この場に居合わせただけの自分に態々声を掛けてきたのか?

何故この人は何となく話してみた自分の昔話などに真剣に耳を傾けてくれたのか?

そして、そして何故──。

 

 

 

「ごめん……ごめんなぁ……。本当ならボク達大人が対処しなくちゃいけないほどの問題だったのに……。ボク達大人が真っ先にボタンさん達の助けの声に気付いてあげなくちゃいけなかったのに……!」

 

(少なくとも、このお兄さんが「うちのため」に泣いてくれていること自体はマジっぽいんよね……)

 

 

 

 何故この人は初対面で一回り以上も歳の離れた自分などのために本気で泣いてくれているのか?

 

 ボタンには分からない。

ボタンには隣の不審者が一体何処の誰で、どんな名前の人なのかすらも分からない。

 

 

 

(うちもヤキが回ったかな……。こんな何処の誰とも分からない怪しさの塊みたいな人に泣いて貰えたってだけで──)

 

 

 

 ただ、そんな彼女にもこれまでのことをとおして一つだけ分かったことがあった。

 

 

 

「その何もかもをボタンさん達に全部押し付けて……!その何もかもを全部見てみぬ振りをして……ッ!君達ばかりに辛い思いをさせてしまって、本当にごめんなぁ……ッ!!

 

(とっくの昔に枯れたと思っていた涙がまた溢れてくるくらい嬉しいと思うだなんてさ)

 

 

 

 この人は、初対面の私のために本気で泣いてくれるくらい優しい大人で、自分よりも遥かに年下の私のために本気で心を痛めてくれるくらい責任感の強い男の人。

 

 

 

 それがボタンから見たホオズキという大人への評価で──それと同時に、彼女の中に初めて芽生えた彼という異性に対する温かな感情であった。




・ホオズキ

 ボタンの話を聞いてガチ泣きした不審者。
それ以外にも事あるごとに涙を流しては、その涙の意味を深読みした周囲から更なる誤解と勘違いを受けていることを、彼は知らない。

・ボタン

 未来のマジボスにしてバルデアに金融危機を齎しかけたガチ犯罪者。
アカデミーでのいじめ問題、スター団騒動、その後の集団自主退学と様々な問題を体験して心と体の両方が限界寸前にあった時に不審なマスクマンと出会い、彼の本気の涙を見たことで無事に脳みそウェルダン。
アカデミー帰還後にはネモと共にホオズキのことで色んな意味で盛り上がることになるだろう。



 今回で「謎のマスクマン編」は完結です。
次回からはヤンデレッドちゃん絡みを中心とした「カントー編」を投稿していきますので、ご期待いただける方は感想と一言付き高評価をよろしくお願いします。
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