今この小説を投稿している2025/12/8 23:50頃、青森・岩手県沖で震度6の地震が発生し、現時点では津波警報が発令され、一部の沿岸では津波が観測されました。
私の住んでる県では僅かな揺れがずっと続きました。
今はただテレビ越しに映る情報を眺めることしかできません。
もしもこの小説を読んでいる方の中に該当する地域に住んでいる方がいれば、どうかこの寒さに気を付けてお過ごしください。
バックミラーに映るランエボのシルエットは小さくなっていくのが見えた。
今回はギリギリで勝った、と言ったところか。
まだまだ課題はある。
いくら東堂塾の三本指に入ったからと言って完全無欠なドライバーであるはずがない。
今回は戦い慣れていなかった4WD車とのバトルだった。
今後、清水が言ったようにプロジェクトDとやらとのバトルが待ち受けている。
『決して今の自分の実力に安住しようとするな。努力の思考を辞めた時、それ以上の成果はないと思え。』
『天性の才能なんてモノはドライビングの世界では通用しない。どれだけ実戦の場数を経験し、どれだけ質のある走りを経験してきたかのみが走りでモノを言うんだ。』
いつか東堂社長が話した教えが頭をよぎる。
東堂社長からは様々なことを教えてもらった。
その教えは今でも自分の走りの根底にあると言っても過言ではない。
そんなことをふと思いながら残りの道を下っていく。
少しして後ろを走っていた清水のランエボが唸るようなエキゾースト音を響かせながら下ってくる。
改めて見ると、今はランエボもⅤだのⅥなどが出ているがそれに比べると少々無骨な雰囲気を清水のエボⅡは醸し出していた。
中々いいシュミをしているなぁ、と思った。
「なんだ、さっきのバトルで言いたいことでもあるのか」
車から出てきた清水が口を開く。
「いや。エボⅡ乗ってるって中々いいシュミしてるなぁと思ってな」
「まぁ、今のエボに比べればパワーは物足りないが、この軽量なボディがウリだ。しっかりと剛性なんかを確保してやれば今のランエボにだって勝てるポテンシャルがあるはずだ」
「なるほど…相当なエボ好きなんだナ」
「それがどうした」
「いやぁ、あんたに似たエボ好きが東堂塾にもいてサ、周りはホンダ党のホンダ乗りだってのに一人エボⅢに乗ってたよ」
東堂塾は塾長の東堂社長がホンダ使いであったことから塾生もホンダ車を使っていた。
現に東堂社長の経営するチューニングショップ[東堂商会]ではホンダ系のチューニングを行なっていたし、栃木にはホンダ車の出球が多かった。
だが、たまにホンダ以外のFF車や挙動の似ている4WD車を持ち込んでいる者もいた。
そうした人たちの大半はすぐに辞めてしまったが一人、その中でも抜きん出た実力を持ちしばらく在籍した者がいた。
「京一か」
清水は静かに呟く。
須藤京一、今はいろは坂でランエボ軍団、[エンペラー]のリーダーを務める彼も東堂塾の出身者だった。
「ああ、あの時からずっとあいつはエボⅢに乗ってるよ」
「そうだったのか」
「あんたからは京一と同じ雰囲気がするよ。職人気質で、すげープレッシャーをかけながら走るところがサ」
「…そうか…」
きっと清水と京一にはただならぬ関係があるのだろう。
そのことを聞こうとした時にちょうど上田と松井が戻ってきた。
このことはまた会った時にでも聞いてみよう。
上田、松井を合わせて四人になった時、いつの間にかギャラリーが周囲に集っていた。
清水は口を開く。
「よし、お前たちの実力は十二分に理解した。これでようやくプロジェクトDの防衛線ができる」
「しっかし、その防衛線ってのはなんなんだ?」
「それについては後日この場所で話す」
そう言って胸ポケットから一枚の紙を渡してきた。
そこには
一週間後の日時とあるファミレスの場所が書かれていた。
「詳しいことはそこで話すらしい。もし共に走る気があるのなら来てくれ」
「今日はこれで終いだ!俺らはとっとと帰るぞ」
そう清水が声を上げると周囲のギャラリーたちはそそくさと帰っていった。
「松井、お前も帰れ」
「…分かりました。清水さんは帰んないんですか?」
「俺は少し野暮用がある。先に帰って走り込んでろ」
「分かりました」
そう言って清水の後ろにいた松井も帰っていった。
「俺たちの用事はこれで済んだ。また一週間後、会えたらな」
そう言い去って清水も去っていく。
「あぁ。俺達は絶対行くからな。」
高木は自信たっぷりに
だが、松井やギャラリーの帰っていった方とは違い、再び峠を登っていった。
だが攻めに行くわけではないようだ。
自分の上田の二人だけが橋の上に残り、バトルの後の余韻に包まれていた。
その余韻の中で上田が話す。
「学、本当に行くんだよな?」
二人は清水から渡された紙を覗き込んでいた。
「最初と変わらないさ、俺はプロジェクトDとかってヤツらとバトルしたいね」
「そう言うと思ってたヨ。俺もそのプロジェクトDと走って腕試ししてみたいからな」
そうして二人の指針は決まった。
[プロジェクトD]、その未知の存在とのバトルが彼らに何をもたらすのかは分からなかった。
高木と上田と別れた清水は先程高木とバトルした峠を登り更にその先を目指した。
その道中、あるコーナーを走りつつも車内から観察した。
さっきのバトルで高木にオーバーテイクされたコーナーだ。
(あいつは一体どこを走っていたんだ…)
そこはなんの変哲もないヘアピンカーブ。
イン側には蓋のない側溝があり、十分インを締めて走行ラインを潰していたはず。
なのに高木は自分のさらにイン側から抜いていった。
(まさかこの側溝を飛び越えた…?いや、そんなことは不可能な筈だ…)
だがそうとしか考えられない挙動を高木のCR-Xはしていたのだ。
だが清水の頭はその考えを拒絶する。
そんな馬鹿げた話は見たことも、聞いたことも無かったからだ。
だが、高木や上田がとてつもない実力を持つ走り屋であることは事実だ。
今後、共闘していくことにはなるが[カイザー]としては警戒する脅威がまた一つ増えてしまった。
そのような考えを巡らせながらさっきのバトルの余韻が消えた峠を登っていった。
しばらくして峠の上の方にある展望広場に着いた。
そこにはAE86やマークⅡといった少し走り込んでいたであろう地元の走り屋の車がいた。
だが今日そこを占領していたのは明らかに雰囲気の違うグループだった。
車種はS14やMR2などだったが、その中心にいたのはBCNR-33 GT-RとフェアレディZ32という特異な大柄なボディを持つ二台だった。
その集団の手前に駐車し、車外に出るとR33の持ち主の男が気付きこちらに歩み寄る。
「お疲れ様です。バトル、どうでした?」
「あぁ、あいつらなら恐らくプロジェクトDを倒せる実力を持ってるだろう。お前たちから見て、あの二人はどうだったんだ」
「自分としては彼らに任せても良いと思う。野田はどうだ?」
隣のZ32に腰掛けていた男に問いかける。
「俺は良いと思うぜ。たかが86とFDだろ?86なんざすぐ堕とされちまうんじゃねーの?」
「なら決まりだな。あとは本人が来るかどうかだが…」
「あいつらなら絶対に来る」
清水は自信を持って言う。
「…あなたみたいな理詰めの人がそこまで言うとなると相当な奴らだったみたいだな…」
「そう言うことだ。あとは本人次第ってところはあるがな」
「それは一週間後に期待ってことで…では自分たちはこれで。次はあなたのボスと会えること、期待してますよ。では」
手短に要件を済ませ、R33の男は車に乗り込み、その場を去っていった。
R33に続きZ32や取り巻きたちも列になって去っていく。
「さて、俺も帰るとするか…」
清水も自分のエボⅡに戻り帰路に着いた。
(このプロジェクトD防衛線、絶対に勝てる!)
清水のこの自信は自らの実力だけでなく、自分が目の当たりにした高木の実力に裏付けられたモノだった。
重ねてになりますが地震の被害に遭われた方々、寒さにお気をつけてお過ごしください。