――青空に黒い煙が溶けていく
出店や屋台であふれ、楽しい時間だった。
――アスファルトが抉れ、轟音が響く。
人であふれ、まれに迷子の子が出るような、よくあるイベントだった。
――金属音とともに、屋台が砕ける音がした。
本来は、笑い声が響き、活気が溢れる祭りの日だったその公園は
悲鳴が鳴り響き、紅い水たまりが広がる、地獄となっていた。
そんな中、避難所へ逃げ遅れ、アーチ状の遊具に隠れ、縮こまる少女がいた。
滅多に聞かないヒュージ警報に反応が遅れてしまったのである。
遊具の隙間から外を覗けば、我が物顔で公園内の道路に沿って並ぶ出店を破壊するワンボックスサイズの怪物"ヒュージ"*1
...人類の天敵がはびこっている
幸いにも、ヒュージたちはキョロキョロしているのみで彼女には気づいていない、このまま助けを信じて待つだけでよかった。
その筈だった
「――は?」
ヒュージの向こう側、道路向かいの場所で
4,5歳ぐらいの子供を連れた母親が避難所の方向に走りだそうとしていた
確かに、助けが来るかも分からない状況なうえ、ヒュージも近い以上
いつ襲われるかわからないままじっとするのは苦痛だ。
しかし、この浜寺公園、防風林として松の木が植えられている。
松ぼっくりもそうだが、落ちて積もった松の葉っぱも大量にある。
つまり、音が鳴る物が大量にあるのだ。
思わず漏れた声を聞いたのか、数体のヒュージが遊具の側を向いたのを見て
少女は隙間から覗くのをやめ、思案する。
地元では滅多になかっただけでヒュージ災害で目の前で逃げてた人が亡くなるのは、このご時世、そうおかしくない。
自分の生存のために、あの親子を見捨てるのも決して間違いではない。
しかし、少女は――――
「こっちだ!こっちに来いッ!」
無謀なことをしたと理解はしている。
しかし、見捨てれば一生後悔していただろうし、間違いなく自分を許せなくなる。
故に、見捨てる選択肢など、無いに等しかったのだ。
僅か数体であっても、あの親子が逃げる可能性を少しでも上げるため、時間を稼ぐために避難所から離れるように走る。
「何体かは釣れたから逃げ切ってくれ」と願いつつ走り続ける。
追いかけてきてるスモール級の個体群にもつかず離れずの距離を保ちながら走り続けた。
訓練らしいもの受けたことはなく、体力測定としても結果は中央値付近だったが、
幸いにも追いかけてくるヒュージ自体がそこまで足が速くないのか、うまくいっていた。
――だが、そう都合のいいことは続かなかった。
追いかけてくるヒュージたちより二回り大きな個体*2と待ち伏せたように鉢合わせたのだ。
「終わった」と、本気で思ったのは初めてだった。
追手は最初からここに追いこむつもりで加減をしていたのだろう。
正面のヒュージは口を開いてかみ砕く体勢、後ろからはヒュージたちの鳴き声が迫ってくる。
逃げ切るのは、無理だ。と自身の最期を悟り、少女はその場に座り込んで目を閉じる。
あの親子は逃げ切れただろうか、男手一人で育ててくれた父に何も返せず、
やんちゃな小娘のまま終わった申し訳なさ、もう少し生きて、大人として生きてみたかった。
そんな後悔に満ちた考えばかりだった。
しかし、そんな彼女に待っていたのは、悲劇的な終わりではなかった。
背後から迫るヒュージたちの足音が鳴き声と共に止み、正面から体の芯に響きそうなほどの金属が削れるような音と共にヒュージの悲鳴が響く。
恐る恐る目を開くと、そこには...
「――大丈夫?ケガはない?」
真っ二つになったヒュージを背に、その体液を返り血のように浴びて
所どころ蒼く染まった黒い制服を着た暗い金髪の少女が微笑みながら問いかける。
その手に自身の体躯と変わらない大きさをした武器――対ヒュージ用決戦兵器"CHARM"を携えて。
これは、ただの一般人の道を行く予定だった少女、
リリィになることを決意した『浜寺撃退戦』の一幕である。